貴重な資料ということからか、当人の予想を上回って需要があるオプションカタログ。今回は29年前のコンパクトカー編です。
昭和50年代は、純粋にそのクルマに憧れている場合が多かったのですが、昭和60年代に入ると、免許を取って自分で乗るクルマという現実が近づいてきます。その分新型車を見る目が現実味を帯びたりするわけで。
この頃、父のクルマはカローラでしたから、自分はこのサイズのクルマがクルマ生活のスタートかなぁ、とかおぼろげに考えていました。それだけに、この型が出た時には、父の知り合いのセールス氏がいた、今は亡き東京トヨペット池袋営業所にカタログを貰いに出かけていたりします。(ただし、今回のターセルではなくコルサ)
あまり長々と書くと、(思い出のクルマ編)になってしまいますので、この辺りで1986年5月版を紹介していきましょう。
ちなみに、この時のモデルチェンジは3ドアと5ドアのみで、4ドアはマイナーチェンジのみに留まります。従って、両車間ではオーディオ類を除いて、完全に部品の共用はできないのですが、オプションカタログは1冊でまとめられています。
トヨタ車のオーディオ端子は、それまで9pin・6pin・1pinでしたが、このクルマから今に続く10pin・6pinに変更。それに伴い、オーディオもフルモデルチェンジしています。このモデルは80年代末期までしばらく設定されていました。
このモデルはオーディオに力を入れていたらしく、3ドアの上級グレードでは、この時期のトヨタ車に多いインダッシュスピーカー以外にもドアスピーカーが装着可能となっています。
パーソナル無線は、技術革新が進んで半分の高さとなっていますが、あまり時間が経たない内に設定自体が廃止されてしまいます。
シートカバーは、上級フルカバーだけでも「スポーツ」、「ファミリー」、「レディス」と3タイプあり、設定グレードで使い分けがされています。
今では敬遠されがちなレースハーフですが、ハーフBには「ヤングマンにもレディスにもピッタリ」の文言有(笑)
ここでは、リトラにも設定されているフェンダーランプが目を惹きます。
2代目セリカXXの用品カタログでこれを発見した時には、その短さも相まってかなり驚きましたが、こちらにも設定があったのです。
この手の装備が必要な場合は、フェンダーマスコットに流れたはずですから、かなり珍しい用品のはず。もちろん実物を見たことは、ありません。
このモデルでは、ライター&灰皿を1DINサイズ化したこともあり、最上段には1/2DIN、その下には3DINが組み込み可能となっていました。そのため、この高さを生かせるフリーラックコンソール小物入れが、1/2DIN・1DINの両サイズで設定されていました。
カップホルダーも、インコンソールではこれが最初の設定だったと記憶しています。
初代ソアラを彷彿させるクォーターシェ-ドがある一方で、それまでのカーテンに変わる商品として、ソフトサンシェードを新設定。この後登場するサンシールドストライプも含めて、この辺りは、プライバシーガラスが普及する以前ならでは、ですね。
ここではラック類の種類の多さが注目点でしょうか。
「夏は海へ、冬は雪山へ」というのは、少し前のハイラックスサーフでも使いましたが、RVの普及する以前は、この手のクルマで出かけることが多かったのでしょうね。
この代はサイドのプレスラインが特徴的で、それを印象付けるためか、前期ではサイドモールすら外されています。それを補うかのように、ストライプやプロテクションモールが各種設定されています。
設定の中にはクリーンミニなんて品もあったのですね。名称や一見の画像からは、クルマのお手入れ用品のように見えますが、実は”簡易トイレ”。
もはや、このあたりになると、車種別の用品に含める必要はないように思いますが(笑)
ということで、ターセルの用品カタログでした。
最後に、初めて取り上げていますので、このモデルの概要を記載しておきます。
この時のモデルチェンジは、初代から8年続いたFF縦置きと決別する契機となりました。
そのことは、上位のカローラFX、下位のスターレットとの差別化がより難しくなることも意味していましたが、両車は欧州向け、こちらは北米向けという形での差別化をしつつ、両車間の小さい隙間にねじ込まれることとなります。
小さい隙間の障壁としては、先に触れたとおり、4ドアセダンのモデルチェンジが据え置かれたこと、後にGPターボが追加されるものの、当初は最上級でもツインカムやターボはもちろんEFIすらも持たなかったことがあげられると思います。
セダンも、輸出仕様にはリヤオーバーハングを延長した2ドアセダンが存在したことからすると(現在よりはるかに情報の少なかった当時、現地で最初にこれを見たときには驚いたものです)、その気さえあれば実現可能だったのでしょうが、この時点で横置きの4WDの開発が進んでいなかったことと、兄弟車とは同系列の扱いとなるカローラやコロナへの影響を考慮したのでしょうね。(このあたり、ビスタ店からは要望があった可能性もありますが)
逆に欧州要件から逃れたことで、パッケージ等は比較的煮詰められず、デザイン優先で設計出来た部分も見受けられます。それに加えてFXやスターレットよりもどことなく都会的な雰囲気を漂わせていたのは、得意のマーケティングの成果であろうとも。
同クラスでありながらも、ファミリアやシビックよりジェミニの方が近いように思えるのは、同じように北米に向けた設計要件で作られているからなのでしょう。
このモデルチェンジの結果は、ファミリーユースにおける大衆車の潮流が2ボックスから3ボックスに移っていったことや、登場翌年以降シビック・ミラージュ・ファミリアとライバル車の一新が進んでいったことで、名前違いによる3系列の販売をもってしても、徐々に苦戦を強いられていくこととなります。しかしながら、3ドアの廉価グレードに商機を見つけて「価格は安いのに、一見ではそれを感じさせない」で売り切ったのは、さすが強かなる「販売のトヨタ」でありました。
予想を下回る販売となったリトラや5ドアは、マイナーチェンジやグレード追加によるテコ入れが図られるものの、結局この世代で見切られて、次世代ではシリーズ構成が再構築されることとなります。その結果は、さらなる販売台数の増加となるだけでなく、カローラの販売にも影響を及ぼすことにもなるのですが、それはまた別の話ですから、今回は軽く触れるだけとしましょう。
そんなターセルも、最終モデルが兄弟車共々生産中止になってから10年以上の時間が経過しています。その成り立ちからして、現在はアクア辺りが近い存在となるのでしょう。だとすれば、このターセルと現在のアクアを並べてみて感じる大きな違いは、30年近い時の中でこのクラスに求めらえるものが変わったということを意味するのでしょうね。