昨年の話になりますが、個人的に2016年で後期型86/BRZとならんで一番気になっていた車である
TWINGO と
smart forfour turbo を試乗してきました。
ワタクシがこの車に魅かれる理由は、三菱アイと同じく、5ドアのボディでありながら、前方吸気・後方排気式の低重心エンジンをリア・ミッドシップマウントしているということです。
この2車はRR (リアエンジン・リアドライブ)レイアウトであると殆んどのメディアが解説していますが、49度後傾されたエンジンは
リアアクセルより前にマウント されているので、正確に表現するならMRレイアウトが正しいのではないでしょうか?
その証拠に前後重量配分は車検証の数値によると、TWINGOが45対55、smart forfour turboが44対56になっており、この数値はPorsche Cayman,BoxsterやS660とほぼ同じで、ドライバー乗車時では更に前寄りの重量配分になります。
ちなみに、ELISE SPORT 220の前後重量配分は
37.9:62.1 、Ferrari F40は
38.9:61.1 、NSX(NA1型)は
41.5:58.5 、Beatは
42.1:57.9 だそうです。
RR レイアウトであると言うと、リアヘビーで難しいハンドリングのイメージがあると思うので、メーカー側も改めてピーアールした方が得策だと思いますが。
ワタクシが前後重量配分に拘るのは、コーナリングだけでなく、トラクションとブレーキ性能に影響すると思うからです。
普段、タイヤのグリップ限界を超えないところで走っていて、前後重量配分の違いを感じることはあまりありませんが、氷上や雪道などの低μ路ではその違いを痛感することが何度かありました。
最近のスタッドレスタイヤは性能が高いので、FR車で雪道を走っても、いったん走り出してしまえばFF車と大きく違うようには感じませんが、坂道(登板)発進では気を使います。
その点、リアの方が重いMRやRR車は坂道発進ではFRやFF車以上のトラクションが掛かり、雪道にも強いのです。
(FF車の場合、コーナリング性能を上げようとして前後重量配分をリア寄りにすると、トラクション性能が落ちてしまう。)
ただし、リアが重すぎると、アンダー・オーバーが出やすく、ドリフトコントロールも難しくなります。
リアが重いと、サスペンションを硬くしなくても減速時にノーズダイブが少なくて、4輪を有効に使ったブレーキングができやすいのもメリットの一つです。
実際に、アイは同クラスの車と比べると、車重が重く、またフロントタイヤの幅が狭いにも拘らず
ブレーキ性能試験結果 も優秀です。
VIDEO
CAR GRAPHIC 2017年1月号 の記事『クルマの教室 第15回 トラクションと究極のスポーツカー』では、
2輪駆動車のトラクションを決める要素の一つは重量配分、つまり駆動輪荷重です。同じFR車の後輪に、ウェイトをどんどん積んで後輪荷重を高くしていった場合、(ある程度の重さまでは)車重が増えてパワーウェイト・レシオが低下しても、トラクションが上がった方が発進加速タイムでは有利になる。 FR2駆は低μではトラクションが低いが、高μでは高くなってFFと逆転する。 と書かれていました。
後輪駆動車でトラクション重視するなら、後ろが重たい方が有利ですが、高速になれば空力特性の影響の方が重要でしょうし、コーナリングを考えると前後重量配分よりヨー慣性モーメントの低減の方が重要だと言われています。
この点においてもアイやTWINGO,smartは タイヤが車体の四隅に配置されていて前後オーバーハングにある重量物が少なくて優れています。
(アイやTWINGO,smartには、このクラスには珍しくフロアアンダーカバーを装備していますが、車高が高く、元々のボディー形状が良くないので、空力特性は褒められたものではないと思いますが。)
TWINGOやsmartがアイを上回る魅力があれば次期愛車有力候補となり得るわけで、昨年のブログでも
TWINGO と smart forfour との比較 をしましたが、今回はアイとの違いを含めて
比較検証してみました。
先ずは主要諸元表で比較してみました。
スペック比較
三菱 アイ (CBA-HA1W) RENAULT TWINGO (DBA-AHH4B) smart forfour turbo (DBA-453044)
駆動方式 MR MR ←
エンジン 形 式 3B20 H4B 281M09
種 類 水冷直列3気筒 水冷直列3気筒 ←
弁機構 チェーン駆動DOHC12バルブ MIVEC 直打式 チェーン駆動DOHC12バルブ VVT 直打式 ←
過給機 空冷IC付きターボ 水冷IC付きターボ ←
排気量 659cc 897cc ←
内径×行程 φ65.4 × 65.4㎜ φ72.2 × 73.1㎜ ←
圧縮比 :1 8.8 9.5 ←
最高出力 64ps/6,000rpm 90ps/5,500rpm ←
最大トルク 94Nm/3,000rpm 135Nm/2,500rpm ←
燃料タンク容量 35㍑(センタータンクレイアウト) 35㍑ ←
使用燃料 無鉛レギュラーガソリン 無鉛プレミアムガソリン ←
トランスミッション 4AT 6速DCT ←パドルシフト付き
変速比 1速 2.846 2速 1.581 3速 1.000 4速 0.685 後退 2.176 1速 3.916 2速 2.428 3速 1.435 4速 1.021 5速 0.866 6速 0.702 後退 4.333 1速 ? 2速 ? 3速 ? 4速 ? 5速 ? 6速 ? 後退 ?
最終減速比 5.841 3.894(1・2・5・6速)/4.352(3・4速) ?
寸 法 全 長 3,395㎜ 3,620㎜ 3,550㎜
全 幅 1,475㎜ 1,650㎜ 1,665㎜
全 高 1,600㎜1,545㎜ ←
ホイールベース 2,550㎜ 2,490㎜ 2,495㎜
フロントトレッド 1,310㎜ 1,455㎜ ※1,430㎜1,445㎜
リアトレッド 1,270㎜ 1,445㎜ 1,435㎜
最低地上高 150㎜ ㎜ 125㎜
最小回転半径 4.5m 4.3m 4.1m
ホイールベース/トレッド比 1.977 1.717 ※1.7321.733
重 量 車両重量 910㎏ 1,010㎏ ※1,020㎏ 10,60㎏
前軸重 (重量配分) 400㎏ (44.0%) 460㎏ (45.5%) 470㎏ (44.3%)
後軸重 (重量配分) 510㎏ (56.0%) 550㎏ (54.5%) 590㎏ (55.7%)
パワーウエイトレシオ 14.22 kg/ps 11.22 kg/ps ※11.33 kg/ps11.78 kg/ps
Power-to-Weight Ratio 70.3 PS/t 89.1 PS/t ※88.2 PS/t849. PS/t
トルクウエイトレシオ 94.8 kg/kgm 73.19 kg/kgm ※73.91 kg/kgm76.81 kg/kgm
タイヤ 前 145/65R15 72S 後 175/55R15 77V 前 165/65R15 81H ※185/50R16 81H 後 185/60R15 84H ※205/45R16 83H 前 185/50R16 81H 後 205/45R16 83H
ホイール 前 15×4J 後 15×5J 前 15×5J ※16×6J 後 15×5.5J ※16×7J 前 16×6.0J 後 16×6.5J
ブレーキ 前 ベンチレーテッドディスク 後 ドラム(リーディングトレーディング) 前 ベンチレーテッドディスク 後 ドラム ←
ABS+ブレーキアシスト ABS+ブレーキアシスト +ヒルスタートアシスト ABS+ブレーキアシスト +ヒルスタートアシスト
サスペンション方式 前 マクファーソンストラット式 後 3リンク ド・ディオン式 前 マクファーソンストラット式 後 ド・ディオン式 ←
ステアリングギヤ形式 ラック&ピニオン (電動パワーステアリング「EPS+」) ラック&ピニオン (電動パワーステアリング) ラック&ピニオン (電動パワーステアリング)
タイロッド 後引き 前引き ←
JC08モード燃費 (※後期型 18.4㎞/ℓ) 21.7㎞/ℓ 22.0㎞/ℓ
販売日 2006年1月24日 ~2013年9月27日 2016年~ 2016年~
価格(消費税込み) ※1,476,000円 1,890,000円 ※1,990,000円 2,560,000円
備 考 Tグレード2WD ※後期型アイ INTENSグレード ※ Pack Sport(50台限定車) ※
TWINGOとsmart forfour turboのパワーウエイトレシオは、S660(6MT)の12.97 ㎏/psより良い数値なので、カタログ値で見る限りS660より速そうですが、アルトワークス(5AGS)やカプチーノ(5MT)の10.78 ㎏/psには負けてますね。
運動性能が高い車の素性としては、
車重が軽い、
重心が低い、
Z軸周りの慣性モーメントが低い、
トレッド/ホイールベース比が低い、
トラクションが高い、
車の方が良いと言われています。
車重だけみればアイが一番軽いですが、パワーウエイトレシオが最も悪く、車高も高く、ルーフやガラス面積も大きいので重心高も一番高いと思われます。また、ホイールベース/トレッド比も軽自動車規格の寸法のためにトレッドが狭く、回頭性より直進安定性・居住性に有利な数値になっています。
TWINGOとsmart forfourのタイヤサイズは前後で2サイズ違いに対し、アイは3サイズ違うということからも、アイはスタビリティ重視の設定だということがスペックからも判断できます。
(アイはタイロッド前引きなので、一概に曲がりにくいとは言えませんが。)
TWINGOとsmart forfourはパワートレインやプラットフォームを共通としているので、差は少ないですが、日本仕様のsmart forfour turboにはパノラマルーフが標準装備となっているために、車重も重く、重心高も高いので運動性能に関してはTWINGOより不利になっていると思われます。
トラクションに関しては3車とも前後重量配分は似通った数値なので、違いはタイヤ次第と言えるかもしれません。
アイは ど・ノーマル仕様であっても低μ路であれば、ワタクシのような素人が運転しても、サイドブレーキを使わなくても右足の操作だけで簡単に振り回せるコントロール性があるので、TWINGOやsmart forfour turboならばもっと楽しいかもしれない!と期待してしまいます。(笑)
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と、カタログ上での比較では、運動性能に関してはTWINGOはアイを上回る性能を期待できるのですが、デザインや質感・使い勝手なども比べて、実際に買い替えたくなるような魅力ある車なのか?試乗して検証してみました。
※ここからの意見はあくまでもワタクシ目線で診た個人的見解であります。
3車を比べ、大雑把に優劣をつけると、
◆エクステリア デザイン
アイ > TWINGO > smart forfour
◆インテリア デザイン
smart forfour > TWINGO > アイ
◆質感(高級感)
smart forfour > TWINGO > アイ
◆居住性
アイ > TWINGO ≧ smart forfour
◆経済性
アイ > TWINGO > smart forfour
◆安全性
smart forfour ≧ TWINGO > アイ
◆運動性能
TWINGO ≧ smart forfour ≧アイ
◆運転が楽しくなる車
アイ > smart forfour ≧ TWINGO
と言った感じでしょうか。
ワタクシが自分の車を購入するうえで、車のデザインは重要です。
アイのエクステリアデザインは、車幅より全高の方が高いために前後から見たときに安定感がなく見えるところは残念ですが、MRレイアウトでなければ成し得えない、欧州車にも負けない個性的な形が良いです。
逆にsmart forfourは、オプションのツートンカラー仕様の車はまだオシャレでよいのですが、単色仕様だと平凡すぎて輸入車としての個性が感じられないところが残念。
TWINGOは後姿はカッコいいですが、前と横からの姿はsmart forfourとあまり変わらないですね。もっとホットハッチ的でスポーティーな演出があるとよかったのにと思います。
インテリアデザインに関しては、3車とも個性的であり、好みで言えばそれ程大きな差はないですが、質感が大きく違い、smartは1ランク上のクラス感でお金が掛かっています。
TWINGOはアイと同じく軽自動車並みに安っぽいところもありますが、色の使い方が上手く、アイほどの安っぽさは感じないです。
(インテリアの質感はBMW MINI > smart forfour > FIAT 500C > TWINGO > アイ と言ったかんじでしょうか?)
フロントシートもTWINGOやsmartの方が良いですね。ただし、後席はアイの方が広くてリクライニングもできるので快適で、使い勝手も良いです。それと、TWINGOとsmartはVolkswagen up!と同じく、リアの窓ガラス開閉がパワーウインドゥでなく、横方向に換気程度しか開かないヒンジ式なのは安っぽく感じてしまいます。
シート上下アジャスターで座面を一番下げた状態でドラポジを合わせてみると、アイが一番アップライトな姿勢を強いられ、それでも手足の短いワタクシにはハンドルの位置が遠くて高く感じます。
(3車ともテレスコ機能はないですが、smartとTWINGOはチルトステアリング付きなので、この点でもsmartとTWINGOの方が良いと思いました。)
また、smartとTWINGOのステアリングホイールは大きさ・握り断面形状・表皮の質感ともアイや前期型86の上級グレードより良いです。ただ、TWINGOのステアリングホイールは円形でなくてD型になっているところが好きでないので残念。
こうなるとsmartとTWINGOの方が運転し易すそうに思われそうですが、残念ながら右ハンドル仕様のsmartとTWINGOには大きな欠点があります。
右ハンドル仕様のsmartとTWINGOはフットレストが無く、ペダル配置も左側に大きくオフセットされているのには違和感を持ちます。
(アイも若干左側にオフセットされていますが、許容範囲内で、勿論フットレスト付き。) S660は3ペダルでもフットレスト付きで自然なペダル配置が出来ているのに、アクセルとブレーキの踏み違い事故が増えている中、安全性を重視する天下のメルセデス・グループがこれを容認しているのには驚きました。
アイにはタコメーターが標準装備なのは良いのですが、外気温度計や燃費計などメーターの表示項目がなく、またカラー液晶ではないので、今時の車と比べると安っぽく感じます。S660のようなメーターであれば、もっと質感が上がったのに残念に思います。
smart forfour turboにはタコメーターがありますが、TWINGOにはオプション設定すら無いのは残念。
(TWINGOはスマホのアプリでタコメーター表示することが出来るようですが、Bluetooth接続方式のためか表示レスポンスが悪いらしい。)
smartは3.5インチTFTカラーディスプレイを採用していることもTWINGOとの差を感じます。
ターボ付きのアイは市街地を制限速度+α内で走るのにはストレスを感じない程度の十分な動力性能はあるのですが、峠道の登坂路や高速道路での追い越し加速では、もっとパワーがあったら楽しいのにと感じることがあります。
ドライの舗装路でホイールスピンさせるくらいのパワーがあれば言うことないのですが。(笑)
TWINGOとsmart forfour turboを試乗してみて意外だったのは、カタログ値ほどのアイとのパワー差を感じなかったことです。
(試乗は2車とも営業マンを助手席に乗せての走行で重量ハンディがあったのと、高速道路を走ってないので追い越し加速の違いは分かりませんでしたが。)
ただし、アイはエンジンを高回転まで回すと煩いのに対し、TWINGOとsmart forfour turboはそれ程でもない。風切り音やロードノイズなどのノイズ遮音性もアイより高く、この点でも質感の違いを感じました。
(それでも、アイはエンジンが運転席から離れた後の位置にあるせいか、代車で乗ったことのあるミラージュより静かに感じましたが。)
ワインディングの試乗コースをTWINGOで走ってみても、アイとのハンドリングの優劣の違いは感じませんでした。
ステアリングフィールも
388円の貧乏チューン をしたワタクシのアイとそれ程変わらないとも思いました。
車の高級感を感じる要因の一つに装備の違いがあります。
アイは発売して10年以上経つ旧い車ですが、オートエアコンも標準装備で、ライトやドアミラー,ワイパー,キーレスエントリー,セキュリティーなどの電装品をトータルに制御する専用の三菱独自の電子制御システム『
ETACS 』というコンピューターが搭載されているので、発売当時の軽自動車水準としてはクラス超えた高級感がありました。
TWINGOとsmartには アイにはない、クルーズコントロールやヒルスタートアシスト・クロスウインドアシスト・横滑り防止装置(ESC・ESP)・サイドエアバックなどの運転支援装置や安全装備もあります。
ワタクシ的には横滑り防止装置なんて要らないから、ブレーキ式疑似LSDでも許すから差動制限デフ装置が欲しい。(笑)
しかしながら、横滑り防止装置にOFFスイッチもなく、後輪駆動なのにテールスライドすることを拒絶してしまいます。
アイにはカプチーノやS2000(AP1)と同様に、ABSはあってもトラクションコントロールもなければ、横滑り防止装置もありませんが、ドライバーの意思で姿勢をコントロールするという、運転することの喜びがあります。
アイは今となっては時代遅れとも感じるトルコン式4速A/Tですが、2速固定で走ることができ、計算上では2速レブリミット7,200回転で84㎞/hまでカバーできます。
TWINGOやsmartは6速DCTでマニュアルシフトもできますが、それでも高回転になると勝手にシフトアップしてしまう?みたいなので、ヒューズを外して横滑り防止装置をOFFにさせたとしてもシフトアップに伴いトルク変動でパワースライドが止まってしまう可能性もあるのではないかと危惧します。(笑)
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そもそもトラクションと安定性を求めるなら、4輪駆動車を選ぶのが賢い選択だと思いますが、後輪駆動車でなければ得られない楽しさがあるので、ワタクシにとって4駆の選択肢はないのです。
と、3車とも良いとこともあれば悪いところもありますが、ワタクシにとってTWINGOとsmart forfour turboがアイより魅力的か?と言えば、残念ながらそれ程でもなかったというのが率直な感想なのでした。(笑)