
マツダが人馬一体の乗り味に全ラインナップを統一するに至った経緯は
前回ブログで紹介しました。一部はボクの想像ですが、大半はマツダ社員、役員の発信(証言)が根拠になってます。
では、具体的にその
乗り味ってどんななのか?がこのブログの話題。
プロローグで
「欧州車オーナーには不評なように意図的に出来ている」なんて書いたので、
その点に興味を持った人が多かったようですね(^_^;)。
先ず第6世代マツダ車の特徴を簡潔に述べると
・軽快感
・ドライバーの運転操作に応じた自然でリニアな反応
・車両の運転(走行)状態がドライバーに判り易い豊かなフィードバック
が大きなところです。
じゃぁ実際に
ドライバーが受ける印象はどんなものか?
軽快感があって
運転操作に素直に反応する一方、
安定感はむしろ希薄です。また素直に反応するとは機敏でもダルでもなく飽くまで自然。挙動が読み易く
誰でも「運転がし易い」「思い通りに動く(動かせる)」という印象を覚えます。
車両の挙動(ロールなど)はどちらかというと
大きめですが、日本の法定速度+αのレベルであれば、車体(バネ上)がグラグラ動くという印象を受ける人は少ないと思いますが、乗り心地という意味では路面状況は結構、コツコツ伝えてきます。印象としては
固めの乗り心地でしょうか。
なんか特徴をこう書かれても、何が売りなのか良く解らないですよね(苦笑)
大きな特徴はやはり
軽快感で、これは車体の大きなCX-8やアテンザでも同様です。
しかしそれ故に大きい・重たいクルマらしいドッシリとした安定感、重厚感はありません。
ドライバーが受ける印象をひと言でいうと「線が細い」「
繊細」な操安性で、どっしり安定してちょっとやそっとじゃ不安定にならない図太い安定感、それによる安心感とは違う、スバル車や独車に比べると相対的に「頼りない」とか「
華奢」な印象を持つ人が居るかもしれません。
ここでひとつ断っておかなければイケないですが、ドライバーに与える印象がそうであったとしても、SKYACTIVボディ・シャシーからなる第6世代マツダ車の
基本性能は高いです。特にFF車のリアのスタビリティは素晴らしく、しかし回頭性は良好でアンダーは強くなく、軽快なハンドリングも持っています。つまり性能はけっして低くなくむしろ高いのですが、運転していると
そうは思えないのも特徴(苦笑)。
加えて、d(・・)
「ドライバーの運転操作に素直に反応」と「車両挙動の判り易いフィードバック」が特徴と述べましたが、実は多くの人に
盲点があります。
ドライバー(人間)が行なう運転操作には正しい/誤り、であったり、上手い/下手があります。素直に反応するということは、これらの
良い・悪いにもそのまま素直に反応するという事なので、下手な操作をすると変な動きをするし、フィードバックが豊かということは、とっても気持ち悪い動きがドライバーに伝わることになります(爆)。
つまりクルマの動きが良いか悪いかは
ドライバー次第(笑)。
ひとつ
解り易い実例で説明しましょう。
あるコーナーをいつものペースで走ると何事もなく普通に曲がれるとします。
そのときの挙動は
アウト側の前が沈み込むダイアゴナルロールで気持ち良く曲がっていくとします。
そのコーナーをいつもより
少しペースを上げて走るとします。
適切な運転操作が出来れば、ペース(旋回G)が上がった分、
より深くロールしてダイナミックに走ることが出来ます。
ところが少し
ハンドル操作をしくじると、グラッとロールしてヒヤッとします(苦笑)。そのときの車両挙動はアウト側の前が沈み込まずにイン側がリフトするような印象。
このように
運転操作のちょっとした違いで、車両挙動に顕著な違いが出たりします。
ここで補足しておきますが、グラッとしてヒヤッと感じたとしても、それでクルマが実際に不安定になったりはしません。あくまでドライバーにそう感じさせるだけです(^_^;)。
マツダの虫谷氏が
このインタビューで
「我々が最も恐れているのは、“怖さを感じない”クルマであること。例えばどれほどスピードが上がっても音や振動を感じない車は、ドライバーに危険であるという情報を与えてくれず、とても危ないと考えている。自分が車をどのように使っているか認識できる情報を“フィードバック”として造り込めれば、車が安全をもたらすのではなく、ドライバーこそが最大の安全装置になり、人馬一体感を味わうことができる」
と語っている事って、
具体的にはこういうことなんですね(^_^;)。
そして
もう一点、恐らく多くの人が知らない特徴があります。
ドライバーの運転次第、というと上手い/下手という話題になって、大概の人が
零か百かという風に思ってしまいますが、善し悪しも全然ダメw、ちょっとダメw、普通、少し上手、とっても上手、みたいに幅があります。上記の具体例を読んで「上手く走らせるには腕が要る」と思った人が居ると思いますが、別にそんなことはないんです。
普通に運転すれば及第点の
60点、
上手に運転すれば
80点。もちろん
乱暴に運転すれば
40点とか
30点とか、そういう挙動、フィードバックが返るだけの話。
だから普通に上手wな人が普通に走らせると「なんか特徴がなくて面白味に欠ける」なんて印象持つ人がいるかもしれませんが、そらドライバーの運転なりに動くってそういうことですからね(^_^;)。
じゃぁ
80点以上の動きをさせるには?
これには
クルマの特性に応じた運転操作をしてあげると、その個性が徐々に顔を覗かせてきます。まぁ車両特性の美味しいところ、スイートスポットに嵌めてあげる運転とでも言いましょうか。これをやってやると
見える世界が変わってきます。大きな姿勢変化のダイナミックな動きを通じて、
クルマとの一体感と共に自分が
クルマを操っている実感を色濃く味わえます。しかし当然みんなそんなの知らないし、そのスイートスポットに合った運転なんか、短い試乗でイキナリなんて出来ないので、多くの人が
そんな世界があるのを知らないです。
実はこのスイートスポットを教えてくれるのがi-DM(インテリジェント・ドライブ・マスター)の青ランプの機能なのですが、i-DMもスコアばかりしか話題に上らないし、多くの人がウザいとかお節介機能と思っているので、オーナーの中にもこのことに気付いていない人は多いです。
まぁこのレベルで初めて「性能を引き出すには腕が要る」という世界に入ってくるんですが(^_^;)。
ここまで書けば、欧州車の愛好家に不評な理由がわかると思います。
クルマの高性能化って一番解り易いポイントはやはりスピードで、性能が高くなればなるほど、誰でも安心してスピードが出せるようになります。クルマが新しくなって「運転が上手くなったように感じる」のは、限界性能が高まることで、そこまで性能を使い切れない一般公道で、その
高性能がドライバーに余裕を与えることから生じるモノです。
特に速度無制限のアウトバーンで鍛えられた独車は最先端を行っていて、外車が割高な日本に於いて、それらを好んで購入しているオーナーは、正にその高性能に価値を認めて余計なお金を払っています。
ところが今のマツダ車の乗り味は基本、
運転が上手くなったようには感じさせてくれません。
加えて、
運転が上手くなったように感じる(スポーツカーを含む)高性能車に乗っている人は、グイッとハンドルを切ってロール剛性が高くピュッと曲がってくれるクルマを「性能が高い」を単純に思っているので、急ハンドルや急ブレーキなど「急な操作は厳禁」という運転操作の基本が出来ていない人や、全く逆にグイッとかガバッとハンドルを切ったりペダルを踏んだりする運転が「上手い」「凄い」と勘違いしている人が少なからず居ます(^_^;)。
そういったオーナーたちが愛車の独車と同じ感覚でちょっとスピードを出してカーブで
グイッなんてハンドルを切ろうものなら、今のマツダ車は
グラッとロールして結構恐い筈です(苦笑)。で「
なんだこのフニャフニャな足は!?」って思うでしょうね(^_^;)。
なんでマツダがこんな操安性のクルマ造りを始めたか?という経緯は
前回のブログで述べていますが、マツダだって少し前までは虫谷氏曰く「パキパキ」の高性能路線でした。しかしそれでは所詮は独車の後追いで終わると悟りました。初代ロードスターの操安性に回帰したのは、
ドライバーの運転に応じたフィードバックを返してあげて、ドライバーがそれに「良い/悪い」を感じ取るようになると、人間は「良い」と感じる運転を自然に再現しようと試みます。そして上手く再現できたときに達成感を得る。
特段高性能ではない初代ロードスターが未だに愛され、高性能化路線で進化したNB、NCが登場した後も
初代が楽しいと言う人が居る、その理由を探って行ったら上記のこと(
フロー理論でいうところのフロー状態)が判って、それをロードスターだけじゃなく全てのマツダ車に展開しているって事だと思います。
藤原副社長が云っている
コレですね。
「そうそう、フロー理論。あの状態を我々は考えています。フローな状態って運転の上手い人だけじゃないんですね。自分の能力よりちょっと難しいことに挑戦して、成功するときにフローになる。そしてそれをずっと続けていくと上達する。」
独車を中心とした高性能路線って、クルマがどんどんフールプルーフ(誰でもそこそこ走れるよう)になってしまって、そうなると失敗の頻度が減るから逆に上手く走れた満足感も無くなっちゃいます。結果ドライバーはフローにならない(笑)。つまり今のマツダ車の最重要ポイントは、如何にしてドライバーに「上手く走ろう」「気持ち良く走りたい」って思わせるか、なんですね(^_^;)。
さて、以上のようなマツダ車の乗り味ですが、
課題は何か?
それは実はずっと
乗り心地だったと考えられます。
説明してきた通り、基本的に今のマツダ車って姿勢変化は大きい方なので足はけっして固くありません。にも関わらず、路面の凹凸を良く拾ってコツコツと来ます。理由の半分は路面状況をドライバーに伝えるフィードバックの一環ですが、いくらなんでも不快な突き上げまでフィードバックするのは上手くありません(苦笑)。
そんなに足を固めているワケでは無いのになぜ?というと、実は乗員が感じる
乗り心地に影響が大きいのはバネの固さでは無く
ダンパーの特性なのです。恐らく運転操作に対する挙動変化による
フィードバックを造り込むため、かなり
綿密な減衰力のチューニングを行っているのでしょう。ロールは大きくても恐くなかったり、そんなに大きくロールしている感じがしないのは、
ロールスピードが適切にコントロールされているからです。
その代償として、ハーシュネス(突き上げ)はどうしても強めに出てしまって乗り心地が悪い。しかし乗り心地に配慮してその辺りを手当てすると、狙い通りの挙動変化にならない。そのイタチゴッコというか、バランスポイント(妥協点とも言うw)探しが、第6世代マツダ車の乗り味の大きなテーマだったのではないか?と推察しています。
だからその二律背反のブレイクスルー、
マツダが考える理想の挙動と、乗り心地を犠牲にしない走りの実現が、
次世代商品の進化のポイントだったと思います。
その辺は次回のブログで。