
秘密のプライベートビーチを後にして車に乗り込む。
だが、ここでコバルトラインに戻れば良かったのだがわざわざ沿岸部に沿って走ることにした。
テト『おい、女川に行くんじゃないのか?』
「ああ、昔ね。この道を通って行った時に考えていた事があってね、あの頃の気持ちに戻ってみたいと思ってたんだ」
テト『なんだそれ?いちいち君は面倒くさいな』
テトは怪訝な表情をしながらもしょうがないなと言わんばかりに小さくため息をついた。
この道を全く知らなかったときに道の先を知りたくて好奇心の赴くままに走った。あの頃のような新鮮な気持ちになれるかどうかはわからなかったが昔の自分に出会えるような気がして走りたくなったのだ。
「確かにそうかもしれないね、はは」
すると途中に不自然に開けた駐車場が見えた。
「なんだここ?」

駐車場の中にはポツンと小さな看板があった。作品はこちらと書いてある。
確かこれは…数年前にあったアートフェスティバルみたいなものがあったんだけど、その残骸のようだ。
ああ、そうだ!ここにツリーハウスもあったんだ。確かそうだ。
なんかのネットニュースで一時期盛り上がったのを覚えている。その時は全く牡鹿半島に近付こうとは思わなかったんだが…。目の前に山のように積み重ねられた仕事に圧倒されていたのだ。
車から降りて周辺を散策するもツリーハウスは残念ながら消失していた。残骸すら残ってない。
誰かが歩いたような階段があったがそれも腐食しており虚しく自然に還ろうとしていた。
その反対方向には『白い道』と題された作品が今でも残っていた。

誰も管理していないようでかなり草が生い茂っている。コンスタントに誰かが訪れるスポットだったらいいのだが…これではなぁ。
ちょっとガッカリしながらも先へと進む。
テト『おい、まだ先に行くのか?何があるんだ?』
「うーん、わからない。何となく道の先って気になるじゃない?行っても何も無いんだろうけど…とりあえず先っぽまで行ってみようか」
歩きにくい玉砂利の道を歩いていく。

テト『蚊に刺せれたお…たくさんいるお!』
た、確かに蚊が尋常ではない。もうこんなに涼しくなっているのに蚊がこんなにいるなんて…気が付けば至る所を刺されている。
久々に現れた人間に歓喜しているようだ。空腹に苛まれ凶暴化した蚊が次々に刺しては血を吸っていく。
「かいぃぃ!」
ボリボリ掻きながら思った。
好奇心は猫を殺すってな…この先に何も無かったらきっとテトは不機嫌になるだろう。あるにしても何があるのかは疑問だが…。

テト『足刺されたお!』
「ええ!大丈夫?どれどれ…」
テトの太ももにポツンと赤い斑点が出来ていた。

テト『うう…痒いお~』
「あまり掻かない方がいいよ。あとからムヒとか塗れば大丈夫だよ」
(それにしてもなんという絶景…!)

道の先が見えてきた。何となく嫌な予感が的中したようだ。

見事に何も無い…。道の先は茂みだった。道自体が作品だったのだ。

周りを見回しても何も無い。
目の前には金華山。ああ、そうか。この景色自体が道の先のゴールだったのだ。
そして道は自然に還ろうとしているのか。

テト『…帰ろっか?』
「そうだね…」
とにかく蚊が多くて長居は無用。やや上り勾配となり体力を大幅に消耗しながら駐車場へと戻る。
とにかく自然に還ろうとしていたのだ。人の仕事というものは時間と共に失われていくのだと実感した。
あの作品だって出来上がった時は多くの人が集まったかもしれない。
牡鹿半島は時間に取り残されたものが多いな。私の気持ちだってそうだ。好奇心の赴くままに走ったあの頃…。
あれ?
あの頃と変わってないぞ?
取り巻く環境や交友関係など。仕事もそうだ。
私もまた過去に囚われ時間に取り残されてる存在なのかもしれないな。
考え事をしながら走ってるとやたらに道路に落ち葉が散乱している。
テト『なんかおかしくないか?誰もここを走ってないような感じじゃないか?』
うむ。確かに轍も無いしかなり前から車は走ってないような気がする。
何となく不安な気持ちを抱えながらも走っていく。
テト『あっ!?』

「なんてこった…」
道が完全に塞がっていた。はっきり言ってこれ以上は進めない。それにし転回する場所も無い。つまり…走ってきた道をバックで戻るしかないのだ。
この道もまた自然に還ろうとしているのか?
ここまで進んできた倍の時間をかけて戻った。はっきり言ってバックは苦手だった。
元の道に戻りコバルトラインを走る。スイフトRSの走行性能は実に良い。次から次に現れるコーナーを軽快にクリアしていく。
そしてゴールである女川に到着した。

テト『駅が綺麗だな!』
うん、温泉も併設されてて実にオシャレな外観になっているよ。目の前には商店街があるしこれからどんどん面白い町になっていくと思うよ。
そう、震災で壊滅的な被害を受けた女川は着実に生まれ変わろうとしているのだ。
以前は正直に言うと寂れた漁師町といった風情だったが今は比較的若者も多く訪れる町になった。
とりあえず今日の旅はここまでだ。
「女川で美味しい海鮮丼でも食べていこうか?」
テト『やった!』

訪れたのは商店街のメインストリートから裏手にある
『ニューこのり』さんである。
入口は高級料亭っぽいが至って庶民的なお店だ。
確か仮設店舗時代にあの井之頭五郎さんが訪れている。孤独のグルメだ。
あの時は何を食べたんだっけなぁ…思い出せないな。
とりあえずオーダーしたのは

三色海鮮丼。
ん~実に美味しそう!
まるで宝石箱のような美しさ。

すごくキラキラしてる。なんか休日にこういう贅沢すると気持ちもリフレッシュされていいな。
おや?テトさんの姿がないぞ?
全く、いつも神出鬼没に現れては突然いなくなるんだな。
今回のドライブでスイフトRSがすごく楽しい車だということは再認識した。
これからも頼むぜ!相棒!
次回予告
「うへ~酔っ払ったのだ~」
私は青森県八戸に滞在していた。これまた新しい土地での暮しだ。
いつになったら定住の地に巡り会えるのかわからん。
おっと、美味しい肴に美味い酒。こんないい街だったらずっと住んでもいいかなぁ。
などとぼんやり考えていたら目の前に可憐な女性が現れた。
テナ『ふふ、ソラノさんったらまたここでサボってるんですか?』
テ、テテ、テナさん!?
こうして偶然というか突然現れたテナさんと行動を共にすることに!?

『テナテナうぉーく~八戸恋慕情編』
あるかもしれない…。ないかもしれない。