その1では音の原因ひとつである油膜について説明しました。
その2ではもう一つの要因である被膜と固体について説明します。
エンジンオイルは潤滑剤ですが、この潤滑は二種類あります。
ひとつは油膜による流体潤滑、もう一つは被膜と固体による境界潤滑です。
今回は境界潤滑の説明です。
境界潤滑は被膜やオイル中の固体による潤滑が主になります。
音が静かになる原理はその1の油膜と同じです。
金属と金属の間に皮膜や固体が入り込んで緩衝材として機能する。
使っているうちに添加剤は減っていきエンジン音はうるさくなり振動も増える。
主な被膜(固体)のビッカース硬度は以下の通りです。
・亜鉛 ZnDTP HV100~
・モリブデン 有機モリブデン HV30~
・タングステン 有機タングステン HV200~
・チタン 有機チタン HV500~
・ボロン エステルボロン HV200~
・マグネシウム Mgサリシレート HV100~
・Ca Caサリシレート、Caスルホネート HV1以下
・鉄 HV400~
判りやすく鉄を代表例に挙げましたが、エンジン内で実際に使用する鋼やDLCコートはもっと硬いです。
重要なのは鉄よりも柔らかい固体で境界潤滑をしているかどうか。
もっともメジャーで必須な固体潤滑剤はZnDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)です。
ZnDTPは金属表面に被膜(ポリリン酸亜鉛)を生成してエンジンを保護しますが、適度に硬くて柔らかいのが特徴です。
この柔らかい被膜と言うのがミソで金属同士の緩衝材になります。
つまりポリリン酸亜鉛の被膜によってエンジン音は静かになる。
モリブデンは更に柔らかいのですが、柔らかすぎて耐久性がありません。
柔らかい分静かになるけど効果は継続しない。
タングステンはZnDTPより強い被膜を生成できますが、これは有機タングステンの場合です。
一般的に販売されているタングステンは固体の二硫化タングステンです。
これは何か溶剤に溶かして使用する必要がありますが、被膜は生成出来ません。
二硫化タングステンにせよ二硫化モリブデンにせよ固体粉末のため上手く溶けないリスクがあります。
有機〇〇の場合、アルキル基が付いていてそもそも液体。
透明な液体。高温時の化学反応によってはじめて固体化する。
購入する際にはこの違いは注意してください。
有機チタンはちょっと特殊です。
明らかに他の有機金属体より硬いですが、被膜にならず「穴埋め」程度で済ませるようです。
ここはちょっと調べる必要があるので液化チタンはまた別の機会に。
ボロンやマグネシウムは分散清浄剤として添加されている場合が殆どですが、柔らかいので緩衝材としても機能するようです。
最後にCa(カルシウム)です。
分散清浄剤として機能するCaですが、緩衝材としても優秀なようです。
CaスルホネートもCaサリシレートも固体化せず液体で振る舞うのですが、柔らかい弾性体なので防御力はあるけど耐久力が無いので寿命が短い。(Caスルホネート)
本来の目的は分散清浄剤なのでそっちでも仕事をしなきゃいけない。
SN規格までのエンジンオイルにCaがたっぷり配合されていた理由はこれですね。
特にCaスルホネートは安くて緩衝材としても機能したので重宝していた。
ところが、LSPI対応が必要になってCaスルホネートは殆ど添加されなくなりました。
Caスルホネートは分解する温度が低く、酸化カルシウムや炭酸カルシウムになる。
この酸化物が分解する際に高温になりLSPIの火種になることから低温で分解してしまうCaスルホネートを配合しなくなったようです。(減らした)
Caサリシレートは継続採用。
SP規格品ではCaは凡そ1000ppm前後ですが、SN規格以前だと1500ppm以上、高級オイルだと2000ppmとか配合されていました。
高配合されていたのがCaスルホネートだとすると静穏性への影響はありそうです。
特にMgの添加量が少ない安いSP添加剤ならもろに影響を受けてそうですね。
何となくタペット音がうるさい気がするのは気のせいでは無かったのか。
なるほど、それならトヨタのようにCaの代わりにMoを大量添加した理由も理解出来ます。
LSPIの抑制効果もあるしMoで静穏性も担保出来る。ただし寿命は短い。
純正オイルながら高粘度指数で短寿命ポリマーが添加されているのでそもそもの設計思想がロングドレインでは無いので相性もバッチリ!?
また「昔の方が良かった」懐古主義になってしまいそうですね(笑)
最後に参考資料
それぞれの添加剤が剥がれて酸化物になった場合のビッカース硬度を載せておきます。
後入れ添加剤は効能だけじゃなくて副作用もセットで見るべきです。
シェルやエクソンモービルがモリブデンなどの添加剤を強化しない理由が何となく判っていただけるかと思います。
・酸化亜鉛 HV200~
・三酸化モリブデン HV500~
・三酸化タングステン HV300~
・酸化カルシウム HV100~
・炭酸カルシウム HV100~
・二酸化チタン HV500~
・酸化ホウ素 HV150~
・酸化マグネシウム HV350~
・鉄 HV400~
硬い酸化物になる割合は5~10%程度らしいです。
沢山入れた方が当然リスクは上がります。
Caスルホネートは優秀でしたね。
ボロン(ホウ素)は高いです。
以上被膜と固体添加剤について書いてみましたが、どうでしょうか?
Youtubeでモリブデン添加してエンジンが静かになった!パワーアップした!
という動画のカラクリが理解出来ると思います。
柔らかい二硫化モリブデンを大量添加すれば即効性もあるでしょう。
じゃあ、その後はどうなるか?
大量に入れたモリブデンの一部は三酸化モリブデンになってエンジンを攻撃します。
沢山入れるほど三酸化モリブデンは増えます。
摩耗したエンジンに更にモリブデンを添加して負の連鎖、なんてなりませぬよう…