車両トラブルは落ち着いてるので若狭湾に密集する原発銀座を巡ります。
能登半島ドライブで少し触れたように私は原子力出身です。
かつて私が携わった原発も実際に現場には行ったことが無いので死ぬまでに一度は訪れたいと思い今回の旅行を思い立ったわけです。
※専門用語はなるべく排除してわかりやすいように記載したつもりですが興味ない方はスルーしてください
先ずは高浜町へ。
旧道沿いのPに立ち入ったら・・・ここに熊出るんですか?
北海道のドローン墜落現場を思い出した(笑)
関西電力高浜原発。
右の円筒建物は1,2号機、左は一部見えてませんが3,4号機があります。
商業用原発燃料はウランです。
その原子炉内ウラン燃料と燃料棒の挙動解析が仕事でした。
燃料は通常3年間燃焼させて取り出します。ここ高浜ではそれを4年間燃焼させる高燃焼度の開発を担当してました。
1年多く燃焼させるので核分裂生成物は当然多く生成され、燃料を装荷してるジルコニウム合金製燃料棒は応力腐食割れなどを起こして影響は出てきます。
これをシミュレーション解析して設計するわけです。
もうひとつ。
原子炉内ではウラン燃料に中性子を照射して核分裂を起こさせ、その分裂の時に大きなエネルギーが生まれるのでその熱を利用したのが原発です。
核燃料の中心温度は高温(1000℃以上)になり燃料を収縮させたり膨張させるため温度分布に偏りが生じます。
それをなるべく平衡化するために開発した特殊なガドリニウム燃料というのがあり、この出力特性も解析してました。
ガドリニウム燃料は中性子を吸収しやすいガドリニウムをウラン燃料に混ぜたものです。
さらに、
ウラン燃料は核分裂が起きると二つの元素に分裂します。これを核分裂生成物と呼びます。
ウランは核分裂する元素(U235)としない元素があり、核分裂しない元素(U238)は中性子を吸収するとプルトニウムに変異します。
プルトニウムは自然界に存在しない元素で毒性が強く扱いは非常にシビアです。
また核兵器の原料にもなるので国が保有するプルトニウム量は厳密に管理されてます。
このプルトニウムを燃料として燃焼させる研究が古くからおこなわれており、原発燃料として着目されました。
ウランにプルトニウムを混ぜたものをMOX(モックス)燃料と呼ばれます。
このプルトニウムも中性子を吸収すると核分裂が起きて出力はウラン以上に高くなります。
その制御は大変難しく挙動解析は細心の注意が求められました。
高浜原発を出発して道の駅シーサイド高浜でいっぷくする。
奥に見える大きな橋を渡って次なる原発へ。
関西電力大飯原発。
発電所はこの山の向こう側にあり見ることは出来ませんでした。
なので近くの海岸へ行ってみる。
大飯原発では主に4年間燃焼させる高燃焼度の仕事が多かった。
ここは4基の原子炉があり関西電力の中で一番大きい規模の原発です。
原子炉もいろいろサイズがあり、車でいうと排気量の違いみたいなものです。
ウラン燃料は粉末から焼き固められて1個の形状はタバコのフィルター程です。これをペレットと言います。
このペレットを長さ5m前後のジルコニウム合金製燃料被覆管に装荷され、これを1本の燃料棒となります。
例えると5mのガス管に数百個のタバコフィルターが詰まってる状態です。
燃料棒の中はヘリウムガスが充填され密封されます。
燃料棒は14本×14本(または15本,17本)正方形の集合体にまとめられその集合体の数で原子炉出力が決まります。
大飯原発は17×17タイプの集合体が200体程あり、燃料棒総数は約5万本の国内最大級の出力です。
高浜原発をクラウンクラスとすると大飯原発はセンチュリーってとこでしょうか。
次は関西電力美浜原発。
ここは電力用としては国内初の商業原子炉で大阪万博の年(1970年)に送電が開始された。
右の2基は1,2号機(廃炉)、左の大きいのは3号機。
規模としてはあまり大きくなくカローラクラスです。
ここの仕事はほとんどなくて、原子炉は年1回安全審査があり国に提出する資料作り程度だったと思います。
発電所の目の前は水晶浜があり、その名の通り青く透き通った浜が印象的でした。
最後は特殊なタイプの高速増殖炉もんじゅ。
旧動燃(動力炉核燃料開発事業団、現・日本原子力研究開発機構)時代に携わった原子炉です。
ここの燃料はすべてMOX燃料(ウラン・プルトニウム)で、先に書いたように出力制御は難しい。
また、一般的な発電用原子炉の冷却水は水(軽水)ですが、もんじゅは液体金属ナトリウムを使ってます。
この液体金属ナトリウムは水に触れると激しく反応して爆発するので冷却系管理も難しいそうです。
この増殖炉というのは核燃料が増えるという意味でそう名付けされました。
ウランには核分裂しない元素(U238)があり中性子を吸収すると核分裂するプルトニウムに変異すると書きましたよね。
もんじゅの中心にはMOX燃料を配置して、外周部には商業原子炉で使い残った核分裂しないウランを再処理してここに配置します。
そうすると中心部で発生した中性子は外周部に到達してウランからプルトニウムを生成して核分裂させます。
つまり装荷以上のプルトニウムが生成されるので燃料が増える(増殖する)わけです。
プルトニウムは毒性が強く長期保存は厳重な管理が求められます。
また核兵器原料にもなるのでそれを保有することは核保有国から見ると日本も準核保有国とみなされてしまうため原子炉で再利用してその量を減らす役割も担ってます。
もんじゅの仕事は主に使用済燃料の冷却方法の開発と崩壊熱除熱解析でした。
もんじゅは金属ナトリウム漏洩と火災やクレーン落下など深刻なトラブルがあり実証本稼働する前に残念ながら廃炉が決まりました。
写真はありませんが、もんじゅの奥に旧動燃の新型転換炉ふげんがあります。
燃料はMOX燃料で、もんじゅが本格稼働するまでの間、大量のプルトニウムを燃焼させる世界初の原子炉です。
ここの仕事は主に炉心核特性解析でした。
ふげんも実験稼働を終えて廃炉が決まりました。
主に担当していた原子炉はほぼ見られたので満足しました。
福島原発事故など世間の風当たりは強いですが、自分の担当部分での事故はなかったのでやってきた仕事は誇りに思ってます。
つづく。
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