
みなさんゴキゲンよう!
モータージャーナリストの山田弘樹(やまだ・こうき)です。
千里の道も、一歩から。初心者でもクルマを目一杯楽しんで、最後の最後は「ニュルブルクリンクへ走りに行こう!」というこのコラム。
今回はワタクシ山田が、最新のハチロクに乗った時のお話の後編です。EVになったハチロクはこれからのEVに対するヒントが隠されています。
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>>【コラム】そうだ、ニュルへ行こうよ! Vol.28~EVとG16Eコンバートのハチロクに試乗! これは大アリ!(前編)〜
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編集部TAKASHI(以下・TAKASHI):前回は「G16E」を搭載したハチロクの楽しさを教えてもらいました。そして今月は……
山田弘樹(以下・山田):
「EVになったハチロク」です!
写真:トヨタ自動車
TAKASHI:2023年に土屋圭一さんの愛車“マメ号”と対決していた車両ですね。
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>>【マメ号 vs BEV】86/BRZスタイルで実現した勝負の行方は!? 40th記念車&新グレードも
でもー。ハチロクがEVになったら、面白みがなくなっちゃいませんか?
山田:TAKASHI君も、懲りないねぇ……。
TAKASHI:なんだなんだ、その遠い目は! って前回と同じことしないでください。だってさすがに、EVにしちゃうのはちょっとやりすぎでは……?
山田:いやいや大切なのは、
EVで何をするかなんだよ。
TAKASHI:と言いますと?
山田:EVってさ、CO2を排出しなかったり、静かであることばかりが注目されるでしょ?
でもモーターとバッテリー、そしてここが大事なんだけど、
最新の電子制御にはもっともっと沢山の可能性が秘められているんだ。
TAKASHI:
ペトロヘッドな私の脳みそではいまひとつピンと来ません。詳しくお願いしますmm
山田:たとえばこの「AE86 BEV Concept」……長いから
「BEVハチ」にしよう。このBEVハチ、走らせると笑っちゃうくらい面白いんだよ。
キーをひねるとね、クランキングした後
「ボボボボボ…」ってアイドリングする。
TAKASHI:そこまではなんとなく想像つきますね。でも、そんなの子供だましじゃないですか。
“ベブハチ”なんてカワイイ名前に騙されませんよ!!🐶
山田:おっ、いいねその辛口! そしてクラッチを切って、ギアを1速に入れる。
TAKASHI:
ふぇっ?
山田:そうなんだよ。BEVハチには
本物のトランスミッションが付いてるんだ。残念ながらAE86の「T50」じゃなくて、GR86用の6MTなんだけどね。
TAKASHI:へー!
山田:そしてね、クラッチを無造作につなぐと……
エンストするの!
TAKASHI:キターッ! そういうしょうもないギャグ機構大好きです。急に親近感が出てきました(笑)。でも、なんでわざわざEVに機械式のMTを装着したんですか?
山田:それこそが、この企画のミソなわけ。本物のトランスミッションを操ることが、
「クルマを操る楽しさ」を感じるための大事な要素だと開発陣は考えたわけだね。シフトの手応えや、クラッチを切ったりつないだりする感覚。
もちろんこうした感触を、スイッチで疑似的に再現してもよかったんだろうけど、手っ取り早く本物入れちゃったわけだ。この大胆さがいいんだよ。
写真:トヨタ自動車
TAKASHI:で、運転してどうなんですか?(前のめり)
山田:もう、本当に
「うはは!」って笑っちゃうよ。
そもそもこのBEVハチはさ、シャシーバランスもすごくいいんだよね。コンポーネンツはレクサス「NX」のPHEV用パーツを流用してて、18.1kwhのバッテリーが後部座席からトランクにかけて収まってる。
TAKASHI:ハチロクのボディだから、普通のEVみたいにフロアにバッテリーが敷けないんですね。
山田:そうだね。でもフロントにコンデンサーや補機バッテリー、駆動モーター&インバーター、そしてトランスミッションを配置しているから、
前後重量配分は48:52とすごくバランスがいいんだよ。
とか言って、今回は一般道だからそこまでよくわからなかったんだけどね。とにかく走らせるだけで、面白かった!
写真:トヨタ自動車
TAKASHI:フロントに駆動用モーターということは……
まさかトランスミッションとプロペラシャフトを介して後輪を駆動するんですか!?
山田:
エグザクトリー!
だから操作感や乗った感じはすごくガソリンエンジン車っぽくて、しかもそこにサウンドがシンクロする。
もちろん“生音”には敵わないんだけど、逆に
「ここまでやるか!」って感じで楽しいんだ。
ちなみにモーター出力は95kw(約129PS)/150Nmと、ハチロクの4A-Gとほぼ同じ。車重は1070kgだからハチロク(960kg)より110kgも重たいけど、現代的なライトウェイトスポーツカーとして考えれば軽い方だよね。
写真:トヨタ自動車
TAKASHI:ロードスターで一番重たい「S Leather Package V Selection」と同じ重さですね。
アクセルを踏んだ感覚は、どうなんですか? モーターが低速トルクをモリモリ出して、どこからでも加速しちゃう的な?
山田:ちがうんだよ。敢えてガソリン車っぽい制御を与えてるんだ。
TAKASHI:
強大なモータートルクでドカーン!!な最近のEVとは真逆ですね!
山田:高回転までエンジン……じゃなくてモーターを回して行くと、トルクが落ちこむように制御されてるんだ。シフトアップを促されるという仕組み。
実際は街中だけの試乗だったから、1速でしか疑似レブリミットまで回せなかったし、トルクの落ち込みを感じる間もなくシフトアップしちゃったけど、それでもすごく楽しかった。
写真:トヨタ自動車
TAKASHI:まるでEVでガソリン時代のハチロクを再現したって感じですね! ただのコンバートモデルじゃなかったのか〜。
山田:それそれ。実際BEVハチを運転した元ハチロクオーナーだったり現ハチロクオーナーたちも、この運転感覚にはかなり肯定的だったらしいよ。そして
「こういう形でハチロクを残せるなら、ありかも」って意見が多かったみたい。
TAKASHI:なるほど、4A-Gの代わりに「G16E」を搭載するのと同じで、ハチロクを残すためのEV化でもあるんですね。
山田:その通りだよ。そしてBEVハチはさ、これからのEVに対するヒントでもあるんだよね。EVでも、楽しいクルマは作れるぞ!
ヒョンデの「アイオニック5N」とかもそうだけど、本当のクルマ好きが作ったEVは楽しいんだよ。そして、どんどん楽しくなっていくと思うよ。
写真:ヒョンデ
TAKASHI:パワートレインで区別しなくてもいい時代が来そうですね!
で、現役ハチロクオーナーでもある山田さんの意見は?
山田:どちらかを選べといわれたら、今は愛車を選ぶよ。だって手塩に掛けた5.5AGだからね。
でも今後バッテリーが進化してもっと小さくなったり、航続距離が伸びたり、もっとパワーが出せるようになったり、もっと面白い制御ができるようになったら、ありかもしれないなぁ。
なんかうまく言えないんだけど、「アキラ」の世界観というか。ノスタルジックなのに、未来的な感覚が面白そう。
TAKASHI:なんだかBEVハチ、未来を切り開いて行きそうですね! 乗ってみたいなぁ。
個人的に将来的にロードスターがEVになっちゃったらどうしようって心配していたけど、悪くないかもしれないですね。
山田:クルマ好きが未来を作って行くのだよ。
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山田弘樹(やまだ こうき)モータージャーナリスト
自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦。
こうした経験を活かし、現在はモータージャーナリストとして執筆活動中。愛車は86年式のAE86(通称ハチロク)と、95年式の911カレラ(Type993)。
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。