ドライブもままならないので8年前に書いた稚拙なストーリーを再掲します。
【A Fine day】
ここのところ、休暇らしい休暇がなかった。このご時世、忙しく仕事ができるだけ幸せなのかも知れないが、忙しすぎるのも息が詰まる。
また、いつものところにLancia Delta HF Integraleを駆って出てきてしまった。
このクルマは1990年式。時代が昭和から平成に代わったころのクルマだ。
クルマ好きの間では、今でもその存在感は色あせていない。
現代の300ps近いWRCベース車両と違って、カタログ値で200psしか出ていないエンジンに無理をさせることなく、いつもの様に、3速、4速を使用してリズミカルに峠を駆け上って行く。
少々心持たない純正の水温計の針は90度、油温計は80度。7月になればこうも行くまい。デルタが楽しめる季節は限られている。それが、現代のクルマと大きく違うところだ。
しかし、勘違いしないで欲しいのは、きちんと整備されたデルタは、夏場でもエアコンを使用しながら都内で使えるのだ。
そんな飼いならされた、しつけの良いデルタより、エアコンを取り外し、フロアカーペットを取り外し、ドライバーズシートはリクライニング無しのフルバケットシートに交換されている、このデルタの方がデルタらしいと思える。その分、不便この上ないが、不便故に楽しいこともあるはずだ。
それがこの季節限定のドライブだ。200psという少ないパワーを上手く活用するために施された軽量化。加速、減速、コーナリングのそれぞれに良い効果をもたらせている。
こうして楽しんでいると前方に白い車体が目に入った。
ちょっとペースを上げて車種を確認する。
ダックテールスポイラーにワイドなリアフェンダー。
73年式のカレラか?
そうえいば、以前にマンガでこんなシーンがあったな...なんて、思わず口元が緩む。マンガの中ではデルタは一世代前の185psな通称8V(バルブ)だった。200psになった16Vでは負けるわけにはいかない。
思わず右足に力がはいる。
【A Bad day】
コーナーを一つ抜けるごとに前方の白い車体が大きく見えてた。車内には白く塗装されたロールケージが見える。彼のポルシェだ。
そういえば、タイヤを交換したってブログに書いていたから、新しいタイヤの感触を確かめているのだろう。
追いついたところで、軽くヘッドライトをパッシングして合図を送ると、彼も気付いてくれたようで、右手を上げて応えてくれた。それと同時に、ポルシェの排気音がひときわ高くなり、テールを沈ませながら加速体制に入ったのが分かった。
僕もそれに合わせてアクセルを踏み込む。ポルシェとデルタの排気音がシンクロして、開け放ったサイドウィンドウからデルタの室内に響いてきた。素敵なハーモニーだ。
それにしても73カレラのリアビューは素敵だ。73年以前のポルシェはフェンダーの張り出しが少ないので、ナローポルシェと呼ばれているが、彼のRSのリアフェンダーはファットに加工されている。しばらくリアビューに見とれながら、2台の排気音が山間にこだましているのを楽しんだ。
おっと、このコーナーを抜けると長い直線の登りだ。やぱりポルシェに引き離されてしまう。コーナーではデルタが有利だが、ストレートでは排気量の大きなポルシェに軍配が上がる。デルタにももう少し、あと30PSぐらいパワーがあると楽しいし、現代のクルマに通用すると思う。
しかし、パワーを上げれば、いま組んでいるTEINベースの車高調の足回りでは不足気味になるだろうし、ゆるいと言われているボディ剛性の弱さも露呈してくるだろう。そういう意味では今の状態がベストバランスなのかもしれない。
ストレートの後のコーナーを3つ抜けたところでポルシェに追いついた。
その時、ビタローニカリフォルニアF1型のミラーには車影が映った。R32スカイラインだ。デルタと同年代では最高の性能を誇ったマシンだ。
このタイミングで現れるのは...やっぱりそうだ。この峠で一番速いと言われている彼のRだ。
ポルシェを追いながら、R32に追われる。一気に緊張が高まった。
このストーリーはフィクションですからね。
Posted at 2020/05/21 00:49:13 | |
トラックバック(0) |
ショートストーリー