
前回は長くし過ぎたと反省しつつの第二回です(笑)
今回は、クラウンのステーションワゴンを取り上げることにします。
文章の引用元は、車種別総合研究の130クラウンの回からとなります。この回、ワゴンに関して、私的に興味深いエピソードが多くて、シリーズ中でも好きな話の一つです。
以前から、ブログやコメント等で使ったこともあるのですが、こうした形での掲載は初めてですので、興味を持ちつつでお読みいただければ幸いです。
早速、インタビュー記事を掲載する前に、予備知識的な話を少し。
対談されているのは、いつもの高原 誠(川島 茂夫)氏と、120・130クラウンの主査だった今泉 研一氏。今泉氏は、クラウン最盛期の立役者と言っても過言ではないと思います。
この今泉氏、クラウンに対して強いこだわりを持たれる一方で、かなりステーションワゴンもお好きだったようです。120・130は歴代でも、ワゴンに力が入っていた世代ですが、それには主査の貢献が相当にあったからこそというのは、後の話をご参照くださいませ。
予備知識もう一つで、120に至るまでのワゴンの概要も記載してみます。
クラウンにワゴンが登場したのは2代目からとなりますから、長い歴史からしても、かなり早い時期に登場していたと言っていいと思います。
”カスタム”と名付けられた、このワゴン、ボディはバンと共通ということで、バンよりも豪華な装備に加え、サードシートを備えて多人数乗車を可能としたり、リヤサスも早くからセダンと同じコイル等を用いる等、かなり力は入っていたのですが、バンの豪華版というイメージは拭えませんでした。

画像は、カタログ画像を除いて、全てFavCars.comから引用
6代目にあたる110型(1979年)。
左はバン スーパーデラックス、右はカスタム(エンブレムはCustom Wagonとなっていますね)
丸目と角目という違いこそあるものの、それを除けば両車の区別は、なかなか難しいというのがご理解いただけると思います。
登場以来長らく続いたこの関係が大きく変わったのが、次の120型となります。

画像の関係もあって、先ずはバン同士の比較から。
左は6代目(110)後期で、右は7代目(120)前期。
ドリップモールの形状変更でグラスキャビンを意図するウィンドー構成、その上段にはBピラー手前から一段上げた二段ハイルーフ構造という具合で、一足跳びの進化を実感させるスタイリングとなっています。
更にバン以上の進化を見せたのが、登場由来のカスタム改めステーションワゴンを新たに名乗ることになったワゴンでした。
120ステーションワゴン スーパーサルーンのカタログ画像です。
バンベースは同じながらも、ルーフ中央のスカイライトウィンドー、リヤクォーター&リヤゲートのガラスを接着式にして更なるグラスキャビンを追求ということで、バンとの違いは明確。
この頃始まった、カラードウレタンバンパーとドアミラーも差別化に一役買っています。
この世代、ハードトップの若返りが話題となりましたが、そのハードトップ以上にワゴンに力が入っていたように思います。
室内は、新たにフルフラットシートやトノカバーを備えることで、ただ広いだけではなく、そのスペースを贅沢に使えることを訴えるようになりました。
ワゴンのスタイルの象徴でもあるスカイライトウィンドー、私はワンボックスワゴンからの引用だと思っていたのですが、どうやら少し前のオールズモビルからの引用だったようです。徳大寺氏は、この引用を見抜いたようで、間違いだらけ~での言及がありました。

オールズモビル ヴィスタクルーザー(1972年)
120ワゴンは、この後、特別仕様車グランドサーフや後期でのスーパーサルーンエクストラへの設定変更といった進化をすることとなります。
特別仕様車グランドサーフ
後で掲載する、モーターショー参考出品車の市販版的存在です。
120登場から4年の時を経て130型が登場。
先行したセドリック/グロリアは、バン/ワゴンのモデルチェンジを見送りましたが、クラウンはバン/ワゴンもモデルチェンジしています。
130ステーションワゴン ロイヤルサルーンのカタログ画像。
変更の都度、上級グレードを追加し続けたワゴンは、ついにこの代でスーパーチャージャーを搭載したロイヤルサルーンの追加に至ることになります。
カタログ画像の続きです。
ロイヤルサルーンの室内と、他2グレードの紹介。
2グレードは120からの継続グレードでした。
よく見ると、変更にはお金のかかるリヤゲートは、ガーニッシュを追加しつつも、パネル自体は120からの流用だったりします。
ロイヤルサルーンということで、ワゴンにもオートデュアルエアコンを採用。その分ラゲッジスペースの左側が狭められることとなりましたが、先代以降、広さ第一ではなくなりましたので、これでよかったのでしょうね。
110のカスタムってセダンだとデラックス相当だったわけです。それが2世代でロイヤルサルーンの設定までに至るのですから、それだけでも、力の入り方を雄弁に物語るのです。
予備知識としておきながら、予備の範疇を超えている気がしますが、その点はワゴンでサルーンを名乗る不思議と共に不問とさせていただくことにします(笑)
以下、引用文です。
高原 バリエーション関係の話にちょっと変えたいんですが、ワゴンにかなり力を入れて・・・。残念ながら、国内ではウケないですよね。
今泉 そうなんですね。ぼくもあれは残念なんです。絶対、市場はあるというか、あれを希望されるユーザーはいると思うんです。だけど広がっていかない、と。だからあきらめるのは残念なんです。何とか育てたいと思います。今回だっていろいろありましたが、モデルチェンジをやらせてもらったわけです。
高原 バンとかワゴンを完全に見送っちゃうとか、そういう例というのはたくさんありますよね。バンの場合、どうしてもスパンを長くとっちゃって、それに合わせてワゴンも引きづられちゃうということがあるんですが、クラウンは完全に新設計というか、全く同じコンセプトで展開する。今までの話ですと、やはりクラウンユーザーのことをものすごくお考えになっていますよね。逆にワゴンというのは市場がないですから、クラウンのステーションワゴンのユーザーだと、ちょっとつかみにくいと思うんです。
今泉 一時期はハッキリしていたんですが、少し分からなくなってきていますね。だけど、先回のモデルチェンジをするときに、私はワゴンを大切にしたいと思っていまして、はっきり言うとオーナーといいますか、パーソナルユースのほうにもっていこうという考え方でやってみたんです。その反響はどうかと思っているんですが・・・。
それからもう一つ、そういうことでクルマをつくったものですから・・・。今までですとステーションワゴンはショーウィンドーの中に入れませんで、クルマを展示するにしても、商用車と同じように屋外展示場に出しておいて、ショールームのほうにはセダンだとかハードトップを入れる。これが通例だったんです。先回のモデルから、それはいかん、ステーションワゴンはちゃんとショールームに入れなさい、ということを各販売店に一生懸命頼みました。で、やってくれました。
それから、モーターショーのときも、うちはステーションワゴンをとにかく出せといって出させまして、しかも乗用車館に入れさせた(※)。実際には売れませんが、ルーフの上にトランクみたいなのを載せたり、こういう使い方もあるんだという、いわゆるオーナーとしての一つの使い勝手、RV的な使い方みたいなものも出してみたわけです。
(※)1983年の
第25回モーターショーに出品されたステーションワゴン(詳細は
こちら)。
そういうことをやってきますと、実際にお客さんのほうにも変化が出てきました。従来は大部分が商店が・・・これも一種の法人なんですが実際の使い方は個人的な使い方で、我々、分類として個人法人と呼んでいますが、いわゆる法人筋が多かった。それが逆転しまして、クラウンのステーションワゴンはオーナー層がグーッと増えちゃった。しかも勤労者層、いわゆるサラリーマンだとか自由業の方、文筆関係の方・・・。
これは面白い変化ですよ。総合数は変わらないんだけど客層が変わってきているんです。もっと調べてみますと、ワンボックスカーを買われますね。その買ったお客さんが、その次にもう一回ワンボックスに戻るかというと、戻るケースが非常に少ないんです。大抵セダンに戻ります。なぜセダンに戻ったか。「セダンがいいから戻ったの?」と言うとそうじゃない。適当なクルマがないからセダンに戻っちゃった。そういう人にこのステーションワゴンというのは合うんじゃないか。ところが、そういう人たちはなかなか気がつかないんですね。
高原 あることを知らない。
今泉 あることも知らないかもしれませんけど、ステーションワゴンというのはそういうクルマであることを知らない。ステーションワゴン=バン=荷物積むクルマ、こういう問題がどうもまだある。クラウンのステーションワゴンはバンと違ってリヤはちゃんとしたコイルですよ。そういうところまで知っている人はいないんです。我々としては一生懸命PRするつもりなんですが、なかなか徹底しないんですね。
高原 そういう意味で、7人乗りとか8人乗りというのも知らないでしょうね。
今泉 知らないです。私も一回、後席に乗っていておまわりさんに止められましたよ。
高原 いちばん後ろのジャンプシートで?
今泉 そうなんです。運転させて、私はいちばん後ろの席に乗っていたら、おまわりさんがすっ飛んできまして、「おまえたち、どういう使い方してるんだ?」「何も悪いことしてません。これはこういうふうに使える。」それでもあかん。車検証を見せてやれと、車検証を見せたら、「そうですか。すみませんでした」と帰っちゃった(笑)。その程度ですから、一般の知識というのはね。本当に皆さん方にお願いしたいと思うんです。ステーションワゴンというのはちっとも恥ずかしいクルマじゃありませんよ。得々として乗っていただいていいんです。・・・ルーフレールなんかをくっ付けたって、あまり役に立たないんですよ。だけどそういうこともやるわけです。
---------------------------------------------------------------引用ここまで
以上、いかがだったでしょうか。
興味深い話がいろいろあったかと思います。
平成元年のレガシイ登場以降、ワゴン市場は一気に拡大を見せますが、まだこの時は昭和。ワゴン市場は、いろいろなアプローチはあったものの、なかなか広がることはありませんでした。
そうなると引用文の冒頭にある通り、バンとセットでワゴンのモデルチェンジが出来ないクルマが多かったのです。先に挙げたセドリック/グロリア以外にも、ブルーバードもそうでしたし、トヨタだとマークIIではモデルチェンジが見送られていますね。
そうした状況で、モデルチェンジするだけでなく上級グレードを新規追加するって、主査の情熱抜きではありえない展開なんです。その辺りを感じつつで、読んでいただけると嬉しいです。
また、インタビューを反映するかのように、130ではプレス向けの新型車発表試乗会にワゴンも一緒に供されていたようです。当時の自動車雑誌の試乗記にはハードトップやセダンに加えて、ワゴンの写真も掲載されているものが多いですね。
こうして、今泉氏が力を入れられていたステーションワゴンですが、底堅い人気こそ得られたものの、クラウンのもう一つの柱となるほどの人気とはなりませんでした。
今泉氏の後を継がれた渡辺浩之氏は、どちらかというとパーソナル志向の強い方で、クラウンはハードトップ、という信念をお持ちだったこともあってか、ワゴンをさらに広げようという動きもあまりありませんでした。
1990年に2.5Lを追加した後、1991年にフロントマスクの大改造が入った後のワゴン
(画像は1993年)
ハードトップはモデルチェンジし、マジェスタが新車種として登場するものの、ワゴンは、バン・セダンと共に130のまま据え置かれることとなります。
さらにセダンは1995年にモデルチェンジを受けますが、ワゴン・バンはその時もモデルチェンジを見送られています。結局、一部改良のみで基本的にはこの姿のまま1999年まで生産が続けられています。
クラウンステーションワゴンはモデルチェンジされ、更なる新名称エステートに。
3世代を隔てた後、ようやくセダンに追いつく形でモデルチェンジされたのが、1999年。
アメリカ車からの影響を感じさせるステーションワゴンに対して、エステートは欧州車風味を感じさせる姿となっています。
これも新世代ワゴンとして定着するかなと思ったのですが、残念ながら次世代へのモデルチェンジは見送られ、その後もゼロクラウンと併売の形で続いたものの、結局2007年に生産中止に。現時点では最後のワゴンとなってしまいました。
こうしてみてくると、120・130時代のワゴンって、クラウンの長い歴史の中でもやや特異な位置にあるように改めて思います。全体の販売台数が最盛期だったからこそ、余技的な部分でやれた部分があるのかもしれません。
現行ベースで新たなワゴンを問うても面白いのではと思う一方で、今の販売台数では難しいだろうなと思わざるを得ないのです。