
かつて0Wは高性能オイルの証でした。
PAOをベースオイルにするオイルだけが0Wを実現出来た。
今だって本当はPAOだけがたどり着ける領域なんです…
なぜ鉱物油では0Wが実現出来ないのでしょうか?
良く言われる「オイルの粘度は低温側で決まる。」理由を書いてみます。
Gr.III鉱物油(VHV)とPAOで0W-20を作る例を挙げてみます。
ひとまずノンポリマーで作れるか試してみます。
SAE20の100℃動粘度は6.9~9.3cStの範囲なのでベースオイルはVHVI6(100℃動粘度6.5cSt)とします。
これにパッケージ添加剤を10%添加します。(規定量添加でAPI規格に合格するやつ)
パッケージ添加剤は増粘効果もあるので100℃動粘度は7.5cSt程度になり高温側の20は担保出来ます。
だけど、低温側の0Wの確保が出来ません。
0Wはざっくり言うと-35℃でエンジンが掛かるか?(Cold Cranking Start)
を評価しています。粘度で言うとCCS−35∘C≤6200 cSt
VHVI6ではこれが確保出来ない。(-35℃粘度は10000cSt以上)
VHVI6の流動点は‐15℃となっていますが、これはあまりアテになりません。
流動点降下剤(PPD)を添加しても6200cStは切れないでしょう。
鉱物油(VHVI)の低温流動性が悪いのは分子量がバラバラだからです。
VHVI6と言っても実際には動粘度3の分子も入っていれば12の分子も入ってる。
このうち分子量の大きい12から固まっていく…
と言うことでVHVI6だけでは0W-20が作れないことが判りました。
VHVIで0Wを実現するにはより柔らかいVHVI4が必要です。
VHVI4の100℃動粘度は4.2cStです。
流動点はVHVI6と同じ-15℃表記ですが、実際の-15℃の粘度はVHVI4の方がずっと小さいです。
-35℃でも倍以上粘度は違う筈…
VHVI4なら-35℃で6200cStは何とか確保出来るかもしれません。
かなり以前に流用させてもらったYubaseのブレンド表を出してみます。

レシピDのフォーミュレーションを見てください。
VHVI4+を63%でVHVI6を20%ブレンドしています。
ポリマーは6%添加ですがVHVI4+の粘度指数が高いおかげでしょう。
他のレシピは7%添加しています。
(一番左のYubase4だけで作ったやつCCS6250cStもありますね…)
Yubase4+の100℃動粘度は4.2cStです。
Yubase6の100℃動粘度は6.5cStです。
この二つを上の割合でブレンドすると100℃動粘度はたったの4.6cStしかありません。
でも、完成品の100℃動粘度は8.38cStもあります。
パッケージ添加剤がかなり粘度があるので規定量添加するだけでも増粘効果があり、1.0cStくらいは添加剤効果で増粘するでしょう。
8.38-4.6-1.0=2.78
ポリマーの増粘分が2.78cStと言うことです。
8.38からポリマー分の2.78を引くと5.6cStです。
0W-20の100℃動粘度は6.9~9.3cStです。(SAE規格)
ポリマーがせん断されてしまうと20側が全然担保出来ない。
ポリマー添加前の5.6cStだと0W-12の下限に近いです(5~7.1)
しかもレシピDの粘度指数は173です。
0W-20のオイルとしては極めて一般的です。
VHVI4+を使った高性能な鉱物油でも実粘度は0W-12程度しかない。
普通の安い0W-20はVHVI4です。VHVI3も入ってるかも?更に性能が悪い。
VHVIベースで粘度指数200を超える超高粘度指数0W-20の怖さが判りますよね?
実質0W-8程度、それ以下かもしれない…
これがPAOやGTLになると話は変わります。
特にPAOは流動点が全然違います。
PAO6の流動点は-57℃です。
PPD無しで-35℃は余裕でクリアです。
分子構造が複雑なPAOは低温で固まりにくいです。圧倒的。
極端なことを言えばPAO6にパッケージ添加剤を添加するだけで100℃動粘度も7cSt確保出来ますからこれだけでノンポリマー0W-20が実現出来ます。
実際にはPPDも少し添加する筈ですが、ほぼゼロでしょう。
ポリマーも殆ど添加する必要がありません。
0W-40にPAOベースが多いのはPAOを使わないと成立しないからです。
低温流動性が圧倒的に優れるPAOならPAO10でも0Wが実現できる。
(流動点何と‐48℃!)
PAO10にmPAOのような粘度指数向上剤を入れてノンポリマー0W-40だって出来そうです。
0Wだから柔らかい訳じゃないですからね。固まらないだけ。
0W-40と書いてあっても鉱物油に換算したら15W-50程度です。硬い。
GTLはPAOより低温流動性は劣ります。
分子構造がVHVIに近く、直鎖に近いイソパラフィンなので綺麗に並ぶと固まり(結晶化)やすい。
それでもVHVIより分子量バラつきが小さいので流動点はVHVIより5℃くらい低い。
GTL6を使用してPPD添加すれば-35℃は実現可能な領域。
高温側はPAOと同じなのでノンポリマー0W-20は実現可能なはず。
低温流動性
VHVI<VHVI+<GTL<<PAO
イソパラフィンの3種は分子量バラつきの差が流動点の差に出る。
PAOは分子構造が全然違うので固まりにくい。
日本では5W-20が全然流行りませんでしたが、本来VHVIなら5W-20が妥当な粘度です。
本物のSAE20ならエンジン保護性能も十分ある。
0W-20に擬態した実質0W-12が蔓延しているのがそもそもの間違いです。
Mobil1は発売当初5W-20しかラインナップがありませんでした。
おいおい、PAOベースなのに5Wなのかよ!と思いました?
Mobil1が発売された1974年には0W規格はまだありませんでした。(1980年制定)
実際には0W-20だったけど規格がなかったから5W-20表記。
恐らくPPD無添加、ノンポリマーだったのではないでしょうか?
(エステルだって無添加だったからオイル漏れは起きたw)
初の0W-20だったのに最初から本物だったMobil1。
今から50年以上前に5W-20だけを発売したモービル凄いですね。
20W-50やSAE40の時代ですからね。
結局メーカー保証粘度に達しない(表記上)ということで5W-30や15W-50が追加されますが、Mobilからしたらそこらの10W-40よりうちの5W-20の方が強いという自負があったのでしょうね。
自負が強すぎて20にこだわってしまった感じはあるかもしれません。
当然ネガキャンはあったでしょう。
20なんて油膜が足りない!ペンシルバニア産鉱物油こそ至高!
未だに日本で言ってる人たち?50年前の話ですよ?目を覚まして!
旧Mobil時代はこんな感じで技術者のこだわりで商売をしていた訳ですが、99年にExxonと合併してExxonMobilとなり今に至ります。
商売上手なExxonと技術者集団のMobil。
何となくその後のMobil1の変遷を見ていても思い当たるところはありますね。
どちらも元はロックフェラー家でスタンダードオイルですけどね。