
JC08モードの車両重量区分1,080kg以下に抑えてカタログ燃費30km/Lを達成する為に、 燃料タンク容量が35Lに縮小されてしまった新型デミオディーゼルのMT車。
何度も指摘しているように、
JC08モード計測時MT車は国交省の定める「標準変速位置」に従う必要があり、(ギヤ比やエンジン特性に関係なく)全車一律に定められた段数のギヤで走行しなくてはなりません。JC08モードの要求加速度は非常に緩いので、全般的にハイギヤ化して余裕駆動力を削る=ドライバビリティを犠牲にすれば変速タイミングを縛られた状態であってもカタログ燃費は改善可能です。JC08モードが登場するずっと前の話になりますが、昔のEGシビックETiなどは3速で最高速に達するほどハイギヤード化されていてちょっとした話題になりましたね。。。
さて、新型デミオの諸元表が公表されたので早速ギヤ比をチェックしてみました。画像は私の下駄車BMW 120d(車重1,420kg)、
日本で言うところの旧型アクセラに1.6Lディーゼルを載せたMazda3 1.6D(車重1,255kg)、そして新型デミオXDのエンジン回転vs車速線図を重ねたものです。
JC08モード燃費対策で1速がハイギヤ化されてしまうのではと心配でしたが、オーバーオールレシオで12.44(=3.23×3.85)と十分低く取られており安心しました。ターボチャージャは発進時は役に立たないので高過給ダウンサイジングディーゼルの発進トルクはスカタンですが、軽い車重と相まってこれなら坂道発進でエンストの嵐に見舞われる心配もないと思います。
さて2速から上のレシオです。デミオディーゼルの最高速はたぶん200km/hに届かないくらいだと思いますが、最高速227km/h(メーカ公表値)に達する120dも逃げ出す程の超絶スーパーワイドレシオに驚きました!
※参考までにMazda3 1.6Dの最高速(メーカ公表値)は117MPH≒187km/h
回転数を上げないと馬力が出ないNAガソリンエンジンに対し、ターボに多くを依存するディーゼルの最大出力は概ね4,000rpm以下で発揮されます。したがってギヤが7段以上もあるAT車を除きガソリン車の様なオーバードライブギヤ(ここでは減速比が1未満という意味ではなく、最高速に届くギヤよりも更に高い「巡航用ギヤ」とします)は持たないのが普通で、ホールドギヤのままアクセルひと踏みで最高速まで速やかに加速し外乱(風や勾配)にも強く前走車に引っかかった後の速度回復も楽々、それでいて巡航時のエンジン回転数は抑えられ静かでしかも低燃費。。。これが未だにMTが主流且つ高速巡航の多い欧州でディーゼルが支持された最大の理由です。しかしデミオは6速を思い切って巡航専用のオーバードライブとし、レシオカバレッジを実に6.59(=3.23÷0.49)にまで広げてきました!
最近の高過給ディーゼルは2速以上であればアクセルを踏めば即過給の恩恵を得られるので、これほどの超絶スーパーワイドレシオであっても郊外を流していれば扱い難さを感じることは無いでしょう。一般にスピードメータの表示が甘めな事を考えると100km/h巡航時のエンジン回転数は1,500rpmを少し超える程度でしょうか!燃費マニアにとってはたまらないギヤ比と言えそうです。(笑
反面、街中をトコトコ転がすような場面ではちょっと心配ですね。私の120dですら路地を3速のまま曲がるのを躊躇することがありますが、デミオディーゼルの場合左折時は毎回きっちり2速まで落とす必要があるでしょう(車重の軽さが七難隠す…と言いたいところですが、これほどハイギヤードではそもそもエンスト防止制御(※)に引っかかり半クラの使用頻度が増えてしまう)。あと日本によくある細い上りのワインディングでも、前走車がいてハイペースを維持できない場合はコーナー進入の都度2速に落とさないと過給ゾーンを外して失速すると思います。市街地走行やタイトなワインディング路を走る機会が多い方は、飛びつく前によく考えたほうが良いかもしれません。
※エンスト防止制御についてはこちらに記載しています。
【'14/10/30の日記】 ディーゼルの発進トルクは太い?細い?
個人的にはカタログ燃費を多少妥協してでも、燃料タンク容量を44Lから減らさずに、且つ市街地でもうちょっとだけ扱い易いギヤ比のモデルを用意してくれたら嬉しいですね。一般道しか走らないパートナーの下駄車にデミオディーゼルを選んだら、6段目のギヤが宝の持ち腐れになるところでした。。。(^^;

JC08モード走行における、デミオXD 6MT車のエンジン回転数の推移を計算してみました。データの都合でこちらはアテンザXDとの比較になってしまいました。(汗
無過給状態からの発進性を担保しなくてはならない1速はしょうがないとして、2速以上では1,700rpm以上にエンジン回転数が上がる事はほぼありません。車重の違いはあるにせよ、2.2Lで420Nmもの最大トルクを誇るアテンザよりも更に「燃費で攻めた」ギヤリングになっている事が見て取れます。
しかし「標準変速位置」に縛られ、低速ギヤでダラダラ引っ張らされるJC08モードでここまでエンジン回転数を抑えた設定にしてしまうと、全体にハイギヤードになりすぎてドライバビリティへの背反は避けられません。自分では運転なんかしない偉い人達に苛められて、もう何が何でもJC08モードで30km/Lを達成するしか選択肢はなかったんだろうなぁ。。。(涙
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比較車種を旧型プジョー308 e-HDiからMazda3 1.6Dに改めました。搭載エンジンはどちらもPSA製のDV6型1.6Lディーゼルで変わりません。
【過去日記】MAZDA3 1.6MZ-CD。
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SKYACTIV-D 1.5のエンジン性能曲線が公開され、SKYACTIV-D 2.2と同様5,000rpm以上まで使えることが判明しましたので線図を差し替えました。
ディーゼルには珍しく6速がオーバードライブと割り切られた事で、最高速付近ではやや離れ気味の4~5速を使い分ける事になりますが、200km/h近くまで使える4速の守備範囲がそれを補っている事が解ります。もしかしたら欧州仕様のMazda2でもこのギヤ比のままで勝負するつもりなのかもしれません。
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Mazda2 1.5dieselのトップスピードが公表されていたので、走行性能曲線を描いてみました。
マツダUKサイトによればSKYACTIV-D 1.5の最高速は111mph(≒178km/h)で、Cd×Aを適当に弄って最高速を合わせ込みました。私の前下駄車
シトロエンC4 1.6HDi 5MT(Pe=80kW、W=1,290kg、Cd=0.29)の最高速が192km/hでしたのでちょっと意外な感じです。DJデミオの空力はあまり良くないのかもしれません。
線図によると路面平坦、無風状態における飽和速度は6速<4速<5速となり、6速での巡航では僅かな勾配や向かい風の影響で余裕駆動力を喪失しシフトダウンが必要になります。ギヤが7段以上あるATなら問題ありませんが6段MTとしては思い切ったハイギヤード設定と言えるでしょう。
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市街地チョイ乗りですが、試乗しました。
【新しい日記】やっと試乗しました。。。デミオディーゼルMT。
本当はディーラ試乗でなく、(
2代目プリウスで試した様に)レンタカーで気兼ねなく、屈曲した登坂路など含むあらゆるシチュエーションで試したかったのですが。。。
***** 2017/4/26 追記 *****
デミオディーゼルMTの登場から2年半余り。やっとそのスーパーワイドレシオとドラビリへの影響を冷静に評価する試乗記が出てきましたね。
【マツダ デミオ 3400km試乗 後編】遠くまで足を伸ばしたくなる燃費、疲労度の少なさ…井元康一郎
記事中でハイギヤード化の理由を「制限速度が80~110km/hと高い欧州への適合性を主眼としたような仕様」と分析していますが、それよりもNEDC/JC08モードのシフトアップタイミング縛りとカタログ燃費(CO2排出量)の追求が主因でしょう。なぜなら前述のヤリス1.4D4-Dはもとより、同じく欧州仕様となる私の120dよりもハイギヤードなのですから!
もげ. 07/18 22:14
マツダ2ディーゼルのMT車、阿呆みたいなJC08モード燃費の縛りから解放されてファイナルギアが8%低められ燃料タンク容量もATと同じ44Lになる。既存デミオユーザの間ではファイナルギア交換が人気メニューとなりそう。
***** 2020/3/19 追記 *****
昨年7月に呟いた通り、デミオ→マツダ2に車名変更されると同時にカタログ燃費表記がJC08からWLTCに変わって、それと同時にギア比も見直されました。
上図はCX-3との比較ですが、マツダ2はファイナルレシオが低められ、5速を除いてほぼCX-3と一致する結果となりました(変更前の比較画像は
こちら)。CX-3より車重の軽いマツダ2のドラビリは格段に改善されたことでしょう。4~6速のレシオは均等に散っているCX-3の方が扱い易そうですが、両車共に5速で達するであろう最高速はマツダ2の方が速いのでまぁ妥当な範囲かと。
ファイナル変更後も100km/h巡航時のエンジン回転数は計算上1,800rpm程で、これでもまだ十分にオーバードライブです。ドライバがギア比に応じて適切なタイミングでシフトアップできる実際の路上では、本ギア比変更による燃費の悪化は顕在化しない可能性があり、もしそうなら従来のギア比はユーザにとって何のメリットももたらさない、文字通りJC08モードで30km/Lというスコアを記録する為だけの「カタログ燃費スペシャル」であったことになります。

こちらは'20/3/19時点での
デミオ1.5D 6MTのe燃費ヒストグラム。平均燃費は22.95km/L、データ数は最頻値においてN=1197。

こちらは
マツダ2 1.5D 6MTのe燃費ヒストグラム。平均燃費は18.58km/Lとデミオより悪化していますが、最頻値でN=4と未だ統計的に十分なデータとは言えませんが、'20/8/2時点で平均燃費22.77kmlLまで改善され、ファイナル変更前のユーザ平均燃費に近づいています。今後もデータが正規分布状になるまでウォッチを続けていきます。