
閑散とした鮎川に寂しさを覚え、次に向かったのは御番所公園だ。

テト『おお!眺めが良いなぁ!晴れてたらもっといいお!』
御番所公園は牡鹿半島の先端に位置し展望台から金華山と太平洋、網地島が一望できる名所だ。
ここに来たのはもう10年振り…それ以上かな。
ここに来て思うのはあの頃とあまり変わってないなぁということ。自分自身の環境のことなどがね。
テト『どうした?またセンチメンタルになっているのか?』
「まぁね、どこもかしこも思い出の場所だからね。ここにかつて一緒に訪れた人は今はいないんだよ。そういう時の流れが寂しいというか…」
テト『そうか…ここに一緒に来た人って?』
「いろんな人…みんな私の人生を通り過ぎて行った人達さ」

テト『とりあえず今はボクと一緒だ。今を大事にするお!』
「そうだね」
テトが手を差し出し繋ぐと前へと進む。この吊り橋も昔のままだ。ここを一緒にはしゃいで渡った人がいたなぁ。
懐かしいよ。
あの頃に戻りたいと思う反面、やり直せたとして今も変わらずにいただろうか?と思うと不安なものがある。
綺麗な思い出は綺麗なままの方がいいのかもしれない。
吊り橋を渡ると幾つかデッキがある。

テト『金華山が近く見えるぞ!凄いなぁー!』
いつになくはしゃぐテトだが、何となくわざとらしくもありセンチメンタルになっている私を励ましてるようにも思えた。
「綺麗だなぁ…お、船が見えるぞ!」
テト『本当だお。結構速いんだな』
「うん、あの金華山には神社があってね、三年連続でお参りすると一生お金に困らないそうだ」
テト『ふぅーん、君は三年連続お参りしたのか?』
「いや、全然…それだけ願いを叶えるのは難しいってことさ。どんな願いも簡単にはね…」
テト『でも一生お金に困らなくなるんだお!それと比べたら労力なんて大したことないお!』
「いや、そうだけどさ…なかなかハードルが高いもんだよ。ましてや船を使うわけだし…」

テト『君がお金持ちになるわけないか…あの展望台に行くお』
「私だっていつかはお金持ちになりたいよ!でもなぁ…」
テト『そういう優柔不断なところがダメなんだお!』
テトは颯爽と展望台へ向かって歩く。
そうだ、昔から優柔不断だった。いろんな意味で決断から逃げていたのかもしれない。
逃げて、逃げて…。
でも逃げてなかったらどうなっていただろう?
もしかするともっと悲しい思いをしたのかもしれない。
展望台へ到着すると何となく違和感があった。
ん?こんな建物だったっけ??
なんとなく朧気だがもっとボロかった気もする。
とりあえず階段を上ることにした。
テト『また何か考えてたのかお?』
「いや、別に…ん??」

「こ、これは役得!!」
テト『ん?おい!!何やってるお!!』
テトの強烈なパンチが私の顔にめり込んだ。
「ぐはっ!!」
テト『油断も隙もないお!』

展望台からの眺めは晴れてたら絶景だろう。
残念ながらご覧の空模様だ。

テト『下にベンチがあるお。あそこでお弁当食べたら美味しそうだお』
「そうだねぇ。残念ながらお弁当は買って来なかったけどね…少し腹減ったけど近くの女川で美味しいものでも食べよう」
テト『オナガワ?』
「おん。女川は海産物が美味しいんだよ。お刺身定食とか海鮮丼とか」
テト『楽しみだお!』
展望台を降りてベンチへと向かう。

テト『ん?子猫がいるお?』
「ん!?それは…もしかして…」
子猫「ワシはただの子猫じゃ」
「いやいやいやいや、子猫が喋らないし!それに子猫なのにワシはとか言わねーし!てか、キジムナーさんじゃない!?」
テト『おお!キジムナー!』
説明しよう。キジムナーさんとは沖縄にいる精霊さんでガジュマルの木に住んでいるのだ。
沖縄旅行では大変世話になったものだ。
普段は猫の姿になっているのだが、まさか宮城県にもキジムナーさんが??
子猫「ワシはキジムナーというものではない。遠い友人じゃがな」
「そうなんですか…てっきりキジムナーさんかと…んでどうしてまた我々の所に現れたんです?」
子猫「ヌシらがこの景色を見て綺麗だと言っていたからついな。人間というものは強欲で見栄っ張りで虚栄心の塊じゃ」
テト『ズタボロな言われようだな』
テトはいたずらっぽく笑うと視線をこちらへ向ける。
「いや、私だけを特定して言ってるわけじゃないでしょ!」
子猫「左様。ここもかつては自然があった。人間がこのように作り替えてしまったのだ。自然というものは全てにおいて平等だ。ここに住んでいた者達も追われ姿を消していった」
子猫はやたらに貫禄のある口調で語る。
なんか申し訳ない気持ちになってしまった。沖縄のキジムナーさんも似たようなことを言っていたな…。
「なんか…すいません…」
子猫「お主が謝る必要は無い。これも自然の摂理。弱肉強食の世界なのじゃよ。じゃがな、自らの命が数多くの犠牲によって成り立っていることを決して忘れてはならんぞよ。ヌシらが口に入れるものは全て命だ。命を食い、命を背負って生きていることを忘れてはならない。ここに来たのも何かの縁、よく考えて学ぶのじゃよ」
そういうと子猫は去っていった。
テト『君は今の話は理解したのか?』
「まぁ、何となく…ただこの圧倒的な景色を見て綺麗だと思えたことってすごくいいことなんだなって思った」
テト『ふむ…』
結局子猫の正体はわからなかったが子猫の姿をした何かだったのかもしれない。
でも本当に食べることに対してありがたみというか感謝というか…そういう気持ちが抜けていたような気がした。
でもなかなか難しいな。
何となくモヤモヤした気持ちのまま駐車場に戻ると車に乗り込んだ。
次の目的地は…そう、あのプライベートビーチだ。