
みなさんゴキゲンよう!
モータージャーナリストの山田弘樹(やまだ・こうき)です。
千里の道も、一歩から。初心者でもクルマを目一杯楽しんで、最後の最後は「ニュルブルクリンクへ走りに行こう!」というこのコラム。
今回は、スポーツ走行でとっても大切な「ブレーキング」についてのお話です。
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山田弘樹(以下・山田):ちょっと古い話になっちゃうけど、角田(裕毅)選手に会ってきました! ……いや、見てきました(笑)。
編集部TAKASHI(以下・TAKASHI):4月2日にお台場であった
「Red Bull Showrun × Powered by Honda」ですよねッ!?
いいなぁ~。私も行きたかったんですが、その日は別で撮影だったんですよ(涙)。
山田:あのときは角田選手のレッドブル入りが発表された直後のイベントだったんだよね。
TAKASHI:鈴鹿も控えてましたから、本当にワクワクしましたよね!
でもその後はちょっと苦戦が続いていますね……。
山田:色々と歯車が噛み合わないよね…。でも角田選手、応援しています。
私は死ぬまでに、日本人がF1で優勝する姿が見たい!!
TAKASHI:私も表彰台で君が代が流れるのを聞くために、毎戦観ているようなもんです🇯🇵
山田:そんな角田選手がね、自分のスタイルについて語るとき、一番自信があるのは
「ブレーキング」だって言うんだ。
TAKASHI:それ、私も記事でも読んだことあります!
山田:ということで今回は、
ブレーキングについてお話します。
TAKASHI:そこに持っていきましたか!
でも確かに、クルマを走らせる上でブレーキングって、とっても大切ですよね。
山田:そう。まず安全面で言うと、目の前で何か起こったときは、まずブレーキを踏む。いまはほとんどのクルマにABSが付いているから、タイヤのロックよりも強いブレーキ踏力を与えることが先決。
つまりどんなときでも、何かあったら思い切りブレーキを踏めるように、正しいシートポジションを取ったり、そういうときの心構えを持っていることが大切です。ガチガチに構える必要はないけど、リラックスしながらも、そういう事態を想定して運転することが大事だね。
TAKASHI:でも赤パン(山田所有の赤いパンダ・トレノ AE86)、ABS付いてないですよね?👀
撮影:市健治
山田:またそういうこと言う~。
だからそういうときでも、ロックしないように心がけてるよ。
TAKASHI:おおぉ……普段からサーキットを走っている成果ですね!?
山田:そんなこと言ったら、F1にだってABSは付いてないよ?
身近なところで言うとジュニアフォーミュラにも付いてない。あとGT500マシンにも付いてないな。
ポルシェ911 カレラカップも海外だと、ABSないみたいだね。
TAKASHI:確かにッ! そう考えると角田選手が
「ブレーキングが得意」だと言えるのって、すごいことなんですね。5Gを超える世界でタイヤをロックさせずに、フルブレーキングできるんですね。
山田:逆を言えばロックさせられる踏力もすごいし、そこからのコントロール能力も優れているんだと思う。
TAKASHI:私カートですらブレーキング難しいと思っちゃうのに……。
ところでなんで最新のレーシングカーなのに、ABS付けないんですか?
山田:それは、運転技術を競うのがレースだからでしょう。マシンの速さも大切だけど、速いマシンを人間が操ることが、すごいわけです。
TAKASHI:最近はAIで自律走行するスーパーフォーミュラなんかも走り出しましたけど、やっぱりそうですよね。だからレーシングドライバーに憧れるんですもんね。
山田:そこで今日の本題ですが、
ブレーキングがうまいと、どうして速く走れたり、うまく走れるのでしょう……かっ!?
TAKASHI:短い時間で減速できるから、より奥まで突っ込めるようになって、タイムが早くなります!
山田:あとは?
TAKASHI:あとは……フロントタイヤに荷重を掛けられるようになるから、コーナーが速くなります!
山田:おっ、いいね。もうイッチョ!
TAKASHI:えっ…あ~。えーとー。
山田:ブレーキの仕事は、まず車速を止めること。
TAKASHI:はい。
山田:そして、クルマの姿勢を作ることなんだ。
TAKASHI:クルマの姿勢? コーナーに入るときのですか?
山田:そう。それを
「ターンイン」って言います。減速してから、ターンインにかけての姿勢を作るために、ブレーキとサスペンションが重要になります。
たとえばすごく曲がりにくいクルマがあるとするよね? そしたら減速したあと、タイヤに掛かった荷重を乗せ続けるために、ブレーキを徐々に離してハンドルを切って行く。
さっきTAKASHI君が言ってた
「フロント荷重」だね。そうすることでタイヤはグリップ力を発揮してくれるから、カーブで曲がりやすくなります。
ではもし、減速を終えたあとブレーキを、ポーンと離してしまったら?
TAKASHI:フロント荷重が抜けて、曲がらなくなる!
山田:そう。いわゆる
「アンダーステア」の状態だね。
一般的なクルマは安全のために、アンダーステアが基本。だからサーキットで走らせるときは、フロント荷重を意識して運転します。
じゃあ逆に、曲がり過ぎちゃうクルマだったら?
TAKASHI:ブレーキは残せないですね。スピンしちゃうかも(汗。
山田:だよね。減速したあと、クルマの姿勢を整えてターンインする。
「ブレーキを残す」って言い方はドライビングテクニックとして割とポピュラーな表現だけど、きちんと言うとブレーキでクルマの姿勢を調整するんだ。リアタイヤにも必要な荷重をキープできたら、スピンしにくいよね?
TAKASHI:なるほど! 大切なのは前後のバランスなんですね。
山田:そう。そしてサスペンションのスプリングを硬くしたり、ダンパーの縮み方や伸び方を調整するのも、クルマの姿勢を作るため。足周りとブレーキでクルマの姿勢、つまり挙動をコントロールするんだね。
TAKASHI:ちょっと難しい(汗。
山田:そこは徐々にわかって行けばいいよ。
つまりブレーキって、止めるだけじゃなくて運転しやすくするための装置でもある。それを知っておくと、スポーツドライビングの幅はぐんと広がるんだ。
だからブレーキは、まず扱いやすいことが大切。きちんと踏み込めて、抜いて行くときのコントロールがしやすいことが求められます。
TAKASHI:速く走らせるには
ガッツリ効いて熱に強いブレーキパッドが必要なのかと思ってました。
山田:グリップの高いタイヤを履いたら、それだけ止めるチカラも必要になるから、効くブレーキが欲しくなる。でもそのとき、コントロール性が悪かったら姿勢が作りにくいでしょ?
純正のブレーキパッドみたいに扱いやすくて、フェードしないパッドがあれば一番いいよね。
写真:トヨタ自動車
TAKASHI:つまり、純正のブレーキパッドはとてもいいバランスなんですね。
山田:そういうこと。むしろ普段の運転では、サスペンションやクルマの動きを体で感じることができると思うよ。
とっさのときは別にして、
ガツーン! と乱暴に踏むことばかりがスポーツドライビングじゃない。
TAKASHI:それ、ロードスターだとよく感じます!
山田:だよね。アクセルを踏んだり緩めたりするのも、実は一緒。4つのタイヤにどういう風に荷重を乗せていくか、そこからハンドルを切って、どうやってアクセルを踏んで行くか。クルマとタイヤの動き方を感じながら運転するんだ。
写真:マツダ
別に速く走らせなくても、そうやってクルマと対話すれば、運転はすごく楽しくなるんだ。その一番速度域が高いのが、サーキットという話。
TAKASHI:とってもよくわかります! あぁ、ロードスター乗りたくなってきた。
ちょっと走りに行ってきまーす!
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山田弘樹(やまだ こうき)モータージャーナリスト
自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦。
こうした経験を活かし、現在はモータージャーナリストとして執筆活動中。愛車は86年式のAE86(通称ハチロク)と、95年式の911カレラ(Type993)。
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。