みなさんゴキゲンよう!
モータージャーナリストの山田弘樹(やまだ・こうき)です。
千里の道も、一歩から。初心者でもクルマを目一杯楽しんで、最後の最後は「ニュルブルクリンクへ走りに行こう!」というこのコラム。
今回は、スポーツ走行時の命綱、「電子制御」のお話です。
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編集部TAKASHI(以下・TAKASHI):今年の4耐(メディア対抗ロードスター4時間耐久レース)も、白熱しましたね!
山田弘樹(以下・山田):去年は3位だったよね。今年はハンディ、厳しかった? TAKASHI君、活躍できたかな?
TAKASHI:今年は14位でやっぱりハンディが辛かったですね……。レース自体は楽しかったのですが、今年は練習する時間があまり確保できなかったんですよね……。
山田:そんなTAKASHI君を横目に私は4耐のちょっと前に
「マツ耐」(※)に出てきたのですよ。
※マツダファン・エンデュランス(通称:マツ耐)とは :
世界最高峰の自動車耐久レースであるル・マン24時間レースで、日本の自動車メーカーとして初めての優勝を成し遂げたマツダ。そのスピリッツを受け継ぎ開発されるマツダ車のユーザーにこそ耐久レースの魅力を肌に感じてもらいたい、という考えのもと企画された参加型サーキットイベントが「マツダファン・エンデュランス(通称:マツ耐)」です。
幅広いマツダ車ユーザーが参加できるよう、兄弟イベントであるマツダファン・サーキットトライアルと車両規定を共通化し、ロールケージやフルハーネスシートベルトも不要で、普段使用しているお車のままで参加できます。さらに、RX-8やロードスターを始め、MAZDA2(デミオ)、MAZDA3(アクセラ)などの車種別に加え、改造範囲に応じてクラスも分かれています。
※マツダファン・エンデュランスオフィシャルページより(https://endurance.mazda-fan.com/index.html)
参加したのは第4戦茨城ラウンド。走らせたのはロードスターDSC-TRACK チームのマシンで、マツダの開発車両00号。ちなみに幌を閉めて走っているのはマツ耐でクーラーオンを義務づけているから。
TAKASHI:あっ、ずるい! コソ練じゃないですか!笑
山田:いやいや、これは
きちんとしたお仕事です。マイナーチェンジ後のロードスターに搭載される、
「DSC-TRACK」を体験してきたんだ。
TAKASHI:それ、
山田さんのGAZOOのコラムで読みました!
山田:ありがとう!
TAKASHI:ところでロードスター、一時期受け付け終了で色々なうわさが出ましたけど、無事にマイナーチェンジするんですね。マイチェン前のオーナーとしても、ロードスターの継続は嬉しい限りです。
山田:うん。あれは単純にマイチェンを控えたタイミングで、先代モデルの在庫が売り切れてしまっただけみたいだよ。
あとマイチェンモデルには、このDSC-TRACK以外にも嬉しい装備も加わるとかなんとか……。
肝心のレースは賞典外で予選11番手、決勝7位相当でした。
TAKASHI:マイチェン内容も気になりますが……それは置いておいて「DSC-TRACK」ですけど、私もこれいいなぁ! って思いました。確かに今までのDSCはサーキットだと、ちょっと介入が早過ぎて……。
山田:DSCの目的はあくまで公道での安全性を高めることだから、サーキットだとそうなってしまうのは、仕方が無いんだけどね。
TAKASHI:
「クルマの向きが変わってきたぞ」って思うところで
ブレーキがかかったり、立ち上がりで
アクセルを踏み込み過ぎるとパワーが絞られちゃったりして。
山田:でも最初の頃は、
完全オフにするの怖かったでしょ?
TAKASHI:そーなんですよ。むしろ未だに怖いです……。ただ山田さんも記事で書いていましたけど、サーキットだとやっぱり先輩から
「DSCオフにしないとタイムなんて出ないよ」って言われて、恐る恐る切りました……。
山田:わかる、なんか
根性出す感じだよね。
アマチュアには、そこに高い壁があるかもしれない。ボクなんかは完全に根性世代だけど、そういうの、もう古い。
運転するとき必要以上に緊張するとさ、体がこわばってしまうんだ。肩や手にチカラが入ってしまうから、操作も雑になったり、直線的になる。
TAKASHI:余計に自分で挙動を乱してしまうわけですね?
山田:そう。でもDSC-TRACKはいざというときに助けてくれるから、その緊張感を和らげられるよね。
TAKASHI:こうしたモードって他のスポーツカーにもありますけど、ロードスターの場合は何か制御が違うんですか?
山田:ひとことで言うとね、
ロードスターのはかなり本格派。
危ないときには助けてくれるけれど、
それ以外は何もしてくれない(笑)。
TAKASHI:どういうことですか?
山田:スーパースポーツに多いんだけど、いまのトラックモードって実は、
ドライバーの技術も補ってくれちゃってる場合が多いんだ。
ある程度オーバーステアを許容しているから自分でコントロールしている気分になっちゃうけど、実は
クルマ側でパワーをうまく調整していたり。あとは
アンダーステアも、巧妙に消してしまったり。
TAKASHI:自分がうまくなっちゃったような気持ちになるわけですね?
山田:そうそう。そのうち
ドリフトができちゃう制御も一般化しちゃうかもしれない。そのくらい、賢いんだよ。
かたやトラックモードとはいいつつ、制御がコンサバだったりするのもある。その気持ちも、わかるんだけどね。
TAKASHI:ロードスターのDSC-TRACK制御は?
山田:ドライバーがもはや
コントロールできないくらい挙動が発散したときだけ、助けてくれるんだ。正確に言うとクルマ側でそれを予測している。
だからフロント荷重を増やしてクルマを曲げて行く練習もできるし、ターンミドルでのアクセルのバランスのさせ方とか、クリップからのアクセルの踏み方も勉強できる。
TAKASHI:
砂子塾でやった練習ですね!
じゃあ運転していると、オーバーステアも出るわけですね?
山田:出る出る。7月末の筑波は恐ろしい猛暑で、路面温度がピーク時で70度越えだったから、ターンインなんかは、結構ずっと滑ってた。こんなに滑ってて制御入らないでいいのかな? って思ったよ。
そしたら
「それでいいんです」って開発者に言われた(笑)。
当日はボッシュの計器を積んでの参戦。実戦で最終チェック。
TAKASHI:コントロールできているうちは、たとえオーバーステアが出ていても、制御が入らないと。
そして、アンダーステアも出るわけですね?
山田:もちろん。それは
「アンダーステアは、ドライバーが出さないように努力するもの」、という考え方だね。そこを補正してしまったら、うまくなれないでしょ?
TAKASHI:なるほど。すごくマニアックですけど、それなら徐々に限界を高めて行けそうですね!
うーん、私もマイナーチェンジ後のNDが欲しくなってきましたよ。やっぱりロードスターは運転の練習には最高の相棒ですね。
山田:当日テントにやってきたNDオーナーさんも
「自分、次が出たら買います!」って言ってたよ。かなりベテランの方だったけど、制御のロジックに共感してくれたみたい。
マイナーチェンジしたNDは確かに魅力的だけど、乗り換えが進めば中古も増えるしね。全体として見ると好循環だと思うよ。
当日はボッシュと一緒にテントを出してDSC-TRACKについて聞きに来るオーナーにも応対しました。
TAKASHI:実際に制御が働いたときは、どういう感じなんですか?
山田:正直なこというと、
あまりわからないんだ。制御が入らなかったから。
TAKASHI:コントロールできていた、と(笑)。
山田:一回、予選のシミュレーションでツッコミ過ぎたときに、わざとアクセルを踏んでドリフト状態にしてみたけど、アングルが大きくなったときにブレーキで抑えてくれたかな。
ただその制御も、とてもマイルドだった。ボッシュと開発したABSのブレーキ液圧制御が、かなり進化したみたい。
TAKASHI:実際DSC-TRACKをオンにして走って、タイムはどうなるんですか? 遅くなる? それとも速くなる?
山田:走った印象で言うと、
タイムは落ちないと思う。
なぜならタイムが出る一番オイシイ領域では、どちらにしろ制御が入らないから。そして制御が働くときは、オイシイ領域を外れているからタイムアップにも貢献しない。
ただ雨のレースでは有効だろうね。あと寒いときも、いち早くタイヤを暖められるかもしれない。
TAKASHI:その差がどう現れてしまうのかは注目ですね。あー、私もパーティレース出たくなってきました!
山田:そしたらロールケージ、着けちゃいますか!
TAKASHI:それも、真剣に考えているんですよねぇ。でも嫁氏という最大のハードルが……(苦笑)。
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山田弘樹(やまだ こうき)モータージャーナリスト
自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦。
こうした経験を活かし、現在はモータージャーナリストとして執筆活動中。愛車は86年式のAE86(通称ハチロク)と、95年式の911カレラ(Type993)。
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。