2013年05月06日
天然ぼけ (4)
「天然ぼけ」 (4) Copyright (C) 2013 AuO2
忘れ物のコピー原稿を持って、レジに戻り、新刊チェックを再開してはみるものの、内容が気になって仕方がない。いけないなあと思いつつも、新刊リストの横に置いて、時々それを見た。
よく読んでいくといくつかのクリームを混ぜて使うと書いてある。驚いたことに混ぜる比率まで指定されていた。
(へえ)
昭子は感心していた。こんな使い方があったのかと。幸いなことに記載されているクリーム類は全部持っている。この時、一度自分で試してみよう、そう思ったのだ。
さらに読み進むと、注意書きまであるのに気付いた。
“混ぜる比率を間違えると、染みやあざだけでなく、全体がぼける可能性があります。注意して下さい”
全体がぼけるとはどういう意味だろうか。めだたなくするより、染みやあざなんかはぼかす、もっといえばなくなった方がいいに決まっている。昭子はそう思った。
「それ何ですか?」
横から田中さんが声をかけてきた。昭子が一心に忘れ物のコピー原稿を見ていたせいだろう。新刊チェックの手は完全に止まってしまっている。
「えっ、これですか。さっきコピーしていたお客さんが忘れていったコピーの原稿です」 田中さんが覗き込んできた。多少は興味を持ったようだ。
「ふーん」
ちらちらっと、内容を見て、田中さんはそう言っただけだった。それ以上の興味はないらしい。
そんな田中さんとは対照的に、昭子の方はかなり興味を持って見ていただけに、内容を覚えてしまっていた。
自分で試してみようとまで思っているのだから、当然かもしれない。
「いらっしゃいませー」
田中さんが声を出した。お客がきたのだ。
「いらっしゃいませー」
昭子も声を出す。
そんな調子で、その後は天然ぼけで調子が狂うこともなく、無事に終わった。
*
翌日。
店が終わり、昭子は家に帰ってから、さっそく試してみることにした。原稿を見つけた昨日のうちに試してもよかったのだが、家に帰ってから何かをしようという気が全然起きなかった。天然ぼけと言われたことも影響していたかもしれない。
さっそく、原稿にあった内容を思い出し、準備を始める。はっきりと原稿の内容を思い出せる。
指定のクリーム等(乳液まであった)数種類のものを、指示通りに掌の上で混ぜる。
見た感じ、ちょくちょく使っているハンドクリームとたいして変わらないような気もするが、使ってみないことにはわからない。
昭子は試しに頬にある小さい染みに塗ってみた。鏡で見てみるとなんとなくめだたなくなったような気がする。普通ならこんなにすぐ効果が出るはずはないのに、これはすごい。
思い込みのせいもあるのかもしれない。そういった時は何でもいいように見えてしまうものである。
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Posted at
2013/05/06 10:28:05
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