「アーシング」とは、バッテリーのマイナス端子からエンジンルームのあちらこちらのポイントに向けて太い銅線を直接配線することである。もともとは、カーレースの世界や、高級カーオーディオの世界でよくやられていた電源周りの改善策らしい。
そもそもアースとは、日本語で言えば「接地」であり、地面=地球(Earth)を共通の基準電位(電線)として電気回路を組むことを反映した言葉だ。電気回路の世界では、そのような基準電位のラインのことをアースと呼び、実際にそのラインを地面に電気的に接続することもあるし、地面とは電気的に絶縁されている場合もあるが、いずれにせよアースは「マイナス」の線ではなく、あくまでも「基準」となるゼロ電位のラインであることを確認しておきたい。
車の電気回路の場合は、車の骨格や外装板などのほぼ全体が金属の導体で出来ているから、これを基準のラインとするのが最も合理的である。そして、回路は全てオルタネータとバッテリーが発生する電圧約12Vの直流電源によって駆動される。よって、バッテリーの負極(マイナス端子)を基準電位ラインに接続し正極からの電流を回路に流して、各回路からの帰還電流を車の金属部分に流してやれば、電流の回路が閉じて正しく動作する、ということになる。いわば、車本体が地面のような役割をしているので「アース」=車自身ということになる訳だ。
では何故、「アーシング」をする必要があるのだろうか。結論的に言ってしまえば、基準となる車のボデーのラインが本当にどこでも常に「ゼロ電位」であれば、こんなことをする必要は全く無いのである。実際、マルチメータのような安物の電圧計でバッテリーのマイナス端子とボデーのあちこちの間の電圧を測っても、ほぼゼロを示す筈である。安物故にうっかりゼロでない数値を示す場合もあるかもしれないが、おそらくは測定誤差、ゼロ点のズレ、接点抵抗などが原因でそうなるだけで、正しい数値を示している訳ではないだろう。
それでは、何のために「アーシング」などということをするのか?「アーシング」をすることで、何がどう変わり、どういう効果が得られるのか。巷の“謳い文句”は沢山見かけるが、残念ながら私は、「アーシング」に関するまともな理論を見たことがない。施工している人の大多数は、ほとんどが「気分的なもの」でやっていて、その効果を体感したり、シャシ・ダイナモなどの測定器に掛けて定量的に効果を測ったりはしていないだろう。私も所詮はその一人である。
では何故、人々は「アーシング」に駆り立てられるのか。要するに、「アーシング」には“パワーアップ”とか“トルク増大”とかいった、車好き・メカ好きな人には美味しい話の匂いがするからだろう。
高級オーディオや音響の世界では、たった1mの無酸素銅線に何千円も掛けたり、光の反射で読み出す筈のCDを“消磁”してみたり、といった怪しげな処置によって音が変わったとか変わらないとかいう議論をしている向きもある。しかし「いい音」というのは基本的には個人的な好みの問題に帰着されるから、たとえその効果が「気のせい」であっても(金銭的な浪費をいとわなければ)大した罪はない。
ところが、クルマの世界は「いい音」ではなく、絶対的な「パワー」や「トルク」といった測定・数値化できるものの変化(向上)が“効果”の対象である。となれば、そういったチューニングの効果をきちんと検証し、是非を明らかにする事例がもっと沢山出てきてもいいような気がするが、残念ながらそういった例はごく僅かしかないのが現状である。これでは、よくあるテレビ通販などの「商品による効果は、個人差があります」といったエクスキューズと、何ら変わらないではないか。
こういった「アーシング業界」の現状に対して、自動車ジャーナリストの国沢氏のコラムの記事(下の関連URL参照)は「アーシング」の現実を端的に表している。“絶対的な出力の差は無いけれど体感できる”という表現は、恐らく本質を突いたものだと私は思う。つまり、我々が体感する“何か”を、測定する装置あるいは方法が確立されていないのだろう。その“何か”も、もしかしたら施工を希望する人それぞれに期待が異なるのかもしれない。そのために、「効果あり」「いや、効果なし」といった不毛な議論が延々と繰り返されつつ、「どっちでもいいじゃないか、気分がよければ」と割り切りとりあえず施工しておこうという人が大勢現れ、それがある種の流行のようになっているだけ、という気がする。
という訳で、前車に引き続きレガシィも「アーシング」をするかどうかは、実は結構悩んでいた。しかし、我がレガシィを乗り込むうちに、EJ20エンジンが低回転域でもたつく感じがあるのをなんとかしたい、という思いに駆られるようになり、以前に某自動車雑誌の記事で読んだ比較検証記事(アーシングをすると、トルクバンドが低回転側にシフトしたような感じになり、かつ、トルクのピークやトップパワーが数%伸びる、という実証結果だった)を信じて施工を決行することにした。まぁ、いわゆる「ダメもと」のつもりである。
“最小限の費用で最小限の施工を、そして最大限の効果を”をモットーに
パーツを選定し、1時間ほど掛けて、冬空の下、鼻をすすりながら(笑)
作業した。まぁ、気休めだから・・・と大して期待もせずにクルマを動かしたところ・・・・“ん?発進時のアクセル応答が妙に素直になったぞ?”とすぐに感じたのだ!施工以前は、700~1200回転あたりからジワッと加速に入ると(この時のアクセル踏み込み量は、感覚的には5~10mmといったところだろう)1500rpmあたりでモタモタと引っかかりながら回転が上がっていく感じがあったのに、施工後はスルッと2000rpmあたりまで吹き上がって、トルコンへスムーズにパワーが伝わっていく感覚が出てきた。何故?全くもって不思議である。その後も、キツい坂道を時速15kmほどでダラダラと上がってみたり、狭い駐車場内を低速ギリギリのところでコントロールしてみたりしたところ、施工以前より凄く扱いやすい!なんだかビックリな結果であった。
今回は配線を外していないからECUのリセットは掛かっていない筈(車内時計も狂わなかった)だし、クルマはまだ新しいから配線の錆びなどは皆無で、純正オイルも昨日換えたばかりの新品同様である。理屈はよくわからないが、何にせよ期待通りの成果を得たのは結構なことだ。しばらくこの状態で「通常運行」を続け、施工以前との比較をし、この効果が「気のせい」ではないことを確かめてみたい。
Posted at 2008/01/14 22:26:26 | |
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