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2011年02月19日 イイね!

【要注意】超長い転載文なので、車の燃費に興味のある人だけ見てください。③

ウェブサイト「JBpress」より転載。
(http://jbpress.ismedia.jp/)



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世界から取り残されていく日本の「エコカー」
「日本車は燃費、品質がいい」はもはや幻想
2010.09.28(Tue) 両角 岳彦


前回は、日本車メーカーがモード試験対応策に特化した「お受験テクニック」によって自分たちが送り出すクルマの公称燃費を向上させてきてはいるが、現実の道路を一般の人々が走らせた時の「リアルな」燃費は決して向上しているわけではないことを、マクロデータの分析を基本にお伝えした。

 今回は、まず私自身が測った「実用燃費」から、そうしたクルマたちの「実力」を紹介し、さらに広く世界に目を向けながら、本来あるべき「エコカー」の姿について考えてみたい。

 日本の自動車メーカーが「お受験」に特化し(それは燃費だけでなく、公的に評価されてデータが公開される「性能」のほとんどに対してだが)、リアルワールドで自分たちの製品の実力と資質を磨くことを怠っている間も、世界の自動車社会と自動車技術をリードする常に意識している欧米の自動車メーカーは、そのプロダクトを刻々と進化させている。

 こと「燃費」に限っても、「CO2削減」を社会全体の目標として掲げ、具体的な改善を実現すべく取り組む欧州のクルマたちの実力は、確実に、そして大幅に上がってきている。それも彼らがクルマと生活する現場で、一番多く使うような走行パターンの燃費がちゃんと伸びる。

 ドライバーにとって「クルマを操る」実感も、燃費を重視した反動で薄れるどころか、むしろ力の細かなコントロールがしやすく、走らせやすいものも増えている。

 実は、この「運転のしやすさ」こそ、様々なドライバーが、様々な状況でクルマを走らせた時に、燃料消費が極端に増えないための重要な資質なのだが、やはりそれに気がついている日本の技術者、研究者は少ない。

国産車の10-15モード燃費は現実の燃費の指針にならない
 一例として、ここ1年ほどの間に行われた新車試乗会の現場で、私が運転し、燃費を確認した結果を紹介しよう。燃費は、各クルマの計器盤にある区間燃費計で確認した。

 いずれも試乗したのは、横浜周辺の同じコース。平均速度も時速30キロ強、というところでほぼそろっている。もちろん私の運転もほぼ同じパターン、かつ、それぞれのクルマでできるだけ燃費が良くなるように走らせている。

 ただし、車両の計器表示の「較正」はしていないので、その分のばらつきは残る。ちなみに日本車は数%~10%ほど甘い(良い)数値が出るものがほとんど。ドイツ車はほぼ正確、というのが最近の経験則だ。

 この私的評価コースで、日産自動車「マーチ」が「15キロメートル/リットル」(10-15モード燃費は「26キロメートル/リットル」)。ハイブリッド動力のホンダ「CR-Z」がCVT仕様、6速マニュアルトランスミッション仕様ともに「17キロメートル/リットル」(10-15モード燃費はCVT仕様が「25キロメートル/リットル」、6速MT仕様が「22.5キロ/リットル」)だった。

 CR-Zの場合、アクセルの踏み方を少し雑にするだけでCVT仕様の方が燃費の悪化が極端に表れる。中高速で巡航を続けられる状況ではMT仕様の方が10%かそれ以上良い。これはベルトなどで連続変速ができるトランスミッションであるCVTと、歯車式変速機の特性に関する一般論としても通用する。つまり、「CVTはモード燃費は良くなるが、実用燃費は悪化しやすい」「特に巡航燃費は本来よくない」ということだ。力と回転を伝える機械としての効率そのものが低いためである。

 対して、フォルクスワーゲン「ゴルフ・トレンドライン」、新しい1.2リットル過給エンジンと7速デュアル・クラッチ・トランスミッションを搭載した仕様が「17キロメートル/リットル」(10-15モード燃費は「17キロメートル/リットル」)。同じく「ポロ」の1.4リットル自然吸気エンジンを積んだ仕様(現在は1.2リットル過給エンジンに変更)がやはり「17キロメートル/リットル」(10-15モード燃費は「17キロメートル/リットル」)。

 様々なクルマの実力を比較しようとした時、10-15モード燃費が現実の燃費の指針にはならないことが、このわずかな例からでも明らかだ。

 そしてもう1つ付け加えておくなら、日本車はいずれもアイドリングストップ機能を備え、試乗の際もそれが働いていた。一方、フォルクスワーゲンの2車はまだアイドリングストップ機能を装備していなかった(今後は、各車種のフルモデルチェンジのタイミングで、減速時発電によるエネルギー回収システムと共に導入する予定)。

 さらに付け加えるなら、欧米のクルマは「転がり抵抗」を極限まで削った特殊なタイヤを装着しているわけでもない。日本車で「燃費トップランナー」を目指すようなクルマたちは、転がりは良いけれども、濡れた路面などではグリップが落ち、普通に走る中でも接地感や舵の手応えが希薄な、資質の偏ったタイヤを専用開発して装着するのが「定石」である。

 大型重量級の乗用車でもBMW「528i」が高速道路巡航なら「14~16キロメートル/リットル」。ブランド志向4ドアセダンとして同じようなポジションを狙っているトヨタ「レクサスGS」のハイブリッド仕様「GS450h」は同様の高速巡航で「13~14キロメートル/リットル」だった(こちらは距離と燃料消費量の数値を「較正」した結果の数値)。

 ちなみに10-15モード燃費は、528iが「10.4キロメートル/リットル」、GS450hは「14.2キロメートル/リットル」。大量の電池、電気モーターとその制御システムなどを抱えて重量がかさむハイブリッド車にとって、高速巡航は得意種目ではないのだけれども。

日本の道路で実際に測ってみた実用燃費の「上限ライン」
 ここで、私自身が日本の道路を実際に走って測った「実走燃費」の一例を紹介しておこう(図1)。

 燃料消費量は給油量と照合し、走行距離もクルマのトリップメーター(距離計)の誤差を修正してある。前述の大都市圏試乗コースでのデータは、あくまで車両の表示値を読み取っただけで、この距離と給油量の「較正」をしていないので、グラフの中にはプロットしていない。

 同時に各車のモード燃費もプロットしてある。10-15モードは平均速度が時速22.7キロメートル、JC08モードは平均速度が時速24キロメートルなので、それぞれのライン上に縦に並んでいる。これを見ただけでも、モード燃費に特化した日本車の公表値が、現実とはかけ離れていることは一目瞭然だ。

 ちなみに、どのくらいの燃費で走るか、その良し悪しを論議する時には、最低でもこのグラフのように「ある区間を走った平均速度」を基準に考える必要がある。

国産車の中ではトップを走るプリウスだが
 こうして見ると、さすがに燃費のジャンルでトップランナーとなることを最大の目標に掲げた現行プリウスは、そのモード燃費の値が非現実的なのは別にして、どの速度域でも全体のトップかそれに近い燃費をマークしている。

 しかし「傑出している」とも言い難い。平均速度が時速20キロメートル以下のゾーンは、アイドリングストップの効果が大きい。ハイブリッド動力システムの効果が明確に表れるのは、実は平均速度が時速30~60キロメートルあたりで走る状況に限られる。それを超えてもプリウスの燃費が良いのは、とにかくひたすら転がり抵抗を小さくしていること、アクセルを離した時にできるだけエンジンを止めるようにしていることなどの効果である。

 しかし、逆に、ドライバーがアクセルペダルを少し踏み、戻し、という操作でクルマを押す力を微妙にコントロールし、意図している速度をキープしようとすると、なかなか言うことを聞いてくれない。特に下り勾配ではどんどん速度が増していってしまう。上り勾配でアクセルを踏み込んでもスッと反応して押し出す力が出てこない。

 最近、高速道路などで周囲のペースよりもはるかに速く走ってゆくプリウス、逆に上り勾配で妙に遅いプリウスを見かけることが多い。それは、この「人=クルマ」の関係が「クルマ優先」に仕立てられてしまっているから、言い換えれば「自然な身体感覚で速度調節するのが難しいから」だと、私は考えている。

 さすがに欧州から来たクルマたちに、そうした極端な躾けをされたものはない。さらに「4人が乗って移動する空間」としては、空間デザイン、シートのつくり、タイヤと脚が道路を踏みしめつつ上屋が柔らかく揺れる動き等々、全ての面でゴルフの最新モデルのほうが格段に「上等」である。残念ながら。

「日本車は燃費、品質がいい」は過去の伝説
 こうして「燃費を取り巻く現実」のごく一部を見ただけでも、現状のモード燃費を「物差し」にしたエコカー補助金とエコカー減税が、その狭義の目的に掲げたところ、つまり「CO2削減につながるクルマへの普及を促進する」ことにつながらないことは明らかだ。

 そういう予測は、実情を知る一部の人間ならばすぐに組み立てられたことであり、それは燃料消費総量が落ちないことだけとってみても、現実の事態として表れている。

 前々回のコラムの冒頭に書いた「エコカー補助金は、自動車産業へのカンフル剤として一定の効果を得たらすぐ打ち止めにすべきだった」「エコカー減税についても疑問なとしない」というのは、つまりはそういう意味だったのである。

 さらに言えば、「日本車は燃費が良い」と日本の人々が漠然と信じ続けているイメージも、もはや実態がなくなっている。

 私自身の数少ないデータだけでなく、欧州の主要な自動車メディアが実施している実走テストの燃費データにも、そうした傾向は明確に表れてきた。

 もちろん、米国では「LA4モード」、欧州では「高速道路と市街地の複合モード」から最近は「NEDC(New European Dirving Cycle)」へと移行する、それぞれの地域での公的試験モードについては、お受験の巧みさでそれなりの数値を出してはいるが、欧米、特に欧州ではユーザーの目は日本よりずっと厳しいのである。

 途上国では、東南アジアを中心に欧州の公的評価基準をそのまま導入する国も増えているし、日本的モードに特化した日本流「公的燃費数値追求型クルマづくり」は、やはりユーザーの信頼を失う方向に働きかねない。

 ただ日本だけは、優れたプロダクツを実体験するユーザーがあまりにも少ないがゆえに、「自動車市場のガラパゴス化」が進み、「日本車は燃費が良いし、品質も優れている」という過去の伝説が生き続けてゆくのだろうと思う。少なくとも、準公的機関が「実用燃費」の評価をほぼ全ての新型車について実施するような状況を作り出さない限りは。

 だいぶ前になるが、省エネルギーセンターでその方向を目指すプロジェクトの発端に関わらせていただいたのだが、残念ながら途中で方向が変わり、「ふんわりアクセル」などイメージを訴求するだけのものになってしまった。

 その「ふんわりアクセル」にしても、ただそっとアクセルペダルを踏むようにすればいいわけではなく、「必要な力が出たな」と思ったらそこで右足を「止める」ようにしないと、燃費改善にはつながらないし、そのポイントがつかめるのであれば「ふんわり」踏む必要もない。「スッと踏んで止める」の方が、むしろ燃費は安定する。

このままでは世界から取り残される
 自動車メーカーは、「お受験」一辺倒に陥ってしまっている思考パターンを脱ぎ捨てて、リアルな「エネルギー消費」が少ないクルマを実現するにはどうしたらいいか、基本の理解からもう一度取り組み直さないといけない。

 本来はそれこそが、自動車技術を考え、進化させる中で、絶え間なく取り組んでいなければならない最大のテーマの1つであるはずなのだが、日本の自動車メーカーはそういうものづくりの「基礎」の部分をおろそかにしてきてしまった。

 その結果、自動車メーカーが今、理解している「エネルギー利用の効率化」「そのための技術」「それを実体化するクルマの仕立て方」は、世界の大きな潮流から取り残され、特にその先端を行く人々の知見の広さと深さには及ぶべくもない。

 そういう事態が起こっていることに、組織として気がついていない。個人ではそこに気づき、憂慮している人々がいることは知っているけれども、自らを盲信して、ただ転がり続ける組織の中では、無力に近い。

 少なくとも、このコラムに目を通していただいた方々には「日本車の実用燃費と、そのための技術、そして知見は、もう何とかしないと世界から取り残されるレベルに落ちている」ことを理解し、できるだけ多くの方々にもそれを伝えていただきたいと思う。


※図1
筆者自身が実際に運転して計測した「実用燃費」。ここにプロットした燃費値は「それぞれの状況でクルマの流れに乗って走るのに必要な最小限の力だけを使う」という運転によるものであり、したがって実用燃費の上限かそれに近い値になっている。図の左側、平均車速23~24キロメートル/時の所に縦に広がっているのはモード燃費。日本車、特に燃費訴求を狙ったモデルは、実走燃費から飛び離れた数値を「達成」している。
拡大画像表示 これは、ここ2年ほどの間に、ハイブリッド車を含めて燃費志向が強い(はずの)クルマたち(広報試乗車)を借り出して走ったデータを整理したものだ。運転は私自身であり、同じような走行環境を普通に走るのであれば、これ以上の燃費を出すのは難しい。つまり実用燃費の「上限ライン」だと思っていただいていい。

Posted at 2011/02/19 23:14:33 | コメント(1) | トラックバック(0) | 共感すること | クルマ
2011年02月19日 イイね!

【要注意】超長い転載文なので、車の燃費に興味のある人だけ見てください。②

ウェブサイト「JBpress」より転載。
(http://jbpress.ismedia.jp/)



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「エコカー」が増えても
日本のガソリン消費量が減らない不思議
2010.09.27(Mon)
両角 岳彦



前回は、エコカー補助金という消費促進政策が、エコカー減税との組み合わせの結果、実情としてどれほど「不公平」なものになっていたかについて、簡単な分析を試みた。

 それに続いて今回と次回は、「エコカー」という極めて曖昧な言葉でひとくくりにされているクルマの「普及を促進」しようとするこの種の政策が、現実のクルマ社会にどれほどの進歩をもたらしているのか、あるいは、いないのかを、見渡してみることにしよう。

 そもそも「エコカー」とは何か?

 新車購入補助金と減税の対象になるのは、特定の走行モードを台上試験して計測される排出ガスの量と、その結果から計算される燃料消費量(つまり、燃料の消費を直接測っているわけではない)が、ある基準よりも少ないクルマ。これを「環境性能に優れた自動車」としている。

 言い換えれば、1970年代に問題となった「大気汚染」と、90年代以降の「地球温暖化問題」の中の「CO2削減」という2つのテーマに関わる試験結果だけをもって、「環境性能」としているわけだ。メディアを含めた一般社会の認識はもっと曖昧で、「燃費が良さそうなクルマ」という程度にとどまっている。

「リサイクル」も「エコロジー」の重要テーマのはずだが
 しかし、原則論から言えば、「自動車の環境影響」は「素材」に始まり「造り」「使い」「廃棄・再生する」全てのプロセスにおいて発生しているものである。

 その全体を評価する概念、方法論としては「ライフサイクルアセスメント(LCA)」がある。けれども、例えばCO2のような1つの要素に限って評価するとしても、膨大な数字を操り、しかしその意味は専門家以外には理解しにくい、というものになってしまっている。

 でも、もっと単純に考え、「環境に優しいクルマ」を造ること、選ぶことはいくらでもできる。

 例えば日本ではいつのまにか、「自動車のリサイクル」については自動車リサイクル法に適合していれば良い、ということになってしまっている。しかし、その内容は、「解体の結果、最後に残って埋め立てなど廃棄処分されるシュレッダーダストが、元の車両重量のおおよそ5%以下であればよい」とするものであり、自動車を構成する要素や素材全体を回収、再生・再利用することを目指す、ごく始まりのステップでしかない。欧州で「工業製品のリサイクル」が始まった80年代初めの概念とルールをそのまま日本に移植しただけのもんで、それで「こと足れり」としてしまっているのだ。

 それに対して欧州では「車両重量の85%までを素材レベルにまで再生する」という新しい指針が提示されているなど、「どこまでできるかを考え、そのレベルを引き上げる」というテーマに継続的に取り組んでいる。残念ながら、日本ではそうした動きは皆無である。

 新車購入時や車検時に徴収される「自動車リサイクル料金」の内容と運用なども含めて、日本の自動車の、そして工業製品の回収・再利用・再生プロセスは、工業先進国としては何とも「お寒い」状況にある。これについては機会を改めて検討することにしたい。

 いずれにしても、本当は「エコカー」という言葉は、ただ「走行に伴う大気排出物が少ない」というだけではなく、素材選びから製造、そして解体・再生までを俯瞰して「環境影響」を考えた工業製品、という意味で使うべきものである。

ここ10年以上、乗用車1台当たりのガソリン消費量は減っていない

 「日本車は、新しい製品ほど燃費が改善されている」のが事実であれば、補助金や減税によってそうしたクルマへの買い換えを促進した結果は、何より日本全体の燃料使用総量に表れてくるはずだ。

 そこでまず、ここしばらくの日本の燃料油販売量を確かめてみよう(図1)。

 日本では乗用車のほとんどが使っている、そして他の用途はごく限られているガソリンについて見れば、2000年からずっと年間5800万キロリットル以上が販売・消費されている。

 「休日1000円高速」が実施された2009年(3月末から)には、それまでの3年間の傾向とは逆に、販売・消費量がわずかとはいえ増加に転じている。ガソリンの消費総量が、消費者、そして社会の気分と連動していることがはっきり表れている。

 続いて、国内い存在する乗用車1台当たり、1年間にどのくらいのガソリンが販売されているのかを単純計算してみる(図3)。すると、98年から2004年にかけてはずっと1.09キロリットル、つまり1090リットルで推移。ガソリン価格が跳ね上がった2005年からは微減傾向が続いていたが、それも2008~2009年は1台当たり年間1000リットルで下げ止まりしている。

 つまり、ここ10年以上、1台のクルマが消費するガソリンの量、すなわちCO2の排出量は、景気の減退の影響などで多少減る以外は、ほぼ変化のない状況が続いている、ということになる。

日本車の燃費は向上したことになっているが・・・
 これに対して自動車工業会他の公的な見解では、「『10-15モード燃費』が日本車全体として大幅に向上し、それが実用燃費の向上につながっている」ということになっている。現実の道路の上でも、日本車の燃費は向上している、というのである。

 1台のクルマが平均して12~13年間は日本の路上を走り続けるとすれば、この間にほぼ全数が置き換わっているはずで、10-15モード燃費の値が実用燃費との間に十分な相関関係を持つものだとすれば、1台当たりの燃料消費量は2割程度減るはずである。

 しかし、現実はそうなっていない。ガソリンの年間消費量は、1台当たりで見るとこの10年あまりはほとんど「横ばい」だし、国全体としても消費総量がなかなか減らない。

 これについては「その分だけ、個々のユーザーの走行距離が伸びているから」という説明で片づけられているのだが、ここ数年はむしろ逆。一人ひとり、1台1台の走行距離はむしろ減る傾向にあったことは、生活者の感覚からは明らかだ。

「エコカー補助金」&「エコカー減税」はCO2削減に貢献せず?
 「エコカー補助金」の成果も、この「燃料消費総量」という視点から検証できるはずだ。

 例えば新車購入補助金の交付対象になったのは「平成22年度燃費基準+25%」を達成した車両。そうしたクルマが18カ月で概算300万台以上も増えたはずである(詳細はまだ確定していない)。

 昨年半ばに始めてからの出足は鈍かったのだが、今年に入ってからは5800万台弱の保有総数の5%ほどまでが「燃費が格段に良い」クルマに換わってゆく、というプロセスが進行したことになる。

 こうしたクルマを現実の路上で一般のユーザーが走らせた時の燃費が、それまでのクルマよりも格段に良いのであれば、国内の燃料消費総量にも何か動向が表れるはずである。

 そこでガソリン販売量を月別に整理してみる(図4)。

 逆に例年ならばガソリン消費が増える3月は「買い控え」で販売が落ちているなど、消費者と社会の気分まで含めた消費動向が浮かび上がる。

 2009年は、月末から「休日1000円高速」がスタートした3月以降、特に夏にかけてガソリン販売・消費量が増している。そして今年、2010年前半の推移は、その昨年とほとんど重なり、むしろ増加傾向にあるくらいだ。

 つまり「エコカー補助金」と「エコカー減税」の「環境性能に優れた自動車の普及を促進する」という大義名分は、「CO2排出量を削減する」という狭義の目標に絞ってさえ、現実の効果は表れていない。そう結論づけざるを得ない。しかも、それは、ここで紹介したようなマクロデータを読み解くだけでも簡単に見えてくるものなのだ。

「公称燃費」と現実の燃費は違うもの
 こうした状況が発生することは、「エコカー」施策が打ち出された時点から、少なくとも「リアルな燃費」について考え、データを収集している者であれば容易に予測できた。当然の結果、と言ってもいい。それはなぜか。

 日本車の公称燃費が、現実の燃費の良し悪しを示すものにはなっていないから、である。

 そもそも、試験装置の上で特定の走行パターンをトレースした試験の結果が、現実と合致すること自体が難しい。それは、科学技術を多少なりとも知っている人間ならば、誰しも理解していることだ。

 だから、こうした評価試験は、「現実の世界で起こり得る状況」のどこか一部分を切り出して、被験体がそこでどんな特質を持っているか、それがどう表れるかを確かめるためのものである。

 造り手側は、それを明確に意識して、自分たちが生み出すものが「現実世界」でどう振る舞うかを常に追い求め、様々な試験はその一部分を表す「代表値」だと考える。もちろんその代表値が良いのに越したことはない。そういう姿勢で取り組むべきものである。

 ところが、最近の日本のクルマづくりの中では、排出ガス、燃費、さらに安全性などの「性能」について、規定された試験で目標を達成することだけに関係者の意識が集中する傾向が強い。

 ニューモデルの試乗会などでクルマを走らせ、「現実の道路を走った時の燃費とその傾向」について開発担当者と論議しようとしても、話がかみ合わない。彼らの頭の中にあるのは「公的試験として規定されている特定の走行モードを台上試験した時の燃費」、いわゆる「モード燃費」をいかに良くするか、ばかりなのだ。そういう体験が本当に多くなっている。

現実の走行ではあり得ない「10-15モード」の走り方
 特に日本の排出ガスと燃費のための試験モードは、ずっと「10-15モード」が使われてきた。これは、一定の加速、一定速度の保持、一定の減速を組み合わせただけの極めて単純なパターンである(図5)。


 日本のメーカーは、この単純な走行パターンに「合わせ込む」ことを徹底的に追求してきた。言い換えれば、モード試験専用の「お受験テクニック」を磨いてきたのである。

 最近は、カタログの燃費表記が2本立てになっているクルマも増えてきた。従来の10-15モードに加えて、「JC08モード」の数値が記載されている。

 このモードは、10-15モードが実情に即していないからと、新しく作られたもので、細かな加減速の組み合わせになっている。しかし、加速を続ける中に急に減速が入るなど不自然な部分が多いギクシャクしたパターンであり、台上試験の中でそれをトレースするのはかなり難しい。それもあってか、導入にあたって試験時に規定の速度変化から「逸脱」しても良いとする許容幅を緩和した。

 試験実施は、これでずいぶん「楽」になった。つまりギザギザに加減速するパターンだったのが、格段に緩やかな速度変化で走ることができる形に変わってしまったのである。

 当然、このJC08モードに対する「お受験テクニック」も磨かれている。そうでないととても出ないような燃費の値が記載されている。

 本来は、10-15モードからJC08モードへ2008年から順次移行する、という計画だった。ところが「公的な数値として発表され、カタログにも記載する燃費の『数値』が急に落ちると、ユーザーも混乱する」ということで、今は2つのモードで認証を受けて併記するか、輸入車などはまだ10-15モードでもよいという過渡的な状況にある。

 今回のエコカー補助金、エコカー減税は「平成22年度燃費基準」が対象車の判定基準である。つまり、10-15モードの燃費値で見るしかないのである。

 いずれにしても、この10-15モードという現実からかけ離れた走行パターンと、そこに表れる数値が、日本における唯一の「公的燃費」である。クルマの性能比較はもちろん、エネルギー政策や社会の将来像を検討するところまで、全てがこの試験法とその結果に頼っている。

 しかし、行政も、いわゆる有識者や研究者も、日本の公的燃費試験法とそのデータが、現実からどれほど大きく乖離しているかの実態を把握していないし、目を向けようともしていない。ましてやメディアを含めた一般の人々は、その実態をまったく知らずにいる。

「モード燃費」でエコカーを認定する間違い
 前述のように、最近の日本のメーカーの車両開発は、こうした「お受験」の結果をまず目標にする、という傾向が強い。燃費に限っても、公表値と現実の乖離は広がる一方だ。

 今回、エコカー補助金とエコカー減税の「販促効果」が大きい、という状況に直面した日本の自動車メーカーは、急遽、主だったモデルの「一部改良」を実施。平成22年度燃費基準を15~25%上回る10-15モード燃費値を達成した仕様を次々に市場投入している。

 しかし、そのほとんどは、モード試験に対する「合わせ込み」をやり直すことで「減税対象」のレベルを達成したものにすぎない。つまり、エンジンなど動力システムの技術的内容や、クルマ全体を見直して、エネルギーを無駄に使わないような「改良」を施したものではない。そのため、実際に使った時の燃料消費はほとんど変わらないか、「モード適合」に偏った分、むしろ悪くなる可能性さえある。

 エコカーの普及を強く後押ししたはずのこの1年半、日本の乗用車全体の燃料消費総量はほとんど減っていない、という事実は何を示しているのか。

 それは、日本車の公称燃費値が良くなっていても、現実の道路を一般のドライバーが運転して走らせた時の燃費は、さして良くなってはいない、ということである。

 そして、「モード燃費」の数値だけでそれぞれのクルマが「環境に優しい」かどうかを判定し、そういうクルマの普及を促進する、という施策も机上の空論でしかない。そういう現実に目を向けないといけない。

 私を含めて、現実の道路を走った時の燃料消費こそ重要だと「実用燃費」を常に意識し、実際に計測してきた人間にとって、近年、日本車のリアルな燃費の向上が鈍いこと、そして技術者も企業も、そこに取り組もうとする意識が低いことを、切歯扼腕の思いで見守っている。それが現況なのである。

 次回も引き続き日本車の燃費にまつわる誤解、そして実情について見ていく。海外メーカーの製品と実力を比較しながら、本来あるべき「エコカー」の姿について考えてみようと思う。


※図1
 燃料油販売と自動車保有台数の動向。国の目標に合わせて、ガソリン、軽油それぞれの1990年販売量を基に、その25%減のラインも入れてみた。ガソリンの消費量は、現状の半分まで減らさないとこの目標には到達できない。一人ひとりが走る距離を減らさないとすれば、それぞれに実用燃費を倍にしなければならないわけだ。
拡大画像表示 百歩譲って、「エコカー」イコール「燃費が良い」すなわち「使用過程におけるCO2排出量が少ない」クルマ、だとしよう。

※図2
 ガソリン価格(レギュラーガソリンの全国平均)の推移。全体的な傾向として、1995年頃から2008年前半までのガソリン年間販売総量(前出)のグラフの形は、このガソリン価格のグラフの裏返しになっている。つまり2006~2008年の消費量減少は価格の上昇に連動していたことが明らかだ。2008年前半に1度ドロップしているのは、暫定税率が1カ月だけ廃止された時期。
拡大画像表示 ピークは2005年の年間6160万キロリットルあまりで、そこからは緩やかに減る傾向が表れている。これは、まず原油相場の高騰に起因するガソリン価格の上昇(図2)、そして景気の減退を反映して、ユーザーが「お出かけ」を抑えたことがそのまま表れたものと見ていい。

※図3
 自動車1台当たりの年間燃料油消費量(概算)。前出の燃料油年間販売量を各年の保有台数から、ガソリンは乗用車、軽油(ディーゼル)は商用車と割り切って、「1台当たりの燃料油販売量」を計算してみた結果。
拡大画像表示 確かに10-15モード燃費の「国産車平均値」は、96年が12.4キロメートル/リットルだったものが、2008年には16.9キロメートル/リットルまで向上している(自動車工業会による。「ガソリン乗用車の平均燃費」参照)。36%も良くなっているのだ。

※図4
 月別ガソリン販売量(全国)の推移(2007~2010年)。2009年と2010年はほとんど「重なっている」と言っていい。車両1台当たりの燃料消費量は誤差範囲で変化がない。つまり「お出かけ」が「1000円高速」の継続によって2009年の同時期と同じくらい、増えてはいないとすれば、個々の燃費は改善されていない、と読み取れる。
拡大画像表示 このグラフを見ると、例えば2008年は、2007年と比べて年間の販売総量は減っているけれども、4月だけは販売量が突出している。4月は ガソリン価格に上乗せされていた暫定税率の延長が国会で議決されず、1カ月間だけ25.1円安くなった月だ。

※図5
 日本だけで長く使われている10-15モードの走行パターン。エンジンやトランスミッション、さらには車両が転がる特性などまで徹底的にこのモードに「合わせ込む」ことが日本の自動車メーカーの常識。1回のパターン、約11分を走る中で排出されたガスを溜めておき、その中の「有害成分」を計量すると同時にCO2、CO(有害成分のひとつ)を計量して、そこから逆算して燃料消費量を求める。つまり試験中に燃料そのものの消費量を測っているわけではない
拡大画像表示 しかも、数秒~十数秒の間だけ維持する一定速度も、時速20キロ、40キロが主で、50キロ、60キロ、70キロが少しだけ。加速は発進から時速40キロまで12秒、あるいは14秒かけて速度を上げるという、現実の路上ではまず使うことがないようなゆっくりした走り方である。



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2011年02月19日 イイね!

【要注意】超長い転載文なので、車の燃費に興味のある人だけ見てください。①

ウェブサイト「JBpress」より転載。
(http://jbpress.ismedia.jp/)



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一体なんだったんだ、エコカー補助金
結局トヨタの一人勝ち、「業界救済」策の効果は疑問符だらけ
2010.09.17(Fri)  
両角 岳彦

いわゆる「エコカー補助金」、正式には「環境対応車普及促進対策費補助金」が、当初設定してあった期限(9月末)まで3週間以上を残して打ち切りになった。「駆け込み」でクルマを購入する人々が増えて、5837億円の予算枠を使い切ったのである。

 9月初めまでは、1日当たり2万~3万台、30億~40億円のペースだったのだが、9月4~5日の週末に購入された分を含む6日の申請受理台数は約9万6000台、補助金額は約116億円。ここで「エコカー補助金、今週にも打ち切りか」を伝えるニュースが飛び交い始める。翌7日には約6万6000台が「駆け込み」で購入・申請され、予算枠の残りが約10億円となった。

 さらに、8日にも約5万2000台分、約74億円が申請され、ここで打ち切りとなったのである。経済産業省のホームページには、「既に公表しています通り、申請額が9月7日(火)までの補助金の予算残額(約10億円)を超過しているため、9月8日(水)に受理された申請は、公平を期すために、全て不交付とさせていただきますので、ご了承ください」という説明文が掲載されている。

 かくして自動車の購入補助金施策は終了し、延長はされなかったので、「今後の新車販売の冷え込みが懸念される」といった自動車メーカー首脳の発言を伝えるニュース、同様のメディアやアナリストの論評を目にすることも少なくない。

「エコカー補助金&減税」の効果に疑問符がつく2つの理由
 しかし、自動車とその社会のあり方を冷静に見渡せば、この措置そのものが、世界バブル崩壊直後の自動車産業へのカンフル剤、それもかなり荒っぽい劇薬だったのであって、ある程度の需要喚起が得られたら、そこですぐ止めるべきものだった。「エコカー減税」なる別の施策も同じように、その意味と効果には疑問符がつくと言わざるを得ない。

 その理由は大きく2つある。

 1つは明らかに「不公平」な施策であること。クルマを購入する可能性を持ち、いつ、どんな形で買おうかと考えている人々、そして消費刺激が生み出す需要増によって経営状況が改善されるはずの自動車産業全体、その両方において、国庫の資金、つまり税金が特定の一部分だけに注ぎ込まれる状況になってしまった。

 そしてもう1つは、「環境影響の少ない車両をより速いペースで社会に導入する」という本来の目的がまったく「形だけ」のものであって、少なくともCO2排出量の削減、すなわちクルマ社会全体の燃料消費改善についてさえ、状況はほとんど改善されていない。

 実はこの2点とも、最初からそうなると「見えて」いたことなのである。しかも現実にそのとおりの結果が明らかになってきている。

 しかし、施策を立案し実施した行政側からの評価はまだなく、それ以前に一般のメディアはまったく言及していない。大まかな数字を整理するだけでもいろいろなことが簡単に見えてくるのに、メディアは表層を追うだけで、そこに踏み込むことはほとんどない。

 だから実情にまったく気がついていないのだと思う。それならばここで、少し詳しく見てゆくことにしよう。

対象となる「環境性能に優れた自動車」とは
 「エコカー補助金」は、元々、2009年4月10日から2010年3月末までの1年の間に新規登録された車両を対象に始められたが、2009年12月に「2010年9月30日まで」と1年半に延長された。

 2009年度予算の1次補正と2次補正で設定された補助金総額が5837億円。1年半の期間で平均すれば、営業日1日当たり十数億円の金額となる。終盤の「駆け込み」がどれほどのペースだったかが、この数字からだけでもイメージできる。

 一方、クルマ(ここではいわゆる「乗用車」に絞って話を進める)を購入する側としては、まず初度登録から13年以上経過したクルマを持っている場合、「エコカー」を購入し、それに併せて前のクルマを廃車すれば、小型車・普通車で25万円、軽自動車で12万5000円の補助金が交付される。この場合のエコカーとは「平成22年度燃費基準を達成した車両」とされている。

 この買い替え条件に当てはまらなくても、「平成22年度燃費基準からさらに15%の向上」と、排出ガス試験の結果で「平成17年排出ガス基準からさらに75%の削減(いわゆる☆4つ)」の両方を達成した車両であれば、小型・普通車で10万円、軽自動車で5万円の補助金が出るという制度である。

 加えて「エコカー減税」がある。

 これは、「自動車重量税及び自動車取得税の特例措置」として、「環境性能に優れた自動車」の新車購入登録時、そして車検の度に徴収される自動車重量税と、車両購入時(中古車も含めて)に課される自動車取得税(普通・小型車で車両価格の4.5%、軽自動車は2.7%)が減免されるというもの。

 ここでは、まず動力源が「電気」「天然ガス」「プラグインハイブリッド」のクルマについては、新車購入時にどちらも全額免除。「ハイブリッド」については「平成17年度排出ガス基準75%削減」と「平成22年度燃費基準+25%」を達成していれば全額減免となる。

 「ディーゼル」については「平成21年度排出ガス規制適合」のいわゆる「クリーンディーゼル」であれば、これも全額減免、となっている。

 これらに当てはまらない「ふつうの」クルマについては、「排出ガス☆4つ」かつ「平成22年度燃費基準+25%」を達成していれば、両方の税額を75%軽減。「排出ガス☆4つ」かつ「平成22年度燃費基準+20%、15%」であれば50%軽減される。

 加えて、いわゆる「自動車グリーン税制」(「低燃費かつ低排出ガス認定車に係る自動車取得税の特例」)もある。

 こちらも「排出ガス☆4つ」かつ「平成22年度燃費基準+25%」を達成していれば、毎年徴収される自動車税がおおむね50%軽減される。

 これらの減税施策は2007年から実施されていたものを改訂した形で、2009年4月1日より始まった。自動車取得税と自動車税は2012年3月31日まで、自動車重量税のみ2012年4月30日までの期間限定が適用されることになっている。

購入者は「軽自動車」ではなく「小型・普通車」に向かった
 ここで「エコカー補助金」の最終状況を見てみると、補助金交付の対象となった台数は17カ月余りの累計で、小型車と普通車、軽自動車を合わせて448万台ぐらいだと推定される。

 ほぼ同じ時期、2009年4月から2010年8月の間に販売(登録)された新車の総数は654万6326台(日本自動車販売協会連合会のデータによる)。さらに9月1~7日の間の駆け込み需要期だけで26万台以上が加わっているはずだ。

 つまり、この間に新車を購入した人々の中で5万~25万円の補助金を受け取れたのは、およそ65%。日本国内の4輪車の保有総数はおよそ7500万台、そのうち乗用車だけ、ということならば約5800万台。それをユーザーの総数と考えれば、今回の補助金の「恩恵」をこうむったのは、全てを合わせても全ユーザーの中でわずか7.8%という計算になる。

 もう少し細かく見ると、このコラム執筆時点で公表されている予算枠の76.4%を消化(交付決定)した段階で、対象台数の総数は355万4408台。そのうち「小型・普通車」は255万5456台、「軽自動車」が99万8952台である。

 その中で「廃車を伴う購入補助」の対象になったのは、1台あたり25万円を受け取る小型・普通車が73万1057台で全体の28.6%。10万円を受け取る軽自動車が39万418台で全体の39.1%。

 つまり、軽自動車よりも小型・普通車の方が、所有車が13年以上経過していないか、あるいは新規に、対象車種を購入した人が多かったわけだ。

 それにしても、ユーザー自身が「まだ十分に使える」と思い、走らせていたクルマが、この1年半足らずの間に100万台以上も廃車されたわけだ。いかにも「もったいない」。

 廃車から解体、リサイクルへ、というELV(end of life vehicles)プロセスも、処理しなければならない車両が急に増えても対応は難しい。つまり、解体できずに「積み上げられたまま」の廃車が急増している。これも社会の実態を踏まえることなく拙速に進めた施策がもたらした「歪み」の1つだ。

 確かに保有総数と新車販売台数を比較して単純計算すれば、日本にある乗用車の12~13分の1が毎年置き替えられてゆく、という数字は弾き出せる。しかし、今回のエコカー補助金だけでなく、日本の行政は「13年以上経ったクルマは早く捨てなさい」という施策を打ち出している。「それでいいのか?」という問題提起は、また改めてしたいと思う。

 「エコカー補助金」の申請・交付に目を戻して、小型・普通車と軽自動車を比較すると、販売総数ではおよそ「63対37」なのに対して、補助金交付は「72対28」だから、補助金+減税に引き寄せられた購入者は、軽自動車より小型・普通車に向かっている。

 金額ベースで見ると、小型・普通車に向けた補助金が3553億円なのに対して軽乗用車は772億円。2009年3月~2010年4月の販売台数で比較しても、軽自動車は前年比91.9%と需要の冷え込みが続き、前年比プラスに転じたのはようやくこの4月以降。それに対して小型・普通車は、まだ「エコカー補助金+減税」の認知度が低かった2009年3月からの1年間でも、前年比115%。2010年4~8月は、前年比128.5%まで販売台数が伸びている。

 社会全体が「クルマに使う経費を切り詰めよう」「燃費の良いクルマを買いたい」という雰囲気になっている時期は軽自動車が売れる、というのがこれまでのパターンだったのだが、今回はやはり補助金+減税の金額そのものが大きく違い、それが消費する側にアピールした、ということになる。

 もう1つ、車両重量を段階的に区切って、それぞれの枠に対して燃費基準値を設定する、というやり方が、軽自動車にとっては不利だった。

 車重が軽く、しかし、それに対してエンジンの力に余裕がないので、基準値をクリアすることからしてなかなか厳しく、さらに20%、25%と引き上げるのはもっと難しい。そこで補助金、減税の対象車種が限られていた、という面もある。

 付け加えておくなら、軽自動車は「燃費が良い」と信じられているが、車の重さに対してエンジンの力に余裕がなく、負荷の高い状態で走ることが多くなるため、実用燃費は必ずしも良くはない。この、カタログ燃費(燃費公称値)と実態、実用燃費の乖離は、軽自動車に限らず日本車全てにとって大きな問題であり、それが日本のエネルギー消費を、そしてCO2削減をどうしてゆくか、その検討から具体策の構築、そして政策立案と実施などまで、実態からはるかに隔たったものにしてしまっている。

 その一部分として、エコカー補助金+減税でも多くの矛盾が表れているのだが、それについては後でまた詳しく語ることにする。

結局、「補助金&減税」の恩恵はトヨタのハイブリッドに集中
 エコカー補助金とエコカー減税がセットになって、消費者の新車購入意欲をかきたてた。その中でも金額ベースが10万~25万円と大きい補助金のインパクトは相当に大きい。それは間違いないのだが、その内容はあまりにも偏ったものになってしまった。

 元々はリーマン・ショックを受けて全ての動きが急激に減退した自動車産業全体に対して、まず国内販売を回復させ、生産ペースを戻し、それによって雇用も回復させて・・・と「正のループ」を期待する施策だったはずである。しかし現実には、ルールの決め方とその組み合わせによって、特定の車種にユーザーの目が集中し、その結果として「需要喚起~販売促進~業績回復」という流れも特定の1~2社に偏る結果になってしまった。

 買い替え補助金だけであれば、かなり幅広い車種にユーザーの目が向いたはず。だが、新規購入にも補助金を出しつつ、しかしその対象を「燃費基準+15%」「排出ガス☆4つ」に絞り、そこに自動車グリーン税制の改正を重ねた結果、ハイブリッド車だけが極端に有利な状況が形成されたのである。

 もちろん、ルール上は他の「CO2排出量が少ない(と期待される)」動力源で走るクルマも対象にしているのだが、電気自動車は今はまだ三菱自動車「i-MiEV」だけ、それも個人が購入できるようになったのは2010年4月から。プラグインハイブリッドも一般に販売されているものはない。天然ガス車も小型トラックならいざ知らず、乗用車ではないに等しいし、購入してもまず燃料を入れるだけでも大変だ。クリーンディーゼルもメルセデス・ベンツEクラスと日産自動車「エクストレイル」があっただけ。三菱「パジェロ」にも規制適合車が追加されたが、もはや補助金打ち切り直前だった。

 何十万円も安くクルマが買える、と聞いて、このタイミングででクルマを買おう、買い替えようと動き出した人にとっては、やはりその金額の多寡が何よりアピールする。つまり、店頭に足を運んで現車を見つつ、補助金と減税を合わせた具体的な金額を提示されると、どうしてもまずはハイブリッド車に目が向く。

 しかし、ちゃんと使えそう(本当にそれぞれの生活の道具として適しているか、優れているかは、また別の話。それをちゃんと評価する団体やメディアは日本にはないし、それ以前にその「物差し」が必要なことさえ認知されていない)、と思えるハイブリッド車をラインアップにそろえているのは、トヨタ自動車とホンダの2社しかない。メルセデス・ベンツ「Sクラス」、BMW「7シリーズ」にもハイブリッド仕様が加わったが、十数万円の節約に心躍る一般の人々の購入対象にはなり得ない。

 さらに「ハイブリッド=エコ」という短絡的修辞だけを語るメディア、それに引っ張られたイメージが消費者の背中を押して、プリウスが2009年4月から2010年8月までの17カ月間で、42万台も売れる、という状況が作り出されたのである。

 つまり、自動車メーカーの中で「エコカー補助金+減税」の恩恵を享受したのは圧倒的にトヨタだった。ホンダにしても、ここで有効な商品は「インサイト」しかなかった。手頃な大きさと空間設計、そして燃費を含めた走りの良さ、というイメージで国内最量販モデルの座を保持してきた「フィット」(ただし、そのイメージを生み出したのは先代であって、2代目の現行モデルはその良き資質がかなり低下しているのだが)と合わせても、「プリウス」1モデルにはるかに及ばないところまで流れは偏ってしまった。2010年上半期(1~6月)の販売台数では、プリウスの17万426台に対して、フィットが9万160台、インサイトは2万2116台なのだ(日本自動車販売協会連合会のデータによる)。

 ハイブリッド車は、使用過程の、つまり走行する中で排出するCO2の量が多少なりとも削減できる。ただし、それが実現されるのは流れの良い道路で発進と減速・停止が適当に組み合わされたある範囲の走行状況に限られ、決して万能ではない。

 その一方で、通常の内燃機関動力システムに加えて、ネオジム、ディスプロシウムなどの希土類、あるいは純銅などを大量に使ったモーター、100キログラムを超える化学物質の塊である電池など積み込むことが、本当に「環境に優しい」のか。少なくとも、今や戦略物資にもなりつつある希土類を大量に含む磁石、電池の「素材にまで戻す」リサイクルプロセスが確立されていることが、製品を社会に浸透させる大前提になるはずだが、それはいまだ手つかずに近い。

 そういう、社会の中での価値がいまだ定まらないようなクルマを、こんなに一気に増殖させることが本当に良いのかどうか。本来はそこから考えて論議していかないといけないのだが。

 この辺りの具体的な技術内容、燃費やリサイクルの実態については、拙著『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』(宝島社新書)に詳しいので、その実態や実力についてもう少し知りたいという方はご一読いただければと思う。

蚊帳の外でじっと耐えていた6社
 話を、今回の施策の消費刺激効果の恩恵は極端に偏ったものになった、というところに戻す。

 日本国内だけでも8社ある乗用車メーカーの、例えば2010年3月決算にも、その影響は如実に表れている。国内販売の台数だけ見ても、リーマン・ショックから落ち込んだ前年期に対して2桁、10%以上増えたのはトヨタ自動車とホンダだけ。

 日産自動車、マツダ、三菱自動車はほぼ横這いであり、富士重工業、そして軽自動車を主力商品とするダイハツ、スズキの2社は数%マイナス。蚊帳の外に追われた6社はじっと耐えるしかなかったのである。

 もちろん、どこも手をこまぬいていたわけではない。

 ハイブリッド機構を含めた新たな動力システムは、バタバタと決まった消費刺激政策をフォローアップするような短期間に開発し、市場投入できるものではない。

 さらに言えば、「ハイブリッド動力」、そして「電動車両」が明日にも自動車社会の主軸になる、などという荒唐無稽なシナリオが信じられているのは日本国内だけでしかない。

 欧米から途上国までの世界を広く見渡し、10年単位で自動車社会のあり方、それを支える科学技術の動き、エネルギーや資源の問題などを冷静に見渡し、分析し、蓋然性の高いシナリオを構築してゆけば、ハイブリッド動力と電気動力は「選択肢の1つ」に過ぎず、それぞれが適した領域に導入されてゆくしかないことが、明瞭に描けるはずである。

 まず、そのシナリオを徹底的に検討し、さらに刻々とリニューアルしつつ、開発のための資金と人間のリソースをどこにどれだけ振り向けるか。これも今、経営者が知恵を絞るべきところだ。

 しかし当面のビジネス、それも日本市場だけに限って、自動車メーカーがエコカー補助金+減税の恩恵を被るためには、「燃費基準+25%」「排出ガス☆4つ」を達成して、それらの対象となる車種をできるだけ増やす必要がある。だから、その条件を満たすモデルを増やそう。ここまでは誰しも考える。しかし、それにしてもすぐにできるわけではない。

 まず、社内で数値改善のための開発と試験による確認から始め、国土交通省に少なくとも「一部改良」としての申請を出し、公的機関での審査、特に排出ガスと燃料消費を同時に計測する「モード試験」を実施し、その結果を認証してもらわないと市場には出せない。

 そうした事情から、今年に入ってから、つまり補助金+減税施策の開始から半年以上を過ぎて夏にかかる頃までにかけて、ようやく各社から「○○を一部改良~燃費と環境性能を改善」といった発表が散発的に続くようになったのである。

ガラパゴス的市場で海外メーカーはどう動いたか
 総販売台数が年にわずか20万台程度と、それぞれのプロダクツの実力がまったく反映されない日本のガラパゴス的市場で、何とかビジネスを維持している欧米のメーカーにとって、この施策への対応はさらに難しかった。

 排出ガスと燃料消費を同時に計測するモード試験の走行パターンは、日欧米でそれぞれ異なり、特に日本のモードは極端に単純化されたもの。日本メーカーはそれに対して「お受験テクニック」を駆使して、結果としての数字を良くする方向に突っ走っている。

 しかし自動車にとって重要なのは、「モード」ではなく「リアル」。モード試験は現実の走行のある局面をとらえたものにすぎない。燃費にしても排出ガスにしても、そしてまた衝突安全にしても、実際に使われる中での能力を日々刻々と改良し、その成果の一端が公的試験の数値として表れる、というのが欧米メーカーの基本的スタンスである。

 もちろんその数値が、商品としての評価に直結する部分はある。だから開発の中ではそれなりに注力してはいる。しかし、単一モデルとして最も多く売れている「ゴルフ」でさえ、年間2万台程度にすぎない日本市場。ちなみにそのゴルフを含めたフォルクスワーゲンが2009年(1~12月)に日本で販売した総台数は3万7925台。同じ時に中国では112万台が売れている。そんな日本市場に個々の車種を投入した後、また再び短期的な消費刺激政策に対応して、開発・試験、認証をやり直す手間とコストがかけられるか。

 その答えは簡単に出る。かくして、ただでさえ小さな輸入車市場は、2009年に17%以上縮小した。もちろん顧客が「補助金+減税」によって日本車に流れたことは否定できない。

 そこで各社それぞれに(おそらくはディーラー各社とも協力して)、まずは販売促進費を自力で用意した。

 そしてフォルクスワーゲンなど一部のメーカーは、新車種の投入に合わせて、日本の「お受験」にそれなりに対応するようにして、特に公称燃費の数値を改善することにやっと手を着けた。

 現実に使い、走らせた時の燃費の実力は、ここ数年でも確実に改善されているのが、私のように日々様々なクルマに接して、走らせ、日本の道での燃費データも収集している者であれば、明確に判断できる。ドイツ車を先頭にして欧州車の実用燃費は、日本の同じような車種のそれを明らかに上回り、しかもドライバーの右足のデリカシーに依存する部分も少ない。

 例外は「燃費チャンピオン」(それも各国の「お受験」においてだが)となることだけを追いかけたプリウス、インサイトなどごく一部の車種にすぎない。それらも「生活の道具としての移動空間」としての資質では、世界最良の存在、例えば最新のゴルフTSIトレンドラインと比べればずいぶん見劣りする、と言わざるを得ないのである。

車の「買い方」にも見られる日本市場の特異性
 それにしても、ここ1年以上にわたって「エコカー補助金! エコカー減税!」を連呼し続けるだけの販促策に頼ってきた日本のメーカー各社、それも営業部門、そして販売現場であるディーラーは、9月以降の販売減退には相当な不安を抱いているに違いない。

 だが、それに対する効果的な対策を、と言われても、「国庫金ではなく自ら用意する販促金」ぐらいしか出てこないのではないだろうか。それなりのインパクトを期待するには、やはり新規購入に対して供与された1台10万円ぐらいか。その原資をメーカー側が負担するのか、ディーラーにも負担を求めるのか、といった議論がそれぞれに続けられているのだろう。

 しかし、それは結局のところ値引き販売でしかない。米国では「インセンティブ」と呼ぶ販促金を、需要や在庫の状況などをにらみ合わせてメーカーが提供するのが、長い間の慣習であり、その額まで一般に公表されてきた。それが米国の自動車メーカーの体力が衰える原因の1つにもなった、と言われている。

 日本の携帯電話では、同種の販促金をキャリア側が供給し、端末価格を引き下げる販売方法が常態化していた。だが、この場合は、購入後の通信費で回収するという目算があってのこと。「全車一律に10万円」といった形の販促金の投入は、メーカーの体力を削り、市場をさらに歪ませるものでしかない。

 それ以前にこれまでの日本では、個別交渉による値引きがクルマを買う時の常識のようになってしまっている。ユーザー自身も、さらにはメディア、特に自動車専門誌も、まずは「値引きはいくら?」を話題にする。

 しかし値引き幅が大きいのは、人気がなく、もう売り切ってしまいたい車種なのであって、そういうクルマは何年か乗って手放す時のリセールバリューも低い。購入時に投じた金額から、手放す時に回収できた金額を差し引いたものが、ある1台のクルマを所有するのに投じた「価格」なのだ。

 この、ごく当たり前の「算術」が、日本の「how to buy」からは抜け落ちている。これは私がずっと語り、実行し、アドバイスしてきたことなのだが、そちらに話を進めると長くなるので、また別の機会に。

 そして最初に書いた「エコカー補助金(とエコカー減税)が抱える2つの問題点」のもう1点、「エコカー」の普及を後押しして自動車社会が生む環境影響を抑制・削減する、という目標は「絵に描いた餅」でしかないという事実については、これまた語るべきことが多いので、こちらは次回に続く。
Posted at 2011/02/19 23:07:06 | コメント(0) | トラックバック(0) | 共感すること | クルマ

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