多くの人は「だれ?」と思うはず。名前だけだと一般的には認知度は低いかもしれないが、テレビ番組のBGMなどにも彼の曲が頻繁に使われていたりするので、知らず知らずのうちに皆さんの耳にも届いているかもしれない。そんな彼を語るには、まず「Two Steps from Hell」という〝音楽家集団(プロダクション)〟の説明をしなければならない。
映画が未完の場合、映像はそれまでに撮った場面を適当に編集すればいいが、音楽ができていない場合はどうするか?そんな時にお呼びがかかるのが映画の「予告編」の音楽を専門に制作するプロダクションだ。そう、「Two Steps from Hell」は主に映画の予告編の音楽をコンポーズする音楽ユニットであり、プロダクションのこと。そのグループの中心的人物、リーダー的な存在が「トーマス・バーガーセン」なのだ。皆さんが劇場に映画を観に行くと本編の前に長々と観せられて、あまりに長くて辟易することもあろうかと思うが、ああいった予告編のバックに流れるBGMを手がけるのが彼らの主な仕事というわけだ。
実際に予告編に使われた曲を集めたアルバムを「Two Steps from Hell」名義で数多くリリースもしている。その多くは映画のイメージを膨らませた、壮大で荘厳、雄大かつ感動的な楽曲ばかりだ。予告編のみに暫定的に使われて本編では使われないような曲なんだから、その場凌ぎのテキトーな曲かと思ったら大間違いだ。予告編に使用する前提なので時間的には2~3分前後と短かいが、そのわずかな時間の中で、観る者、聴く者に絶大なインパクトを与え、視聴者の心を鷲掴みにしなければならない使命を負っている。それだけに曲のみを聴いても聴き応え満点!心を揺さぶられるような圧倒的なエネルギーは本編の音楽以上と言っていい。
彼の創り出す楽曲は、基本的には「Two Steps from Hell」名義のものは映画の予告編用に創られたもの、本人名義(Thomas Bergersen)で発表されたものは映画とは直接関係のない、彼オリジナルの作品と考えていただいて良いと思う。
彼の作風は、静かな旋律から始まって後半に向けて徐々に盛り上がっていき、最高潮でエンディングを迎える、という曲想が多いが、そうかと思えば「Ride To Victory」のように勇ましい行進曲のような楽曲も彼の得意とするところだ。自分のように吹奏楽をやってきた人間には〝ツボにハマる〟と言うか〝刺さる〟曲だと思う。今、吹奏楽をやっている学生の皆さんの琴線にも触れる一曲。
「Ride To Victory」
この曲に限らずトーマス・バーガーセンの曲は、吹奏楽にも向いている楽曲も多い。みんカラを利用している方の中には現役の中高生はいないと思うが、私のような吹奏楽経験者の方や、お子さんが吹奏楽をやっている方などは、是非これをきっかけに「Thomas Bergersen」と「Two Steps from Hell」の名前、存在を知っていただけると嬉しい。
彼の作品の中では比較的珍しい部類の曲だが、少し怪しげな雰囲気のコーラスから始まって、そこにドラムとエレキギターが重なり、激しいロック調になる「He Who Brings the Night」はロック好きな方にもおすすめだ。
「He Who Brings the Night」
「Empire of Angels」はまるで現代版〝ボレロ〟のような曲。一つのメロディを繰り返しながら、さまざまな楽器やボーカル、コーラスが徐々に重なって、曲の厚みが増していく手法が感動的だ。
「Empire of Angels」
自分が思うに、「Thomas Bergersen」の曲のスゴさというのは、珠玉とも言えるような数々の素晴らしいメロディ、旋律を、まったく出し惜しみしないというところだ。それぞれを別の曲として完成させてもいいんじゃないかと思うような感動的なメロディを、一つの曲の中で惜しみなく矢継ぎ早に繰り出してくる手法は、絶対的な彼の才能の成せる技だと思う。そんな彼の非凡さを前面に出し、その才能を余すところなく発揮した、10分にも及ぶ大作「That's a Wrap」は圧巻の一曲だ。