
皆さん、こんにちは!自動車ライターの伊藤梓です。
先日(と言っても少し日が経ってしまいましたが……汗)、大ニュースが発表されたので、このコラムで「早く話したい!」とうずうずしておりました……。
そう、2026年からホンダが正式にF1に復帰するんです!
画像:本田技研工業
先日、ホンダは、2026年からアストンマーティンにパワーユニット(PU)を供給するワークス契約を結ぶと発表しました。
近年のF1をなんとなくご存知の方は、
「え?ホンダが組むならレッドブルじゃないの?」「そもそもホンダって撤退してたっけ?」と
“?”マークが浮かぶ人もいるかもしれません。
そこで自分のおさらいも兼ねて、近年のホンダF1の流れを簡単にまとめてみたいと思います。
画像:本田技研工業
いわゆる第4期のホンダF1は、2015年のマクラーレンへのPU供給から始まりました。
しかし、マクラーレンのマシンのボディワークとの兼ね合いでエンジンの冷却類が厳しく、さらにエンジン小型化によるパワー不足などによって、順位はなかなか上がらず低迷。チームやドライバーとの関係も悪化し、残念ながら、ホンダとマクラーレンの契約は、2017年で早々に打ち切りとなりました。
このマクラーレンホンダ時代に、なかなか結果を残せないことに苛立ちを隠せなかったドライバーのフェルナンド・アロンソが
「GP2 エンジン!」と、ホンダエンジンを
「GP2のエンジンかよ!」と酷評したことをご存知の方も多いかもしれません。
画像:本田技研工業
ちなみに「GP2」とは現在の「F2」であり、F1の下位カテゴリとなります。
F1のエンジンと比べると馬力が約400ps違うため、「それほどパワーがないエンジンだ」と伝えようとしたのでしょうね……。いまだにこの発言のせいで「アロンソは好きになれない」というホンダファンもいるようです。
マクラーレンとの暗黒時代(?)を乗り越えて、ホンダは、2018年からトロ・ロッソ(現アルファタウリ)へPUを供給することになりました。
画像:本田技研工業
トロ・ロッソは、元々レッドブル傘下のチーム。レッドブルは、当時ルノーからPU供給を受けていたのですが、両者の関係が悪化したこともあり、2019年からレッドブルもホンダのPUへ移行。
2019年は、ようやくフェルスタッペンがホンダPUで優勝を勝ち取り、2020年もさらにマシンが強くなっているのは、誰の目にも明らかでした。
画像:本田技研工業
しかし、当時圧倒的王者だったメルセデスとの差はなかなか縮まらず……そして、運命の日は急に訪れました。
まだ2020年シーズンを戦っている最中に、ホンダは2021年限りでF1事業から撤退するとを発表。理由としては、
「2050年までにカーボンニュートラルを達成するために経営資源を集中したい」とのこと。
「F1辞めない宣言は何だったんだ……」「レッドブルと組んでチャンピオンも見えてきたのに!」と、ファンからは怒りと悲しみの声がたくさん上がりました。
そして、2021年、ホンダ背水の陣。ホンダF1のPU開発プロジェクトリーダーである浅木泰昭さんは、八郷隆弘社長(当時)に
「2022年に出すはずだった新骨格PUを、2021年に使わせて欲しい。これを出さないで終わるわけにはいかない」と打診。
この思いが通じ、レッドブルホンダは、最後の年にすべてを注ぎ込んだ新骨格PUを搭載しました。
画像:本田技研工業
このPUのおかげもあり、これまで難攻不落だったメルセデスを徐々に追い詰め、フェルスタッペンとメルセデスのハミルトンは、同ポイントで最終戦に突入。最終戦は、誰もがハミルトンの勝利かと思うような展開になりましたが、レース後半のクラッシュによって形勢が逆転。
なんとファイナルラップでフェルスタッペンがハミルトンを抜き去るという劇的な優勝を飾り、フェルスタッペンは初のチャンピオンを勝ち取りました。
ホンダ撤退最後の年に遂にチャンピオンを勝ち取るという、あまりに美しい閉幕に、私も涙が止まりませんでした。
画像:本田技研工業
ここで一旦ホンダF1の歴史は途切れるかと思いきや、実は別の形で続いていきます。
2022年からPU供給を受けられなくなったレッドブルは、自分たちでPUを製造するため
「レッドブルパワートレインズ(RBPT)」を設立しました。
F1のレギュレーションによって、2022から2025年までPUの新規開発を行わないというPU凍結が定められたため、RBPTは基本的にホンダの技術をそのまま受け継ぐことができるようになりました。
「それならRBPTでもPUは作れるかな?」と思ったのですが、どうやらそう簡単にはいかなかったよう。
結局ホンダは、4輪のレーシング事業を2輪のレーシング事業の「HRC」に統合し、さらに2025年までレッドブルとアルファタウリのPUの製造、組み立て、供給を行うこととなりました。
画像:本田技研工業
つまり、ホンダPUは今の今まで現役。
「2026年にF1復帰!」と言われていますが、
実は「復活」というより「継続」なんです!
ひとつ大きく違うのは、供給先がレッドブルからアストンマーティンになること。
画像:アストンマーティン
レッドブルは、2026年以降のPUについてポルシェとの協業も考えていたようですが、条件が合わずに頓挫。
「ホンダは2026年以降は撤退するし、自分たちの条件に合う新たなパートナーを探すしかない」ということで、結局レッドブルはフォードと技術提携をすることを決めました。
そんなすったもんだあってからの、ホンダ復帰の発表。レッドブルにとってみたら
「もっと早く決めてよ……」と思ったことでしょう。
ホンダも一般企業ゆえに、内外からの声も大きく、F1の莫大な開発費用やカーボンニュートラルへ向かう社会情勢を鑑みて、多くのことを決断しなければいけないことはよく分かります。
しかし、個人的には、ホンダがマクラーレン時代から苦労してきて、ようやくチャンピオンを獲ってくれたフェルスタッペンとレッドブルにはとても思い入れがあり、
「本当はまだこの関係を継続して欲しい」というのが正直な気持ちです。
しかし、ホンダがアストンマーティンと組むことでポジティブな要素ももちろんあります!
2021年と2022年を制したレッドブルは、2023年もここまで独壇場の強さを誇っています。その最強チームに対して、なんとか対抗できているのが、名門フェラーリと、アストンマーティンなのです。
画像:アストンマーティン
元々アストンマーティンF1のベースは、カナダの大富豪ローレンス・ストロールがオーナーである「レーシング・ポイント」。
これまでレーシング・ポイントは、メルセデスからPU供給を受けたり、
“おさがり”の技術を受け継いだりと、メルセデスの下位チームという扱いでした。
しかし、2023年からアストンマーティンのワークスとなり、空力専門のベテランエンジニア2人と、それを実現するデザイナーを起用したことによって、明らかにマシンが強くなったのです。
これまで上位チームだったメルセデスが
「ゼロポッド」と呼ばれるサイドポッドを採用して空力に苦しむ中、アストンマーティンは独創的なボディワークを採用。今やメルセデスを凌ぎ、レッドブルに対抗できるほどの力を付けてきました。
画像:アストンマーティン
そして、キーになるのが、現在のF1で最年長で、アストンマーティンに所属するフェルナンド・アロンソです。そう、あの
「GP2エンジン発言」の。
このアロンソがとにかく毎戦驚異的な走りを見せ、マシン性能では劣っているレッドブルを脅かしたり、他の上位チームを鮮やかなテクニックで退ける姿が
めちゃくちゃにかっこいいんです!
2023年のF1はアロンソによって、名レースがまだまだ生まれそうな予感がします。
2026年、アストンマーティンホンダになる頃、アロンソは45歳。果たして彼がそこまでF1を続けているかは不明ですが、ホンダもアロンソも過去の遺恨をそこまで引きずっておらず、お互いウェルカムな様子。
画像:本田技研工業
私自身はアロンソの大ファンなので、アストンマーティン・ホンダになり、そこにアロンソがドライバーとして乗ってくれるなら、これほど楽しみなことはありません!
ということで、ここまでの経緯をサッとおさらいしたつもりがやっぱり長文になってしまいました(笑)。
これからF1もカーボンニュートラルになっていく……という話もあるのですが、さらに長くなるので今回はここまで。
ホンダのF1復帰には、少し思うところもあるものの、私はホンダがF1に参戦してくれて、さらにF1が面白くなってくれるならそれが一番です!
これからますますF1は盛り上がっていくと思うので、ぜひ皆さんも注目してみてくださいね。
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伊藤梓(いとう・あずさ)
クルマ好きが高じて、グラフィックデザイナーからカーグラフィックの編集者へと転身。より幅広くクルマの魅力を伝えるため、2018年に独立してフリーランスに。
現在は、自動車ライターのほか、イラストレーターとしても活動中。ラジオパーソナリティを務めた経験を活かし、自動車関連の動画などにも出演している。
YouTubeチャンネル『伊藤梓の気ままな日常』ではF1を(ほぼ)毎戦、予選・決勝をYouTubeで実況生配信中!
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