2021年05月08日
インターホンを押すとだいぶやつれたのび太のママが玄関の扉を開けた。
「あら?しずかちゃん。どうしたの?」
「突然すみません。のび太さんに貸していた本がありまして…それとのび太さんにご焼香を…」
「そう…ありがとうございます。どうぞ上がってください」
のび太のママに促され中へと入っていく。
居間ではママが見ていた報道番組がテレビに映し出されていた。
『最近各地で死者が蘇ってくるという奇妙な事件が起きていますがゲストの太木マツ子さんどう思われますか?』
『地獄の蓋が開いたのよ。それで成仏しきれない魂が溢れてきたのよ!あたしの冠番組の“あたしの知らない世界”で特集組むから絶対に観るのよ!』
久しく観ていなかったテレビではタレント達がそれぞれの持論を展開していた。
(死者が蘇る…?)
しずかは訝しげに思いながらものび太の部屋へ向かう。
「どうぞ」
のび太のママが扉を開けると以前と変わらないのび太の部屋があった。ただ整然と片付いておりそこにのび太はもういないのだと実感させた。
「うう…」
「あらあらしずかちゃん…大丈夫?」
「すいません…少しだけ一人にしてもらえますか?」
「そうね…ゆっくりしていってね」
そう言うとのび太のママは階段を降りていく。
しずかはすぐに部屋を見回し何らかの手がかりを探す。
まずは机の引き出しだ。タイムマシンがあれば過去に戻ってのび太の自殺を食い止めることが出来るかもしれない。
引き出しを開けたがそこにはタイムマシンはおろか四次元空間も存在していなかった。ただ何も入っていない引き出しがあっただけだった。
次は押し入れだ。ドラえもんが何か残していったかもしれない。
押し入れを開けると布団が整然と畳まれ積まれていた。
「ドラちゃんがいた様子もないわ…いえ、そもそも“この世界”にはドラちゃんは初めから存在していなかったのかも…?」
それから本棚を調べる。いくつか本が並んでいたが初めて見るものばかりだった。
「のび太さんはこういう本読んでいたのかしら?」
しずかが知る限りのび太は少女漫画やロボットものを好んで読んでいた。だがこの本棚に並んでいるものは難しい本ばかりだった。
「そうだ!アルバム!」
しずかはすぐに階段を降りていくとテレビを観ているのび太のママに寄っていく。
「あの…のび太さんのアルバム見せてもらえませんか?」
「アルバム?いいわよ」
のび太のママは立ち上がると押し入れの中から箱を取り出すとアルバムを取り出した。
続く
Posted at 2021/05/08 07:24:05 | |
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2021年05月04日
ジャイアンはムシャクシャした気持ちを抑えきれずにいた。
目の前にのび太がいたらとりあえず一発殴って気晴らしができたところだが、その行為こそがのび太を知らない内に追い詰めていたのかもしれないと思った。
(でものび太は簡単に諦めたり絶望したりする奴じゃない!いつだって勇気を振り絞ってきたじゃないか!あの時だって…)
ジャイアンは思い出していた。ドラえもんが未来に帰る時のことを。
ドラえもんに安心して未来に帰ってもらうために深夜の空き地で殴り合ったのだ。殴っても殴っても何度倒れても立ち上がって自分に向かってきた。
のび太は普段はだらしなくてノロマでどうしようもない奴だがやる時はやる男だとジャイアンは認めていたのだ。
(ドラえもんが未来に帰る時…未来に…帰る…)
「そうだ!のび太の部屋に行けば何かわかるんじゃないか!!」
駆け出した瞬間後ろから呼ばれ振り返る。
そこにはスネ夫としずかが立っていた。
「スネ夫…しずかちゃん…?」
「ジャイアン、のび太の部屋に行くんだろ?」
「私達も行くわ」
「お前ら…俺様と一緒にいたらみんなから疑われるんだぞ!」
「何を疑うっていうんだい?それに僕らはこういうことに慣れっこじゃないか。きっと何か原因があってこんな世界になっちゃったんだよ。僕はジャイアンよりも変わってしまったこの世界を疑うよ」
ジャイアンは目頭が熱くなるのを堪えた。
「ちくしょう…こんな暑くもないのにやたら汗が出てくるっつーの!」
ジャイアンは袖で涙を拭くとのび太の家に向かって走り出した。その後ろをスネ夫としずかが追う。
のび太の家に着いてインターホンを押そうとするがスネ夫が制止した。
「待って!ジャイアン!もしかしての話をするけどさ…もしのび太のママがイジメが原因でのび太が自殺したと思ってたらジャイアンがいたらマズイんじゃないかな?」
「どういう意味だよ!」
思わず声を荒らげるがスネ夫はすぐにジャイアンの口を手で塞いだ。
「ご近所で噂になってたらきっとジャイアンが原因だと真っ先に疑われるよ。そうしたら門前払いもいいところだよ。ここはしずちゃんに行ってもらう方がいいと思うんだ」
スネ夫の提案にジャイアンは納得してしずかの方を見ると何も言わずに頷いた。
とりあえずジャイアンとスネ夫は門の影に隠れることにしてのび太の部屋にはしずかに行ってもらうことにした。
続く
Posted at 2021/05/04 19:10:41 | |
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創作 | その他
2021年04月29日
スネ夫としずかは絶句し茫然と立ち尽くした。
「ドラえもんは未来に帰ったんじゃないんだ。のび太が死んだことで消滅したんだ…」
「……」
しずかは考えていた。未来からドラえもんがやってきたのならのび太は自殺するはずではななかったのだ。
つまりのび太の自殺は不確定要素であり、未来を改変してしまうきっかけになったのだ。
「スネ夫さん、やっぱりちょっとおかしいわ。ドラちゃんの未来ではのび太さんは生きてるのにこの世界ののび太さんは自ら死を選んでしまった…きっとなにかの力が働いてる気がするの!」
「なにかの力?」
「そう!何者かが未来を変えようとしてるんだわ!それはなんなのかわからないけれど…」
しずかはうつむき目を瞑った。
(のび太さんは自殺じゃないわ…自殺に見せかけて殺されたのかも…?)
「しずちゃん、とりあえず明日学校が終わったらのび太の部屋に行ってみよう!もしかするとなにかのヒントが残されているかもしれない」
スネ夫の提案にしずかはゆっくりと頷いた。
翌日。
「おーい!お前ら!しまっていくぞーっ!」
ジャイアンは声を上げてピッチャーマウンドに立つが誰一人返事をするものはいなかった。
野球チーム『ジャイアンズ』の中でもジャイアンに対する不信感が広がっていた。
ジャイアンは違和感を覚えながらも努めていつものジャイアンでいようと思っていた。
しかしやる気のないプレイについに腹が立ってしまった。
「おい!お前らやる気あんのかっつーの!そんなんじゃ勝てないっつーの!」
ジャイアンはバッドを地面に叩きつけるがチームメイトからは大きなため息が漏れた。
「もうついていけない…」
「なんだと!?」
「人をいじめて自殺に追い込むような奴と一緒に野球なんてやってらんねって言ってんの!」
「何言ってんだっつーの!俺様がそんなことするわけないだろ!」
「はぁ?実際に自殺したでしょ?あんたが殺したんだよ!」
「なんだと!?もう一度言ってみろ!!」
思わず手が出て拳を顔面へと叩き込んでしまった。
チームメイトは飛ばされ他の仲間に受け止められる。誰もがジャイアンを白い目で見つめていた。
「ほらな、そうやってすぐに暴力を振るうんだ…いてて…あんたは人殺しだ!」
「なにをっ!?」
ジャイアンは拳を握り込むが震えて我慢した。
「チックショー!!」
帽子を地面に叩きつけ何も言わずにその場を立ち去った。
続く
Posted at 2021/04/29 20:38:41 | |
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創作 | その他
2021年04月28日
放課後。
スネ夫としずかはジャイアンの家に出向きムクの姿を確認する。それは紛れもなく生前のままのムクだった。
「本当だ…これムクだ」
スネ夫は信じられないといった様子でムクをまじまじと見る。
「だろ!?俺様がムクを見間違うわけがないんだ!」
「でもどうして亡くなったはずのムクが生き返ってきたのかしら?」
しずかは自分で言った言葉に違和感を覚えた。
“生き返ってきた”と言ったのだ。それはムクが亡くなってペット斎場で火葬をし灰を受け取ったジャイアンが今まで見た事がないくらいに泣いていたのだ。
それを覚えているから“生き返ってきた”と言ったのだ。
「俺様にもわかんね。わかんねーけどこうしてムクは俺様のところに戻ってきてくれたんだ!これからもずっと一緒だぞ!ムク!」
ムクは尻尾を激しく振りジャイアンの顔を舐めていた。
その帰りスネ夫としずかは納得出来ない面持ちで帰路についた。
「スネ夫さん…やっぱり私理解出来ないの。確かにムクは亡くなったわ。それなのにまた生き返ってくるなんて信じられないわ」
「そうだね。僕もなんか引っかかるんだ。ドラえもんも突然いなくなったし…」
その時にスネ夫は気が付いた。
ドラえもんは元々のび太の子孫のセワシが未来を変えるために過去に送ってきたのだ。
のび太が自殺してしまったことで未来のセワシがいなくなってしまったのだ。当然、ドラえもんも存在しないことになる。
のび太が自殺したことで未来がまるで変わってしまった。すると過去にドラえもんの道具で未来を変えてきた歪みが発生してしまったのではないかと推測したのだ。
「しずちゃん…実はとんでもないことが起きてしまったのかもしれないよ」
「スネ夫さん、どうしたの?顔色悪いわよ?」
「のび太が自殺しちゃったから未来が変わってしまったかもしれない…」
「え?」
「ドラえもんがどうして未来からやってきたのか覚えてる?」
スネ夫の言葉にしずかはハッとして口元を抑えた。
「ドラちゃんは存在しないことになる…」
「そうだよ。それで過去で歪めてきた未来が無くなって違う現在に戻りつつあるんだ。だからムクは生き返ってきたんじゃなくて元々死んでなかったことになるんじゃないかな?」
「つまりムクは産まれてくる時間もたけしさんと出会うタイミングもズレてしまったということ?」
「そうだよ!僕達がいる世界はのび太が自殺したことで前にいた世界とは違う世界になってしまったんだよ!」
続く
Posted at 2021/04/28 12:21:28 | |
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創作 | その他
2021年04月26日
その夜。
ジャイアンは寝付けずにいた。布団の中で何度も寝返りを打ちながら考えていた。
(のび太が死んだなんて俺様は絶対に信じないぞ!あいつが…あいつが簡単に死ぬわけない!)
その時、庭先で物音が聞こえる。時刻は深夜二時を回ろうとしている。
(ん?何か音がするぞ!?)
ジャイアンはムクリと起き上がり枕元に置いてあるバットを手にする。ギシギシと軋む廊下を歩き庭を見るとそこに蠢く影があった。
(なんだ?何してやがる!?)
そこは1年前に死んだ飼い犬のムクの小屋があった場所だ。ジャイアンは慎重に近付きバットを構える。
「おい!人ん家でなにしてやがる!!」
その影はジャイアンに飛びかかると体重を押しかける。ジャイアンは驚きバランスを崩して後ろへ倒れた。バットが手から離れる。
「くそっ!何しやがる!!やめろ!!」
顔に生暖かく湿った物が何度も擦り付けられる。雲から月が出るとその影の姿が露わになった。
「お、お前は…っ!?」
それはまさしく死んだはずの飼い犬のムクだった。
「ムク…お前はムクなのか!?ど、どうやってんだ!?」
ムクは大喜びでジャイアンの顔を舐めている。ジャイアンはわけがわからずにいたがムクの体を抱き締めた。
暖かくてムクの匂いがした。懐かしくて思わず涙が出た。
「ムクーッ!!お前!俺様のために生き返ってくれたんだな!!寂しかったぞーっ!!」
あまりの騒々しさに妹のジャイ子が起きてくる。
「兄ちゃんどうしたの?」
「おお!ジャイ子!ムクが…ムクが生き返ってきたんだ!!」
「ムクが?」
ジャイ子は眠まなこを擦りながら何度もムクを凝視する。
「ほ、本当だ!!ムクだ!!」
ムクは高齢で天寿を全うし簡素ながら葬儀をして火葬したはずだった。そのムクが生前そのままに目の前にいる。それもだいぶ若返ってるように思えた。
翌日、ジャイアンはスネ夫としずかにムクの事を興奮気味に話す。
「…というわけなんだよ!ムクが生き返ってきたんだ!」
「へぇ、ムクが?ジャイアン夢見てたんじゃないの?」
スネ夫は肩を竦めて笑いながら茶化すといきなりジャイアンに頬を抓られた。
「いだだだだ!!痛いって!ジャイアン!」
「ほら夢じゃないだろ!?」
「でもムクのお葬式には私も参列したわ。確かに亡くなったはずなのに…いくらなんでもおかしいわ。似ている犬なんじゃないかしら?」
しずかの言葉にジャイアンはやや不安な気持ちになった。
続く
Posted at 2021/04/26 20:18:04 | |
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