
前回、VTECエンジンの功罪と題したブログが大変な数のイイね♪を頂き、かなり戸惑っています(^_^;)。
共感頂いた方々には、お礼と云うのも変ですが、大変な励みになりましたm(_"_)m。
一連のブログはある意図を持って書いているのですが、今日のお題はTYPE Rです。
ボクが96年にファミリーカーとして購入し、ちょうど一年前まで所有したインテグラRは、NSX-Rに続く2代目の、FF初代のTYPE Rでした。
NSX-Rデビューが1992年だから20年前、最後のFD2 TYPE Rの生産中止、FN2 TYPE R EUROの限定発売が2010年と18年以上の歴史を持つTYPE Rブランドですが、先ずはTYPE Rとは一体何だったのか?を改めて記しておきたいと思います。
FF専業の大衆車メーカーであるホンダの夢、少量生産のスーパースポーツカーを作ること、ホンダらしい旧来の常識や価値観を覆すコンセプトでNSXをリリースしたのが1990年。New Sports Xの頭文字を取って名付けられたNSXは、高い信頼性と快適性、競合に伍するパフォーマンスで大変な注目と人気を得ました。一方でその快適すぎるキャラクターに異を称える専門家が居たり、オーナーからもいま少し刺激的なテイストが欲しいという声も挙がったと言います。そんな声に応えるように1992年に運動性能を極限まで高めた限定モデルとしてNSX TYPE Rが登場しました。元々アルミボディで軽量設計の特徴を更に高めるために120kgという徹底的な軽量化を施したその手法は、市販車をベースにレーシングカーを作るが如く快適装備や安全装備であるエアコン、オーディオ、エアバッグやTCSは元より、メルシートを含む遮音材まで剥ぎ取るという大胆なもの。ホンダ曰く、120kgの軽量化は25ps以上のパワーアップに相当するとは、もちろんパワーウェイトレシオに照らしてのことです。よってNSX-Rのエンジンは専用に高精度な組み立てが行われながらもカタログスペックは標準モデルと同じでした。目指したものはズバリ「サーキットベスト」。軽量化手法が象徴するようにスーパースポーツたるNSXがそのポテンシャルを解き放てる舞台はサーキット以外にありません。ではそのステージにベストマッチしたNSXを作ろう。そのためにレーシングカーを作る手法を取り入れる。流石に内装無しの(鉄板ならぬ)アルミ板むき出しとはいきませんが、スポーツ走行に不要な物をことごとく拝する一方で、レーシングスピードを基準に足回りや駆動系を強化し、ハイグリップタイヤに合わせセッティングを煮詰めました。そして「サーキットへ自走して赴き、スポーツ走行を楽しんだら自走して帰宅する」ために必要最小限の保安部品のみを残しています。当然、一般道には全く適さないガチガチの足となりましたが「それがご不満なお客様は、どうぞ標準モデルのNSXをどうぞ」という潔さ!です。そう、TYPE Rのコンセプトは「サーキットで最高に楽しいクルマ」であり、そのココロはドライバーの要求に期待通りに反応し、結果としてとっても速いクルマ、ということです。
噂では、NSXの開発段階で標準クーペの試作車と同時にTYPE Rの原型となるスパルタンな仕様も用意し、コースで両方を役員に試乗させ「どっちにします?」と聞いたところ「両方やれ」と云われたとも。ホンダHPに紹介された
NSX開発秘話とは異なるこのストーリーの真偽はもちろん定かではありませんが、いずれにせよTYPE Rの歴史はスーパースポーツのNSXから始まりました。
1992年から1995年までの期間限定による注文生産となったNSXのTYPE Rですが、これの生産中止と入れ替わるように登場したのがFF初代TYPE RたるインテグラTYPE Rです。
ベースとなったインテグラ(DC2,DB8)はクイント・インテグラから数えて3代目。シビックのシャシーをベースとし、若干上級の3ドアクーペと4ドアハードトップでしたが、米国市場を指向した丸目四灯のフロントマスクが日本市場には不評。180psを誇るB18C VTECエンジンを塔載したSi-Rを持ちながら、三菱自動車からデビューしたFTOが三菱版VTECともいうべきMIVECエンジンを得て2L、200psを誇り、市場で劣勢を強いられていました。インテグラのマイナーチェンジを機に、FTOを意識したインテグラのスペシャルモデルを出すという企画が立ち上がったそうですが、NSXに携わった上原氏がどういった経緯で参画したかは私は知りません。が、氏はこの大衆車ベースのスペシャリティカーに「TYPE Rコンセプト」を持ち込みます。しかしTYPE Rは元々NSXのために練られたコンセプトであり、ベースとなるモデルの素性が全く異なります。氏は目指すインテグラ・スペシャルバージョンのゴールイメージを、当時のシビックのレース仕様車(確かN1仕様だったはず)に求め、開発メンバーに試乗させることによってイメージの共有を図ったそうです。後はNSX-Rで行ったのと同様に、走りに不要な装備を削り、ボディやシャシー、駆動系をサーキットに合わせて徹底的に強化するというTYPE Rの方程式を当て嵌めていきます。筑波サーキットなどでの実走試験で完成車のイメージが固まってくる頃には、開発メンバーの頭の中には「ライバルのFTOを・・・」という意識は無くなっていたそうです。この段階で既に、TYPE Rコンセプトにより生まれ変わりつつあるインテグラは、もうそんなレベルのクルマでは無くなっていたということなのでしょう。
ちなみにこの開発の過程で、TYPE Rコンセプトに一点の進化が生じます。実にエンジン屋のホンダらしいエピソードですが、上原氏はTYPE Rコンセプトの産みの親であり、その要点は徹底した軽量化とシャシーの強化によってサーキットベストのパフォーマンスを与えるもの。氏はインテグラのマイナーチェンジに於けるスペシャルモデルのエンジンについては「性能はシャシーで出すから、エンジンはそうねぇ、、、5psほど上げてくれればいいよ。」と担当エンジニアに伝えたそうです。このセリフにホンダのエンジン屋がカチン☆!と来ました。そして量産エンジンでは異例とも言える手作業によるポート研磨をはじめ様々な改良が加えられ、彼は上原氏に「200ps、出ちゃいました(-_-)v」と報告するに至ります。B18C 96specRの誕生です。ベースとなったB18Cがリッター100psの180psを既に達成している中で、普通なら更に5psの強化でも十分に無理難題と云えたかもしれません。出来上がったエンジンはリッター実に111psを叩き出し、レブリミットのピストンスピードはホンダF1エンジンを上回るというとんでもない代物です。これ以後、TYPE Rには専用の強化エンジンが奢られることになりました。この300万円以下で買えるFFのTYPE Rも、NSX-Rに劣らない絶賛を持って市場に迎えられると共に、様々な常識を打ち破りました。
「FFでスポーツカーは成立しない」という常識
「乗用車ベースでは専用設計のスポーツカーには適わない」という常識
「スポーツ走行するなら後輪駆動」と公言して止まない「ドリキン」土屋圭一氏をして「ホンダのTYPE Rだけは別」と言わしめたのはクルマ好きならご存知の方も多いでしょう。
初代インテグラRはボクの愛車でもあり、その速さ、凄さを紹介するエピソードには事欠きません。ボクはこのクルマでスポーツ走行を始め、初級者からのステップアップを共に過ごしました。1996年の暮れからになりますが、その速さは云わば「クラスを超えた速さ」でした。
当時1.8Lに競合するスポーツモデルはなく、2LではトヨタMR2(SW20)、セリカ(ST205)、日産スカイライン(R32,R33)、シルビア、180(S13,S14)、三菱ランエボ(Ⅲ、Ⅳ)、スバルインプレッサ(STI VerⅡ、Ⅲ)といった辺りがライバルでした。パワーはNAは180~200ps。ターボは250ps前後といったところ。
普通に考えれば、排気量も多く過給機まで付いているこれらのクルマに1.8Lの自然吸気が適うはずはありません。また「ターボ車が直線で速く、TYPE Rはコーナーで速い」と考えるかもしれません。
しかし現実は直線でもコーナーでもライバルより速かった。本当の話です。
「それはライバルを運転しているドライバーがヘタレだったのでは?」といえば、確かにそうだったかもしれません。しかしボクも同じ初級者(苦笑)でしたから条件は同じです。ボクがとんでもなく速いドライバーだったか?と言えば、残念ながら標準的な、もしかしたら少し上手な程度です(^_^;)。
では、インテグラRの速さは一体なんだったのか?
例えば筑波サーキット。第2ヘアピンを立ち上がってバックストレート。B18C 96specRは2速から3速の立ち上がりで250ps級の2Lターボと互角の加速を見せます。4速に入ったところでようやく2Lターボのトルクに若干差を付けられますが、直ぐに最終コーナーです。ここの飛び込みとコーナーリングスピードが違います。ホームストレートの立ち上がりではライバルは全くパワー差を見せ付けることは出来ず、第1コーナーを迎える、といった感じです。
筑波のようなテクニカルコースでは軽さとパワーとコーナーの速さが活きますが、流石にFISCOじゃツライだろうと思っていました。ところがこれまた現実は違いました。当時のFISCOは旧コースで、ヘアピン以降に300Rの高速コーナーとBコーナーというシケインが挟まり最終コーナーというレイアウト。約2キロの直線は変りません。先ず100Rのコーナーリングスピードがとにかく速かった。Aコーナーを立ち上がってからほとんどベタ踏みで回っていくと、周りのクルマがまるでスローダウンしているのかと思うくらいに差がありました。そしてBコーナーを回って最終コーナーは登りです。小排気量NAのインテグラRにはツラいシチュエーションですが最終コーナーを3速踏みっきりイケます。多くの先行車との差が一気に縮まります。メインストレートを立ち上がるとコントロールライン付近まで、ライバルとの車間が詰まることはあっても広がることは少なく、ストレート後半になってようやくジリジリと車間が開く、といった感じでした。
よりハイパワーなライバルが速くなかった理由は明らかにドライバーが踏めていなかったから。逆に言えば、TYPE Rはライバルより早く、そして長くアクセルを踏めるクルマだったのです。これはTYPE Rのシャシーがサーキット走行に最適化されていたからに他なりません。他社のスポーツカーは所詮、一般公道での利用を前提とし、サーキットスピードでは姿勢変化も大きいものです。この差が初級者では特に顕著だったのでしょう。TYPE Rはそういった場面でドライバーに一切、不安を与えません。思い切って安心して踏んでいけたのです。
これは例えれば、他のスポーツカーの性能を初級者では6割しか引き出せないとすると、TYPE Rならいきなり7割が可能。この1割の差が絶対的な性能差を埋めてお釣りが来た、といったところでしょうか。TYPE Rコンセプトと実車の実力、それが例え初級者といえどもドライバーに与えた効果は見事というしかありません。
何の不満も不安も無くドライバーは運転に集中し、楽しくてしかも速い!
これがTYPE Rの価値であり、もっとも解り易い功なのですが、クルマを手放して約1年、最近になって再認識した功があります。それは、
「どんなクルマを前にしても、ドライバーが全く臆することが無かった」
ということです。スポーツ走行を始めて以降、一般道で走りを楽しむことはほとんどしなくなりましたが、旅行など色々な場面でやはり色々なことがあります。例えば高速道路で大パワーのクルマに煽られたり、といったことです。クルマを見れば相手の車が速いことは明らか。性能差を考えれば、仮に挑んでも勝ち目が無いのも明らか。でも、そんなときでも「あれには適わないから道を譲ろう」などという気分には一度もならなかった。車線を譲るにせよなんにせよ、そんな「クルマの格差」に根差したある種の劣等感や卑屈な思いを抱くことは全くなかったのです。
そう、TYPE Rはボクに誇りと自信を与えてくれていたのです。
それは、メルセデスが迫ってこようがポルシェが迫ってこようが、決して揺らぐことは無かった。相手のクルマが何であっても、ボクの愛車も十分に速い。相手の方が速ければ、それはクルマが速いこと以前にドライバーが速いから。ボクが劣等感を抱くとすれば、それは相手のクルマにではなく、あくまでもドライバーに対して、そんな気分にさせてくれたクルマだったと、手放して1年余りを経て認識するようになりました。TYPE Rはボクにとって、クラスレスなクルマだったのです。
なかなか、他に欲しいクルマが現れなくても道理ですね(^_^;)。
ここまで書けば、もう罪は明らかです。マツダのSKYACTIV技術に強く興味を持ってアクセラSKYACTIVに買い替えましたが、Cセグメントの2Lハッチバック、それ以上でもそれ以下でもないクルマです。下位のクラスよりは速いですが、上位クラスのクルマには適わない。至極当たり前のことなのですが、例えば高速道路の追い越し車線を走っていて、大パワーのクルマが迫ってきて車線を譲り、走り去るのを見送るときの気分は、TYPE Rに乗っていたときには抱かなかった感情でした。
次もマツダを買うなら「フラッグシップ以外の選択は難しい」と考えるようになったのも、それが適わなければメルセデスかBMWなどのプレミアムブランドしかないと考えるのも、TYPE Rというプレミアムなクルマのせいなのでした。
このブログを読んでくれるTYPE Rオーナーの方々には是非、知っていて欲しいと思います。
TYPE Rというコンセプトは本当に崇高な理想と哲学によって成り、生み出されたクルマは他に並ぶもののない素晴らしいスポーツカーです。所有する誇りを持って、是非、大事に長く楽しんで下さい。
そしてもし機会があれば、愛車のスポーツ走行を体感してみて欲しい。自ら走るも良し、プロドライバーの同乗走行でも良しです。その素晴らしさは話を聞いても理解するのは難しい。別に「TYPE Rオーナーはサーキットを走るべき」と申すつもりはありません。その真価は、体感するのがもっとも手っ取り早いのです。一度体感すれば、愛車をもっと好きになれます。その後、愛車とどう付き合っていくかはご自由に。
でも、この上なく感動するのは間違いありません。それは保障します。そして、、、
次の愛車選びは相当に難しいでしょう。覚悟はしておきましょうね(笑)。