
クルマが走り去る音で目が覚めた。
枕元の時計に目をやると9時を回ったところだった。
しまった、寝過ごした。
今のエンジン音は、妻のクルマのもののようだ。
重い身体をベッドから引きずり出し、リビングへと出て行く。やはり、家の中はもぬけの殻だ。妻が子供達を買い物にでも連れ出したのだろう。キッチンの方からコーヒーの香りが漂ってきた。カウンターの上に煎れられたコーヒーと、カップ。それとメモ。
「今日は運転気をつけてね。夕飯までには戻ってくること。」
僕が疲れていること、リフレッシュのためにドライブに行くことを見透かされていたようだ。
メモには怒っているのか、笑っているのか良くわからないイラストが添えてあった。
妻が煎れておいてくれたコーヒーを飲みながら朝刊に目を通す。昨夜の日本シリーズは巨人が田中を攻略して勝ったと報じている。これで3勝3敗か。それにしても、田中が負けるとは。世紀の瞬間を見逃した感じがして残念だ。
コーヒーを飲み干し、身支度を整えて、腕時計の時間を合わせた。今日の相棒は、GIRARD-PERREGAUXだ。ガレージのシャッターを開ける。昨日のうちに洗車しておいた愛車、ランチアデルタが出番を待っているかのようだった。ガレージのツールチェストに掛けてあるデルタのキーをつまみ上げる。デルタのキーはドアキーとイグニッションキーが別になっている。
デルタに乗り込み、イグニッションを一段ひねる。メーターパネル内の電圧計が跳ね上がると同時に、後方から燃料ポンプの音が聞こえて来る。数秒後、メータパネルの賑やかなインジケータランプが消灯し、再度イグニッションをONにする。久しぶりの始動のためか、弱々しくセルモーターが回り、エンジン始動。ゆっくりとシフトスティックを1速に流し込み、デルタをガレージから太陽の下に持ち出した。
暖気をしている間に、上着を一枚脱いでシャツ一枚になった。エアコンの効かないデルタは、気持ちよく乗れる季節が限られている。
お気に入りの場所までの間、ミニバンとコンパクトカー、ハイブリッドカーに囲まれながらノンビリと走る。今日は本当に気持ちがよい気温だ。こんな条件でデルタに乗れる日は1年を通しても1日あるかどうかだ。暑い夏の日はイライラするような国道も今日はリラックスしていられる。それにしてもクルマが多いな。そうか、今日は3連休の真ん中か。どうりで。
1時間程度走って、国道から脇道に入った。ここからが気持ちいいんだ。登り坂をグイグイ加速するこの感じ。200psのパワーが頼もしく感じる。これ以上でもこれ以下でもストレスになるかも知れない。さっきまでの国道と違って、この道は相変わらず閑散としている。周りの木々も程よく紅葉している。
そんな中を窓から入って来る風を感じながら適度な速度でデルタをドライブする。
いつもの物産店は紅葉の観光客でいっぱいだったが、そこからさらに登っていった自販機コーナーはガラガラ。その先まで一気に走った。折り返して、さっきの自販機コーナーで小休止。ここにいると、休日だということを忘れるぐらい誰もいない。よし、もうひと回りして帰ろう。夕飯に間に合うように。
 
				  Posted at 2013/11/03 18:31:12 |  | 
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