2021年04月25日
「おい剛田。お前はよく野比をからかっていたそうじゃないか?」
先生は顎先を掻きながらジャイアンに問いかける。
「俺はのび太をイジメてたかもしれません。でも死ぬくらい酷いことはしてません」
「君がそう思ってても野比はそう思ってはいなかったんじゃないか?具体的にどんなことをしていたのかね?」
先生の問いにジャイアンは握り拳を作る。
「殴ってました。でもそんなに強くは殴ってません」
「強くや弱くじゃないだろう!殴ったことに変わりはない!」
先生の語気が荒くなる。
「じゃ先生は俺の事をのび太を自殺に追い込んだ犯人だと決めつけるんですか!?」
ジャイアンは思わず立ち上がり机を叩いた。その様子に先生は驚きながらも咳払いをして同じように立ち上がった。
「他に誰がいるのかね?」
「のび太は自殺をするような奴じゃない!他にイジメてた奴がいるんだよ!絶対に俺じゃないっつーの!のび太と俺は一緒に冒険をし…いや、困難を乗り越えてきた心の友だっつーの!」
ジャイアンは泣きながら訴えるが先生は首を振り肩に手をかける。
「剛田。先生が上手く話してやるから一緒に警察に行って話をしよう。これ以上学校にこれだけのマスコミが押しかけて来られるのは迷惑なんだ。保護者からも多くの苦情が寄せられている。うちの子もお前に虐められてるんじゃないかってね」
「先生!冗談じゃねぇ!俺はやってないっつーの!絶対に犯人を捕まえてここに連れてくる!」
ジャイアンは教室を飛び出していく。
「待て!剛田!逃げるなんて許されることじゃないぞ!」
先生の怒鳴り声が背中に刺さるが気にせず廊下を走る。
「チックショー!先生まで俺を疑いやがって…!」
袖で涙と鼻水を拭き夢中で走っていると昇降口にしずかとスネ夫が立っていた。
「しずかちゃん…スネ夫…」
「たけしさん…私はのび太さんが自殺したなんて信じられないの。いいえ、信じたくないの」
「ジャイアン。僕だって信じられないよ。きっと犯人は他にいる。一緒に探すよ。僕達友達だろ?」
「お前ら…心の友よ!」
3人はいつものように空き地に集まると情報を整理していた。
ドラえもんがいなくなったことやのび太がなぜ自殺したのか?その場所は?情報の出処は?
それぞれの知りうる情報を交換し合うが全く話が噛み合うことなく錯綜した。
「うーん…全くわからない」
スネ夫は頭を抱えた。
Posted at 2021/04/25 21:35:52 | |
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2021年04月24日
学校に行くと校門前にたくさんの記者達が押し寄せていた。先生達が対応に追われ、その横を生徒たちがすり抜けていく。
「イジメが原因で自殺したってほんとうですか!?」
「加害者の生徒はどこにいるんですか!?」
「校長先生!話を聞かせてください!!」
無数のカメラのフラッシュとシャッター音、先生達の怒号が飛び交いいつもの日常が懐かしく感じた。
その傍らで源しずかは校門を抜けるのを躊躇っていた。きっと教室は先生不在で蜂の巣を突っついたような騒ぎになっているに違いない。
そして何よりものび太が自殺をしてしまったことが今だに信じられずに現実を受け止めきれないでいた。
「のび太さん…どうして自殺なんか…」
目から溢れる涙が頬を伝い顎の先から雫になって地面へと落ちて小さな染みを作っていた。
ふとハンカチが差し出された。しずかはその手を見ると振り返る。
「しずかくん、朝から涙流してたら野比くんも悲しむよ」
そこに立っていたのは出木杉英才だ。彼もまたのび太の死を深く悲しんだようで目を赤くしていた。
「出木杉さん…のび太さんが…」
しずかは出木杉の手を握ると再び涙を流した。
「僕も信じられないよ。あの朗らかな野比くんが自殺するなんて…そんなに悩んでるような様子はなかったけど彼の中では何かが溜まっていたのかもしれないね…」
出木杉はしずかの肩を叩くと教室へ促すように歩き始めた。騒々しい記者たちの脇を通り誰一人いない校庭を横切って昇降口へ向かう。
教室から多くの生徒が校門の方を見つめていた。それはみんなは一様に同じ表情で不気味さを感じた。
足音が反響するほど静かな廊下を歩き教室へ入ると一斉にみんなの視線がしずかと出木杉に向けられた。
そしてのび太の席を見るとたくさんの花が添えられていた。
「野比くんはとても優しい人だったよ。だからって僕らにも相談すらしないで勝手に決めてしまうなんて…」
さっきまで冷静に努めていた出木杉は肩を揺らして嗚咽を漏らし始めた。それにつられるようにクラスメート達が同じように泣き始めた。
「なぁ、本当はまだ遅刻してるだけとかじゃないの?」
クラスメートの1人がおどけるように言うと怪訝な目が一斉に向けられた。
「あ、ごめ…」
罰が悪そうに今のはナシナシとジェスチャーをすると大人しく席についた。
のび太がいない教室はいつもよりも静かで暗く感じた。
続く
Posted at 2021/04/24 20:42:14 | |
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2021年04月23日
『小学生イジメを苦に自殺か!?』
衝撃的なニュースは小さな町を一気に駆け巡った。
ジャイアンはその記事が載った新聞を手にワナワナと震えている。その隣にいたスネ夫は気まずそうに顔を覗き込んだ。
「ジャイアン?」
「のび太が…自殺…」
ジャイアンは新聞をビリビリと破くと丸めて地面へと叩きつけた。
「のび太が自殺なんてするわけないっつーの!」
何度も新聞を踏みつけるとスネ夫を睨んだ。
「そ、そうだよ!あののび太が自殺する勇気なんてあるわけないよ。きっとドラえもんが何かの道具を使ったのかもしれないよ」
そういうとスネ夫はハッとして口を手で押さえた。そういえばドラえもんはここ最近出歩いてるのを見たことがなかった。
のび太に聞いてもしどろもどろになって返事するだけで所在についてはわからなかったのだ。
おそらくは喧嘩でもして未来へと帰ってしまったのかもしれないと思っていたのだ。それがのび太の自殺と何らかの関係があるのだろうか?と勘繰った。
「やい!スネ夫!お前は俺の事をのび太をイジメてたと思ってないだろうな!?」
「はは、まさか…だって僕らは一緒に冒険してきた仲じゃないか」
スネ夫の答えにジャイアンは納得しなかったのか舌打ちをすると貧乏ゆすりをしながら何かを考えている様子だった。
「あいつが自殺なんてするわけがない。だってあいつはいつだっていい奴だったじゃねぇか!」
スネ夫もまたのび太の自殺に関しては納得してはいなかった。もしイジメが原因だとしたら加害者として疑われるのは間違いなくジャイアンと自分なのだ。
しかし自分達にとってはのび太をからかうのは日常的なコミュニケーションの様なものだ。実際に軽い暴力行為はあったかもしれないが金をカツアゲしたり、靴を隠すなどの嫌がらせはしなかったのだ。
「きっとのび太をイジメてた奴がいたんだ!おれはそいつを絶対に許さねぇしぶん殴ってやる!」
ジャイアンは鼻息を荒くして腕まくりをする。
「待ってよ!ジャイアン!まだ詳しい話はわからないし明日学校に行けば先生から話があるかもしれないからさ、今日はおとなしくしてようよ」
荒ぶるジャイアンをなだめるとスネ夫はのび太を別荘に連れて行かなかった事を深く後悔した。
しかし、従兄弟の車は4人しか乗れずに自分と従兄弟を合わせてジャイアンとしずかしか乗せることはできなかったのだ。
続く
Posted at 2021/04/23 21:18:40 | |
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