つまるところ、クルマの走りは標題に尽きる。ハンドリングやら乗り心地やらダイナミックパフォーマンスやらの、いわゆるドライビングインプレッションの大半は、ほぼタイヤによってもたらされるとしても過言ではない。動力源となるエンジンの性能、性格を、路面コンタクトによって実際の具体的な形にするタイヤによってクルマの走りは形作られる。
エンジンがどれだけパワフルで洗練されていたとしても、タイヤが"タコ"だったらそのパフォーマンスを活かすことは出来ない。逆もまた真なりで、いかにハイグリップで高出力/高速性能に耐えるタイヤでも、エンジンの能力を超えて走ることは叶わない。当然双方にコストが絡むわけだから、釣り合いバランスが何よりも問われる事になる。
YOKOHAMAのASPECは、 国産初(1978年)の高性能ハイグリップタイヤとして登場したADVANに次ぐプレミアムブランド。1980年に世に出たコンフォート志向のタイヤのはしりである。まだ技術が未発達で、グリップ、レスポンス、コンフォートなどの性能要件を統合することが難しかった時代。タイヤ性能の基本に属するプロファイル、偏平率もまだ70%が上限で、本格的な高性能タイヤ時代の幕開けは1983年9月の運輸省(当時)による60シリーズタイヤ解禁を待つ必要があった。
ブランド導入の初期にはN.ラウダやP.フレールをCMキャラクターに起用し、60解禁時には稲垣潤一の『ドラマティックレイン』を使うなど、都会的なセンスの良さがASPECシリーズの持ち味。タイヤがイメージ商品として脚光を浴びるきっかけとなったヒット作だった。
SKYACTIVのデミオのタイヤは何? 見るとサイドウォールにはASPECのロゴがあった。30㎞/ℓの燃費を捻り出すクルマのタイヤとなれば、RRC(Rolling Resistance Coefficient=転がり抵抗係数)の小さいエコピア(BS)、エナセーブ(DL)などのいかにも…といったブランドかと思いきや、である。
ASPECブランドがまだ存続していることも驚きだったが、それがRRCを重視したエコタイヤに仕立てられているのも意外だった。どうやらリプレースブランドとしては廃止され、メーカー直需のOEM品として生き残っているらしい。どれどれ。
SKYACTIVデミオは、エンジンの燃焼の基本に立ち返ることによって10・15モード燃費で30㎞/ℓという、ハイブリッドに肩を並べる高効率を実現している。直噴、ミラーサイクル、スモールボア(ロングストローク)、頭頂キャビティピストン、マルチホールインジェクター、クールドEGR、アイドリングストップ(i-stop)にCVT……と細かい技術の積み重ねによる結果だが、もちろんそれだけではないだろう。
レブリミットは5500rpm。ダウンスピーディングはSKYACTIVE-Gの基本を成すコンセプトだが、ディーゼル並のタコメーター表示はいかがなもの? CVTなんだから、いっそ取り去った方が潔いかも。
動き出しはまずまず。路面不整に対する粗い反応は高い空気圧と固いトレッド剛性の証。この段階でタイヤにおんぶに抱っこを想像できないようではプロといえない。試乗後問うと250kpaであるという。まあ良路で50㎞/hプラスマイナス20程の一般的な走行パターン(まさにここがSKYACTIVEデミオの"パンド"であり、燃費の稼ぎどころであるわけだが)の乗り味はさすがに良くまとめ切っている。
しかし、名にしおう走りのメッカ芦ノ湖スカイラインを試乗ステージに選んだのはミスジャッジだろう。燃費だけじゃなくて、zoom zoomのマツダらしい走りも頑張りましたと聞いたら、いずれ一家言あるその筋の人々である。ビュンと行っちゃうのは当然だ。結果、タイヤの現実がモロ見えとなる。
開発の前提条件となったというASPECは、RRCと乗り心地のバランスをサイドウォールで取っている。転がり抵抗を高い空気圧とトレッド剛性で確保するいっぽう、乗り心地についてはサイドウォールで逃げるほか手がない。
元気の良いコーナリングではロールのスピードとアングルが思いのほか速く深い。ステアリング(の操作量と早さ)とのバランスは良好なので、運転者は納得の範囲だが、助手席はやや不安。あまり気分はよろしくない。もっとも、それ以上追い込むとタイヤが盛大にスキール音を奏でる。
それがコーションになるので、安全といえば安全だ。ダンパーのチューニングによってステアリングの効きとスムーズさは確保されているので、扱いにくい印象はないが、切り始めの手応えとロールの収まり感はタイヤのキャラクターによる制約要件と分かってはいても、もうワンプッシュ欲しい。
プライオリティが30㎞/ℓを承知の上で、純内燃機関モデルならではと納得の行く走りが期待できるタイヤを履かせて、ストレスなく楽しめるセットアップを試してみたいと思った。
まあ、本質的なことを言えば、SKYACTIVEはエンジン/ ミッションのパワートレインだけにとどまらず、ボディやシャシーなどの既存技術を磨き上げて目的を達成しようというコンセプト。マイナーチェンジの追加モデルで評価を下すのは早い。可能性の芽を摘むことは避けなければならないと思うが、過大評価で結果的に褒め殺しになるような真似は論外だろう。
限られた条件の中で上手くまとめた。開発陣の奮闘には拍手を贈りたいが、感心はしたけれど"こりゃスゲェ"と感動して思わず「欲しい!!」と言わせる出来ばえだったかというと違った。このデミオは、現在のマツダデザインチームの力量を世界に知らしめたコンパクトカーの逸材。このスタイリングを活かしきる技術部門の奮闘があれば、もっと注目されて不思議のないクルマだ。
今回の箱根試乗会でもっとも残念に思えたのは、そのデザインスタッフが一人も顔を見せなかったこと。エンジニアとデザイナーが一体になって取り組まないと世界を驚かすピュアICEの決定版など覚束ない。そのことをマネージメントが理解していないところが目下のMAZDAの最大の課題だろう。
人はテクノロジーではクルマを買わない。感動を呼ぶデザインを下支えするソーシャルセーフティの材料として技術を評価する。難しい知識の集積としての技術ではなく、直観的に判断の下せるデザインの好みが先だ。カッコイイ→乗りたい→良かった!!……このループが欲しい。良いクルマ選びはもう飽きた。今求められているのは、直感的に欲しいと思えるクルマ。当然、ECO要求を満たした上で、である。
エンジンから発想して、タイヤにおんぶに抱っこではなくて、いっそのことタイヤを基本に全体構成を考えるといい。2~5座でpureICE(純内燃機関モデル)考えると、絶対にFRになるよ。本ブログのタイトル右にある判子の文字は伊達ではありません。DIVERSITYが求められる時代。古いの新しいの言っていないで、何が欲しいのか。そいつをはっきりさせようではないか。
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2011/07/22 23:52:21