2019年5月に納品されたベビーグランドピアノのカワイ
(河合楽器製作所)GL-10(153cm)の半年振り2回目の調律が
完了しました。
電子ピアノでは不要な調律ですが、アコースティック
ピアノでは年1回(初期は半年1回)目安で必要となる
ものです。
調律が必要な分、しっかりと調律すると80年使えると
言われています。
簡単にまとめると、
1. 想像以上にズレていた。
2. 想像以上に調律に時間がかかった。
3. 想像以上に調律師の専門性が高かった。
って感じで、やはり調律は必要だと感じました。
余計なお世話ですが、
4. ピアノ調律師の展望
も検証します。
■1. 想像以上にズレていた。
慣れて気付いていませんでしたが、6月の調律から半年で、
かなりズレていました。
新品ピアノは、ピアノ線の初期伸びや構造材の馴染み等
からズレを生じやすいとのこと。
それと、温湿度変化による構造的な収縮の影響でもズレを
生じます。
なので、3回目となる次回も半年後を予定しています。
ロードバイクの撚線の変速ワイアーも、初期伸びがあるし、
切れる直前にバラけて伸びて変速不良になったりしますね。
えっ、電動変速だからワイアーなんて知らないって!?
高級ピアノになると、初期伸び等を馴染ませてから納品
したりするのでしょうか?
180cmや230cm級のグランドピアノになると、弦長が長くて
弛まないように張力を高くする分、弦の伸びの影響が
大きく出そうです。
調律後は素人でも分かるクリアな響きになっていました。
4Hz程下がっていたようですが、各弦のバラつきの方が
問題で、複数音の和音が整うまで調整されていました。
なお、基準音(ラ:49A)の音程:ピッチは、442Hzで調律
されていました。
■2. 想像以上に調律に時間がかかった。
休憩なしで2時間以上かかりました。
繊細で大変な作業でした。
<作業内容>
・鍵盤高さ調整
・鍵盤動作調整
・周波数調整
・クリーニング
部品点数は、グランドピアノで10,000個、アップライト
ピアノで8,000個とのこと。
ガソリンエンジンの自動車で30,000個、エンジンだけでも
10,000個、100%EVのBEVになると全体で10,000個とのこと
なので、グランドピアノの部品は同じ形状のアクションが
大多数を占めるとは言え、かなり複雑な製品です。
フェルトを多用しているので、鍵盤高さ調整は、各所に
厚さ違いのフェルト(ワッシャー)を挟んで調整されて
いました。
GL-10が一番小さいモデルだから構造的に調律しにくくて
調律に時間がかかるのかと思ったが、「グランドピアノは
アップライトより表現力が高くて調整の誤魔化しが効かない
から時間がかかる」とのことでした。
ON-OFFと1,2,3,4,5,6,7,8,9,10を合わせこむ違いでしょうか。
■3. 想像以上に調律師の専門性が高かった。
料金は2万円強で、調律に2時間強、移動に30分位と考える
と、1時間あたり8,000円弱になります。
専門性の高さと作業スピードから考えると、個人的には
安いと感じました。
私は海外の動画でピアノの構造やチューニングを見るのが
好きで、構造と作業内容はイメージできていたのですが、
耳で合わせる部分が大きく、かつ、作業時間が長くなり
過ぎない様に手早く行うことに高い専門性を感じました。
ベテランの方で、ピアノの構造だけでなく、音楽史等の
教養も高かったです。
車や自転車はショップに持ち込みで作業できるので、作業
時間=占有時間で済むのですが、ピアノは必ず移動を伴う
ので、専門家である調律師の移動コストが難点ですね。
2時間前後かかるとなると、1日に2~3件しか対応できず、
調律師の実働時間が低くなります。
その分値段を高く設定すると、リピート率が下がって
しまいそうなので、難しいところです。
車や自転車と違い、消耗品の販売も期待できませんし…。
■4. ピアノ調律師の展望
上記の調律の料金から、ザックリと計算すると、
2万x2.5件x20日=月100万円
会社と半々として、÷2=月収50万円、年収=600万円
って感じでしょうか。
毎日2.5件も予約が入らないでしょうから、x0.8して
480万円かそれ以下になりそうです。
長時間の作業と移動が必須であるために、1日の作業
効率に制限があることがボトルネックとなり、大幅な
増収は望めない難しさがあります。
各家庭に出向いて作業を行うため、残業もできません。
専門学校を出て、認定された技能士の資格を取って、
日々技術と感覚を磨いていることを考えると、期待より
年収が低いと思ってしまいます。
調律だけでなく、メーカーの出荷調整や後輩育成等の
付加業務があれば、もっと高くなるのでしょうか。
数千万円のコンサートグランドを世界を駆け回って
調律するレベルになれば高級が取れそうですが、F1や
WRCのトップメカニックのような狭き門でしょう。
アコースティックピアノの生産台数は1970~80の年間
55万台をピークに、2009年に10万台を割り込み、国内
販売は70年代の30万台から1万5000台すら割り込んでいる
とのこと。
(ヤマハ、カワイとも対中国のインドネシア製が増加中)
少子化、低収入化に伴い、ピアノを習う子供が減少して
おり、電子ピアノの高度化による普及もあって、グランド
ピアノ、アップライトピアノの販売は減少する一方です。
こうなるとピアノ教室も苦しいですね…。
日本の少子化と低年収化によるピアノ離れは止まらない
ので、アジアの成長にかけて海外で仕事を取らないと
維持できないのではないでしょうか。
しかし、生ピアノの寿命は長く、買い替え需要は見込め
ませんが、メンテナンスの必要性が喚起されれば、調律
の件数は維持できることになります。
日本の世帯数が5000万世帯、世帯あたり普及率が20%だと
して、その内の生ピアノが半分とみても、500万台存在して
いることになります。
アコースティックピアノの調律は機械化できない職人技
であり、なり手がいないと調律料金が上がることになる
ので、良いバランスが取れることを期待します。