
みなさんごきげんよう!
モータージャーナリストの山田弘樹(やまだ・こうき)です。
クルマ好きの、クルマ好きによる、クルマ好きのためのコラム「そうだ、ニュルへ行こうよ!」。
第3回目となった今回は、みんカラスタッフTAKASHI君からの質問に回答します。
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TAKASHI:突然ですが山田さんって、
「スーパー耐久」に出たことあるんですよね!?
山田弘樹(以下・山田):ありますよ(笑)。数えるほどだし、全部スポット参戦ですけど。
TAKASHI:今日はぜひ、その時のお話をして欲しいんです!
山田:TAKASHI君、「いつかはレースに出てみたい」って、いつも言ってるモンね。S耐出るつもりなの!?
TAKASHI:いやいや、まだ全然そんなつもりはなんですけど、だからこそ聞いてみたくて。スーパー耐久ってプロのドライバーも沢山出ていて、
「アマチュアドライバーの登竜門」だって聞きますし。
山田:クルマ好き、スポーツドライビング好きにっては、憧れのレースだよね。
確かに自分も若い頃、S耐に出るのが夢でした!
TAKASHI:はい! だからS耐に出たらどんな風に感じるのか、教えてもらいたいんです。
山田:了解ですよッ。
TAKASHI:ところでS耐って、どうやったら出られるんですか?
山田:いきなり直球だね(笑)。出方は、いくつかあると思います。資格的には国際C級ライセンスを持っていれば出られるんですけど、そういうことじゃなくて(※)。
まずひとつは、若いこと。そしてワンメイクレースやジュニア・フォーミュラで、ものすごく光った走りをすることですね。
それによって「乗らないか?」と誘いを受けることもあるし、その実績を持ってチームにアプローチすることもある。
※参考:スーパー耐久シリーズの理念
「FIA国際ドライバーライセンスC」以上、または国内ドライバーは当該年度に有効な運転免許証とJAFの発給する「国内競技運転者許可証A」以上の所持者である事。
ただし、「国内競技運転者許可証A」所持者については、当該大会前24ヵ月以内に、JAF公認レースに4回以上完走しており、完走認定を受けている事を条件とする。も しくは過去の実績により上記同様の技量とSTOが認めたドライバーとする。
国際C級ライセンスの取得方法はこちら
TAKASHI:やっぱり
若さって必要なんですか?
山田:応援するチームやチーム・オーナーとしても、若い方がいいだろうね(笑)。あと有名選手だとギャランティが必要だけど、若ければ経費だけ出してあげるとか、いろいろ節約できるでしょ。
シリーズで参戦するとなると、チームは大変なんですよ。
TAKASHI:そっかー。じゃあボクはもう無理だなぁ。
山田:やっぱ出たいの!?(笑)。でもあの谷口信輝選手なんか、レースを始めたのは30歳からだよ。
実はボクも同じ年で、しかも30歳からレースを始めたんだけど、その頃は周りの経済状況も良くなかったし、そこから始めてプロになれるなんてまったく思っていなかった。
だから彼がスーパーGTまで上り詰めたときは、すごく感動したなぁ。
TAKASHI:かっこいいですね! じゃあボクもまだ間に合うかな?
山田:谷口選手はデビュー前からドリコンで有名選手だったし、ミニバイクでも全国大会でチャンピオンになるような人だったんだけどね(笑)。
TAKASHI:あらら。じゃあ、もうひとつは
自分でお金を払って出ることですね?
ちなみにS耐って、1戦スポットで出るとしていくらくらい掛かるんですか?
山田:走るカテゴリーやチームによって違うと思うけど、だいたい……
ゴニョゴニョゴニョ……くらいじゃないかな?
TAKASHI:ひえー! やっぱり安くないですね!! バイクが買えちゃいそう。
山田:ははは(笑)。TAKASHI君バイクも好きだもんね。シリーズで出たら、かなり高性能なスポーツカーも買えちゃうね。
でもね、レースをするにはそれだけお金が掛かるんだ。チーム運営となると、もっと沢山お金が必要。
あとは、もちろんST-XやST-Zクラスみたいなマシンに乗れたらかっこいいよ。でもね、ライバルがいればどのクラスに出ても、レースは楽しいんだ。だからアンダー1.5リッターのST-5クラスが、あんなに人気なんですよ。
そしてS耐の場合は特にだけど、みんなそれぞれの目標にチャレンジしている。勝つことだけじゃなくてね。
TAKASHI:そうですよね。レースは出ることじゃなくて、走ることが目的ですもんね。
そんな山田さんはあの
「BMW Team Studie」の
M2 CS Racingで富士24時間に出たわけなんですが、面白かったですか?
山田:そりゃあもう、最高ですよ! ……と言いたいところですが、2年連続して緊張してました(笑)。
だってチームメイトがすごいもん。
木下孝之/砂子塾長のペアに、
大井(貴之)師匠。
東風谷高史(こちや・たかし)選手だって、一昨年S耐ST-ZクラスにBMW M4でシリーズ参戦した実績のある選手だからね。ボクだけが足を引っ張り兼ねない状況だったわけです。
TAKASHI:でも
2年連続で3位表彰台じゃないですか!
山田:へへへ。それは一生の記念ですね。
チーム・スタディは、すごくチームワークがいいんだ。みんなドライビングについて、トコトン教えてくれる。塾長や東風谷選手なんて、それがお仕事だしね(笑)。
今年はセッティングも決まって、マシンもさらに乗りやすくなったし。
TAKASHI:メカニックの方々も、スーパーGTで戦っているメンバーなんですよね?
山田:そうなのですよ。だからピットワークとかストラテジー(作戦)が、ものすごくしっかりしてる。これって実は、レースで一番重要な要素。
あと去年はST-XのM4 GT4と一緒だったから、ピット丸ごとチーム・スタディ。パーテーションや設備もカッコよくて、まるでスーパーGTに出ているみたいだった。夢のようだったなぁ。
TAKASHI:ST-1クラスのライバルたちは速かったですか?
山田:速かった! 確実に、相手じゃ無かった(笑)。
なんてったって相手は
KTMクロスボウGTXや
スープラ。そして今年は、
アストンマーチン Vatage GT8Rもいた。
M2 CS Racingは3リッター・ターボだからこのクラスになっちゃったんだけど、実は車重が1500kgもあるから、真剣には勝負できないの。作戦的にはひたすら壊さず淡々と走って、上位陣のトラブルを待つ。
「亀さん走法」でした(笑)。
もし来年があるなら、STOにクラスを変えて頂きたい!
TAKASHI:
M2CS Racingってどんなマシンなんですか?
山田:BMWが入門用に作ったマシンで、M4 GT3、M4 GT4の下に位置するレーシングカー。今回はボンネットとフェンダーをカーボン製にしたけれど、基本はクラッシュ時などのメンテナンスコストも考えて、極端な軽量化を行っていないんだ。
でも3リッター直6ツインターボは最大で450馬力出せるから、ストレートだけはST-Zクラスよりも速いんだよ。そしてものすごく気持ちいい! でも1コーナーのブレーキングでは、FIA-GTマシンに道を譲ります(笑)。
TAKASHI:それだけパワーがあると、乗りこなすのは難しいんですか?
山田:それがよくできていて。安全性を高めるために溶接されたロールケージで、ボディ剛性がものすごく高くなっているから運転しやすいんだ。
サスペンションもニュルブルクリンクを走ることを想定しているからだと思うんだけど、ストロークがすごくある。だから挙動が穏やかなんです。シャープじゃないとも言えるけどね。
おまけにMDM(Mダイナミックモード)を効かせると、絶妙にトラクションをコントロールしてくれる。だから路面が荒れてきたり、タイヤが厳しくなっても450馬力をコントロールできるんだ。
普段サーキットを走っているようなドライバーなら、きっと乗れる。TAKASHI君も運転できるよ!
TAKASHI:ホントですか? 一度乗ってみたいなぁ! レース中で大変は何が大変でしたか?
山田:生まれて初めて、ダブル・スティントしました! しかもタイヤ無交換で。
1回のスティントがだいたい1時間15分くらいだから、2時間半。本当はタイヤを片側交換するプランもあったんだけど、タイムが良かったからそのまま行ったら……すごく大変でした(汗。
TAKASHI:走っていて楽しかったのは?
山田:S耐は色んなマシンが走っているから、見てるだけでも楽しい。コックピットは、特等席だったよ。
特に新型フェアレディZはNISMOワークスドライバーたちが乗っていて、ドライビングが美しかったなぁ。そしてマシンも、初年度なのに速かった。今はST-Qクラスで熟成させている段階だけど、はやくST-Zクラス車両を作って欲しいな。
TAKASHI:24時間レースだからお客さんたちも盛り上がってたみたいですね!
山田:夜にエキゾーストノートを聞きながらレーシングカーが走るのを観るのって、最高だよ! ローターなんか真っ赤で美しい。
家族や友達と、キャンプしながらのんびりレース観戦する文化が、日本にも定着しつつある。自分のスティントが終わって花火を観たり、散歩したけど楽しかったなぁ。
TAKASHI:出てもみたいけど、まずは観に行きたいですね。
山田:来年はみんなで富士24hを見に行こうよ!
TAKASHI:あれ、山田さん出ないんですか?
山田:もし出られたら、応援しに来て下さい(笑)。
写真:BMW Team studie
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山田弘樹(やまだ こうき)モータージャーナリスト
自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦。
こうした経験を活かし、現在はモータージャーナリストとして執筆活動中。愛車は86年式のAE86(通称ハチロク)と、95年式の911カレラ(Type993)。
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。