
一部改良間近ということもあってか、クラウンに関する記事を見かけるようになりました。何でも、販売台数が減少傾向で顧客がアルファードに流失しているとか。
率直に言って、さもありなんと思います。
私にとってクラウンは物心ついた時から憧れ続けたブランドです。
しかしながら、現行型がモーターショーに出品されて浮かんだ言葉は”失望”。これまで、最初は違和感があって、やがては慣れたという世代もありました。でも、現行型は違和感のまま。これがクラウンなの?、という思いが拭えない。ここまで”羨望””憧れ”という言葉に結びつかないのは、初めてです。
前にも書いていますが、現行型はこれまでの伝統を数多く打ち切っています。そのことで新たな価値観を掲げ、ライバル車に対峙するというのなら、まだ諦めもできます。でも現実はそうではありません。散々迷った末に、答えを見出せず、輸入車に影響され、今の流行と思わしきクーペ路線を追ったようにしか私には映りません。
かつてのクラウンは、部分的に流行を取り入れることはあっても、根幹の部分で流行に流されることはない存在だったと認識するのですけれどね。
個人的にクラウンの最大の存在価値は、”和風高級車”とでも表現できる独自の世界観にあったと思っています。見せつけるような速さや曲がりが無くても、運転する人・同乗する人を安心させ、安らぎを感じさせ”いい車”と思わせる。それがオーナーのプライドに繋がっていた。先日借りた現行アルファードにも感じた部分ですね。
クラウンのユーザーがアルファードに移行することは、必ずしも賛同一辺倒ではないのですけれど、理解はできます。同じショールームに二台並んでいたら、訴求力の差は歴然と存在すると感じるのです。
正直、現行クラウンは個別具体でどうこうという域では既にないと思います。そこで、自分がクラウンに憧れた世界観の代弁を、170の特別仕様車のカタログを掲げるという形でやってみることにします。
歴代で一番濃厚なのは130だと確信するのですけれど、あれはバブル景気という瞬間最大風速に大いに恵まれた存在。170は、もう少し身近で近代的で理解もされ易いんじゃないかなという選抜です。
170も既に20年近く前の車。お若い方だと、ゼロクラ以降しか知らないとかでも不思議ではありません。ゼロクラも登場当時は歴代のファンから賛否両論が沸き起こった車。一世代遡ることで少し違った世界観への理解となれば幸いです。
○ROYAL SALOON "Premium"
当時の最多量販グレード、ロイヤルサルーンをベースとした特別仕様車です。
上級となるロイヤルサルーンGに近付けつつ、マジェスタ用の16インチアルミも流用。
215/55R16タイヤの選択は、乗り心地の点でどうかなと思ったのですが、見た目には明らかにプラスに作用しているように感じます。
リヤシートの機能充実は、今視点だと珍しく感じるかもしれません。同乗者を喜ばせることも大切だったことの表れで、今はアルファードが担う領域もクラウンの高級感にとって大きな要素だったのです。
標準のシート地となるジャガードモケットは、静電気帯電防止機能と防臭機能が付帯となります。さらにこのモケットは、本革やビニール以上の耐久性があったのも特徴でした。
改めて見返すと、ブラックのボディカラーの設定はなかったことに気付きます。この世代のロイヤルでブラックともなると、フォーマルというか官公庁や事業用の感が増してきますから、オーナー向けを意図した設定だったのでしょうね。
○ROYAL EXTRA "LIMITED"
歴代のクラウンは、最初ロイヤルサルーンの比率が伸びるのですけれど、末期に向かうに連れて中下級のグレードに比重が移っていく傾向にありました。
110で登場したスーパーエディション、120で登場したスーパーセレクト、140で登場したロイヤルエクストラがその受け皿を担っていました。これらは特別仕様車でロイヤル風味を加え、需要を喚起するのも役割。
このLIMITEDもそれらの末裔ですね。180以降は途絶えてもいます。210はロイヤルベースで登場するかもと予想したのですけれどね。
特別装備が加わったことで、エンブレム換装をしてしまえば、ROYAL SALOONに見せることも可能。実践された方も多数いました。そしてそれを見抜かれる方も。ええ、マニアックな領域です(笑)
このグレードは、オーナーカーだけでなく個人タクシーも購買層に想定。東京トヨペットでは、主に規制緩和で増えた新規事業者に向けたアピールとして、専用チラシが作成されていました。
2020/11/2:東京トヨペットオリジナル 個人タクシー特別仕様車の画像を追加
東京地区の個人タクシー向けということで、スーパーホワイトIIのボディカラーにスペアタイヤを標準タイヤとした仕様でした。
○ATHLETE "Premium"
120の特別仕様車から始まったアスリートは、170で通常グレードに昇格。伝統的なロイヤルとの二枚看板となりました。
カスタム→ワゴンと続いた歴代ボディは、この代でエステート表記に。当初はこちらもロイヤルとアスリートの2シリーズ設定でしたが、マイナーチェンジでアスリートのみに。結局エステートは、この代で絶版となってしまいました。今のカローラの売れ方からすれば、ここで諦めずに残しておけば…と感じるところではあります。
当初はロイヤルとの近似点が多かったアスリートの設定も、更なる差別化が求められたようで、マイナーチェンジでは内装色のグレーをブラックに変更。この特別仕様車では、通常仕様ではオプションだった17インチアルミも加えられています(ただし4WDを除く)。
ロイヤルも含めてですが、この時期になると次世代への模索も含まれていますね。ゼロクラで標準装備となったものもありで。
17インチアルミに装着されるタイヤは、フロントが215/45R17、リヤが225/45R17という前後異径。特にフロント側は、16インチの215/55R16と比較して30mm近い小径でやや違和感がありましたが、何かしらの制約があったのでしょうね。次世代で標準となる18インチへの橋渡しとなった感はアリ。
ボディカラーはホワイト、シルバー、ブラックと今の人気色を先取りしたかのような設定。ブラックの内装色も含めて、セダン=スポーティの潮流は、その表現方法も含めてこの時期には既に確立しつつあったと考えてよいのでしょう。
といったところでいかがだったでしょうか。
この170は、それまで長く続いていたセダンとハードトップという二つのボディタイプをセダンのみに統合しています。この統合に際して、ショートノーズ&ロングデッキ化と横方向の拡大というパッケージングの刷新も実施。その結果、大きなキャビンを持つに至りました。
タクシーとの差別化に配慮した傾斜角の強いCピラーを特徴とするスタイリングは、恐らくW140からの影響を受けていると思っています。このCピラーとリヤドアの三角窓の配置は、センチュリー同様、リヤシートに座られる方を意識してのものだったような(おぼろげな記憶)
このスタイリングは、実用性の観点からも、フォーマルとパーソナルの両立の点からもイイ線を突いていたように思います。この世代以降は、パーソナルを意識する傾向が強くなりますし、近年のセダンに至ってはクラウンに限らず、スポーティ一辺倒となってしまい。年寄り向けと切って捨ててしまえばそれまでですが、ボンネットの角が把握できることによる取り回しのし易さ、寝かされ過ぎていないフロントピラー等、今では失われたセダンの良さはこういったデザインにこそ表れていると反論もしたくなります。
全長4,820mm、全幅1,765mmで構成されるボディサイズは、今視点だとやや幅が狭いとなるでしょうね。でも、日本で日常の扱いに困らない上限サイズは、この辺りにあるとも思っています。
マジェスタを除いたシャシーは、はるかにボディサイズの小さいプログレからの流用ですから、見た目では上物がやや大き過ぎる感はありました。走りの点でもネガのポイントではあり。
走りでついでに書いてしまえば、2.5と3.0は、ターボと4WD以外、リーンバーンD4ですからCPUのプログラム更新が安定するまで、それなりのネガが付き纏ったのも事実です。
加えて電子制御が大幅に増えていて、絶対的な信頼性の点では、150までより安定感に欠けてもいて。
それらを十分承知の上で、私はこの世代は本当に憧れました。手元にある81の2台を愛でつつも、機会があればオーナーになりたいとも思いました。クルマ本体だけではなく、その世界観も含めての共感があったのです。
話を現行型に戻します。
今のクラウンの販売台数は、恐らくメーカーにとっても想定の台数以下だと推測します。これまでの歴代では、4代目・9代目という市場が冷淡に反応した世代の次の型では、回帰とでも言うべきか望まれていた姿で現れています。
今回もそうなるのか。実はとても危惧しています。4代目と9代目では流出先がセドリック/グロリアというライバル車でした。それが危機感になりました。
でも、今回は同じ社内のアルファード。ついでに販売系列の統合・セダン離れという言い訳も用意されています。
これに関しては、セドリック/グロリアをフーガに統合した挙句、お家事情から進化を止めてしまったライバル車も罪深いという思いも拭えませんけれど。
近日の改良では、9代目のような大幅改良ではなく一部改良という辺りで、現行型は見切られたかなとも思わされます。販売系列があった時代には、クラウンが売れないということはトヨタ店の存亡にも関わる出来事でしたから、販売側からの突き上げも相当だったと推測するのです。今はクラウンの替わりに、アルファードの他、ランクル・ハリアー等の受け皿があります。それだけにクラウンだけに拘る販売店も少ないのではないかなとは。
私に書かせれば、セダン離れしているのはユーザーだけが原因ではありませんよ。メーカーがそれを加速させている。セダン潰しと言い換えてもいいとすら思っています。
クラスの近いFRセダンだけでも、マークX・クラウン・IS・GSの4車がトヨタにはありました。
クラウンはモデルチェンジを行えたものの、マークXとGSは変更の機会を逸する内に販売台数が減って絶版。先代クラウンとパワートレーンを共用するISはマイナーチェンジで延命。結果、共用できそうなFR2台が独立した形で並存することに。ISも存続が怪しくなりつつあると感じざるを得ない状況です。ISをマイナーで続けるなら、先代クラウンの併売も可能だったんじゃないのと言いたくなりますが、既に後の祭り。
最後の柱となりそうなクラウンは、集約で盤石となるどころか既に足元が揺らいでいて。こんなにセダン作りで迷走するようなメーカーになるとは予想できませんでした。かつてはセダン・イノベーションを掲げたメーカーだったと記憶するのですけれど。
3シリーズがこの国のプレミアムセダンを制する危機感が、かつての名車プログレを誕生させる追い風となりました。今のままだと輸入車(ジャーマン3)にプレミアムセダン・プレミアムワゴンのセグメントを制されることとなるのではないかと危惧しています。
私はそのジャーマン製セダンに乗り換えてしまった身。今、代替するとしても同社のセダンから選ぶと思います。
それでも、日本のセダンが和風高級感で再び購買意欲を擽ってくれる”希望”をどうしても捨てることはできないのです。”失望”が”絶望”に転じないことを心底祈っています。