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ソラノムコウのブログ一覧

2019年12月12日 イイね!

屁にまつわる話

「おい!肉を食いに行くぞ!」
 肉よりも魚を好む親父殿からこんな言葉が聞けるとは思っていなかった。
 幼い頃は親父殿の好みに合わせて連日魚ばかり食わせられていたので辟易していたのだ。

 焼肉を食べに行く。それはまさに羨望だった。
 焼肉を食べたとなればクラスで自慢出来たのだ。

「うぉぉぉ!すげーっ!夢のようだ!!」
 私はこの幸せを大いに噛み締めた。頭の中で勝手に牛肉や豚肉の分厚い肉を想像して歓喜した。
 憧れのカルビやロースが食えるのだ。

 しばらく車を走らせると着いたのはドライブインだった。
 かつてはロードサイドにドライブインがたくさんあったのだ。

 年季が入ってる暖簾をくぐり店の中に入ると薄暗い店内に煙が充満していた。既に酒によってへべれけになっているおっさん連中がガヤガヤ騒いでいた。

「ここの肉が美味いんだよ」
 親父殿はそう言いながら店員のおばちゃんを呼ぶと「いつもの」とオーダーした。

 いつも食ってるのか?と思いながら肉の到着を待つ。
 すると未だかつて見たことが無い真っ黒な肉が運ばれてきた。
 私がイメージしていた赤く新鮮なイメージではなかった。

 なんというか…食欲を削ぐには十分な理由が付けられるくらい黒かった。

 親父殿はそれを網の上に乗せて焼いていく。その匂いは美味しそうというよりも「臭っ!!」

 そう、臭かったのだ。 

 今まで嗅いだことの無い悪臭を放っていた。

「父ちゃん!これ腐ってるよ!」
 私は親父殿に直談判するが意に介することなく肉をひっくり返していく。その度に強烈な匂いが鼻につくのだ。

「こいつはマトンと言って羊の肉だ」
と親父殿は焼きあがった肉を口に運ぶ。

「マトン…羊…」
 私もその肉を食べたがやや酸味がありお世辞にも美味いとは言いきれない微妙なものだった。
 それでも食べてる内に匂いに慣れて空腹を刺激したのか次々に口に運んでいた。


 翌日。
 それは突然やってきた。

 グルグルル…腹の中に猛獣が潜んでいるのではないかと思うような咆哮が響く。

 まずい…ひじょ~にまずい!

 まず出口に控えているものがなんなのか分析から始めた。
 この頃は若かったので気体なのか固体なのか液体なのかはSiriセンサーで感知出来たのだ。

 間違いない。これは気体だ。だが今は授業中だ。無作法に爆発音を轟かせれば教室はパニックになってしまう。

 私はSiriの筋肉を微調整してスカす作戦に出た。
 一気に放出すると匂いが出てしまうので小出しにするのがミソだ。

 プス…プス…プス…。

 この時はなるべくケツの肉を椅子に押し付け密着させることによって匂いの飛散を防ぐのだ。

 プス…プス…プス…

 まだ残存しているガスの量は多い。あと5発くらいはいけそうだ。

 よし。もうちょいいけそうだ。

 バレないことをいいことにほくそ笑みながら気持ちが大胆になっていく。

 その時!

 プスゥゥゥゥゥ~…

 しまった!調整を間違え思いのほか大量に出てしまった!

(くっさ!!)

 ケツの隙間から匂いが漏れだした。この匂いは今まで嗅いだことのない悪臭だった。
 まさに腐敗臭というものだ。

 原因はマトンだ!あのただでさえくせぇ肉が腹の中で発酵熟成されパワーアップして帰ってきやがった!!

『I'll Bu Back!』

 まずい…ひじょ~にまずい!

「くっさ!!超くせぇ!!」
 隣の女子の真帆ちゃんがガタッと立ち上がり鼻を塞いでいる。容姿端麗、品行方正な真帆ちゃんが顔をババアのようにクシャクシャにして悲鳴を上げている。
 それを皮切りに他のクラスメイト達は
「やべぇ!くせぇ!!」
「おぅえっ!!」
「くっさ!!」
「汲み取りくせぇ!」
とパニックに陥っていた。

 運悪く私の席はストーブの前だった。つまり私から放出されたガスがストーブの熱による対流で教室中に拡がるのは必然だったのだ。

 私もどさくさに紛れて「くせぇ!死ぬぅ!!」と被害者面をし残りのガスを余すことなく全て発射した。

「鈴木!窓を開けろ!!」
 先生も苦悶の表情を浮かべてクラス一足が速い鈴木に指示をする。

 鈴木はトムソンガゼルのように走り出すと震える手でクレセントを操作して窓を全開にする。冬の冷たい空気が教室に流れ込む。
 しかし、その空気に紛れて本物の汲み取りの匂いがしてきた。

「やっぱりくせぇ!」
「おぇっ!」
「おわーっ!」

 まさに阿鼻叫喚地獄絵図諸行無常南無阿弥陀仏。

 偶然にも汲み取りを行っていたために私の悪行がバレることはなかったが後にも先にもあれ以上に臭い屁を出すことは出来なかった。

 私はたった1人で数百人規模の糞尿に勝る匂いを発したのだった。


 あれ以来マトンを食ったことは無い。

Posted at 2019/12/12 10:15:21 | コメント(1) | トラックバック(0) | エッセイ | 日記

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