
C63のトランスミッションは、AMG SPEED SHIFT MCT というメルセデス内製のトランスミッションです。これはプラネタリーギアを使う一般的なトルコンのミッション本体(7G-TRONIC)をそのまま使い、トルクコンバーター部分を湿式多板クラッチに置き換えたものです。以前にも書きましたが、これはいわゆるデュアル・クラッチシステムではなく、クラッチは1組しかありません。従ってDCT、特にポルシェのPDKのように完全にシームレスに繋がるシフトではなく、シフト時は明確に変速する感覚があります。ただし旧来のシングルクラッチ式のような失速感は皆無で、COMFORTモードを選んでおけば非常にスムーズにシフトします。SPORTやSPORT+にすると多少ショックを伴いますが、非常にダイレクトに繋いでいき、変速感があるのでPDKよりもむしろ気持ち良いくらいに思っています。もちろんシフトダウン時は自動的にブリッピングして綺麗に回転を合わせてくれます。
AMG GTで採用しているDCT(トランスアクスル用なので通常のFRモデルに流用出来ない)ではなく、こういったミッションを採用しているのには当然コストの問題が大きいと思います。しかし結果的には耐久性があり(このミッションのクラッチ交換は非常に稀だそうです)、コンフォート時のマナーも良く、ダイレクト感もあるという、意外に良いトランスミッションになっています。
参考までに、BMW M3/M4/M5(F10)が採用しているゲトラグのDCT、それから新型M5も採用しているZFの8HPと比較してみます。※新型M5のZF 8HPについては詳細が分かっていないため、とりあえず8HP75での比較です。
こうして見ると、スペック的にはSPEED SHIFT MCTのトルクの許容量がとにかく大きいのが分かります。何しろ1000Nmですからね・・・。まぁS63だと900Nmなのでそれくらい必要なんですが。そして、実は重量も軽くコンパクト。そうなんです。DCTよりもコンパクトで、トルク容量の小さなZFの8HPよりも軽いんです。もちろん8HP75は8速ですから直接比較は難しいですが、でも5kg以上差があるわけです。ちなみに8HP90になると、トルク許容量は1100Nmに上がりますが、重量は97kg、長さは700mmになります。
※追記:ZFの8HPはFRレイアウトのクルマで広く使われている一般的なトルコンのATです。BMWでは3シリーズから7シリーズまで使われてます。しかし車両メーカー毎にかなりセッティング・味付けが異なり、BMWではロックアップ率の高さやシフトの速さが印象的ですが、ジャガーではより緩く、トルコンで滑らせるセッティングでした。新型M5ではデュアル・クラッチからトルコンにされたわけですが、4WDということもあり8HPをベースにした強化型にされていると考えられます。M5のミッションはE39のMTから始まり、E60ではシングルクラッチのSMG、F10ではデュアル・クラッチのDCT、そしてF90ではトルコンと世代毎に変わっているのが面白いですね。ダイレクト感を重視してトルコンを採用してこなかったのだと思いますが、F90ではトルコンでもロックアップ率を高めることでダイレクト感が作れる、という結論に至ったということなんでしょうね。
GETRAG 7DCI700
というわけで初めは妥協の産物だと思っていたAMG SPEED SHIFT MCTなのですが、トータルでは意外に悪くないどころか、C63に非常に合っていると言えます。
そんなSPEED SHIFT MCTなのですが、小さな不満もいくつかあります。一つはスタート時の半クラ。特に冷間時は半クラが長くなりがちなのが気になります。また、COMFORTモードではアクセルOFF時にクラッチを切るコースティングモード(AMG的に言えばグライディングモード)からの復帰でちょっとしたショックがあります。さらに停止時はDレンジだと微妙な半クラ状態でスタンバイしているので、微妙に振動が出るのと、貧乏性でwクラッチを保護したくなり、長く停止する時はNにしてしまいます。そうするとNからDへのエンゲージがこれまた微妙に遅いというw。つまり、飛ばしている時は全く不満はなく、街乗りレベルの時の細かいマナーが良くなると良いな、という感じです。
そういうわけで大きな不満とまでは言わないのですが、まぁ日常の足として使っているのでプログラムのアップデートがあるかどうか確認してもらったところ、トランスミッション、エンジンともウチのクルマにインストールされているバージョンより新しいバージョンがあるということで適用してもらいました。また同時にアダプションも行ってもらっています。ただ、冷間時の半クラについては特に改善情報がないらしく、とりあえず最新版へUPDATEして様子見というところです。
・・・ところが。これが意外なほどフィーリングが向上しまして、温間時も含めて明らかに半クラは短めになり、しかもNからDのエンゲージも速くなった気がします。まだ走り込んでいないのですが、結構違うのは間違いないところ。C43の時もトランスミッションのプログラムアップデートで結構フィーリングが変わった(改善)のですが、どうやらこういったアップデートは適用出来るならした方が良さそうですね。
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Mercedes | 日記
Posted at
2018/08/29 21:56:29