
みなさんゴキゲンよう!
モータージャーナリストの山田弘樹(やまだ・こうき)です。
千里の道も、一歩から。初心者でもクルマを目一杯楽しんで、最後の最後は「ニュルブルクリンクへ走りに行こう!」というこのコラム。
今回はなんと、マセラティのレーシングカーでサーキットを走ってきちゃったお話の後編です!
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編集部TAKASHI(以下・TAKASHI):というわけで
前回に続き、今回は
「マセラティGT2」でサーキットを走っちゃったの後編です!
実際にそのコクピットに乗り込んで、600馬力オーバーのスーパーカーを走らせてきちゃったわけですが、どーでした!?
山田弘樹(以下・山田):それがね、
すごく運転しやすかったんだよ!
TAKASHI:またまたぁ。
マセラティにサービスしてません?(笑)
山田:そんなこと、ないんだよ。
「よくできたレーシングカーほど、乗りやすい」って聞いたことない?
TAKASHI:ありますね!
山田:きっとTAKASHI君なら、
フツーに運転できちゃうよ。
TAKASHI:ほっ、ホントですか!? (単純)
山田:スポーツドライビングが大好きで、まじめに運転のセオリーを学んでいるドライバーだったら、普通に走らせられます。
だって考えてみてよ。馬力はベースとなっているマセラティMC20と変わらないのに、足周りはさらに固められて、スリックタイヤまで履いているんだよ?
となるとクルマそのもは、ノーマルタイヤを履いているMC20よりも遙かに安定しているわけですよ。
TAKASHI:なるほど! でも速く走らせるのは……
山田:また別の話で、やっぱりそこには、きちんとしたレーシングテクニックの基礎が必要。
でも絶対的なスピードの高さは別として、
「ロードスターパーティレース」とか、
「GR86/BRZ CUP」のクラブマンシリーズできちんと走れているドライバーだったら、レーシングスピードでも走らせることができると思う。
そもそも現代のGTカーレースは、ジェントルマンドライバーたちのために作られたカテゴリーだからね。
そして、その完成されたレーシングカーとしての素晴らしさに感動してくれると思う。
TAKASHI:では実際にレーシングスピードで走らせたとき、マセラティGT2ってどんな動きをするんですか?
巨大なミッドシップ・スポーツカーだから、そうは言ってもやっぱり手強いイメージです……。
山田:まさに、そんな印象でした。
スプリングレートが高められているからブレーキングでも姿勢はすごく安定している。そしてターンイン(曲がりはじめ)もすごくよくノーズが入って行くけど、ブレーキを残し過ぎると、
きちんとスピンもできる。
TAKASHI:
スピンしたんですね…(笑)。
山田:モデナは低速コーナーばかりだったからいいけれど、もっと速度域が高いコースだったら、アマチュアにはちょっと厳しいかもね。少なくともジュニアフォーミュラカーの経験はあった方がいいかもって最初は思った。
そしてこれを開発ドライバーの(アンドレア・)ヴェルトリーニさんに伝えたら、
「そんなことないよ!」って言われたんだ。
TAKASHI:どういうことです?
山田:アンドレアさんいわく
「今日のタイヤはもうグリップが残っていなかったけど、ニュータイヤを履いたら、すごく安定するから大丈夫!」だって(笑)。
あと
「今度はもっとハイスピードコーナーのあるサーキットで、エアロダイナミクスの良さも体験して欲しい」って言われた。
だったら最初から、ニュータイヤ履かせて欲しいよね!
TAKASHI:なんだかすごい次元の話ですね(笑)。
「もうタイヤのグリップないけど、コイツ大丈夫そうだ」って思われたんですかね?
そんな状態で乗った、600馬力オーバーのエンジンパワーは、どうでした?
山田:すごくよく管理されていたよ! そしてエンジニアもこの
3.0L V6ツインターボ“ネットゥーノ”(※)には、すごく自信を持っていた。
※ネットゥーノは、イタリア語で「ネプチューン」の意味。マセラティのシンボルであるトライデントマークは、海の神であるネプチューンの三つ叉の槍を模したもの。つまりこのエンジンは、マセラティのシンボルユニットということになる。
数周走らせたあとピットで様子を聞かれて、
「少しターボラグがあるかも」って伝えたら、
「そんなことないよ! それならトラクションコントロールのダイヤルを減らして。そうすればパワーを絞らなくなるから!」って言われて。
TAKASHI:やっぱりエンジニアさんも、なかなか頑固(笑)。
山田:でも実際にそうやって走らせたら、ノーマルよりも大きなタービンを搭載しているのに、すごくレスポンスがよくなったんだよ。そして過給圧のコントロール性がよいから、コーナーから徐々にアクセルを踏んで行くような場面でも、うまくトラクションを掛けていくことができるようになった。すごくいいターボエンジンだなって思ったよ。
TAKASHI:アマチュアドライバーが、段階的に学べるのはさすが現代のレーシングマシンですね。
あとパワーがあっても扱いやすければ、怖くないんですね!
山田:そうなんだよ。わかって欲しいのは、そういうところ。スーパーカーってカッコとパワーばかりが注目されちゃうけど、そのパワーをどうやって使いこなしているかが大切なんだ。
結論から言うとマセラティGT2は、
甘すぎず辛すぎず、ほどよいスポーティさのレーシングカー。ミドシップらしいシャープさとエンジンのパワフルさを、シャシーやドライバーズエイドが上手に受け止めてくれていた。
TAKASHI:これでレースをしたら、めちゃめちゃエキサイティングでしょうね!
山田:そうだと思うよ。集中して乗っていると、すごく楽しいけど結構疲れる。集中力が切れて息が上がったとき、
「モータースポーツしてるな!」って思った。
そして
「もう疲れちゃったから無理!」ってピットに戻ったら、
「クーラー付ければ平気だよ。もっと走ってOKだよ!」って言われてコースに送り出された(笑)。
TAKASHI:さすがイタリアン(笑)
山田:耐久レースで強いのはメルセデスAMG GTみたいにブレーキングが良くて、コーナーでがんばらないでストレートでタイムを稼ぐクルマだといわれている。対してBMW M4みたいなコーナリングマシンは、常にドライバーが全力を出さないと行けないから、大変だって聞いたことがあるんだけど、マセラティはその中間かな。
コーナーも速いんだけど、エンジンのエンジントルクもあるから、レースだと楽しいし快適だと思う。実際
「ファナテックGT2 ヨーロピアン・シリーズ」での成績はとてもいいみたい。
TAKASHI:うわー、これはかなり壮観ですね!
僕も一度でいいから、こんなレースに出てみたいなぁ。
山田:いつでもマセラティに紹介するよ(笑)。
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山田弘樹(やまだ こうき)モータージャーナリスト
自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦。
こうした経験を活かし、現在はモータージャーナリストとして執筆活動中。愛車は86年式のAE86(通称ハチロク)と、95年式の911カレラ(Type993)。
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。