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2015年02月06日 イイね!

マツダコネクト物語:第十壱章

マツダコネクト物語:第十壱章※この物語はフィクションです。登場する人物、企業、製品、団体等は実在するものとは全く関係ありませんww

第十壱章:開発と保守と


国産ナビの開発は始まった。結局、関西圏に本社を持つM社をパートナーとした共同開発と言う形になった。M社はスマートフォン向けの有料ナビアプリを市販している会社で、ベースとなるナビプログラムの提供と技術者の支援を受け、マツダが主体となって開発を行う。

先ずはマツダコネクトの基本的な画面デザインに準拠した形で、ナビの外部設計を急ピッチで進めた。メニュー階層、各画面のデザイン、コマンダーコントロールの操作に対する動き、戻るボタンの戻り先、etc。ナビの機能はM社のナビアプリがベースとなるが、小峰率いるマツダのエンジニアは慎重に各機能の設計を決めていった。このとき、田中が用意してくれた顧客から寄せられた要望一覧と、それを採用して改善を行ったナビの機能詳細に関する資料が大変参考になった。

N社と最初にナビを開発した際は、画面の基本デザインを仕様として渡し、全てをN社に任せていた。口の悪い言い方をすれば丸投げしていたのだ。今となっては大きな反省点だが、サプライヤが持っているソフトウェアをベースとし、自動車メーカーにとっては知見の無いナビの開発である。サプライヤに好き勝手作らせる、という意味ではないが、専門会社の技術者に基本的には任せて出来具合を評価する、というやり方に当然なる。でなければ、サプライヤを使う意味が無い。今回は特にベースとなるソフトウェアは全世界共通であるため、日本仕様のナビの設計が上がってきたときには「今度のウチのナビはこういう風になるのか」という受け止め方で、それが日本のユーザーに使い難いと思われないか?といったところまで十分な評価ができたとは言い難い。勿論、N社がこの段階でマツダの要望を拒絶したなどという事もない。日本人エンジニアの「ここはなぜこうなのか?」「ここはこうならないか?」などの質疑や要望は、設計レビューの段階で当然行っているし「こうした方が使い易いのでは?」という指摘には柔軟に変更に応じてくれていた。そういったやり取りが不十分だったのか?といえばそうではない。「なぜ?」という問いに対する回答が、N社が実績豊富な海外ユーザーにとっては一般的な仕様だという回答だったからだ。全世界共通仕様に拘ったというよりは、海外でそれが一般的ならそれでも良いだろう、と素直に判断しての仕様決定であった。結果的にはこれが日本のユーザーにとっては極めて使い難いという厳しい評価に繋がるワケだが、マツダで初めて開発する自社製のナビである。ハッキリ言えば経験不足というのが原因であった。

しかしこの教訓は、国産ナビの開発には是非活かさねばならない。田中が用意してくれた資料もそうだが、メジャーな国産ナビメーカーのメニュー構成や画面デザイン、M社のナビアプリの画面や動作などを参考に、慎重に仕様を決定していった。

画面や各機能、操作性などの外部仕様が固まると、M社のエンジニアが中心となってプログラム設計が進められた。ベースとなるナビ部分は基本的に流用だが、設計通りの画面イメージの作成や、操作に伴うシステムの振る舞いをプログラムでどう処理するかを細かく決めていく。

これと並行して、3Dジャイロを搭載しないハンディを克服するための代替策の検討と、実現可能性の検証も進められた。具体的には車載コンピュータからCAN通信でCMUに情報を入れ、それを適切に処理して足りない1軸の情報の代替とする。実際の車載コンピュータからの情報がどのようなもので、どんなフィルタを掛ければジャイロの情報を近似するのか?実車を走らせてデータを取り、プロトタイプの処理プログラムを修正しながら実現性を検証する。役員会で報告した「やってみなければわからない」世界に、こうした試行錯誤を通じて解決策を見つけるのだ。

なぜ素直に3Dジャイロを搭載しないのか?CMUに3Dジャイロを搭載すれば、それは日本専用となり海外向けには使えない。となればCMUは2つの仕様が存在することになり、今後も日本向けと海外向け、それぞれを用意し続けなければならない。当然コストは大幅にアップすることになる。日本向けにナビを開発するだけでも大幅に事業採算には影響を与える。ジャイロを3Dにするなら全世界一斉に切り替えたい。これは次期バージョンのCMUまでお預けにして、今回はなんとか2Dジャイロのまま乗り切り、事業採算への影響は最小限にしたい。CMUを日本専用にしてしまったら、車両価格への転嫁が避けられないばかりか、5万円以下で提供しているナビプログラムも、その値段では出せなくなってしまう。そこまでの価格高騰はなんとしてでも避けたい。出来ればCMUには全く手を付けない形で国産ナビを開発したかったのだが、それは諦めざるを得なかった。代わりに海外向けのN社製ナビには影響を与えない、下位互換性を持たせたマイナーチェンジ版CMUで済ませられれば、そのコストは全仕向地で販売する全てのマツダ車で回収出来る。ここは正念場だった。


一方、N社製ナビを搭載する現行マツダコネクトを保守する田中のチームは、なかなか撲滅出来ないプログラムダウン問題に地道に取り組みつつ、デミオの発売を目指して品質改善に努めていた。バージョン31ではギリギリまでナビの機能・性能改善を行った関係で、ナビプログラムの安定性向上に十分な手が打てたとは言い難い。何しろ怪しい部分を見つけて修正依頼をN社に出すそばから、プログラムがどんどん書き換わってしまうのだ。イタチゴッコだったが、これも仕方がなかった。バージョン31提供後、なんとか機能面、性能面の改修には一旦区切りを付けて安定性向上に努め、お客様の要望などを踏まえて改善項目を吟味して実装した後は、再び安定性を含めた検証を行うという、言わばソフトウェアの保守・改善業務としては極めて真っ当なプロセスを落ち着いて実行出来る状況にようやくなってきた。

これを踏まえて、遅れていたマツダコネクトのサポートサイトの立ち上げや、マツダコネクト上で動作するアプリケーションを開発するためのSDKの提供などもようやく本格化できた。2014年1月には海外の見本市で開発環境を紹介するなどマツダコネクトを市販後にもさまざまな新しい取り組みは計画されていたのだが、あまりに多発した日本市場向け製品の問題に対処するため、計画はスローダウン、或いは延期を余儀なくされていた。海外向けには逆に大きな問題は生じていなかったものの、やはりシステムの安定性に関する課題は共通で内在しており、その向上は急務であった。ココにようやく改善効果がみとめられたが故の動きである。

サービスキャンペーンに一定の効果がみとめられたとはいえ、依然として厳しい指摘も多く、まだまだ品質改善に手を抜くワケにはいかない。特に日本向けナビに関しては、やはりどうしても熟成に時間が掛かることは避けられない。ときどきネット上で見掛けたり、コールセンターに寄せられる「妙なルートを案内された」というクレームは、一朝一夕に撲滅することは困難であった。地道に粘り強く改善していくしかなかった。

サービスキャンペーンの実施が落ち着いた後からデミオがデビューするまでの3ケ月弱の間、田中は更なる品質改善に必死に取り組んでくれるN社のエンジニアたちと日々接しながら、複雑な想いを抱かずにはいられなかった。彼らはまだ知らないが、年末には国産ナビがデビューする。M社は決して国産ナビのトップメーカーでは無いが、少なくとも国内ではスマートフォン向けアプリで実績のある会社だ。このルート品質とN社ナビのルート品質、果たして違いがどれほど出るか?国産ナビがカタログに並んだ後、N社ナビを選択してくれるお客様は存在するのか?そのとき、我々はどうするのか?彼らは?今心配しても仕方がない未来に複雑な想いを抱きつつ、目の前の課題解決に取り組む田中であった。
Posted at 2015/02/06 18:20:58 | コメント(2) | トラックバック(0) | フィクション | その他
2015年02月05日 イイね!

マツダコネクト物語:第十章

マツダコネクト物語:第十章※この物語はフィクションです。登場する人物、企業、製品、団体等は実在するものとは全く関係ありませんww

第十章:サービスキャンペーン


2014年5月中旬。マツダコネクトのサービスキャンペーンが実施された。
リリースされたバージョンは31。新車発売時からこれまでも何回か修正版を提供してきたが、今回がもっとも大規模であった。
N社にはプログラムのバグフィックス、地図データの修正に加え、お客様から多く寄せられたユーザビリティの向上にもかなりの変更をして貰った。

マツダコネクトのナビは外国製という事もあり、アクセラ発売直後は日本人には「?」と思われる点が多く存在した。N社からすればそれは"仕様通り"であり不具合では無い。実際にそういった問い合わせ(例えば配色が悪く地図が見難い)はマツダでフィルタに掛けられ、N社には即座に伝達されてはいなかった。勿論、多くの声は顧客の要望であり、将来的には改善すべきところなのだが、当初は不具合が疑われるモノの調査と修正が優先された。マツダとしても、多くの声がある要望については早期に改善したかったのはヤマヤマだが、実際には要望が多くかつ修正が容易なもののみを選択的に依頼するのが精一杯であった。

ところがサービスキャンペーンを決める一連の動きの中で、N社の日本市場対応にも本腰が入るようになる。寄せられた要望については可能な限り盛り込むべく、N社のエンジニアたちが奮闘してくれたのだ。
また、懸案となってた都市部などの重層化した道路や高速道路と一般道が並行するような場面での自車位置の狂いについても、N社CEOが今回のサービスキャンペーン実施までに大幅な改善を約束してくれた。

また、ナビ以外にも受けた多くの指摘、オーディオ系の問題や、システム全体の安定性についても可能な限り手が打たれた。

はたしてサービスキャンペーンで提供されたバージョン31は、ナビについては相当に日本人に違和感が無い使い勝手になり、その他の機能についても多くの不具合が修正され、安定性は増していた。

だがしかしマツダが事前に懸念していた通り、まだシステムとして完全とは言えなかった。

バージョン31リリース直後に発覚した一部音楽再生時のサムネイル画像の表示不良が象徴する通り、マツダコネクトのシステム自体は安定までまだ道半ばといったところ。

そして問題のナビであるが、発売直後は如何にも来日したばかりの外国人といった様子が、日本で流行りの服をまとい、日本流の多少のお作法を心得、多少は日本語が喋れるようになった、という感じで確実な進歩はあるものの、或る程度動作が安定してくると今度はそのルートの質であったり、ルート案内時のナビの振る舞いなどといった点に目が向けられた。勿論これらへの不満は発売直後から声は上がっており改善に努めてもいたのだが、日本製のナビに肩を並べるには至っていない。

このバージョン31は、実は意外にも好感をもって市場に迎えられていた。その点はこのサービスキャンペーン後のマツダへの問い合わせの量と質に明らかに表れていた。不満を述べる顧客は依然として存在したが「このくらいであれば、まぁ使える」と評価してくれた顧客も確実に存在した。一方で「サービスキャンペーンまでやってこの程度か」と、問い合わせを諦めてしまった顧客も居たかもしれないが、黙ってしまえばどのくらいの人がそう思ったのかは量りようがない。

いずれにしても、このサービスキャンペーンには確かに一定の効果が認められた。

もしアクセラの発売直後にこのバージョン31相当が提供出来ていたら、マツダコネクトに対する顧客の評価は随分と違ったものになっていただろう。しかし残念ながらこのレベルに到達するのに半年を要し、その間に多くの不評を得てしまった。こうなってしまうと、悪評を引っくり返すのは容易ではない。

不良少年が更生して真面目に学校に通い始めても、最初は色眼鏡で見られ、なかなか見る目が変わらないのと同様で、これを機に国産ナビの最高峰に並ぶ性能を獲得できたというワケも無く、顧客の信頼獲得には多くの時間が必要な事は明らかだった。

このバージョン31で大きな不満が解消された顧客は実は、マツダが元々狙っていた「ヘッヅアップコックピット」のコンセプトの価値に気付き始めていた。走行中もコマンダーコントロールのブラインド操作やステアリングスイッチで、必要な情報を手軽に呼び出したりオーディオコントロールを行える。その使い勝手の良さは慣れてしまえば、従来のタッチパネルの使い難さが明らかになのだが、そういった点に対する好意的な声はなかなか高まらなかった。

この時点でのマツダコネクトの大きな課題は、ナビの性能問題もさることながら、画面のブラックアウトや再起動といった不安定さにあった。勿論、年中再起動が繰り返されるワケではないのだが、昨今の国産ナビなどは突然動作を停止してエンジンを掛けなおしたら直った、などという振る舞いは年に1度も無い。大手の有名ブランドの製品であれば、それこそ買ってから数年使って手放すまで、1回あるかないか?というくらいの安定動作が当り前なのだ。それに比べたらマツダコネクトが今回のバージョン31で、月に1~2回しか落ちなくなったとしても、顧客からすれば「月に1~2回落ちる」という不満となる。

このマツダコネクトの不安定問題に、田中が率いるサポートチームは長く悩まされることとなる。この問題の厄介な点は、再現条件を特定することが難しい点だ。顧客から「落ちた」と問い合わせを受けて発生状況を教えて貰っても、そう簡単に再現するものではない。例えばある特定の操作をすると落ちるということが確認できたとしても、原因を特定するためにデバッグ用のツールなどを使ってプログラムを動作させると再現しない。デバッグツールを使用したことによって動作条件が変わってしまったために生じる現象で、これではプログラムコードのどこに問題があるのか特定が出来ない。或いはプログラムコード上は全く誤りがないのだが、あるプログラムコードが実行されるとメモリー破壊が起こる。問題のプログラムコードの手前に、全く処理上意味が無いステートメントを1行加えたら、メモリー破壊が起きなくなった、とか。

プログラマが机上でコードの見直しをする、ツールを使ってプログラムの不具合を見つける、見つかった不具合原因に類似するコードが無いかプログラム全体を見直す、といった考えられる対策は当然のように打ち、原因がわかったものには対策を、原因がわからないもには回避策を施していくのだが、成果を得るには多くの時間を要することになる。

発売直後から比べれば、という相対的な評価では相当に安定性も増しているとはいえ、既に成熟期に入り極めて安定している国産ナビに比べれば、月に一回落ちるだけでも顧客には十分に「不安定なシステム」と言われてしまう。しかも初期バージョンのオーナーが経験した多くの不具合は、ネットを検索すれば枚挙にいとまがない。更に実際、まだまだ改善の余地が多く残されている現状では、マツダコネクトの信頼回復への道は険しいと言わざるを得なかったのだが、とにもかくにもアクセラ発売から約半年。節目のサービスキャンペーンは実施されたのだった。
Posted at 2015/02/05 19:45:55 | コメント(0) | トラックバック(0) | フィクション | その他
2015年02月04日 イイね!

マツダコネクト物語:第九章

マツダコネクト物語:第九章※この物語はフィクションです。登場する人物、企業、製品、団体等は実在するものとは全く関係ありませんww

第九章:難題

役員A:ところで、デミオはどうしましょう?

口を開いたのは販売担当の役員である。開発担当の役員が応じる。

役員B:今日の話で国産ナビの市場投入は11月以降になる以上、6月発売を予定しているデミオには間に合わない。リコール対応※1したマツダコネクトで行かざるを得ないでしょう。

※1:実際はリコールでは無くサービスキャンペーンとなる。

役員A:そこですよ。果たして我々として、それで良いのか?と。

CEO:先程我々は、多大なご迷惑を掛けているお客様に対して誠意ある対応を取ると決めました。ただ残念ながらここ1~2ヶ月中に実施を決めたリコール
※1でも、お客様に100%ご納得頂くレベルに達するかは判りません。そうと知りながら、間もなく発売するデミオでもマツダコネクトのみというのは、お客様から見て誠意ある会社と写るのか?ということです。

役員A:アクセラのお客様からは他の選択肢が用意されない事への不満がありますし、お金なら払っても良いいう声も多い。どうでしょう?なんとかディーラーオプションに国産ナビを用意出来ませんか?

役員B:いや、そりゃ無理です!今から国産ナビを搭載可能にするなんて不可能です。

役員C:今から設計変更となると、生産計画の見直しも必要になりますな。現実的にはどうも、、、


開発担当が即座に応じ、製造担当も同調した。デミオに2DINのナビ搭載スペースは無いのだ。

CEO:二人とも慌てないで。誰も既製品の2DINナビをデミオに載せろなどとは言っていませんよ。国産ナビを載せる別のアイディアは無いかという話です。

開発、製造の二人の役員はややバツが悪そうな表情を浮かべた。少し間を置いて開発の役員が口を開く。

役員B:デミオの設計は基本的に変えずに、搭載可能な専用品を供給してくれるサプライヤを探さないといけないですね。

CEO:それが出来れば、不安を感じているお客様に別の選択肢を用意したことになります。 マツダコネクトの改善に努めるのは勿論ですが、 アクセラを通じて寄せられた不満に対する会社の姿勢を示すものです。無理難題なのは百も承知ですが、検討してくれませんか?販売の方も需要予測があるわけではない。厳しい決断をしなければならないだろうが、ここまでお客様から不満を頂いていて、無策と言うのでは次の株主総会でも説明がつきません。

役員B:わかりました。早急に検討します。


大幅に予定時間を過ぎて役員会が終了した後、松本は役員からこの宿題に関する協力を依頼された。ナビメーカー各社とのパイプに期待されたためだ。デミオ向けの専用ナビを短期間で開発し、提供してくれるナビメーカーを見つけなければならない。しかも時間が限られている。デミオの国内向けの発売は、何もなければ6月に予定されていて後3ケ月足らずだ。普通なら無理な話である。通常ならこういった無理難題は、開発部門からの「実現不可能」という回答で終わるケースである。逆立ちしても出来ないものは出来ないのだ。しかし今回ばかりはそうもいかない。なんとか実現する方法を見つけなければ。

先ずデミオの開発チームが急遽、搭載可能となる社外品ナビの仕様を策定した。国内向けのグレード展開も粗方決まっており、もうタイミング的には白紙に戻せない。マツダコネクトが標準装備でないグレードのマルチインフォメーションディスプレイを外してナビモニターを取り付ける事、CMUを搭載するスペースにナビ本体となる基盤などを収める事。ステアリングスイッチとのI/Fを持つことなどの仕様を策定する。

デミオを、そしてマツダコネクトを開発してきたチームからすれば不本意な仕事である。もともと既製品のナビの使い難さを解消し、ドライビングに集中しつつ、ドライバーが求める様々な情報に簡易な操作でアクセスを可能とする、視線を手前に落とす必要が無いコックピット「ヘッヅアップコックピット」というコンセプトがマツダコネクトのシステムの根底にあるからだ。

マツダコネクトを搭載せず、既製品のナビを搭載するというのは言わば自己否定であり苦渋の選択なのだが、開発部門としては自らが巻いた種である。

仕様確定を待たずにナビメーカー各社とのコンタクトを開始した松本だが、反応は思わしく無い。ポータブル機をラインナップする数社をあたるが、ディーラーオプションとして既製品をそのまま提供するなら何の問題もないものの、それをベースに専用品を起こすとなると途端に反応が変わる。特に短納期となればなおさらで、電話口で断られるケースが大半だった。
「これはなかなか厄介な話だな。」覚悟はしていた松本ではあったが、事の困難さを実感せずにはいられない。さてどうしたものか?思案を巡らせていると、A社の課長から電話が入った。A社にも当然今回の話は打診していたが、自社ブランドを掲げた最終製品を市場に出していない彼らから供給を受けられるとは思っていなかった。A社にお願いしたのは、今回の話に食付いてくれそうなナビメーカーの担当を紹介してもらえないか?という点であった。

A社課長:どうですか?例の件の首尾は。

松本:お察しかとは思いますが、苦戦中です(苦笑)。

A社課長:松本さんも次から次へと大変ですね(苦笑)。もしよろしければ、K社のこれから申し上げる担当に連絡して頂けませんか?


K社はナビでは中堅のメーカーである。ナビのみならず、カーオーディオも扱う有数のブランドだ。

A社課長:機密保持の義務がありますから、わたくしから詳細をお話しすることは出来ないのですが、松本さんから伺ったお話は概ね伝えてあります。

松本:ありがとうございます。本当に先日の件といい今回の件といい、もう静岡に足を向けて眠れませんね。



早速紹介されたK社の担当に連絡を取り、デミオの開発担当の一名と購買部門の職員一名を伴ってK社を訪問するアポを取った。


K社を訪れて今回の件の詳細を説明し、デミオの開発担当から搭載可能となるナビの要求仕様をざっと説明する。K社からは秋口に発売を予定しているメモリーナビの主要部品を活用し、要求仕様に沿って主要基盤を搭載する専用シャシーと、モニターや地図用のメモリースロットを収める専用筐体を用意すれば、比較的短時間で専用ナビを用意可能と思われると提案された。
ベースが開発中の2DINナビであることから、ステアリングスイッチとの連携と言った基本機能はそのまま流用可能である。
また、正式なものでなくあくまで概算と断わった上で、提供価格も提示された。参考となるベースの2DINナビの予定提供価格よりは若干割高になるが、専用筐体や専用シャシー、部品同士を繋ぐ専用のI/Fケーブルなどを考えれば、十分に妥当な価格と思われた。

K社担当:如何でしょうか?

松本:はい。我々の要求仕様をほとんど満たしていますし、価格的にも十分に妥当だと思います。提供可能時期の見通しはいつ頃になりそうですか?

K社担当:弊社製品の発売スケジュールの関係もありますが、今月(4月)末までにご契約頂けたとして、最初の納品は8月末くらいかと思います。


8月か・・・と松本は思った。恐らく依頼内容を考えれば最短なのだろうというのは理解するものの、デミオが6月に発売されたら間に合わない。K社担当が続けた。

K社担当:それから今回の場合、御社向けの専用品という事になりますので、ご契約にあたっては納品数量については合意頂くことになります。市販品を提供する場合にはこういった縛りはないのですが、専用品の場合には御社以外には販売できませんので。

松本:それは、そうでしょうね。大体どのくらいになりそうですか。

K社担当:これも概算ですが、大体XXXXXセットくらいになろうかと。


XXXXXセット?」同席したデミオの技術者が思わず声を上げた。松本が一瞥すると技術者はバツが悪そうに黙る。

松本:持ち帰って検討し、出来るだけ速やかに返答致します。今日はありがとうございました。

K社を退出して新幹線の車上、技術者が思わずつぶやいた。

技術者:最低XXXXXセットかぁ。参りましたねぇ、松本さん。

松本:専用品だからな。或る程度の数が売れなければ彼らだって困る。君も製造業に身を置く以上、常識だぞ。

技術者:す、すみません(汗。

購買担当:基本的には悪く無い話だと思いますよ。多少は割高ですが、十分リーズナブルな範囲です。問題はそれだけの数を仕入れて売れるかどうか?ですが、、、。どうします?

松本:作るにせよ買うにせよ、商品を準備するのが我々の責務だが、売るのは本分じゃない。売れるかどうかは、売るのが本分の販売部門に聞こうじゃないか。



広島に戻ると、松本は早速、開発担当の役員に事情を説明すると、販売担当役員との打ち合わせの場をセットして貰った。ディーラーオプションの国産ナビ調達の目途はついたが、問題が2点。最低XXXXXセットを売れるか?という点と、調達が8月末になる点である。

販売担当の役員Aは部下をひとり連れて会議室に現れた。松本からK社の提案と条件を説明する。

役員A:お話は良くわかりました。デミオの社外品ナビの件、実は役員会の前からCEOには相談していたんです。販売の現場もお客様からの突き上げは厳しくてね。デミオはアクセラ以上の量販車で運転に自信のない若い方や高齢のオーナーも多い。アクセラの件もあってなんとか国産ナビが搭載できないかとね。デミオでもマツダコネクト一本となると、販売の現場の士気にも影響しかねないという危機感もあってね。

役員B:その点は我々開発の責任を痛感していますよ。

役員A:いやいや、松本さんはじめご苦労は理解しているつもりです。CEOに相談したときに、この前の役員会で国産ナビ開発に関する見通しがハッキリするまで様子を見ようという事になって、事前の相談も出来なかったんですが、まさかあの場で検討指示になるとは私も思っていなくてね。本当に申し訳なかった。

役員B:そうは言ってもデミオの発売予定までもう間がありませんからね。生産準備は若干遅れているようですが、、、

役員A:で、本題のオプションナビですが最低限の仕入れ数量がXXXXXセットですか。どうかね?山崎君。


山崎はレンタカーやカーシェアリングの会社など、法人営業の担当をしていた。

山崎:ご存じだと思いますが、デミオはレンタカーやカーシェアの需要が相当数あります。車両毎に更新時期が異なりますから、クルマが新型に切り替わったからと言ってワッと需要が膨らむことはないんですが、コンスタントに一定の台数は出ています。
実はデミオの新型がそろそろ、という話で各社からはいくつか問い合わせを受けてましてね。アクセラと同じナビが載るのか?とか。


松本は十分に予想できたこととはいえ、密かに落胆せずにはいられない。マツダコネクトの評判がこんなところにも影を落としていたとは。山崎が続ける。

山崎:ネットなどの評判を聞きつけて不安を感じたんでしょうね。「まだ未定です」と答えていますが、我々もナビを理由に他社にお客を奪われたら困りますからね。内心ドキドキしていました。ただ、、、

松本:ただ、、?

山崎:意外にそういった事情をご存じないお客様も多くてね。新型車にナビが標準搭載と聞いて喜んでくれるお客様も居ます。
ですから我々としても、マツダコネクトとオプションの国産ナビと、両方揃えて頂けるのなら大変ありがたい。

役員A:お願いをしておいて申し訳ない話ですが、一般顧客向けにそのナビがどれだけ出そうか、我々にも需要予測は立っていないんです。ただ、法人向けまで含めれば、仕入れたナビは十分に捌けると思っています。元は我々サイドからリクエストしたナビですからね。我々の責任でなんとかしましょう。

役員B:となると、後は時期的な問題だけですね。最初の納品が8月末ですから実質的に販売できるのは9月以降になります。

役員A:デミオの発売時期を6月から9月にズラすか。これは流石に私の一存で決められる話じゃありません。CEOに相談しなければいけませんし、新型車の発売時期の変更は今期の業績にも影響します。役員会で決めることになりますね。

役員B:開発はほぼ終わっていますが最後の詰めが残ってますし、生産準備は若干遅れていると聞いています。このナビの話もありますから、思い切って9月にズラすという事になるのかな?

役員A:役員会の決定を待ちましょう。



結局、デミオの発売は9月に決定された。

そして5月に準備が整い次第、マツダコネクトのサービスキャンペーンを実施するのだが、デミオの9月発売までに、更にもう一段の品質向上に努めることになった。
Posted at 2015/02/04 18:20:37 | コメント(3) | トラックバック(0) | フィクション | その他
2015年02月03日 イイね!

マツダコネクト物語:第八章

マツダコネクト物語:第八章※この物語はフィクションです。登場する人物、企業、製品、団体等は実在するものとは全く関係ありませんww

第八章:決断

3月の役員会に国産ナビ開発の是非を諮るべく、小峰はA社から紹介して貰った数社と機密保持契約を締結して詳細な資料を渡し、提案書の作成を依頼した。各社からときどき入る問い合わせに対応しつつ、小峰も資料の作成に入った。

国産ナビを開発した場合のマツダコネクト事業への影響を明らかにするためだ。

自動車メーカーは新型車を開発した際は勿論だが、複数車種に搭載する共通機能などの開発に掛かった費用を、製品である自動車を売ることによって回収しなければならない。当り前の話だが、自動車メーカーに限らず製造業にとっては文字通りの生命線、多額の投資を伴う自動車メーカーにとっては非常に重要である。

マツダコネクトの場合、将来的には全車種に搭載することを目指している上、「古くならないシステム」を謳い継続的な機能強化や機能追加を行っていこうとしている。しかしマツダコネクトは単独で売る商品では無く、広くマツダの全車種に搭載していくものだ。これが一体いくらで、開発費用に今までいくら掛かり、今後搭載された何台のクルマが売れれば開発に投じた費用を回収できて、会社にどのくらいの利益がもたらされるのか?本日ただいま、開発費用の回収はどこまで進捗しているのか、常に管理下になければならない。

国産ナビを開発して日本市場に投入する場合、それに必要な開発投資額も勿論だが、海外向けの製品への影響がどの程度になるかを明らかにしなければならない。日本国内向けにナビを開発するのに、なぜ海外向けに出来上がっている製品に影響が出るのか?これはマツダコネクトが全仕向地に共通の仕様で作られている事に起因する。

アクセラへの搭載に伴って開発したマツダコネクトに、仮に月平均100名のエンジニアが2年従事したとする。1名の人件費が平均百万とすると開発に掛かった費用は24億円。これを回収するワケだが、マツダコネクトはアクセラに限定した装備では無い。マツダは2015年度末(2016年3月末)に世界販売150万台を目指し、その8割をSKYACTIVにすると言っているから年間120万台。この全てにマツダコネクトが載ることになる。仮に開発費用を3年で回収しようとした場合、120万台×3年=360万台だから、これらで開発費24億円を回収するためには、1台当り667円の利益を乗せれば3年後には24億円がチャラになる。この667円を原価①(開発原価)としよう。
実際のマツダコネクトは、CMU(コネクティビティ・マスタ・ユニット)、モニター、コマンダーコントロールやDVDドライブ、TVチューナーなどの部品で構成される。サプライヤからアセンブリーで提供される場合はその価格、1つひとつの部品から組み立てるならその部品代なども原価である。原価②としよう。
更にそれらのパーツを車両に組み付けてお客様に納品するワケで、その際の工場の工員の工数もある。原価③としよう。
以上のように、開発コスト、部品代、組み立て工数といったものが全て合算されて製造原価が構成されるワケだ。

話を戻してマツダコネクト。全世界共通仕様であるため基本的に仕向地に寄らず原価①は搭載車に一律であった。ところが国産用に専用品を開発するとどうなるか。その専用品には勿論、然るべき開発費が掛かるわけだが、従来品への影響とはなんなのか?
マツダの国内販売台数は概ね20万台強。これに国内専用品が載ることになれば、これらで国内向けの開発費用は回収しなければならない一方、従来品はそれが搭載される海外向けだけで開発費用を回収しなければならない。つまり360万台ではなくなるのだ。
24億を360万台ではなく300万台で回収しなければならなくなると、1台当り800円となり133円の値上がりとなる。海外向けには何も手を付けないのに、国内専用品を作ったが故に値上がりする理屈だ。これが影響。

但し、ここまでは説明を単純化するための例であって、実際はもっと複雑である。

133円値上げすれば1台当りのコストは上がり、販売価格を変えなければ会社にとっての利益は下がる。利益を守るため車両価格を上げるという手もある。価格は変えずに回収期間を3年より伸ばすことも出来る。どの手をとっても、とったなりの影響はあるものだ。会社の利益が減れば社内への影響、車両の価格に転嫁すれば販売台数への影響、回収期間を伸ばせば新商品開発のスケジュールに影響、という具合だ。

これらのパズルのピースを明らかにし、どう組み上げるか錬るのが事業計画である。

今回の国産化にあたって、CMUは極力現在の設計のままで国産ナビを載せたいと考えていた意図は、国内向け製品だけに留まらず海外向けを含めたマツダコネクト事業全体の影響を、極力小さくしたいという意図があってのことだった。しかしながらA社からアドバイスがあった通り、車両の進行方向の傾きをなんらかの方法でナビエンジンに提供出来なければ、抜本的な解決は難しいかもしれない。小峰は原価管理部門の助けを借りながら、CMUへの変更無し、軽微な変更、全くの国内専用といういくつかのパターンを作ってはパズルを組み立て、、、というのを繰り返した。



慌ただしい一ヶ月があっという間に過ぎ、いよいよ2014年3月役員会当日。

予定通りアクセラ発売後3ヶ月の市場評価が報告された。スタイル、走り、燃費とどれも高評価を得ていた。市場には遅れていたディーゼルモデルも投入され、オーナーのみならず専門家からも絶賛に近い。故に搭載されたコネクティビティシステムの不評は非常に残念であった。2月に引き続いてマツダコネクトに関するこの一ヶ月の動きも報告されたが、2月下旬にユーザーズボイスに投稿されたとあるオーナーのマツダコネクトに対する詳細な批判に対して、なんと拍手が1,000件を超えるという珍事もあった。また販売店からはマツダコネクト自体の問題のみならず「不安があってもコレしか選べない。他に選択肢が無いことが不満。」といった声や「国産ナビが選べるなら、10万円以上の費用負担も辞さない」といった意見が多数寄せられたと報告があった。
要はこの不満が金で解決するなら払う用意はある、ということだ。

やれやれ、嫌われたものだな・・・」思わず役員の一人が呟く。

しかし明るい話題もあった。N社がCEO名のレターを受けて間もなく、技術者数名を来日させ、マツダに常駐して問題解決にあたりたいと申し出てきたばかりか、近日中に日本にオフィスを開設して技術スタッフを常駐させる体制を取るというのだ。お客様から指摘を受けた、必ずしも不具合とは言えないもの(例えば自車マークの位置)などについても積極的に修正に応じてくれる姿勢を見せており、日本人にとってのユーザビリティ向上という点でも、今後は期待が出来そうだった。

そして問題の国産ナビ開発であるが、開発期間は6ヶ月から8ヶ月、評価期間に1~2ヶ月を要し市場投入は最速でも11月以降との見通しが示された。流石に1ヶ月では不確定要素のある技術課題に目途を付けるには至らず、一部「やってみなければわからない」という点をスケジュールに転嫁した結果である。開発コスト、並びにマツダコネクト事業全体の計画変更案も示され、今後のビジネスへの影響が概ね明らかになった。

役員A:市場投入時期は今年の11月以降か。。。

役員B:マツダコネクトを投入してからほぼ1年後ということになりますな。キリがイイといえばイイのか。。。

役員C:国産ナビ開発の影響はマツダコネクトだけを見れば決して小さくは無いが、マツダの事業全体への影響と言う意味では軽微です。むしろ今の状況を放置して、マツダコネクトを理由に商品の販売に影響が及ぶ方を心配すべきだ。


役員たちの意見がひとしきり出たのを見計らって、CEOが口を開いた。

CEO:私は国産ナビの開発にGOサインを出したいと思いますが、皆さんは如何でしょう。アクセラのレポートの通り、我々の製品は只一点を除いて大変高く評価されている。パートナーのN社にも是非頑張ってお客様の信頼を勝ち取って欲しいと思うが、事ここに至っては、我々自身もお客様の信頼を自ら勝ち取るべく努力する必要があるのではないか?開発費は確かに想定していなかったもので、(3月下旬の)今となっては来年度の予算を修正することも出来ませんが、お客様に喜んで貰える製品を送り出せれば、いつかは回収も可能です。

出席者からは同意の声が上がり、異論は出なかった。

正式に日本市場向けの国産ナビ開発が承認された瞬間である。但し、いくつかの指示が加えられた。如何せん1ヶ月でまとめた開発計画は粗さが目立った。これを速やかに確実性の高いレベルにすること。スケジュールとコストについても同様である。技術的課題については最優先で解決に努め、目途が立ち次第、報告するようにも指示があった。この点が国産ナビがお客様の期待に応えられるか、ソフトの製造元が変わるだけでどちらも大差が無いモノになるかの境目であると認識されたからだ。役員としても注目せざるを得ない。また、暫くはこの開発計画は極秘とされた。

一方で国産ナビの完成が年末近くになる見通しであることから、現状のマツダコネクトの品質改善も鋭意進めることも改めて確認された。
そしてマツダとして、マツダコネクトの品質に課題があったことを正式に認め、誠意を持って改善していく姿勢を示す意味で、近日中にリコール、もしくはサービスキャンペーンを実施するように指示された。N社の協力を最大限に仰ぎ、現在判明している問題は可能な限り解決してお客様に提供するのだ。時期については準備が出来次第で良い。

マツダコネクトの問題がリコールに該当するかは判るものが居なかったため、この場では後日、役所に確認した上で然るべく対応することに決まった。結果的にサービスキャンペーンとなり、N社の修正作業の完了を待っての結果、5月中旬の実施となった。

N社製のナビが日本のユーザーに受け入れられるレベルになるかはこの場の誰にもわからなかった。もし大きな不満が出ないレベルになれば、国産ナビの開発は無駄になるかもしれない。しかしその場合、国産ナビは上位バージョンという位置付けでパンフレットに並べても良い、という決断があった。前回、そして今回の報告からN社のナビが短期間で満足のいくレベルに到達すると考えるのは楽観的過ぎるという判断も勿論ある。

ここまでは、ほぼ松本の思惑通りの展開になった。誤算と言うか予想外だったのは国産ナビの開発期間である。彼の思惑より一ヶ月早く検討に着手でき、もう少し早く市場投入が出来るかも?と期待したのだが、結局アクセラ発売からまるまる一年が経過してしまうことになる。もっともN社に日本市場参入の機会を提供するという会社間の合意は果たしたことにはなる。マツダにとっては勿論、代償が大きかったと言わざるを得ないが、市場の、お客様の声に勝るものはない。兎に角、国産ナビ開発が正式に認められたことで密かに安堵した松本だったが、ある役員のひと言、そしてそれに続く議論の末に言い渡された「宿題」は想定外のものだった。

役員A:ところで、デミオはどうしましょう?
Posted at 2015/02/03 20:09:08 | コメント(2) | トラックバック(0) | フィクション | その他
2015年02月02日 イイね!

マツダコネクト物語:第七章

マツダコネクト物語:第七章※この物語はフィクションです。登場する人物、企業、製品、団体等は実在するものとは全く関係ありません。創作ww

第七章:転機

マツダコネクト・ナビの日本国内向けに対する顧客評価は非常に厳しいものであったが、その不満の声の大きさに比べれば、N社の初期の対応は決して敏速とは言い難かった。一体何が起こっていたのか。

もっとも大きな課題は日本市場が彼らにとって初めての、そして非常に特異な市場であったにも拘らず、その認識に立つまでに時間が掛かり過ぎたことだろう。これについてはマツダにも責任の一端はあったかもしれないが、軽々に結論付けられる問題では無い。

彼らは自社製品のナビの市場投入に合せて、製品のサポート体制を当然のように整備していた。特に新製品についてはいつも行っている事であり、別段目新しいことではない。
彼らの会社はボワイトレーベルソフトウェアと称する通り、自社ブランドを掲げるのではなく今回のマツダのシステムのように、自動車メーカーなどにナビを提供している。したがって顧客からの問い合わせは先ず自動車メーカーに入り、そこから必要に応じてN社にエスカレーションされる。

マツダからエスカレーションされた問合せはアルベルトをリーダーとするチームにより解析され、問題であれば解決しなければならないが、そうでなければ「問題無し」としてマツダに回答が返される。今回大きな問題となっている自車位置精度の問題は、GPS電波の感度や反射波による誤った位置情報の取得など、何をもって問題と認定するか、本質的に厄介な領域であった。N社のチームは勿論の事、ひとつひとつの問題について丁寧に対応をしていった。

彼らが最初に疑問というか、不可思議に感じた点は、今までに経験してきた他の地域に対して問合せの数が段違いの多い事だった。自社製品に対しては自信を持っていたものの、本質的にナビが自車位置を100%外さないなどということは有り得ない。当初は、顧客が感じるおかしな事象の発生頻度が高いのか、事象が起こったことをいちいち問い合わせてくる顧客の数が多いのかは量りかねた。

次に感じた点は、問い合わせの数が減らないことだ。問い合わせに対してなんらか対策したソフトウェアを直ぐに提供している訳ではないため、或る問題に対して複数の顧客が問合せをしてくることは有り得る。必要に応じてソフトウェアをチューニングして事象の回避が可能となれば、次回リリースをもって解決するワケだが、当然チューニング済み・未リリースのソフトウェアに新たな問合せ内容を当て嵌めてみれば、類似の問題なら解決する筈である。ところが、送られる問合せ内容を確認すると、新たな対応を迫られるものが次々に見付かりキリが無い。更に、新たな問題の解決を図ったところ解決済みの問題が再発する、といった事が起こり始め、この辺りから担当者は「どーも今までとは様相が異なる」と感じ始めた。

アルベルトが田中に相談を持ちかけた件である。

チームはリーダーを中心にある時点でチューニングしたソフトウェアをリリースすれば、問い合わせを受けた問題の大半が解決し、システムは安定すると考えていた。今までもそうであったから。チューニングしたソフトに新たな問合せ内容を当て嵌めて、事象が解決し新たな対応が必要ないレベルまでチューニングが進むところを見極めようとしていたワケだが、いくらやっても出口が見えないどころか、解決策が見つかり難くなり袋小路に入りつつあった。

アルベルトの上司であるマネージャは、そんなチームに何度か増員の要否を確認したが、頭数を増やせば解決する問題ではないということでアルベルトは断っっていた。しかしメンバーのオーバータイムワークが顕著になり始めると、労務管理上の問題を理由に増員することをアルベルトに申し渡した。

チームに転機が訪れたのは2014年2月。思いもかけないところからである。

N社はCEOが宣言した通り、2014年中に日本にオフィスを開設して本格的に日本市場への進出を狙っていた。そのための現地スタッフの募集を日本にある人材紹介会社に依頼しており、ナビゲーションシステムの開発経験が豊富なとある技術者の採用の話が動いていた。外資系企業でキャリアアップを指向していたその技術者をなんとか迎え入れるべく、欧州の本社に招いてオフィスを見学させるという異例の対応を取った。何しろまだ日本にオフィスが無いためだ。

本社を訪れたその技術者は、既に日本市場に投入された同社製品であるマツダコネクト・ナビの評判に当然のことながら興味を持っており、保守サポートのチームの仕事ぶりなどを見学させて貰ったのだが、顧客の問い合わせ一覧の内容に強い興味を抱くことになる。その一覧は、田中が一計を案じてN社に日々送るようにしたモノである。日本人の専門家として意見を求められた彼は、同資料を宿泊先のホテルに持ち帰って分析させてくれたら、翌日簡単なレポートを提出すると進言し、これまた異例の持ち出し許可を得る。そして翌日、そのレポートはN社のスタッフを驚愕させることになった。レポートの内容を要約すると、

多数発生している自車位置精度やルート案内の問題は、数年前に低価格を武器に日本市場に進出したものの、性能面で不満を持たれて廃れたPNDの評価に酷似しているように思われる。このことは日本の顧客が多少の価格の安さよりもナビに求める一定水準以上の性能や品質を重視している事を示しており、その水準に満たない商品は例え価格が安くても市場から淘汰される事を意味している。同社のナビについては、早急に品質(特にルート案内と自車位置精度)の向上を果たさなければ、マツダは遠からず国産ナビへの切り替えを真剣に検討するだろう。

といった内容。これはくしくも開発時点でマツダから強硬に性能向上を求められた点と符合するものであり、N社のスタッフとしては初めて、自社製品がマーケットニーズに合っていないのでは?という疑念と持つことになる。早急にCEOに相談したかったが、予定が合わずにその日本人技術者が帰国した後に打合せの時間がセットされる。CEOはレポートを読んでアルベルト、そしてマネージャに見解を求めたものの、にわかに信じがたいという表情だった。取り急ぎスタッフの更なる増員と、修正版ソフトウェアの提供に合せて技術スタッフの日本常駐を検討しはじめたが、程なくマツダからCEO名でレターが届く。その内容は、ナビソフトの品質に多くの顧客が不満を持っており早急なる品質向上が求められている事、N社には最大限の努力を期待する事、そして最後に、品質向上が早期に図られない場合は、マツダとして抜本的な対策を検討せざるを得ないだろう、と結ばれていた。

このレターは、過日の日本人技術者のレポートと内容が整合するものであり、事の重大性を物語っていた。更に日本に帰国した技術者が、N社への入社については結論を猶予して欲しい旨、人材紹介会社を介して連絡してくるに至り、悲願の日本市場に投入した自社製品は致命的な問題を抱えているという危機感を初めて持つに至る。

製品の日本市場投入からおよそ3ヵ月。気付くのが遅いといえばそれまでだが、危機感を抱いたN社の動きは早かった。秋頃に予定していた日本オフィスの開設を大幅に前倒し、技術スタッフを大挙して日本に常駐させ、マツダコネクト・ナビの品質改善に最大限の努力をすることを決めたのだ。

このことは当然、マツダにも伝えられたが、2014年4月にはマスコミを集めての記者会見を開いて同社の日本市場進出をアピール。オフィスは東京とマツダの本社がある広島のおおよそ中間に位置する名古屋とするなど、同社製品を日本市場のニーズに合わせるべく、最大限の努力を図る事となる。

尚、マツダにとっては救世主とも言えた例の進言を行った日本人技術者が、その後N社に入社したかは定かではない。

第八章につづく
Posted at 2015/02/02 20:43:06 | コメント(3) | トラックバック(0) | フィクション | その他

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