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2015年02月01日 イイね!

マツダコネクト物語:第六章

マツダコネクト物語:第六章※この物語はフィクションです。登場する人物、企業、製品、団体等は実在するものとは全く関係ありません。デッチ上げww

第六章:国産ナビに向けて

田中がサポートチームを率いて苦闘し、松本が国産ナビ開発の機関決定を得るために奔走している中、小峰も密かに国産ナビ開発の下準備に暗躍(苦笑)していた。なにしろ会社がまだ正式に認めていないマツダコネクト・ナビの国産化である。しかも自社開発ではなくサプライヤーに頼む事になる以上、社外の人間と話をせざるを得ない。松本から「危ない橋を渡っている自覚を持って」と釘を刺されるまでもなく、慎重に事を進めなければならないのは承知していた。

先ず相談の門を叩いたのは、マツダコネクト・ナビのコンペでN社に敗退したA社である。そのときに提案書を作成してくれた課長と主任技術者に協力して貰えるように松本が根回しを済ませてくれていた。

しかし実際に事を進めるのは容易ではなかった。先ず先般のコンペのときとは状況が全く異なる。既にマツダコネクトは完成し、H/W、S/Wの仕様も決まってしまった後の事。そこにA社のナビソフトを載せて欲しいという話なワケで、見積りを依頼するには仕様詳細を開示しなければ話が進まない。しかし会社が正式決定をしていない以上、現場担当者の一存で機密情報を開示するワケにもいかない。
先ずはシステム仕様の概略を口頭で説明し、打ち合わせの場ではPCのスクリーンに映した図面等を見せながら最低限、今回のビジネスがもし正式決定した場合の開発イメージを掴んで貰うという、些か迂遠な方法を取らざるを得なかった。A社の技術主任も事情は百も承知してくれ「あくまでも将来のビジネスに繋がる可能性がある」という名目で、このまどろっこしいアプローチに付き合ってくれた。当然のことながら全ての情報は開示できない。あくまでもA社が取引に応じられるかどうかを判断するための最低限の情報を提示する、その内容に沿ってどのくらいのスケジュール感、費用感で開発が可能かを検討して貰うというところが、最初のゴールという感じであった。
本来、必要情報一式を渡してまとまった質疑の時間を設ければ長くても数日で終わる作業だが、広島と静岡を何度も往復して結局1ヶ月。そこからA社側の検討期間が三週間ほど掛かった。

2014年1月下旬に入った頃にA社側から結論が出たとの連絡が入り、小峰は急遽静岡に赴いた。
これまでの流れから、色よい返事は難しいかもしれないと覚悟を決めて出向いたが、嫌な予感は的中した。A社側は課長、技術主任に加えて部長の三名が出迎えてくれた。

部長:遠路、ご足労頂いて大変恐縮なのですが、弊社としましては今回のお話が仮に具体化したとしても、協力させて頂くことは困難とお伝えせざるを得ません。

小峰:そうですか。非常に残念ですが仕方がありません。

部長:御社の松本課長からお話を頂き、状況が状況という些か変則的な形ではありましたが、将来のビジネスの可能性ということでお手伝いさせて頂きました。しかしながら一昨年にお話を頂いたときとは内容が随分変ってしまいました。弊社としましても、ワールドワイドに製品を供給できるのであれば大変魅力的なお話なのですが、他社のナビソフトが載る前提で設計されたH/Wにわが社のナビソフトを載せることの難易度もそうですし、供給量が日本国内に限定されるというのであれば、正直なところビジネスとしての旨味はほとんどありません。我々も営利企業である以上、そういったお話であれば、手を挙げることは難しい。ご理解頂ければ幸いです。

小峰:もちろんです。逆にこれまでこのような非公式なお願いにも関わらず、多大なご協力を頂いて感謝しています。


小峰は恐縮しつつ、頭を下げた。今度は技術主任が話をはじめた。

技術主任:今回の件もあって実はマツダコネクトの評判などを気にしてネットで少し調べてみたんですが、なかなかご苦労されているようですね。

小峰:・・・

技術主任:開示して頂いたH/W情報で、ジャイロが2Dという事がとても奇異に思えましてね。もしかしたらこれはN社からの要望か提案で設計が決まったのではないですか?

小峰:それは・・・実は、、、


言いかけたところで技術主任は慌てて小峰の言葉を遮り続けた。

技術主任:あ、お答え頂かなくて結構です。これからお話しすることは私のあくまで私見ですが、理由や経緯をお答えくださらなくて構いません。ただ聞いて下さい。恐らくN社のエンジニアがCMUの設計を固める際に、ジャイロセンサーは2Dで良いと言ったのではないかと推察しています。国産のナビでは3Dジャイロが常識です。地図データには傾斜情報がほとんど含まれていて、ジャイロから車両の傾きと地図の傾斜データを照合して自車位置を補正することは、日本のナビメーカーであれば、どこでもやっている処理です。一方海外では日本ほどに自車位置精度に対する要求が高くありません。実際我々も海外でナビを提供していますが、日本製のナビの自車位置精度の高さは、外国のお客様からも意外に価値を認めて頂けません。ですからN社も、これも私の勝手な憶測ですが、ジャイロを3Dにしても、地図に傾斜データが含まれていても、それらの活用ノウハウがそもそも無かったのではないかな?と推察しました。彼の地では、そこまでの要求がないですから。

課長:今回のお話では、CMUのH/W設計には可能な限り手を加えたくないとのことでした。
(技術主任の)彼が申した通りで、CMUはあくまで全世界共通仕様に拘るのであれば、日本仕様のナビの自車位置精度向上策は2Dジャイロを前提とする以上、非常にハードルの高いものになります。日本専用のCMUを設計して、私どもから提供させて頂く事が可能であれば我々としても協力の可能性は高くなりますが、その点について現時点での確約が難しいとなると、我々も尻込みせざるを得なかったのです。

小峰は黙って聞くしかなかった。ただ流石に専門メーカーの技術者である。限られた情報開示と現行マツダコネクト・ナビの不具合情報から、原因や設計の経緯をそこまで洞察するとは、、、

技術主任:国産ナビの自車位置精度についてはパイオニアさんが文字通りパイオニアですが、彼らの3Dハイブリッドセンサーの技術と性能は我々から見ても素晴らしいものです。例えば東京都内など比較的道路の入り組んだエリアで、意図的にGPS信号を遮断して走ると、どうなると思います?

小峰:?

技術主任:GPS信号を遮断する直前の自車位置が正確であることが前提ですが、信号を遮断して走り回っても自車位置がほとんど狂いません。勿論少しずつズレは生じますが、交差点を曲がったり、傾斜のある道路を上って下って、と走り回る都度、マップマッチングとジャイロとパルスによる自立走行が絶妙に絡み合って、要所要所で自車位置補正が掛かるんですね。結果として概ね正しい自車位置を維持し続けます。あれは我々同業から見ても驚異的というか、素晴らしい性能です。勿論、自車位置が狂った状態で信号を失えば、正しい位置に補正されるかどうかは運次第、となりますがね。

課長:というワケで、カロッツェリアのナビのそんな性能をベンチマークに各社がしのぎを削る国産ナビに、外国メーカーがしかも2Dジャイロというスペックに劣るH/Wでは、日本のお客様を満足させる性能を出すのは困難でしょうね。


今語られた話は恐らく日本のナビ業界では常識なのだろうが、自分は全く知らなかった。こんなことも知らずに我々は海外のナビメーカーに依頼し、そして今、性能面の課題に直面して苦労しているのか、と思うと彼らを目の前にして恥かしい気持ちにもなってくる。その一方で、仕事の話を断わった上でこのような話を聞かせる彼らの真意を量りかねてもいた。外国メーカーを採用した腹いせに皮肉を聞かせているのか?そんな疑念がチラリと頭を過ぎったときに、再び部長が話を始めた。

部長:雑談はこのくらいにして、今回のお話に我社は残念ながらお手伝いは難しいのですが、我々の協力会社、まぁ下請けとも言えますが、小さくても優秀な技術者を擁する会社が何社か、彼らをご紹介することは出来ます。

小峰:えっ?

部長:既製のH/Wにソフトを載せるだけのビジネスで、しかも短納期というのであれば私共のような所帯の会社ではなかなか対応が難しいケースも、彼らのような小回りの利く会社の方が、もしかしたらお力になるかもしれません。

小峰:・・・ありがとうございます。その、大変助かります!


正式に依頼をする前に断わられ、今後はどうしようか?どうなるのか?と不安を抱いた矢先の思わぬ申し出に、一瞬なんと口にすれば良いかと思ったくらいの驚きだった。更に、、、

技術主任:会社は小さくても本当に優秀なプログラマを多く抱えている会社ばかりですから、喜んで引き受けてくれるところが必ずありますよ。そのときに、小峰さん。ポイントは車両の傾き情報と地図の傾斜データです。これを上手く活用できるかがポイントです。先ほどお話した通りで、、、

課長:ジャイロから情報を得られないとすれば、何か代替策が必要ですね。


小峰はハッとなった。さきほどはなぜそのような話をしていたのか合点がいかなかったが、彼らは自分たちの会社で仕事が請けられない代わりに他の会社を紹介してくれたばかりか、その際に今のシステムの問題を解決するための重要なヒントまで授けてくれたのだ!

小峰:ありがとうございました!

小峰はガタッと音を鳴らして席を立つと、深々と頭を下げた。目蓋の奥に熱いものがこみ上げてきて、顔を上げることが出来ない。

部長:これからご苦労が多々あると思いますが、日本のナビメーカーは大きいところから小さいところまで、そうやすやすと外国のメーカーに遅れを取ったりしません。是非、良い製品を開発してお客様に喜んで貰って下さい。

小峰:ハイ!ありがとうございます!!




その日の内に広島にとんぼ返りすると、小峰は早速、松本に全てを報告した。松本はA社が今回の件を請けてくれないかもしれない点を危惧していたので「やはり」という顔をして聞いていたが、ナビ開発経験の数社を紹介してくれた件を聞いて、早速社名を確認した。そして険しい表情になった。

松本:どこも、ウチとは取引実績がないな、、、

小峰は一瞬、直ぐに基本契約や機密保持契約の手続きを進めて、、、と思ったところで松本の険しい表情の理由を悟った。

A社とは過去に取引実績があり、会社間の基本契約、並びに機密保持契約を結んでいた関係もあって、今後のビジネスの可能性という名目でもある程度の情報開示は大きな問題にならないとの認識で事を進められた。実際に開示した情報の一部は厳密に言えばコンプライアンス違反の疑いはあったが、書類等を渡さず、メールでのやり取りもせず、あくまで小峰が先方を訪れたときに担当者に紙やPCのスクリーン、口頭で情報を伝達したのみだ。云わば証拠を残さない形で進めていたため、万が一にも後々問題になることはないように配慮していた。

しかし紹介してもらった数社はどこも取引実績が無いので当然、基本契約も機密保持契約も無い。会って自己紹介することは出来ても、具体的にビジネスの話を進めることが出来ない。なにしろ国産ナビ検討の許可は、結果的に2月の役員会で了承されるものの、それまではこれらの会社と一連の契約を取り交わす口実がない。担当者の一存で社内資料を開示すれば立派な情報漏えいだ。

松本は小峰に「A社のようなワケには行かない」ということを口が酸っぱくなるほど念押しし、先ずはそれぞれの会社にコンタクトを取る事、国産ナビの開発の可能性がある事と基本的な前提条件(H/Wが決まっていること、CPUやOSなど、マツダ技報で開示しているレベルの情報まで)を伝達し、見積りを取るために必要な情報の事前確認と、見積り回答に要する時間など、とにかくGOサインが出た後に即座に事が円滑に進むための下準備のみに限定して動くように指示した。無論、見積りに必要な情報開示のために各種契約書は、社の捺印をして出状する一歩手前の段階まで準備した上で、待ちとなった。

そして2月の役員会で国産ナビ検討の了承を得ると、小峰は各社に一斉に契約書を配布。押印された契約書の返送を受けて見積りの依頼書を送付した。検討期間は僅かに1ヵ月。各社の見積りは1~2週間で回答が得られる予定だが、小峰には他にもやるべきことが山積していた。

第七章につづく
Posted at 2015/02/02 00:15:26 | コメント(2) | トラックバック(0) | フィクション | その他
2015年01月31日 イイね!

マツダコネクト物語:第五章

マツダコネクト物語:第五章※この物語はフィクションです。登場する人物、企業、製品、団体等は実在するものとは全く関係ありません。事実じゃありませんww

第五章:役員会緊急議題

アクセラ発売から丁度3ヶ月になろうとする2月の下旬。定例の役員会の議題にマツダコネクトに関する最新状況を報告する場が設けられた。販売の現場に寄せられるお客様の声、コースセンターへの問い合わせ、ウェブサイトに投稿されたオーナーズボイス、その他、マツダコネクトに関わる様々な事象を各部門が報告することになる。製品の主管部局の担当責任者である松本も、製品の保守担当である田中から詳細な情報を入手して報告書をまとめることになった。

田中:・・・以上がこれまでの動きと関連する資料一式です。

1月下旬に役員会が緊急議題としてマツダコネクトを取り上げる旨、通達が出てから直ぐ田中は松本からの指示を受けて報告のネタを準備していた。

田中:いよいよですね。第一関門。

松本:想定よりひと月早い展開だな。勿論これは嬉しい誤算というヤツだが、、、

田中:頑張って下さい!

松本:あぁ、これで道筋を付けられなければ田中君の苦労が報われんし、小峰君の出番が無い。しかしこの短い時間によくここまで状況を整理してくれた。この2ヶ月は大変だったと思うが。

田中:ウチのチームには今、「女神さま」が居ますからね♪(^_-)-☆

松本:めがみさまぁ??(・・;)?


田中の言うめがみさまが、12月中旬に田中のサブである大島から相談されて起用した派遣社員の女性である事に、このときの松本は思いが至らなかった。

事前に想定してたのは3月の役員会であったが、それを1ヵ月前倒す形で松本は国産ナビ開発の道筋を付ける機会を得た。松本にとっての最初の戦場である。

担当部門としてマツダコネクトの問い合わせ状況、不具合の対応状況や課題を整理して報告するのは勿論だが、松本は役員会を仕切る経営企画部門に働きかけて、役員会当日の議事進行を練った。報告を上げて貰う他部門の報告内容にも、他車種(例えばCX-5やアテンザ)とときとアクセラの対比を必ず盛り込んで貰うことなどを提案し、密に連携しながら準備を進めた。

自動車会社としては小さな規模のマツダではあるが、他の業種業態を含めて見渡せば、十分に大企業である。役員会は当然、会社の舵取りを担うわけであるが、過去の投資、現在の生産と販売、今後の開発、生産に関することなど、役員が決済しなければいけない重要事項は多い。そういった数多くの案件を役員会という短い時間で処理していかなければならない。

経営企画部門の手腕が問われる場である。

出席する役員に如何に案件のポイントを短時間に正確に理解して貰うか?その上で、何を選択することが会社にとって最善の選択かを諮り、GO/No GOを判断頂く。役員会に「困りました。どうしましょう?」などと問い掛けても無益だ。上申する主観部門が明確な意思を持って「これが会社にとって最善だからやらせて欲しい」と訴え、許可を得るのが役員会の場である。そういう意味に於いては、マツダコネクトの問題は最近の会社にとっての重要案件ではあったが、数多く存在する案件のひとつに過ぎないこともまた事実であった。

そう、役員会の議題として取り上げてもらうことにはなったものの、緊急議題に上がる以前から戦いは既にはじまっており、役員会当日までの準備如何で勝敗のすう勢は決まる。当日の審議は無論、勝敗を決する正念場ではあるが、万全の準備をして臨みたい松本であった。

2014年2月某日:役員会当日。

マツダコネクトに関する報告は松本の思惑通りに進行した。先ず販売部門、そして顧客と接点がある各部門からその"異常ぶり"が次々に報告された。特に各部門が一様にCX-5、アテンザの両車種との対比を示したのが効果的だった。アテンザは発売後に減速エネルギー回生という新機構の中核部品に欠陥が見つかってリコールを行っているが、そのときの状況が良い比較材料になったのだ。緊急の出荷停止措置を行ってからリコールの発表までの半月間、販売店やコールセンターには多くの問い合わせが殺到して混乱状態となり、リコール発表後、数ヶ月の対応期間を経て収束しているのだが、それが実質的に大きな問題が何も無かったCX-5との違いとして顕著に現れていた。そしてアクセラは、アテンザのリコールで生じた混乱に近い状況が、発売開始後の間もない時期から生じていて、それがほぼ常態化している様がハッキリ表れていたのだ。
それらの報告を受ける形で最後に商品本部から、マツダコネクトの担当として松本が問い合わせ対応の状況と原因分析、今後の見通しを報告した。役員会の場に集う顔ぶれの中にあって、かかる事態を招いた張本人とも云える松本だが、報告内容は客観的、かつ説明口調も分析官とも評論家とも云える冷静なものだった。問い合わせはナビを中心にシステムの広範囲に及ぶこと。システムの再起動が度々起こり、不安定なシステムという印象を与えていること。日本市場向けナビは特に不具合と思われる問い合わせが多いこと。日本以外の仕向地のナビには意外に同様の不具合報告がないこと。日本向けナビの不具合修正に時間が掛かっていること、など。

松本の報告が終わった後、役員のひとりが呟いた。

役員A:或る程度覚悟はしていたが、予想以上だな、これは。

役員会のメンバーは当然、マツダコネクトの開発にGOサインを出したことも、アクセラの市販を目前にして日本国内向けのナビに大きな不安がある事も、そのナビが今回日本市場に初めて投入されるN社製のソレである点も承知していた。全てこの場で、このメンバーが決めたことだから。

役員B:ナビの不具合対応の見通しは?N社の対応は開発時点から変化はあるのか?

松本:マツダの担当者からお客様の声を併せて粘り強くコミュニケーションを取り続けた結果、少なくとも現場レベルでは開発時とは動きが変りつつあります。しかし目に見える結果には残念ながらまだ。。。


このやり取りは、役員が開発過程で苦戦をした経緯も、N社側の対応が必ずしもマツダの期待通りではなかったことも承知していたことを物語る。

役員C:私はアクセラを発売するまでは、マツダコネクトのようなシステムやナビの出来が、クルマの評価にこれほど大きな影響を与えるとは、正直思っていなかった。スタイルも乗り心地も燃費も、大変満足していると仰っている(ユーザーズボイスの)お客様が、ナビの不具合でアクセラを買ったことを後悔しているとすら仰る。しかもひとりやふたりじゃありません。恥ずかしながら、認識が甘かったと認めざるを得ませんね。

他の役員は黙っていた。しかしこれは、他の複数の役員も同様であったことを物語っていたのかもしれない。長く既製品のディーラーオプションに甘んじていたマツダの、初のシステムであった。それが顧客満足度に与える影響は、調査会社のリサーチレポート等で知識としては理解していたかもしれないが、実感が伴っていなかったとしてもやむを得ないことかもしれない。しかし商品を購入した顧客からすれば、当然仕方が無いでは済まされない。

CEOが口を開いた。彼はマツダコネクトの開発にGOサインが出た後にCEOに就任していたが、それ以前の経緯にも当然関与はしていたし、かかる事態を如何に収拾するか?について全責任を負う立場だ。

CEO:過去の経緯に思いを致しても仕方が無い。我々として反省すべき点は素直に反省するとして、問題はこれからどうするかだ?ナビ以外の部分の品質改善は可及的速やかに実施するとして、ナビに関しての見通しは?やはり国産の投入は避けられんか?

スクリーンには発表資料の最後のページ「今後の課題」が投影されている。そこに掲げられた課題の最後のひとつに「国産ナビ開発の検討」と記されていた。松本が応じる。

松本:現行ナビプログラムの改善は継続します。お客様の不満を解消するにはもっとも早道です。N社にも事態の重要性を正しく認識して頂くよう、願わくば会社名で品質改善の取り組みを加速するよう申し入れをお願いしたい。

役員D:それは直ぐに出そう。開発担当の私と、調達関係のEさんの連名で。

CEO:いや、私の名前で出そう。事の重要性に対するマツダの認識を示す意味でも、その方が良かろう。

松本:ありがとうございます。担当としても全力を上げます。それはそれとして、両社の努力がお客様の期待に届かないリスクに対して、コンテンジェンシープランは必要と考えています。これ以上の改善策が見付からない手詰まりに至ってから国産化の検討を始めたのでは、市場投入は更に先になってしまい、解決までに多くの時間を要します。

CEO:よろしい、私は国産の検討を許可したいと思う。上手く品質改善が果たせれば良し。期待に届かなくても代替策の準備があれば問題解決の目処もたつというものだ。皆さん、異論はありますか?


他の役員から異論は出なかった。CEOはマツダコネクトを含めた商品開発を束ねる役員の方を向いて述べた。

CEO:うむ。では早急に国産ナビの検討を開始し、来月の役員会に申し立てるように。そこで開発の是非を判断したい。

役員D:わかりました。


CEOは役員から松本に視線を移すと続けた。

CEO:検討結果は来月の役員会に必ず間に合わせるように。開発期間、コスト、事業計画への影響、数字は多少粗くても構わない。開発は半年なのか一年なのか。コストは2割り増しなのか倍なのか、マツダコネクト事業は赤字になるのかならないのか?今回に関しては正確性よりスピードが大事だ。材料が全て揃わなければ判断が出来ない。その点を十分に留意して検討結果を持ってきてくれ。

松本:承知しました。ありがとうございます。


松本は席を立ち、役員たちに向かって深く頭を下げた。

最後にCEOが付け加えた。

CEO:但し国産ナビの検討開始は、当面極秘だ。N社はグローバルには大切なビジネスパートナーであり、日本以外の仕向地に対しては引き続き同社の製品の提供を受けることになる。両社の関係に余計な亀裂が生じないよう、くれぐれも配慮を怠らないように。

松本:了解しております。それは、もう。


日本市場向けの国産ナビ開発具体化に向けて、会社から正式な許可を得た瞬間だ。これで小峰技術者は自由に動けるようになるが、与えられた期間はたった1ヵ月。そこで国産ナビの市場投入の実現性と、それが今、我々が抱える問題の解決策に成り得ることを役員たちに認めて貰う必要がある。

松本と小峰の戦いは、ここから最初の山場を迎える。
Posted at 2015/02/01 11:55:14 | コメント(3) | トラックバック(0) | フィクション | その他
2015年01月30日 イイね!

マツダコネクト物語:第四章

マツダコネクト物語:第四章※この物語はフィクションです。登場する人物、企業、製品、団体等は実在するものとは全く関係ありません。作り話ですからwww

第四章:険しい道

2013年11月下旬から、田中をリーダーとし大島沙織をサブリーダーとするサポートチームは、いきなりアクセル全開の激務に追われることとなる。ディーラーやサポートセンターには多くの苦情が寄せられたが、その数は予想を大きく上回った。

田中は早くも二つの誤算に悩まされることになる。

ひとつは、ナビゲーションに集中すると思われたトラブルは確かにその通りとなったのだが、ナビ以外のオーディオ、ラジオ、アプリケーション、そしてシステム全体の不安定さにも多くの不具合の声が寄せられことだ。当然、対応するには要員を割かねばならず、もっとも手厚くしていたナビの対応体制はいきなり縮小を余儀なくされた。

ふたつ目は深刻であった。サブリーダーの大島がいち早くその兆候に気付き11月末には田中を呼びつけて密かに進言していた。

大島:このままじゃマズイ。このペースで行ったらみんなもたないょ。田中君

メンバーは全員、開発に携わった者で、事の経緯は全て承知していた。人選は田中に一任されていたが、早速サブに大島を据えると、二人で比較的タフなメンバーを人選したつもりだった。品質に大きな不安があるシステムをみんなで頑張って良くしていこう。お客様が抱くであろう不満を一刻も早く解消しようじゃないか。田中の熱い想いに皆、同意してくれた頼もしい仲間たちの筈だった。ところがこれが逆に仇となる。いかんせん皆、真面目過ぎた。社内では誰も経験したことのないような内外のクレームにさらされ、謝罪し、一刻も早く問題を直そうと懸命になる。皆が知らぬ間に自分自身を追い込んでいった。
そして大島の懸念が12月初旬には早くも現実のものとなる。女性技術者のひとりが体調不良を訴えて早退したのだが、大島は産業医のところに寄ってから帰れと指示した。彼女が退席すると大島は即座に産業医に連絡を入れ、それとなくカウンセリングをして欲しいと依頼。大島の予感は的中し、心的ストレスにより精神疾患の兆候があるという事だった。アクセラ発売からまだ半月足らずだ。
結局その女性技術者はチームから外れることになるが、この更に一週間と経たずに男性社員一名が無断欠勤。翌日には出社するが明らかに様子がおかしく、結局12月末でチームを離れることになる。

田中は自分の見通しの甘さを痛感せずにはいられない。会社はじまって以来と言えるこの事態に、皆がなんの問題も無く対処出来る筈がない。メンバーのメンタルケアの重要性を認識し、大島と二人で手を付けられるところからはじめてメンバーの緊張を解こうと試みるが、チーム発足にあたり「120%の実力を出そう」という勢いだった田中が、いきなり「マイペースで良い」と諭したところで、人間そう簡単にモードが切り替えられよう筈もない。このままではチームが崩壊する。システムの品質を改善するどころではない。

田中と大島のこの危機を救ったのは、実は一人の女性派遣社員だった。

一計を案じた大島が「一人、イイ娘を知っているんだけど」と田中に持ちかけたのが最初の離脱者が出た12月初旬。くしくも二人目の離脱者が欠勤した日に「1月から契約できると回答を貰った」と再度プッシュされた。離脱した1名の補充の当てもない。そしてもう一人の離脱者が出るかも?という現実を前に、田中にはなんの打開策もない。

田中:任せる。松本さんに直接言って進めてくれてイイよ。田中とは合意済みってことで。

大島:ありがと。アタシの思惑通りなら、彼女がきっと私たちを救ってくれる。


男勝りと評されながらも男女を問わず社内から信頼が厚い大島をして、そこまでの高評価を得た派遣社員の女性とは一体どんな才女なのか?後日見た経歴書に「冴木香織」という如何にも切れ者と思わせる名前があったが、彼女は技術者ではなかった。
1月の仕事はじめの日にはじめて彼女と対面するのだが、名前から連想された人物像には遠い、やや小柄で気持ちポチャっとした、如何にも癒し系の普通の若い女性であった。しかも声のトーンがやや高い上に口調がほわっとしていて、話している内容に関らず"ちょっと天然?"という印象すらある。頼りになるというよりはどちらかというと、いやハッキリと「たよりになりそうもない」というのが田中の正直な第一印象だった。

ところがこのたったひとりの派遣社員の女性が、製品の市場投入から1ヵ月ちょっと、殺伐とした荒野のごときサポートチームの雰囲気を、半月足らずで緑の草原に変え、2月に入る頃にはなんとお花畑に変えてしまうのだった。その変化の様子は田中をして、どんな魔法を使ったのかと舌を巻くほど。大島がニヤニヤしながら「どう?田中君。彼女の威力、凄いでしょ?」と水を向ければ、田中はもう言葉も無くただ黙って頷くしかなかった。後に田中は彼女のことを「女神さま」と呼ぶようになるだが、こうして出だしから大きな危機に直面した田中はなんとかこの難局を乗り切り、彼が本来もっとも注力すべきN社との共同作業に軸足を移すことになる。しかしここまでで既に貴重な2ヵ月が失われていた。田中の思惑からは約1ヵ月は遅れているが、勿論何もしていなかった訳ではなく、必要な布石は着実に打っていたのだが。

※田中から「女神さま」と呼ばれる派遣社員・冴木香織の活躍の仔細は本編とは関係が薄いためここまでとするが、読者の強い要望と筆者の気まぐれによっては、紹介する機会があるかもしれない(笑)。


2014年1月某日。丁度定時になったところで、田中はN社のサポートチームのリーダーに連絡を取った。N社がある欧州某国と日本の時差は8時間。現地時間は朝の10時ということになる。

田中:おはよう、アルベルト。

アルベルト:こんばんわ、トモヤ。


トモヤ(智也)は田中の名前である。日本は夕刻、向こうは午前中のため、いつの間にかこういった挨拶を交わすことになった。
ちなみに相手のフルネームはジュルタ・アルベルト。

アルベルト:調子はどう?

田中:うーーーん、そんなに良くは無いな。

アルベルト:おいおい、たのむぞ!トモヤ。

田中:君の方はどうなんだ?

アルベルト:うーーーん、こっちもあまり良く無いな。

二人:(苦笑)

田中:今日、新たに事象の再現性が確認出来たインシデント3件のデータを送った。確認を頼む。

アルベルト:了解だ。ふぅ、日本市場とお客様はなかなか厳しいねぇ。


田中のチームに寄せられた情報は、そのまますぐにN社には送られない。先ずは事象の再現性を確認し、そのときの各種情報(GPS、車速、ジャイロ)やナビプログラムの動作ログをセットでN社に送り解析を依頼する。いわば一次切り分けである。過去に起こった事象に近いモノをグルーピングしたりもするが、不具合と疑われるモノはN社に送って基本的には確認結果を求める。

田中:最新の状況は?

アルベルト:実はちょっと聞いて欲しいことがあるんだ。イイかな?

田中:OK。どうぞ。

アルベルト:インシデントNoの89と132なんだが、どちらも自車位置を喪失したケースだ。


アルベルトは二つの事象を簡単に説明すると、それがどうして引き起こされたのか技術的な説明を始めた。田中はときどき相槌を打ちながら聞き入った。

アルベルト:・・・というワケで、どちらもGPSとマップマッチング処理のバランスを調整することで問題の修正は可能なんだが、、、

田中:それで?

アルベルト:両方を同時に解決する方法が見つかっていない。89を解決しても132は直らず、132を直すと89が再びダメになる。

田中:プログラムロジックを修正する可能性は?

アルベルト:それは影響が大きいが、昨日の午後から検討をはじめた。ただロジック修正を行えば今まで問題が無かった部分にも影響が及ぶリスクがある。確認作業に時間が掛かることになるんだ。

田中:それはその通りだな。そう、君はどうするつもり?

アルベルト:最小限度のプログラム修正で解決策が見つかるかは試してみるつもりだ。同時にチューニングで解決できないかも試行を継続する。

田中:了解した。実はボクも相談したいことがあるんだが、、、

アルベルト:なんだい?


先方から今回のような突っ込んだ話題を持ちかけられたのは確か三回目くらいだったと思った。そろそろ潮時かな?という感触を得て、田中は予てから考えていた話をアルベルトに持ちかけた。

田中:今我々には日々、日本のお客様からの問い合わせが入っていて、我々の確認が取れたものから順次、君たちに解析依頼している。

田中は意図して「障害」とか「修正依頼」という言葉を避けている。

田中:だが、我々が事象の確認が終わらないために君たちに解析を頼めない問い合わせがいくつかある。どうだろう、その問合せ一覧を日次で君たちと共有してはどうかと思うんだ。両社の取り決めには反するが、、、

アルベルト:目的は?

田中:日々どんな問い合わせを我々が受けているか、リアルタイムで君たちにもわかる。日本市場の声だ。今回初めて参入した市場の声に触れることは、悪く無い話だと思わないかい?勿論、解析は従来通り我々から依頼したものが優先だ。

アルベルト:ふーむ。。。。。OK。君のアイディアに同意しよう。マネージャにはボクから話しておく。

田中:ありがとう、アルベルト。君の同意に感謝する。


定時連絡を終えた田中は「よし!」とひとり小さく拳を握りしめた。


アクセラの発売を1ヵ月後に控えた10月某日。課長の松本は田中を呼んで次のような話を持ちかけた。

松本:田中君。やはり国内向けには国産のナビを投入せざるを得ないと思うんだが、君の意見は?

田中:それはそう出来ればそれに越したことはないでしょうが、準備には相応に時間が掛かりますし、ハードル(役員会)をどうやって突破するかも難問ですよ。

松本:それは十分に承知しているが、今のクオリティでN社のナビがどのくらい日本のユーザーに受け入れられか、楽観的にはなれない。大きな不満が出たことを受けてはじめたんでは時間が掛かり過ぎる。最悪のケースを想定して、前広に準備を始めた方が良いと思ってな。

田中:小峰君の熱気に当てられましたか?課長。

松本:茶化すな!だが結局、彼の主張がもっとも現実的な解決策かもしれん。

田中:国産の準備を密かに始める事には賛成です。ただ、私はN社のナビの品質をなんとか改善出来ないかと最近ずっと考えているんです。

松本:ほう。

田中:N社の技術力は確かですし、それは欧米向けのナビの評価でも明らかです。結局、日本向けがこういう状況になっているのは、彼らにとって初めて経験する市場のニーズを、我々が正しく彼らに伝えられなかった事に根本原因があると思うんです。

松本:うむ。

田中:今まで一緒に仕事をしてきて、彼らは決して不誠実でも技術力が劣るワケでもありません。我々と何が違うのかと言えば危機感です。その温度差がなぜ生じているのか、なぜなぜを何度もやって考えたんですが、結局知らなければ解らないってことです。

松本:つまり、我々と認識が一致すれば彼らの動きも変わる、と。

田中:そうです。いずれにしてもお客様からクレームが入れば何もしないというワケにはいきません。

松本:確かに日本市場のニーズを彼らが正確に理解すれば、対応もこれまでとは変わってくるかもしれん。だが製品が市場に出てしまえば、後は時間との戦いだ。今回の件でボクも勉強になったが、国産のナビシステムの位置精度は各社のノウハウの塊なのだろう。果たしてN社が追い付くのにどのくらいの時間が掛かるか、、、

田中:でも国産をやると言っても相応に時間が掛かる以上、品質を上げていく事はやらざるを得ないし、無駄にはならないと思うんです。

松本:やれやれ、田中君はボクに二正面作戦をしろ、というワケだな。国産ナビの準備と、N社ナビの品質改善と。

田中:ハイ。

松本:それじゃぁ国産ナビの開発は誰に頼もうか。

田中:それなら小峰君を推しますょ。松本さんは、どうせボクに国産ナビを任せる一方、製品サポートは自ら指揮をなさる腹積もりだったんでしょうが、指揮官が現場に降りて鉄砲撃ってちゃ戦争は負けますよ。前線の指揮は我々に任せて、後方で二正面作戦を指揮して貰わないと困ります。彼は良いモノを作りたいという強い気持ちと、簡単に諦めない粘り強さがあります。ちょっと直情傾向なところはありますが、松本さんの下で製品サポートという守りをやらせるより、短期間で国産ナビを仕上げるという攻めの方が絶対に活きますょ。

松本:田中君、君には負けたょ。よし!思い通りに突っ走ってみろ!骨は拾ってやる。

田中:ありがとうございます!


あの日に松本に宣言した通り、田中の最初の課題はN社と危機感を共有することだった。これが出来なければ開発時の二の舞いである。一度は失敗した事だが、今日の定時連絡で小さな手応えを掴んだ田中だった。
Posted at 2015/01/30 19:25:51 | コメント(5) | トラックバック(0) | フィクション | その他
2015年01月29日 イイね!

マツダコネクト物語:第三章

マツダコネクト物語:第三章※この物語はフィクションです。登場する人物、企業、製品、団体等は実在するものとは全く関係ありません。創作ですwww

第三章:異変


2013年11月21日に発売となった新型アクセラの販売は順調だった。発売後1ヶ月の受注台数は16,000台を超え、月間販売計画3,000台に対して5ヶ月分以上に達している。納車は11月に3,623台、12月に3,015台、そして1月には4,476台となり、発売から2ヶ月と10日で10,000台を超えるアクセラがオーナーの手に渡り、日本の道を走り始めることになる。

2014年1月某日。マツダのウェブサイトの管理部門、ユーザーズボイスの担当・石井裕子は新たなアクセラオーナーが投稿したオーナーズボイスを公開してから「う~ん」と思わず眉間にシワを寄せてPCの画面を凝視してしまった。ほどなく部門長である渡辺が背後から声を掛けた。

渡辺:石井さん、どうした?難しい顔をして。

石井:あ、渡辺さん、すみません。いえね、今アクセラのオーナーズボイスをアップロードしたんですが、、、

渡辺:お、またアクセラか。販売好調だからオーナーズボイスの投稿も流石に多いな。

石井:そうなんですが、ちょっと気になる事があって。

渡辺:それは、、、マツダコネクトかい?

石井:えぇ。発売直後から不満を書き込むオーナーさんはポツポツ居たんですが、最近ちょっと目立って多いかなーって気がして、、、

渡辺:そうかぁ。う~ん。


渡辺は少し考え込んでから石井にこう指示をした。

渡辺:石井さん。3月の役員会にアクセラのユーザー評価を報告することになっている。新型車の発売後にやるいつものアレだ。ユーザーズボイスの傾向分析にマツダコネクトの満足度を加える件はお願いしていたと思うが、少し切り口を詳細にして分析してくれないか。単なる満足、不満足だけではなく、マツダコネクトの何に不満なのか?という風に。

石井:ハイ。わかりました。私も少し気になっていたんで、どんな声が上がっているかまとめてみます。

渡辺:頼むよ。


通常の新型車の市場投入直後、新しい機能に対する評価は良好な声が圧倒的多数を占める。そもそもメーカーのユーザーズボイスに投稿するオーナーは、購入した新車に対する満足度が高いためそういった傾向が顕著に現れる。もちろん不満を感じたオーナーが文句を書き込むというケースもあるが、それは全体としては少数派になるのがこれまでのユーザーズボイスの傾向だった。
ところが、今度のアクセラには明らかに従来とは異なる特徴があった。デザイン、乗り心地や動力性能、運動性能といったクルマに対する評価は非常に高い。それは好評を博したCX-5、アテンザと比較しても全く遜色が無いどころか、もしかしたら更に上回るのでは?というくらいであった。ところが、そんな高い満足度を感じているオーナーのほとんどが、ほぼ次のように声を揃えたのだ。
「マツダコネクト以外は満足」と。
この傾向は石井が指摘した通り12月下旬から目立ち始め、1月に入ると顕著になった。クルマに対する満足度が高いオーナーがほぼ全員、新機能に対して不満があるとハッキリ言及するというのは未だかつて無かった事である。渡辺は嫌な予感を覚え、一体何が起こっているのか、ユーザーズボイスの分析という切り口で役員会に報告する必要性を感じたのだった。

しかし渡辺の懸念はまだ序の口だった。彼はこの後の一ヶ月の間に更なる異変を目の当たりにすることになる。

ユーザーズボイスを読んだ人が好印象を持った投稿に「拍手」を付ける機能があるが、マツダコネクトに対する不満を多く書いた投稿に沢山の「拍手」が付くという現象が生じる。その数はアクセラを称賛したオーナーズボイスの「拍手」の数を超えはじめた。拍手の数は100を超え、サイトの「拍手の多いコメントランキング」で上位3件をマツダコネクトへの不満が占めることになる。過去の事例でも拍手が100を超えるというのは多くの人の共感を得た意見であり、そんな投稿自体が決して多くは無い。ということは、それだけ多くのオーナーがマツダコネクトに不満を持っている事を示している。この傾向は納車が進むにつれてより拍車が掛かり、このときから1ヵ月後の2月下旬にはかなり具体的、かつ詳細にマツダコネクトへの不満を訴えた投稿に、なんと1,000を超える「拍手」が付く事態にまで発展する。ユーザーズボイスサイトを開設以来の異常事態である。


異変はコールセンターでも同様だった。新型車の発売直後はそれに対する問い合わせ等は増える傾向にある。それは納車が進むに連れて増加傾向を示し、或る程度のところで頭打ちとなる。そして暫くしてから減少傾向に転じて収束するのだが、多少の長短は有っても数ヶ月は掛かる。そして次の新型車が発売になると…というサイクルを繰り返し、コールセンターの回線は或る程度の稼働率となるわけだが、今回のアクセラ発売に際しては、上からの指示でオペレーターの数を増強していた。異例の措置とも言えるが、日本では2番目の量販車種である点と、全く新しいコネクティビティシステムを搭載した点に配慮してのことだ。
コールセンターの責任者である加藤は、コールセンターの稼働状況を報告する週次レポートを見ながら苦虫を噛み潰した表情で溜息をついていた。11月下旬のアクセラ発売以降、コール数がハッキリと増加したことは驚くには当らない。しかしその増加率が異常であった。オペレーターを増やしたにも拘らず、回線稼働率はほぼ100%から下がることなく推移している。お客様からは「繋がり難い」状態だ。繋がったお客様が「なかなか繋がらなかった」と漏らした声の数も多く、用件はアクセラに集中、更にマツダコネクトに関するクレームが圧倒的であった。これが他車種に関する問い合わせ数を結果的に押し下げる状況を作り出しており、実質的にコールセンターは機能停止(パンク)状態に近い。
しかも、寄せられた意見はマツダコネクトのサポート担当に伝達しているものの、その返答のペースが遅い!したがって寄せられた問い合わせと回答をまとめ、対応時間を短縮するFAQ整備も一向に進まなかった。

加藤:一体どーなっているんだ!?

加藤は電話を取りサポート担当の田中の内線番号を押しかけて止め、その上司の松本の内線番号を調べたところで思い留まり、再び受話器を置いた。既に何度も連絡は取っていた。今再び問い合わせをしても、直ぐに何かがどうなるものでもないと悟ったからだ。かといってこのまま指を加えて何もしないワケにもいかない。定常時より大幅に増強したオペレーターの数を、更に増やすことを上申するか?そうするしかあるまいと思い稟議書に書く文章を考え始める。3月の役員会を待っている余裕はなさそうだ。

社内の顧客対応部局は混乱の中にあった。新型車の発売に伴う様々な対応で一時的に業務量が増えるのはいつものことであったが、今回は明らかに何かが違っていた。そしてその中心にマツダコネクトがあった。
実はアクセラの発売直前、全社のマネージャクラス以上にはアクセラの発売に伴って、搭載された新しいコネクティビティシステムに対するお客様対応について指示が出ていた。しかしながら、それに関する受け止め方は個々の社員によって温度差があった。「これは何か懸念があるな」と察する者、「全く新しい商品故に予測不能な事態も有り得る」という一般的な注意喚起と受け取る者、「新型車に搭載される、目新しい機能のひとつ」と、いつものこととしか考えなかった者。これは新商品に実は些か不安があるという点をあえて曖昧にする事で社内に要らぬ不安や混乱を起こさせない配慮があったからだが、熟慮の末のこの措置が結果的に災いした。市場投入直後の顧客対応は統一感を欠き、その動きは万全とは言い難かった。

しかも寄せられた多くの不具合報告は、主管部局である松本や田中の予想を超えて、ナビ以外の部分も含めて多岐に渡っていた。

そんな中、一通のメールが全社のマネージャ以上に配信された。

「2月の役員会にマツダコネクトに関する各部局での対応状況を報告せよ。」

通常新型車が発売になると、販売部門は受注並びに売上(納車)実績、オーナーの声を1ヵ月を目途に取り纏めて速報を作成し、発売翌月の役員会に報告すると共にニュースリリースをウェブサイトに掲載する。次は3ヵ月後で、より詳細な情報を取り纏めてやはり役員会に報告していた。アクセラの場合2013年11月21日が発売日だから、2014年2月20日までの状況を各部門が取り纏めて3月の役員会に報告するというのが本来のスケジュールであった。

ところがこの通達は、発売後3ヵ月を待たず、しかもマツダコネクトに限定しての報告を直ぐに上げろというものである。

これも異例の事態と言えた。
Posted at 2015/01/29 22:05:12 | コメント(6) | トラックバック(0) | フィクション | その他
2015年01月28日 イイね!

マツダコネクト物語:第二章

マツダコネクト物語:第二章※この物語はフィクションです。登場する人物、企業、製品、団体等は実在するものとは全く関係ありません。本当にw


第二章:開発経緯

2013年12月某日。小峰は新幹線の車中にあった。11月のあの日以来、課長、主任と三人で密かに事を進め、慌ただしい日々を過ごしていた。新幹線の車中で時間があったことからふと、これまでの開発の経緯に思いが至った。

後にマツダコネクトと命名される新世代商品向けのインフォテインメントシステムの概要がまとまりつつあったとき、最後の検討事項となっていたのがナビゲーションシステムだった。自動車メーカーは自らナビゲーションソフトを開発することはなく、基本的に専業のサプライヤーから提供を受ける立場である。トヨタも日産もホンダも、車種別に専用設計され標準搭載されるナビの中身はナビ専業メーカーから提供されるソレである。マツダにとっては久々の、否、初めてと言っていい自社製システムに載せるナビをどうするか、ナビ関連の数社に協力を求めて勉強会などを行ってきた。

様々な事が解った。

先ず自社ブランドでナビを市販しているナビメーカーは、例え車種別の専用設計であっても原則としてアセンブリ提供に拘る事。つまりユーザーから見れば車両のダッシュボードに完全にビルドインされ、車両専用の情報表示や設定変更などの機能があったとしても、それはあくまでナビメーカーが「自社製ナビに車両固有の機能を組み込んだ製品」としてアセンブリ提供し、自動車メーカーの工場で車両に組み付けられるという事。逆にマツダコネクトのように、自動車メーカー主導で設計されたシステムにナビソフトのみを提供するというビジネスには消極的であること。
一方、ハードウェアの製造は行わずナビゲーションソフトのみを提供するナビベンダーも存在し、彼らは基本的に自社が持っているナビソフトに市場に応じた地図ソフト等を組み合わせ、自動車メーカーの要求に応じてHMIをカスタマイズして提供してくれる。こういったナビベンダーのソフトは基本的に持っている機能は同じでも自動車メーカーに応じて画面デザインが全く異なるため、カスタマイズの程度によっては中身が同じとは全く思えないような場合もあるほどだ。
以上からマツダコネクトに採用するナビは後者から提供を受けることになるだろうという結論になったのだが、ここで課題となったのがナビベンダー各社の対応地域のカバー範囲の問題である。意外やマツダが販売を行っている全地域をカバーできる会社は存在しなかった。欧米で実績があってもアジア圏に無い会社。主要国をカバーするが途上国や小国が対応範囲から漏れる会社。これは多分に、ナビゲーションソフトに対する各地域の需要にも影響されていると思われた。日本のように非常に高い要求水準の国と、現在位置と地図が見れれば良い程度の国とでは、当然のことながらナビゲーションソフトがビジネスになるかならないかに大きな差が生じる。それが各社の対応状況にも影響する。至極当り前の話だが、そういった事情についても改めて確認できた。

これらの事情を踏まえ、H/Wの仕様は統一したい、ナビベンダー複数社からソフトの供給を受けて全販売地域をカバーすること、ナビは基本的にはオプションとすること、といった基本要件を固めつつあった。

そんな矢先、2013年第3四半期に発売予定のアクセラにマツダコネクトを搭載できないか?という話が持ち上がった。検討チームは市場投入の時期を当初、2014年後半から2015年と考えていて、SKYACTIVを全面採用した新世代商品の最初のマイナーチェンジに間に合えば、というスケジュール感であったため1年以上の前倒しが必要となる。非常に高いハードルでチームにとっては大きなチャレンジとなるが、臆するメンバーはひとりとして居なかった。2013年の暮れをターゲットに新しいインフォテインメントシステムを世に問う。具体的な目標が明確に定まり、チームの士気はいやがうえにも高まった。

ところがアクセラを先行開発から、マツダコネクトの搭載を含めた量産試作へ移行させる件を諮った役員会で「ナビベンダーを一社に絞ることを検討せよ」という条件が付いた。

これまでの検討を踏まえて複数のナビベンダーから供給を受けるという申立に、あえてこの条件が付いた事情は些か説明が必要である。実は当時のマツダの台所事情は厳しかった。SKYACTIVを部分採用した既存車種の販売は思わしく無く、全面採用したCX-5のデビューは数ヶ月後。後にCX-5は大ブレイクしてマツダは業績を急速に回復していくのだが、このときその未来を予測出来た者は誰も居ない。もちろん社内の誰もが望んではいたが。開発コストは厳しく制限せざるを得ない。ここでいうコストとはすなわち人である。ベンダーが複数となれば対応すべき人的リソースも増やさざるを得ない。また、マツダコネクトは近年のマツダでは手掛けてこなかった全く新しい分野のシステムである。販売地域を網羅することに拘って限られた社内リソースを分散、手薄にした挙句に品質の悪い製品を世に出すことになる愚は避けたい。であれば先ずはシステムの土台を安定させる事を最優先に、ナビベンダーは一社に絞って限られたリソースを集中投下する。結果としてナビゲーションを提供出来ない地域が生じるのは止む無し。マツダにとって最重要となる地域(市場)さえ網羅出来れば"先ずは良し"という選択と集中を役員たちは考えたのだ。一旦安定したシステムさえ出来てしまえば、ナビの対応地域は徐々に拡大していけば良い。

至極、真っ当な経営判断である。

この指示(条件)を受けて、早速勉強会などに協力してくれた日本のA社、そして欧州のN社に具体的な協業の提案を求めた。つい先日まではまだ先行開発の段階であったモノが市販に向けたプロジェクトとなった事を両社は驚き、そして喜んだが、実はこのとき密かに日本のA社を採用することになるだろうとマツダ側では半ば結論付けていた。なぜならば、欧州のN社は日本をはじめとしたアジア圏に実績が無く、日本市場にナビを提供しないという選択肢は有り得ないからだ。N社は云わば、A社に決定するに当って複数社から相見積もりを取ったという事実を作る当て馬だったのだ。

ところがN社の提案は事前の予想を覆す驚くべき内容だった。先ず主要な取引先となる自動車メーカー、ナビメーカーとこれまでの実績、市場シェア、同社製品の特長や強みといった自社の紹介からはじまり、このプロジェクトを通じて日本市場に固有の要件(VICS、ETC/DSRC対応など)を実装するに留まらず、日本の地図に特有と思われる様々なチューニングを施すばかりか、日本製ナビの多くが持っているいくつかのメジャーな機能(オートフリーズームなど)まで盛り込むなど、24件に上る変更を施したナビソフトを提供すると提案してきたのだ。そしてそれらの実装に掛かる費用は彼らが負担。マツダには日本向けソフトの性能評価に協力を願いたいという要望。更に提供する日本仕様のソフトウェアのライセンスは他地域向けと遜色がないレベルに抑えること、今後想定される様々な機能強化などは希望に応じて受けられる(無償バージョンアップ)ことなど。その並々ならぬ意欲は、この提案を同社のCEOが自ら広島を訪れて行った事にも表れていた。

実はN社は欧米で主要自動車メーカーにナビを提供して20%以上のシェアを持つものの、日本をはじめとしたアジア圏に実績が無く、そこへの進出が近年の経営課題だった。欧米で販売する日本の自動車メーカーにナビを提供した実績は勿論あったが、日本国内向けには日本の強力なナビメーカー各社に阻まれ、なかなか参入のキッカケを掴めずにいたという背景があった。そこへ舞い込んだ日本の新車市場シェア4位のマツダへのナビ提供の話。しかもナビメーカーを一社に絞りたいというのであれば、これを受注出来れば独占供給の道を開くことになり、労せずして日本の新車市場の数%を握ることになる。気合が入らない経営者は居ないだろう。更に同社のCEOは、マツダコネクトを通じて同社のナビが日本市場に投入されてから1年以内に日本にオフィスを開設し、更なるビジネスの拡大を目指すという同社の方針を説明。もちろんマツダコネクト・ナビのサポート体制についても同オフィスが開設されれば、より充実したものになるだろうと語った。

一方で日本のA社の提案は極めて実直で、主要対応地域はカバーしているもののN社の提案に比べれば見劣りし、欧米地域での実績もN社には及ばなかった。N社が日本市場をカバーすると提案した時点で、A社の提案は手堅く安心感はあるものの、正直魅力には欠けると言わざるを得なかった。

こうして、ナビベンダーのN社と組むことに決め、マツダコネクトの開発は本格始動することになる。このとき、両社の関係者には確かに希望の光と明るい未来が見えていた。N社の実績には信頼感があり、技術力にも自信を持っている。日本市場への初参入と言う課題も、同社ならきっと無事にクリアしてくれるに違いない。

しかしその期待は、開発の途中から陰りが見え始める。

最初の兆候は、日本向けにカスタマイズとチューニングを施したソフトウェアのアルファ版が提供されたときのことだ。日本市場向けの25もの機能が実装を終え、基本的なテストが完了したバージョンである。その評価はアルファ版とは思えない素晴らしいもので、期待する機能がほぼ問題なく動作した。様々な条件で問題無い事を確認するなど本格的なテストとチューニングはこれからだが、今後大きな問題は起きないのでは?と思わせる程の見事な仕事ぶりであった。ところが追加された25機能とは裏腹に、ナビゲーションの基本性能とも言える自車位置精度が思いの外、良く無いことに評価担当者が気が付いた。ルート通りに走っているにも関わらず、なぜかリルートが起こる。最初は理由がわからなかったが、アルファ版であるということを鑑みて深く追求するつもりは無かった。しかし発生頻度が高いため注意して見ていると、ルート通りに走行しているのにどうやら自車位置がルートから外れたと判定されてリルートが起こるらしいという印象を持った。この件はこの時点でN社には伝えられる事は無かったが、ベータ版のテスト項目に確認事項として追加されることとなった。

この問題が注目を浴びはじめたのがベータ版の評価結果をN社に送り、対応版となるベータ2が提供された後であった。
ベータ版でも思いの外、厳しい評価となった自車位置の問題だが、これに対する両社の見解と対応がこのプロジェクトの課題を象徴していた。マツダはこのままの性能では市場ニーズを満たせないと大幅な性能向上を要求、一方でN社は自車位置精度の向上には十分な対策を講じており、後は実走テストを通じたパラメータチューニングで十分と考えていた。このような見解の相違に至った原因はやや複雑で、N社は自車位置精度向上のためのソフトウェアの改善を怠ったワケでは無い。それが証拠に、同一のソフトウェアコアを使用する他地域向けの仕様では、自車位置精度には何の問題も無く、むしろN社が他の自動車メーカーに提供している製品より動作が安定しているという印象すらあると、各地のテスト担当から報告が上がっていた。先ずこの報告でN社は自分たちの仕事の成果に自信を持つことになる。ところが日本の路上では実際に自車位置精度には問題があり、日本製のナビとの比較でも性能向上の必要性は明らかだった。これは客観的に見れば日本の地図、道路という環境の特異性に対するN社ソフトウェアの適合性の問題と言えたかもしれないが、或る程度の自信を持って提供した製品に対する意外に低い日本側の評価と、思惑通りの評価となった欧米等他地域の評価によって、N社は日本の評価チームが評価基準を不当に高く設定しているのでは?という疑念を持つに至る。これは日本市場に実績の無い彼らの誤解であったのだが、当時それを彼らは知る由もない。一方マツダ側は、日本以外の地域向け製品の高評価と、あまりに乖離した日本仕様の性能に困惑していた。各地域の担当に自車位置精度の性能評価に特に注意するように通達を出したくらいだが、「全く問題ない(No problem)」「素晴らしい(excellent)」といったレポートが返ってくる始末。担当が思わず現地に電話を掛け「本当か?(Really?)」「確かか?(Are you sure?)」などと確認したというエピソードがあるほどだ。やがてこの自車位置精度の問題は日本向けナビに固有のモノらしいとの結論に至り、特別なチューニングが必要との見解をN社に打診することになるのだが、この課題認識をN社と十分に共有出来たとは言い難い。N社の「前向きに検討する」という正式回答とは裏腹に、不当な評価基準で自分たちの製品を正当に評価してくれない発注先、と一旦思い込んでしまった現場の腰は重くならざるを得ない。両社の担当間のやり取りは次第に険悪になり、感情をぶつけ合うような場面も度々起こるに至って、両社の役員クラスが仲裁に入るといった異常事態にまで発展した。
ちなみにこのときN社の担当を感情に任せて罵倒してしまったのが小峰技術者で、N社からの冷静だが容赦のないクレームによって窓口担当から外され、社内のテストチームに配置換えされたのだった。
結局、日本向けナビの自車位置精度が劇的な向上を見ることは無く、不安を持った開発チームは急遽国産ナビの開発を一旦は検討するが、既に貴重な開発時間の多くが失われて如何せん発売の期日まで時間が足りない。またN社はこのナビを足掛かりに日本市場への進出を目論んいることから、今更日本市場向けには他社製品を準備するという事も出来ない。マツダコネクト開発チームはこの時点で、退路は断たれた。後はN社に粘り強く交渉して少しでもナビの品質を上げること、発売後に寄せられるであろうお客様から不満に可能な限りの誠意ある対応を取るべく、サポート体制を厚く準備することくらいしかやれることは無かった。

関係者にとっては悲願とも言うべき自社製のコネクティビティシステムだが、よりにもよってお膝元の日本向けの、しかもクルマにとっても、マツダコネクトと言うシステムにとってもあくまで付加機能部分であって本流とは必ずしも言えないナビゲーションシステムの自車位置精度問題。ここに大きな不安を抱えながら、それでもアクセラの発売日に合せてなんとか落としどころを見つけなければならないという事態に、関係者は皆やるせない想いを抱きながら、それでも目の前の仕事をこなすしか無かった。

因みにこの問題に多くのリソースを割かれた結果、マツダコネクトのシステム全体の安定性向上にも十分な施策が打てなかった事は、製品が市場に出た後の顧客からの容赦ない指摘によって明らかになる。この点を象徴する出来事が、発売前の販社への商品説明会で指摘されたテレビシステムの画質問題である。テレビの基本機能や電波の受信感度については勿論検証はしていたが、画質と言うある種人間が定性評価すべき点が疎かで、それを販売店の営業マンに指摘されるという失態である。
これには早急に対策が打たれたのだが、製品の未来を暗示する象徴的なエピソードであった。

小峰は静岡に向かっていた。そこにはナビベンダーであるA社の本社があった。

第三章につづく
Posted at 2015/01/28 18:31:08 | コメント(2) | トラックバック(0) | フィクション | その他

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