ソラノムコウのブログ一覧

あれから何年過ぎただろう。

ずーっと昔の話、プロポーズをした女性が居ました。

僕よりも一回りも年下でとても聡明な方。
10年程お付き合いし、プロポーズは成功した。

プロポーズの言葉は恥ずかしながら

『人生という旅の添乗員になってもらえますか？』
だった。

彼女は少し驚いた表情をするとすぐに頷いた。少しの負い目を感じつつも確かに前に歩き始めたのだと実感した瞬間だった。

でもそう事は運ばないのが世の常であり、運命というものだろう。
両親にご挨拶に行った時、歓迎する父親と反対する母親。そこに板挟みになる彼女。

父親は言った。
『真面目だし、優しいから』

母親は言った。
『収入面で不安だし、国民年金だし』

自営業の僕は厚生年金ではない。老後の保障は何も無い。

その内、夫婦喧嘩に発展した。

天国と地獄…まさにそうだった。

何よりも何も反論できず、不安に打ち勝てない自分が嫌だった。彼女は泣いていた。

それから帰りの事はよく覚えていない。わかっている事はこれからの旅は一人旅になったという事だ。


それから僕がした事は『君の事を忘れる事』だった。



出会った場所も、一緒に感動した映画も、いろんな事を語り合ったあの店も、全てを無かった事にしようと思った。


人が忘れるように出来たのは神様の思いやりだろう。

何事も無かったかのように振る舞い、負い目を感じさせないようにおどけてみせた。


今年の６月。
君は僕の知らない誰かと結婚した。


君が最後に言った言葉は覚えていない。
さようならは言ったっけ？



思い出そうとすると辛くなる。
もうあの頃の自分にはならないと決めていたのに。


人は大切な事から忘れていく。
色を失い、形がボヤけ、ただぼんやりとした何かに変わって
心の片隅へ無造作に置かれる。


君を思い出してみたのは僕のきまぐれ。

僕が僕であった頃に戻ってみたいと思っただけ。

もう心は元に戻らないけど。