2021年04月29日
スネ夫としずかは絶句し茫然と立ち尽くした。
「ドラえもんは未来に帰ったんじゃないんだ。のび太が死んだことで消滅したんだ…」
「……」
しずかは考えていた。未来からドラえもんがやってきたのならのび太は自殺するはずではななかったのだ。
つまりのび太の自殺は不確定要素であり、未来を改変してしまうきっかけになったのだ。
「スネ夫さん、やっぱりちょっとおかしいわ。ドラちゃんの未来ではのび太さんは生きてるのにこの世界ののび太さんは自ら死を選んでしまった…きっとなにかの力が働いてる気がするの!」
「なにかの力?」
「そう!何者かが未来を変えようとしてるんだわ!それはなんなのかわからないけれど…」
しずかはうつむき目を瞑った。
(のび太さんは自殺じゃないわ…自殺に見せかけて殺されたのかも…?)
「しずちゃん、とりあえず明日学校が終わったらのび太の部屋に行ってみよう!もしかするとなにかのヒントが残されているかもしれない」
スネ夫の提案にしずかはゆっくりと頷いた。
翌日。
「おーい!お前ら!しまっていくぞーっ!」
ジャイアンは声を上げてピッチャーマウンドに立つが誰一人返事をするものはいなかった。
野球チーム『ジャイアンズ』の中でもジャイアンに対する不信感が広がっていた。
ジャイアンは違和感を覚えながらも努めていつものジャイアンでいようと思っていた。
しかしやる気のないプレイについに腹が立ってしまった。
「おい!お前らやる気あんのかっつーの!そんなんじゃ勝てないっつーの!」
ジャイアンはバッドを地面に叩きつけるがチームメイトからは大きなため息が漏れた。
「もうついていけない…」
「なんだと!?」
「人をいじめて自殺に追い込むような奴と一緒に野球なんてやってらんねって言ってんの!」
「何言ってんだっつーの!俺様がそんなことするわけないだろ!」
「はぁ?実際に自殺したでしょ?あんたが殺したんだよ!」
「なんだと!?もう一度言ってみろ!!」
思わず手が出て拳を顔面へと叩き込んでしまった。
チームメイトは飛ばされ他の仲間に受け止められる。誰もがジャイアンを白い目で見つめていた。
「ほらな、そうやってすぐに暴力を振るうんだ…いてて…あんたは人殺しだ!」
「なにをっ!?」
ジャイアンは拳を握り込むが震えて我慢した。
「チックショー!!」
帽子を地面に叩きつけ何も言わずにその場を立ち去った。
続く
Posted at 2021/04/29 20:38:41 | |
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2021年04月28日
放課後。
スネ夫としずかはジャイアンの家に出向きムクの姿を確認する。それは紛れもなく生前のままのムクだった。
「本当だ…これムクだ」
スネ夫は信じられないといった様子でムクをまじまじと見る。
「だろ!?俺様がムクを見間違うわけがないんだ!」
「でもどうして亡くなったはずのムクが生き返ってきたのかしら?」
しずかは自分で言った言葉に違和感を覚えた。
“生き返ってきた”と言ったのだ。それはムクが亡くなってペット斎場で火葬をし灰を受け取ったジャイアンが今まで見た事がないくらいに泣いていたのだ。
それを覚えているから“生き返ってきた”と言ったのだ。
「俺様にもわかんね。わかんねーけどこうしてムクは俺様のところに戻ってきてくれたんだ!これからもずっと一緒だぞ!ムク!」
ムクは尻尾を激しく振りジャイアンの顔を舐めていた。
その帰りスネ夫としずかは納得出来ない面持ちで帰路についた。
「スネ夫さん…やっぱり私理解出来ないの。確かにムクは亡くなったわ。それなのにまた生き返ってくるなんて信じられないわ」
「そうだね。僕もなんか引っかかるんだ。ドラえもんも突然いなくなったし…」
その時にスネ夫は気が付いた。
ドラえもんは元々のび太の子孫のセワシが未来を変えるために過去に送ってきたのだ。
のび太が自殺してしまったことで未来のセワシがいなくなってしまったのだ。当然、ドラえもんも存在しないことになる。
のび太が自殺したことで未来がまるで変わってしまった。すると過去にドラえもんの道具で未来を変えてきた歪みが発生してしまったのではないかと推測したのだ。
「しずちゃん…実はとんでもないことが起きてしまったのかもしれないよ」
「スネ夫さん、どうしたの?顔色悪いわよ?」
「のび太が自殺しちゃったから未来が変わってしまったかもしれない…」
「え?」
「ドラえもんがどうして未来からやってきたのか覚えてる?」
スネ夫の言葉にしずかはハッとして口元を抑えた。
「ドラちゃんは存在しないことになる…」
「そうだよ。それで過去で歪めてきた未来が無くなって違う現在に戻りつつあるんだ。だからムクは生き返ってきたんじゃなくて元々死んでなかったことになるんじゃないかな?」
「つまりムクは産まれてくる時間もたけしさんと出会うタイミングもズレてしまったということ?」
「そうだよ!僕達がいる世界はのび太が自殺したことで前にいた世界とは違う世界になってしまったんだよ!」
続く
Posted at 2021/04/28 12:21:28 | |
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2021年04月26日
その夜。
ジャイアンは寝付けずにいた。布団の中で何度も寝返りを打ちながら考えていた。
(のび太が死んだなんて俺様は絶対に信じないぞ!あいつが…あいつが簡単に死ぬわけない!)
その時、庭先で物音が聞こえる。時刻は深夜二時を回ろうとしている。
(ん?何か音がするぞ!?)
ジャイアンはムクリと起き上がり枕元に置いてあるバットを手にする。ギシギシと軋む廊下を歩き庭を見るとそこに蠢く影があった。
(なんだ?何してやがる!?)
そこは1年前に死んだ飼い犬のムクの小屋があった場所だ。ジャイアンは慎重に近付きバットを構える。
「おい!人ん家でなにしてやがる!!」
その影はジャイアンに飛びかかると体重を押しかける。ジャイアンは驚きバランスを崩して後ろへ倒れた。バットが手から離れる。
「くそっ!何しやがる!!やめろ!!」
顔に生暖かく湿った物が何度も擦り付けられる。雲から月が出るとその影の姿が露わになった。
「お、お前は…っ!?」
それはまさしく死んだはずの飼い犬のムクだった。
「ムク…お前はムクなのか!?ど、どうやってんだ!?」
ムクは大喜びでジャイアンの顔を舐めている。ジャイアンはわけがわからずにいたがムクの体を抱き締めた。
暖かくてムクの匂いがした。懐かしくて思わず涙が出た。
「ムクーッ!!お前!俺様のために生き返ってくれたんだな!!寂しかったぞーっ!!」
あまりの騒々しさに妹のジャイ子が起きてくる。
「兄ちゃんどうしたの?」
「おお!ジャイ子!ムクが…ムクが生き返ってきたんだ!!」
「ムクが?」
ジャイ子は眠まなこを擦りながら何度もムクを凝視する。
「ほ、本当だ!!ムクだ!!」
ムクは高齢で天寿を全うし簡素ながら葬儀をして火葬したはずだった。そのムクが生前そのままに目の前にいる。それもだいぶ若返ってるように思えた。
翌日、ジャイアンはスネ夫としずかにムクの事を興奮気味に話す。
「…というわけなんだよ!ムクが生き返ってきたんだ!」
「へぇ、ムクが?ジャイアン夢見てたんじゃないの?」
スネ夫は肩を竦めて笑いながら茶化すといきなりジャイアンに頬を抓られた。
「いだだだだ!!痛いって!ジャイアン!」
「ほら夢じゃないだろ!?」
「でもムクのお葬式には私も参列したわ。確かに亡くなったはずなのに…いくらなんでもおかしいわ。似ている犬なんじゃないかしら?」
しずかの言葉にジャイアンはやや不安な気持ちになった。
続く
Posted at 2021/04/26 20:18:04 | |
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創作 | その他
2021年04月25日
「おい剛田。お前はよく野比をからかっていたそうじゃないか?」
先生は顎先を掻きながらジャイアンに問いかける。
「俺はのび太をイジメてたかもしれません。でも死ぬくらい酷いことはしてません」
「君がそう思ってても野比はそう思ってはいなかったんじゃないか?具体的にどんなことをしていたのかね?」
先生の問いにジャイアンは握り拳を作る。
「殴ってました。でもそんなに強くは殴ってません」
「強くや弱くじゃないだろう!殴ったことに変わりはない!」
先生の語気が荒くなる。
「じゃ先生は俺の事をのび太を自殺に追い込んだ犯人だと決めつけるんですか!?」
ジャイアンは思わず立ち上がり机を叩いた。その様子に先生は驚きながらも咳払いをして同じように立ち上がった。
「他に誰がいるのかね?」
「のび太は自殺をするような奴じゃない!他にイジメてた奴がいるんだよ!絶対に俺じゃないっつーの!のび太と俺は一緒に冒険をし…いや、困難を乗り越えてきた心の友だっつーの!」
ジャイアンは泣きながら訴えるが先生は首を振り肩に手をかける。
「剛田。先生が上手く話してやるから一緒に警察に行って話をしよう。これ以上学校にこれだけのマスコミが押しかけて来られるのは迷惑なんだ。保護者からも多くの苦情が寄せられている。うちの子もお前に虐められてるんじゃないかってね」
「先生!冗談じゃねぇ!俺はやってないっつーの!絶対に犯人を捕まえてここに連れてくる!」
ジャイアンは教室を飛び出していく。
「待て!剛田!逃げるなんて許されることじゃないぞ!」
先生の怒鳴り声が背中に刺さるが気にせず廊下を走る。
「チックショー!先生まで俺を疑いやがって…!」
袖で涙と鼻水を拭き夢中で走っていると昇降口にしずかとスネ夫が立っていた。
「しずかちゃん…スネ夫…」
「たけしさん…私はのび太さんが自殺したなんて信じられないの。いいえ、信じたくないの」
「ジャイアン。僕だって信じられないよ。きっと犯人は他にいる。一緒に探すよ。僕達友達だろ?」
「お前ら…心の友よ!」
3人はいつものように空き地に集まると情報を整理していた。
ドラえもんがいなくなったことやのび太がなぜ自殺したのか?その場所は?情報の出処は?
それぞれの知りうる情報を交換し合うが全く話が噛み合うことなく錯綜した。
「うーん…全くわからない」
スネ夫は頭を抱えた。
Posted at 2021/04/25 21:35:52 | |
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創作 | その他
2021年04月24日
学校に行くと校門前にたくさんの記者達が押し寄せていた。先生達が対応に追われ、その横を生徒たちがすり抜けていく。
「イジメが原因で自殺したってほんとうですか!?」
「加害者の生徒はどこにいるんですか!?」
「校長先生!話を聞かせてください!!」
無数のカメラのフラッシュとシャッター音、先生達の怒号が飛び交いいつもの日常が懐かしく感じた。
その傍らで源しずかは校門を抜けるのを躊躇っていた。きっと教室は先生不在で蜂の巣を突っついたような騒ぎになっているに違いない。
そして何よりものび太が自殺をしてしまったことが今だに信じられずに現実を受け止めきれないでいた。
「のび太さん…どうして自殺なんか…」
目から溢れる涙が頬を伝い顎の先から雫になって地面へと落ちて小さな染みを作っていた。
ふとハンカチが差し出された。しずかはその手を見ると振り返る。
「しずかくん、朝から涙流してたら野比くんも悲しむよ」
そこに立っていたのは出木杉英才だ。彼もまたのび太の死を深く悲しんだようで目を赤くしていた。
「出木杉さん…のび太さんが…」
しずかは出木杉の手を握ると再び涙を流した。
「僕も信じられないよ。あの朗らかな野比くんが自殺するなんて…そんなに悩んでるような様子はなかったけど彼の中では何かが溜まっていたのかもしれないね…」
出木杉はしずかの肩を叩くと教室へ促すように歩き始めた。騒々しい記者たちの脇を通り誰一人いない校庭を横切って昇降口へ向かう。
教室から多くの生徒が校門の方を見つめていた。それはみんなは一様に同じ表情で不気味さを感じた。
足音が反響するほど静かな廊下を歩き教室へ入ると一斉にみんなの視線がしずかと出木杉に向けられた。
そしてのび太の席を見るとたくさんの花が添えられていた。
「野比くんはとても優しい人だったよ。だからって僕らにも相談すらしないで勝手に決めてしまうなんて…」
さっきまで冷静に努めていた出木杉は肩を揺らして嗚咽を漏らし始めた。それにつられるようにクラスメート達が同じように泣き始めた。
「なぁ、本当はまだ遅刻してるだけとかじゃないの?」
クラスメートの1人がおどけるように言うと怪訝な目が一斉に向けられた。
「あ、ごめ…」
罰が悪そうに今のはナシナシとジェスチャーをすると大人しく席についた。
のび太がいない教室はいつもよりも静かで暗く感じた。
続く
Posted at 2021/04/24 20:42:14 | |
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