
編集部TAKASHI(以下・TAKASHI):突然ですけど山田さん!「うまくなれるクルマ」と「速いクルマ」って、どっちを先に買ったらいいですか!?
山田弘樹(以下・山田):いきなり突然だね! どうしたの?
TAKASHI:後輩にたずねられちゃって。自分はNDロードスターに乗ってるから「こういうクルマで腕磨いてからでいーんじゃない?」って言ったんですけど、「速くてカッコいいクルマに乗ってみたい!」っていうわけです。
マツダ ロードスター(ND型/画像:マツダ)
山田:なるほど。たしかにここ数年、魅力的なスポーツカーがたくさん登場しているもんね。
TAKASHI:「GRヤリス」とか「GRカローラ」とか、「シビック タイプR」とか「フェアレディZ」とか。ノーマルでもサーキットが走れちゃうクルマもあるし、「そういうクルマで練習した方が早くないですか?」っていうわけですよ。
トヨタ GRヤリス(画像:トヨタ自動車)
山田:いわゆる“タイパ”だね(笑)。
運転がうまくなれるクルマに乗って、腕を磨いて行くお金と時間があるなら、早く憧れのクルマを買っちゃった方がいいんじゃないか? ってわけね? 永遠のテーマだねぇ(笑)。
TAKASHI:そんなこと言ってないで、アドバイスくださいよぉ。
山田:そんなの決まってるじゃん。「うまくなるためのクルマ」だよ。「ちょっとサーキット走ってみたい」ってくらいならそれでもいいけど、憧れのクルマをうまく走らせたいなら、最初は安いクルマでガンガン走って練習した方が良い。
TAKASHI: でも、それだとほんとに時間掛かり過ぎちゃいませんか?
山田:自分だってそうおもってないくせに。
TAKASHI:たはは。ボクは自分はまず走ることが好きだったから、ランニングコストが安いNDロードスターを選びました。
山田:それでも十分ぜいたくだと思うけどね(笑)。自分がいま若かったら、たぶんNBロードスターを60万くらいで買って乗るなぁ。
この前峠でIカメラマンのNBロードスター(1.6 5MT)に乗ったんだけど、これが抜群にいいのよ。エンジンはもちろん足周りもノーマルなんだけど、あとはほんとトルセンLSD入れるだけで十分だと思った。
マツダ ロードスター(NB型/画像:マツダ)
TAKASHI:でも、さすがに古くないですか?
山田:あっ、ボロいって思ったでしょ? I君に言ってやろ。
TAKASHI:そういう意味じゃなくて! メンテナンスも大変そうかなぁ……って。
山田:古い中古車という点ではそうだけど、スポーツカーとしての魅力はまったく失われていないよ。
そして、直しながらクルマを覚えて行くことができる。愛着わくよ!
TAKASHI:山田さんがハチロクを選んだのも、そういうことですよね?
山田さんのAE86
山田:自分はまさに、うまくなりたかったから。というか学生時代はまーったくお金がなかったから、後輪駆動だとそれしか選べなかったの。それでも自分にとっては宝物だったから、すごく大切にしたよ。
アチコチぶつけながら、とにかくガンガンに走ってた友達も沢山いたけどね。
TAKASHI:憧れのクルマを買って、大切にしながら徐々に腕を磨いて行くのは、ダメですか?
山田:その「徐々に」ってのがクセモノなんだよね。高価なクルマだとサーキットに行っても、どこか遠慮しちゃうでしょ?
TAKASHI:ボクもサーキット試乗会に行くと、そうなります(汗)
トヨタ GRヤリス(画像:トヨタ自動車)
山田:そしてきっと、憧れのクルマって高性能でしょ? となるとタイヤ代もガソリン代もかかるし、ターボだったら熱対策したくなるし、高性能なパーツも付けてみたくなっちゃうでしょ?
TAKASHI:自分がGRヤリス買ったら、マフラー換えてみたいなぁ。ブーストアップとかしてみたいし、ホイール、サスペンション、ブレーキ……。
山田:それでクルマがどんどん速くなったら、さらに腕が追いつかなくなっちゃうよね?
TAKASHI:その通りでございます。やっぱりお金も速さも、まずは等身大のスポーツカーで走るのがいいですね。
山田:そこで注意したいのは、サーキットでタイムを出すことじゃないってこと。
TAKASHI:といいますと?
山田:目的は、うまくなることでしょ? まずは思い切りブレーキ踏んだり、アクセルコントロールしてみたり、クルマを思い通りに動かすことを目的にするわけじゃん?
でも友達とか知り合いとサーキット行くとさ、必ず「何秒出た?」ってなる。うまくなることよりタイムが出ることが重要になっちゃいがちなんだよね。速いとみんな褒めてくれるし(笑)。
TAKASHI:わかります。だからボクもNDロードスターにしたんですけど、やっぱり先輩と筑波に行ったりすると、最後はタイムの話になっちゃいます。
山田:ラップタイムを上げるのと、うまく走れるようになるのと、両方バランスよく楽しむのが理想的だよね。
TAKASHI:あとお勧めは何かありますか?
山田:テッパンだけどスイスポね。ZC33型じゃなくていいんだよ。ターボよりNAの方がお金掛からないんだから。
スズキ スイフトスポーツ(ZC32S型/画像:スズキ)
TAKASHI:後輪駆動じゃなくてもいいんですか?
山田:本当は後輪駆動の方が挙動を学びやすいんだけど、クルマで走ることを学ぶという意味だと、スイスポはアリだと思う。きちんと真っ直ぐ走るなら、ブツけてたっていいくらい。
ほら(スマホでカーセンサーをチェック)、二代目のZC31S型なら、30万円台からあるよ? マフラー換えると、結構気持ちいい音するんだよなぁ。
スズキ スイフトスポーツ(ZC31S型/画像:スズキ)
TAKASHI:やっぱマニュアルじゃないとダメですか?
山田:いまどきのATならレスポンスいいんだけどね。昔のATだったら、MTの方がパワーを引き出しやすいな。ほら、少ないパワーを余すところなく使いたいわけじゃん?
TAKASHI:ですよね。あとはやっぱり、トヨタ「86」ですか?
山田:テッパンだけど、やっぱりちょっと高いかなぁ。買うなら“ズンロク”。
TAKASHI:ずっ、ズンロク? なんですかそれ?
山田:てへへ。ワタシも最近、レーシングドライバーの若い子に教えてもらったんだ。ZN6型(初代)だから“ズンロク”。
トヨタ 86(ZN6型/画像:トヨタ自動車)
TAKASHI:となるとZN8(現行)は“ズンパチ”?
トヨタ GR86(ZN8型/画像:トヨタ自動車)
山田:そーそー、そーなのよ。ただズンロク・ズンパチ買うと(笑)、足周りやって18インチタイヤつけて……ってどうしてもパーツ代が高い方に、目がいっちゃうから気をつけてね。そしてこれがNBロードスターだと、パワーが喰われちゃうから太いタイヤいらないってなる(笑)。
うん、やっぱロードスターだな。余裕があってズンロク買えちゃったら、16インチタイヤでがんばる! 純正サイズでタイヤの銘柄を変えて行くのも面白いよ。
TAKASHI:チューニングの順番は?
山田:ズンロクにしろNBにしろ、純正のトルセンLSD入れて、あとはオイル交換やパッド交換といった、基本的なメニューをきちんとすること。
TAKASHI:車高調とか入れないでいいんですか?
山田:最初はいらないよー。その余裕があるならスポーツシートとか、シートベルトとか。運転しやすい環境をまずは整えるのが先だと思うな。
そして沢山走って、オイル換える!
TAKASHI:なんだかこういう話を聞くと、燃えてきますねッ! 次はズンロク買おうかな!!
山田:いや、あなたNDロードスター持ってるでしょ。
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山田弘樹(やまだ こうき)モータージャーナリスト
自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦。
こうした経験を活かし、現在はモータージャーナリストとして執筆活動中。愛車は86年式のAE86(通称ハチロク)と、95年式の911カレラ(Type993)。
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。