みなさんゴキゲンよう!
モータージャーナリストの山田弘樹(やまだ・こうき)です。
千里の道も、一歩から。初心者でもクルマを目一杯楽しんで、最後の最後は「ニュルブルクリンクへ走りに行こう!」というこのコラム。
今回は、
先月の話の続きで
「HANS」についてお話します。
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みんカラスタッフTAKASHI(以下:TAKASHI):というわけで山田さん、先月のヘルメットのお話の続きで、今月は
「HANS(ハンス)」について教えてください。
山田弘樹(以下:山田):
「Head & Neck Support(頭部前傾抑制装置)」だね。
ちなみに「HANS」というのは開発企業の商標なので、現在は
「FHR(Frontal Head Restraint systems)システム(頭部及び頸部の保護装置)」なんて言ったりするんだけど、ここでは便宜上HANSって呼ぶね。
簡単にいうと、HANSデバイスに付いているテザーという細くて強いベルトをヘルメットに固定して、HANSデバイスをシートベルトで固定します。そうするとクルマがぶつかったときの衝撃で、首が伸びるのが防げます。
TAKASHI:首が伸びるのを防ぐと、脊椎の損傷を防ぐことができるというわけですね?
山田:その通り。ところでTAKASHI君は、なんでHANSなんて買ったの?
TAKASHI:
メディア4耐*に出るためです!
メディア4耐(メディア対抗ロードスター4時間耐久レース):クルマの走る楽しさを伝えるべく、普段は取材する側のメディア自らチームを組み挑む4時間の耐久レース。ドライバーも、各媒体に関わるジャーナリストや編集者がレーシングスーツを身にまとい、レース仕様に改造されたマツダ ロードスターを操る。初代ロードスターが発売された1989年から毎年1回のペースで開催され、今大会で34回目を迎える国内屈指の伝統レース。
山田弘樹:なるほど、4耐もJAF公認レースだからね。
TAKASHI:これもなかなか痛い出費だったなぁ…。苦笑
山田:いやいや、
クラッシュして脊椎損傷したら、懐が痛いどころじゃ済まないよ?
それにボクが最初に買ったときなんかは、ドライカーボン製とセミカーボン製しかなくて、安い方で18万円くらいしたんだから。まだ当時は日本に導入されたばかりで、値引きなんてしてビタ一文もしてもらえなかった。
いまはもっとリーズナブルに手に入るし、ぜひ
ヘルメットと同じプライオリティで手に入れて欲しいよ。
TAKASHI:うーん、仰ることは理解できるんですけど、普通の人には敷居が高くないですか……?
値段もそうですし、
「レーサーでもないのにHANSなんかしたら恥ずかしくないかな……」って。
山田:それは「していて良かった!」って思ったことがないからだよ。いや、ないならそれに越したことはないんだけどね。
写真:トヨタ自動車
TAKASHI:山田さんは実際にHANSの恩恵を受けたことがあるんですか?
山田:少なくとも、二度はある。
TAKASHI:ひえぇ(汗。それってクラッシュしたということですよね……!?
山田:そうだね。
TAKASHI:クルマが壊れてしまうだけでショックなのに……。
山田:そのうえ首まで痛めたら、泣きっ面に蜂ですよ。
TAKASHI:そうなったらいっそ普段の運転でもHANSが欲しいくらいですね。実際にはヘルメットかぶらないし、4点式シートベルトもしていないから無理ですけど。
山田:だから市販車はエアバッグがあるんだ。
TAKASHI:そっか…。あれ?だったら
サーキットもエアバッグがあるからいいんじゃないですか?
山田:サーキットは公道よりも、
遙かにクルマに掛かるGが高いでしょ? その場合、
縁石に乗り上げたりコースアウトした衝撃で開いてしまう可能性があるんだ。
TAKASHI:クラッシュしていないのに開いてしまうわけですね?
山田:そう。そして万が一のクラッシュでエアバッグが開いたら、修理するのにもお金がかかる。
TAKASHI:助手席なんかインパネ交換とか大変そうですよね(汗。
山田:うん。だったらエアバッグをキャンセルして、きちんと4点式以上のシートベルトで体を固定した方が、結局はコストも掛からないんだ。
TAKASHI:そしてせっかくフルハーネスを着けているなら、HANSも着けた方がいいと。
山田:そういうこと。
TAKASHI:ただ助手席側のエアバッグは解除できるものが多いけど、運転席側はどうしたらいいんでしょう?
山田:そこは自分のクルマがどうなっているか、まずきちんとディーラーに確認して欲しいところ。そういう意味でもサーキットを走るなら、スポーツ走行に適したクルマがいいんだよね。
TAKASHI:ディーラーも、サーキット走行を理解してくれていますしね。
山田:そして何より、
走り終わったらきちんと元に戻すこと!
TAKASHI:おうちに帰るまでがモータースポーツですね!
なるほどー。となるとまずは、4点式シートベルトかもしれないなぁ。
山田:確かにね。ただそうなると、4点式ベルトが正しく装着できるスポーツシートも欲しくなってしまうんだけどね。
TAKASHI:最近は純正でショルダー部分に穴が空いたシートを装着している車もありますよね。
山田:シビックタイプRとか、わかってるな! って思うよね。
写真:本田技研工業
話を戻すと、サーキット走行用にエアバッグなしのハンドルを付けているドライバーなんかは、そこまでやるならシートも変わっているだろうし、めんどくさがらずなるべくHANSを付けて欲しい。
TAKASHI:ちなみにHANSを買うとしたら、どういう基準で選べばいいですか?
山田:そりゃあ少しでも軽くしたいのがレースであり、モータースポーツですからカーボン製に越したことはない。でもね、身につけてシートベルトで固定してしまえば重さなんてわからないです。カーボン地なんて、見えません。
カーボン製が高くて二の足踏んでるくらいなら、
安価なFRP製でいい。オイル代やガソリン代、タイヤ代やブレーキパッドなどの消耗品とか、他にお金が掛かるところは沢山あるわけだし。
TAKASHI:確かにHANSを付けるにはヘルメットアンカーも必要だし、シートベルトだってフルハーネスにしないといけないですもんね。
山田:ハーネスはなるべく5点式以上がいい。衝撃で体が潜り込んでしまうのを防げるし、HANSもより効果が高まる。
TAKASHI:股下ベルト付けると、
万が一のときに男子は大事な部分が危なくないですか?(笑)
山田:万が一の事故で半身不随になってしまうのと、どっちがいい?
TAKASHI:ううう……。
山田:というのは冗談にしても、心配なら股下がふたつに割れているタイプもあるよ。
TAKASHI:やっぱりモータースポーツはお金が掛かるなぁ。
山田:それは否定しないよ。でも
自分の安全を守るためにお金を掛けるのは大切なことだと思う。ボクはやったことないけど本格的な山登りだって、きっとそうでしょ?
TAKASHI:そうなんですけどアマチュアとしては、もうちょっと緩い、
ハイキングみたいなのがあればいいと思うんですよね。
山田:それは正直、ボクも思うよ。ニュルブルクリンクなんかは、まさにそうだよね。
TAKASHI:ニュルがですか!?
山田:ボクが一般開放の枠で走ったとき、撮影用にレーシングスーツとヘルメットとHANSを付けてゲートに行ったら、
「それ(HANS)は取れ」って言われた。
TAKASHI:どういうことですか?
山田:
「これはレースじゃないよ、本気で飛ばすなよ」ということを暗に言いたかったんだろうね。
でも本気で走ってるヤツ、いっぱいいたけど(笑)。
写真:トヨタ自動車
TAKASHI:ルールとモラルと、自己責任のバランスがあるんですね。
山田:クルマで走ることがきちんと文化として、成熟しているんだろうね。赤旗が出るくらいすごい事故が起きても、コースがクリーンになれば何事もなかったかのように再開するもんね。
日本でも、ニュルほどスピードレンジが高くなくていいから、そういう場所があればいいのにね。そうしたらサーキットが次のステップになって、モータースポーツへの道が出来ると思うんだよな。
TAKASHI:なるほど。やっぱり、ニュルに行ってみたいなぁ!
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山田弘樹(やまだ こうき)モータージャーナリスト
自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦。
こうした経験を活かし、現在はモータージャーナリストとして執筆活動中。愛車は86年式のAE86(通称ハチロク)と、95年式の911カレラ(Type993)。
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。