2009年08月19日
[2ヶ月前]
「お~い、真一~、一緒に帰ろうぜ~!今日は絶対拒否不可だからな!」
教室を出ると友人の拓也が「絶対拒否不可」の下校ラブコールを送ってきた。
「あぁ、すぐ行く。」
少し面倒臭そうに生返事をして、廊下から顔を覗かせていた美智に両手を合わせ「ゴメン」のポーズを無言で送った。
気にしないでと、美智もまた無言で手を振って合図を送った。
帰り支度を整えて、教室を出るとしっかりと拓也にしっかりと腕を掴まれ、強制連行されてしまった。
2人が下駄箱を出ると、更に2人の友人が梅雨の雨の中傘をさして彼らを待っていた。
「2人ともおせぇよ!早く昼飯食いに行こうぜ~。」
高校三年生ともなれば実力テストも日常茶飯事で、この日も実力テストの日だった。
今日は3教科だったので昼までで学校は終わった。
「絶対拒否不可」の誘いに成功した拓也がやや満足な表情で、皮肉たっぷりに
「最近真一付き合い悪いよなぁ。強引にでも連れ出さないと美智ちゃんとすぐ帰っちまうんだから。たまには俺らとも付き合えよ!」
と、真一に吐き捨てた。
「うるせぇな、ちゃんと週一くらいで付き合ってるだろうが!何ならお前らも彼女つくればいいだろ?」
と、得意げな顔をして今度は真一が皮肉と嫌みをタップリ込めて倍返しをした。
真一からすれば倍返しなのだが、フリーの3人にすれば3倍にも4倍にも感じられる。
「冷たい事言うなよぉ。」
健司が頼りない声でそう言うと、真一にもたれかかった。
「やめろよ、濡れるだろうが!」
真一の声も虚しく、モテない3人組は真一をからかい始めた。
今日の降水量は半端ではない。よく「バケツをひっくり返したような…」という表現があるが、もはやそんな表現など比ではない。滝の下に常にいると言った方が的確だろう。しかも、なまっちょろい滝ではない。あえて例えるならナイアガラの滝だろうか。
とにかく、傘の効力もあまりなく、頭上付近のみだけ役目を果たしていた。
おかげで視界は驚くほど悪く、10m先も見えない状態だった。しかも大きな雨音で会話は大声にならざるを得なかった。
学校を出て、真一の自宅のある方向へ彼らは歩き出した。
彼らは相変わらず真一の事をからかい、ふざけながらワイワイといつもの歩道と車道の区別のない下校路を歩いていた。
この時、真一は一番道路側を歩いていた。
いつもそうだ。
なぜか友達や美智など人と一緒に歩く時は必ず道路側を歩く。どうやら癖らしい。
そして、この時この癖を熟知していた者によってある計画が密かに遂行されていた。
ワイワイと騒ぎながら下校している彼らに1台のトラックが接近していた。
しかし、浮かれ気分と、この道はあまり車が来ないという無責任な安心感と、激しい雨音と、悪条件の視界とが重なり合って、接近するトラックの存在を予告させなかった。
そしてトラックもまた自らの存在をアピールしなかった。
そして、真一は完全無防備な状態でクラクションも鳴らされる事もなく、トラックに後ろからはねられた。
ドンッ!
雨が降っていなければかなりの衝撃音だったが、激しい雨音によって辺りに響くといった事にはならなかった。
トラックは真一をはねてからわざとらしく急ブレーキをかけた。トラックはスピンターンをかけて運転席を跳ねた真一の方に向けた。まるで確認するかのように。
刹那。
一瞬目の前全てが真っ白になる。
体が宙を舞う。
あらゆるシーンがスローに見え、感じられた。
友達が叫ぶ声。
全身に当たる大きな雨粒の感触。
全身に伝わる激しい痛み。
死ぬんだろうなという絶望感。
しかし、そんな中で走馬灯は異常な速さで頭の中を駆け巡った。
両親の事。とても穏やかな両親で、父は仕事に明け暮れ、母は趣味のお菓子作りに打ち込んでいた。比較的裕福で、よく両親と美味しいものを食べに行った。欲しいと思うものは大抵手に入ったし、わがままも融通も利いた。でも何かしっくりこない家族だった。そう言えば俺1人っ子だった。兄弟が欲しかった。
彼女の事。とても自分にはもったいない素晴らしい女性だ。恵まれた男だった。どうせ死んでしまうなら1回くらいしておくんだった。あんまりいい事してあげられなかった。
友達の事。あいつらと帰るんじゃなかった。でも色々バカやって面白かった。修学旅行も楽しかったし、部活も面白かった。授業中も落ち着きなくて。そう言えば拓也から2千円返してもらってなかったっけ。
奈津の事。憎たらしい奴だった。いつも何かとガミガミ言いやがって。そう言えばあいつとは喧嘩越しな毎日だった。少し…ってか、大いに美智の可愛らしさを見習えってんだ。でも、それでも好きだった。
その他諸々色々な事が駆け巡って、薄れゆく意識の中で真一は最期の力を振り絞ってトラックの室内に目を向けた。丁度体が逆さまになって、体がトラックの方を向いていた。
自分をはねた野郎の顔を拝んでからじゃないと死ぬに死ねない。
激しい雨で視界が悪いが、至近距離だったので幸い目に焼き付ける事が出来た。
「一生呪ってやるからな。」
一生の終了を目の前にしての呪い。何と短時間な事かと思い返して、
「死んでも呪ってやるからな。」
と、予定を変更した。
食い入るように運転席を見ると、そこには見覚えのある顔の男があった。
その男は不気味に笑みを浮かべていた。
あの顔は・・・。
あの顔は・・・、よくうちに出入りしてたお父さんの研究所の人じゃないか・・・。
おいおい・・・。
落胆しながら、地面へと叩き付けらた。
再び全身に激しい痛みが走ったが、その直後彼は意識を失った。
そして、彼は救急病院へ搬送されたが意識不明の重体だった。
応急処置室に運ばれた真一の身体にはいくつもの配線が絡み付いていた。
懸命に処置を施す医者。
頻繁に慌ただしく出入りする看護士。
ピッピと不規則に響く電子音。
そんな中、彼の名を必死に呼び続ける1人の女の子がいた。
ラフなショートヘア、いかにも体育会系な健康的に焼けた肌、まるでいつも何か見透かしているような大きな目、確固たる信念と自信に満ちた精悍な顔立ち、自分の体の半分はあろうかというでかいスポーツバッグを持った女の子が。
事故現場にいた3人が学校に引き返す途中で事実を知らされた彼女は、一目散にここにやってきた。
だがいつものラフなショートヘアは雨に濡れ、焼けた肌と対照的に唇は真っ青に、大きな目は事実を受け入れたくないため細められ、大粒の涙が溜め込まれ、精悍な顔立ちはもろく崩れ去っていた。
彼女は真一の名前を呼び続けた。
他には何も言わず、ただ名前を呼び続けた。
看護士に体を掴まれながら必死に抵抗して。
ひたすら呼び続けた。
声がかれるほど大声で。
ひたすら呼び続けた。
しかし、呼び続ける声も虚しく彼は息を引き取った。
そして、彼は彼の父親の手元に引き取られた。
全ては彼の父親に委ねられた。
そして・・・。
「そして、俺は生き返った。」
クローン人間として。
新しい人類として。
新一として。
新一がふと我に返ると、時計の長針と短針は真上を指していた。
最近ずっとこんな調子だ。1人になる時間があれば、この事ばかり考えてしまう。
果たして僕は生き返って良かったのか?
それより先にまず生き返りたかったのか?
もちろん自殺願望もなく死にたくはなかったが、もし死んだとしても生き返りたいとは思っていなかったし、もう一度人生をやり直したいとも思わなかった。それが自然の摂理だと考えていたから。
なのに…、何故僕はここにいる?
わからない。
それに僕は真一じゃなくて新一だ。
なのに皆は僕を真一としてしか見てくれない。
僕は僕なのに。
新一は新一なのに。
生き返った時点で真一は新一になったんだ。
真一は僕になったんだ。
なのに何故?
なぜ僕をぼくとして見てくれない?
確かに僕は彼の全てを受け継いだ。
でも僕は僕だ。
真一じゃない。
僕は真一の変わりじゃない。
どこか遠くに、僕の事を何も知らない地に行きたい。
そして僕も誰も知らない地に行きたい。
僕を新一として見てくれる誰かを探して旅に出てみたい。
どうせ、死んでしまうなら・・・。
どこか遠くへ・・・。
そう、彼に生まれるはずのない新一としての人格が形成されていたのだ。誰も予想しなかっただろう。
彼の父親も、研究者達も。
そして彼自身も。
「面倒くせぇ。」
色々考える事が面倒臭くなった新一はそう呟いて、残り少なくなった睡眠時間を有意義に過ごす事にした。
Posted at 2009/08/19 12:50:12 | |
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2009年08月19日
「ただいま。」
特に言う必要もないのだが、癖というか社交辞令というか・・・。やはり社会生活を送るにあたっては社交辞令くらいは常識的に行わなくてはなるまい。最近ではそれすらうっとおしいと感じている。
少し重めの玄関のドアをかったるく開けると、台所の方から聞こえてくる機嫌の良い母親の声が新一を迎えた。
スリッパをパタパタと音立てながら、エプロンで手を拭き慌ただしく玄関にやってくると、
「おかえりなさい、真一。今日は遅かったじゃない?疲れたでしょ?お風呂沸いてるから入りなさい。」
と笑顔で迎えた。
新一は表情一つ変えず「うん」とだけ応え、階段を上り自分の部屋へと足を進めた。
いつもの事だと諦めているのか、新一の素っ気無い態度にも母親はニコニコして再び台所に戻って行った。
ガチャリ。
暗い部屋にドアを閉める乾いた金属音が響いた。
照明のスイッチを入れ、大きく一息つく。
見慣れた自分の部屋。
馴染めない自分の部屋。
他人の部屋のようで落ち着けない空間だが、完全に1人になれる一番落ち着ける空間でもあった。
机の上の置き時計を見ると、18時半を少し過ぎていた。
予定外の出来事があったので、1人になってからは急ぎ足で帰ってきたのだが予定時刻を少しオーバーしてしまった。
走って帰ってきてもよかったのだが、そこまでする気力もないし、そこまで切羽も詰まっていなかった。
しかし、定刻を過ぎてしまったのは少し誤算だった。
そう言えば少し頭が重い気がする。
体も少しながらダルイ。
それはくだらない補習授業を延々聞かされてからくるものではなかった。
とりあえず、持っている鞄を机の足元において、身軽になる。
「フゥー、薬が切れてるな。」
そう独り言を言って、机の上に置いてあるタブレットを2つ程口に放り込んだ。
味はしない。ただ糖衣に包まれているので当然といえば当然だ。水はないが、2粒くらいなら唾で飲み込める。下に降りて水を取ってきてもよかったのだが、それすら今は面倒だ。
30秒もすると即効性のある薬の為、体の調子が正常に戻った。
そしてもう一息つくと空になったタブレットの容器を尻目に風呂場へ向かった。
階段を降りていくと、降りてくる新一の足音に反応した母親が声をかけた。
「真一、今晩はお父さんも帰ってくるみたいだから、晩ご飯少し遅くなるけど我慢出来る?」
反対する理由も見当たらないので「わかった」と生返事をして、新一は風呂場へと消えた。
長めの風呂を終えると、新一はしばらく自分の部屋でのんびりとしていた。
いつもの事だが下らない補習授業を延々聞かされた所為か、心持ち疲れが多い。肉体的もそうだが、精神的な疲れの方が圧倒的に多い。肉体的な疲れというのは程よければどちらかと言うと心地良いものだ。しかし、精神的な疲れというのは言ってみればストレスやフラストレーションの蓄積であるから、絶対に心地良いものではない。肉体的疲労は精神的疲労まで及ばないが、精神的疲労は肉体的疲労を誘う。厄介な物だ。もちろんそれは今日だけに限っての事ではないのだが。
そして少しウトウトしていると、母親が「ご飯よ~」とダイニングに招集をかけた。
久しぶりの一家団欒。
母親は久しぶりの一家団欒を嬉しそうに、父親は仕事で疲れた様子で、新一は何も考えずそれぞれ各々の食事を進めていた。
母親は比較的楽天的な性格なためか、いつもニコニコしていて無意味に話題を振って来るタイプだ。そのため近所付き合いも多く、頻繁にカラオケ大会や、お茶会などに顔を出すほどのアクティブさだ。年頃の新一にとっては少し鬱陶しい存在でもあるが、病弱で内気な性格の母親よりは元気で何よりといったところだ。
一転して父親は無口なタイプで、必要最低限の会話しかしない。端から見れば何を考えているか分かり辛く、接しにくい人間である。頑固爺というのとは違って、妙に孤独を好む傾向にあるタイプのようだ。仕事一筋で、朝早くから出勤しては、夜遅くに帰って来る。休日はと言うと、接待ゴルフが日課でほとんど家にいる事はなかった。近所では「固い人」「非常に無口な人」で通っている。それだけ物静かな性格なのだ。どうしてこんな対照的な性格の人間が結婚なんかしたのだろうといつも疑問に感じていた。
しかし、新一に対しての接し方は違った。頑固で無口な性格でも、自分の子はやはり可愛いという事か?
「真一、体の調子はどうだ?」
そう言うと父親が晩酌のコップ半分程残っていたビールを飲み干して、新一に目をやった。しかしその目つきは、親が子に向ける暖かいものではなく、どこか機械的に一つの動作としてなされたものだった。
「はい、特に何もありません。いたって順調ですよ。ただ別の事で少し気になる事がありますけど。」
淡々と食事を進めながら、新一が父親に素っ気無く応答した。別に反抗期でもなく、ついているテレビのバラエティー番組に夢中になっているわけでもない。
特に父親と話したいわけでもないし、いつも特殊能力の話やら研究材料となる話題しか振ってこないからだ。
たまに違う話をし始めたかと思うと、社交辞令のような会話で終わってしまう。
だから新一も特に親身になって話す事をしなかった。
わざわざ他人行儀を装い、ただ年上の人とそれとなく当たり障りなく話す、と言った動作しか彼はしようとしなかった。
しかし、それを知ってか知らずか父親はよく話し掛けてきた。
「何だ?」
空になったコップにビールを注ぎ、一口飲んでテーブルに肘を乗せ新一の方へ肩を寄せた。口の周りに阿波がついて少々間抜けな顔になっている。が、何事もなかったかのように、淡々と解答の為口を開く真一。いちいちそんな事気にしていられないというか、父親に興味がないというか、機械的にというか。
「はい、最近連中の動きが活発になってきている気がするのですが?その連中を監視するお父さんの部下達も。」
連中とは、多国籍のクローン技術賛成派・反対派の人間である。賛成派からは技術スパイが誘拐目的で、反対派からは暗殺目的でそれぞれ人間を送り込んできていた。もちろん、そんな連中には新一をどうこうする力など持っていない。
賛成派とあるが、実際は別に賛成をしているわけでもなく、どちらかというと賛成派に分類されるというだけで、ただ単に技術が欲しいだけである。世界初の生き返った少年の構造、経緯に興味があり、データを採取して技術を我が物にしたいという魂胆だ。それならば日本と手を組めばいいのだが、彼らには彼らなりのプライドがあるらしい。日本は科学技術の先進国であるから、特許の数も半端なく多い。それに嫌気をさしているのだろう。姑息なやり方ではあるが、彼らにとってこのやり方が一番面子が保てるという訳のようだ。
反対派は、日本独自の超最先端クローン技術は悪魔の化学だと唱えている。宗教信仰の強い国は特にだ。彼らの主張では、このクローン技術は世界を滅ぼしかねないというのだ。例えば一般的に言う「悪人」を増やして、世界の色を変えることも出来てしまう技術だという意見があるし、生命とは作り出すものではなくて、生まれ出ずるものだという主張する意見もある。確かにそう言われてみれば納得してしまいそうだが、賛成派からは不慮の事故で大切な人を亡くした場合等のケースでは、その家族などに多大な意味を持つと言われているので、それも納得できる。
同じくDNA操作も日本独自の超最先端技術というのは、悪魔の化学だと唱えている。万病のかからない体を作り出せば、人は長生きできるというのが賛成派の言い分だが、そんな事をしても新たに病気は発生してしまうものだし、そんな事は人間本来の生きる姿ではないというのが反対派の見解だ。つまりこれらの技術はもろ刃の剣というわけだ。
日本はこの賛否両論の中、極秘に研究を進めていた。
新一の父親が先陣をきって。
美智の父親が助手に回って。
そして、新一が誕生した。
しかし、極秘といっても情報は必ずどこかで漏れるもので、今新一に白羽の矢が立っているというわけだ。とんだ迷惑である。
またビールを一口飲んで、父親は無責任に笑いながら新一に言った。
「真一、そんなに気にする事はない。お前の感覚が研ぎ澄まされていて、少し神経質になっているだけだ。部下達のサポートは万全だ。それに世間の目がある、そう簡単にはうかつに手を出してこんさ。お前は何も心配する事はない。」
新一は他にも言いたい事があったが、「そうよ」と母親の無神経な笑いがその場の会話を強制終了させた。
遅めの夕食を済ませ、自分の部屋へ向かうと、その身をベットに投げ出した。電気をつけていない部屋に月光が差し込み、新一の姿を優しく照らした。電気の明かりと違い、自然の光というのは穏やかで和むものだ。きっと昔の人は毎晩こうして自然に光りに照らされながら、優雅な生活を送っていたのだろう。でもそれは日常生活にゆとりを持てない現代人の勝手な解釈であって、当時の人は逆にいつでも明るく照らす道具があればなぁと不便を感じていたのだろう。そのお陰で今の生活があるのだが・・・。昔の人は偉い!
そんな事を考えながら満腹感と疲れの所為か、睡魔が激しく襲って来る。
特殊能力を使えば、瞬時に疲れなど取る事が出来るし寝る事もしないで済むが、リラックス出来る時は出来るだけ普通に休息を取るようにしていた。
うとうとしていると、一瞬目の前が真っ白になった。状況を確認するのに1秒程かかったが、どうやら部屋の電気がついたらしい。
母親が寝ているかこちらの様子を覗きにきたようだが、別に声をかける用事もないので寝たふりをしていた。
母親が去り、電気が消え再び暗闇が訪れると新一は溜め息をついた。
「やっぱあの感覚は好きになれないな。」
ぼそりと独り言を言う新一に、2ヶ月前の事が鮮明に思い出された。
真一が死んだあの日の事を・・・。
Posted at 2009/08/19 12:06:19 | |
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2009年08月18日

「オスマンサンコン呼んできて!」

Posted at 2009/08/18 23:02:18 | |
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2009年08月18日

今日は『鳥取県名産』の『豆腐ちくわ』!
焼酎と一緒にいただきま~す♪
酒のアテにはサイコーです!
ウマウマでした~♪

Posted at 2009/08/18 21:29:25 | |
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2009年08月18日
横に並んで歩くと、後ろに伸びる影が2人の身長の差を物語る。2人の影の差は50cmと言ったところか。
しかし、実際の背丈にはそんなに差はない。あっても10cm程だろうか。
小さな影が右往左往して落ち付きがない。まるで小動物のように。チョコチョコフラフラと忍耐の欠片も見られない。
一方、もう一つの影は下駄箱を出た時からのペースを保っていた。ただ、けだるそうにボチボチと歩いていく。己の欲求を満たすためだけに。
「まっ、それなりに少しはカモフラージュの足しにはなってるさ。」
新一がそう言うと、奈津が少し歩くペースを上げて新一の2歩前に出た。
「たまには文化祭の方にも顔出しなさいよね。高校生活最後の文化祭なんだから。」
前に出た奈津がクルッと振り返り、新一と正面になるように後ろ歩きを始め、上げていたペースを彼と合わせる。鼻を少しだけツンと出し、幸せそうな顔をしている。
ラフなショートヘア、いかにも体育会系な健康的に焼けた茶色い肌、まるでいつも何か見透かしているような大きな二重の目、確固たる信念と自信に満ちた精悍な顔立ち、自分の体と同等サイズの大きなスポーツバッグ。
今は逆光で見え辛いが、見なくてもこの顔は脳裏には焼き付いている。笑った顔、悲しんだ顔、怒った顔、どんな顔も新一の脳の中にはインプットされている。特に、怒った顔が印象的に。
それは小学校時代からの幼なじみという理由だけではなかった。
「ねぇ、今度…」
奈津が何か言いかけたが、新一の肩の遥か後方からある人が目に入ったので気を利かせて止めた。
「何だよ?」
脱力男でも何かを言いかけられて尻切れとんぼは気になるらしい。
「何でもない。それより後ろから美智が来てるよ。たまには一緒に帰ってやんな!あたし先帰るからさっ!バイバイ!」
そう一方的に告げると、回れ右をして進行方向に体を向け早歩きで行ってしまった。
「…ったく。」
その姿を目で追いつつ、新一は歩くペースを一段と遅くした。疲労がピークに達したからではなく、遥か後方より来る美智の為に。
新一と美智との距離が10mを切った頃、彼に後方より本日二度目の下校のお誘いの声が響いた。
「真一さ~ん、今お帰りですか~?御一緒させていただいてよろしいですか~?」
彼女にとってかなりの大声らしいが、周りから聞けばか細く蚊の鳴くような声にしか聞こえない。
まるで何かに怯えている小動物のような可愛らしい声だ。
新一は「コントロール(神経操作)」で聴力レベルを上げ、彼女とのきたるべき会話に備えた。
あまり聴力レベルを上げすぎると聞こえなくてもいいものまで聞こえてくるので、彼女の声が聞き取れるギリギリのレベルに設定した。最近ではそういった細かい制御まで出来るようになってきた。今までは大雑把な制御しか出来なかったのだが、慣れと怖いものでいつの間にか特殊能力に目覚めていた。
「ハァハァ、やっと追いつきました。すみません…、ノロマで。」
別に走ってきたわけでもないのだが、気持ち小走りをしてきたのだろう。少々息が上がっている。そんなにも体力がないのかと正直疑問に思ってしまう。学校の体育の時なんかはどうしているのだろう?体育は男女別々の授業の為、彼女の現場を見た事がないが、恐らく苦手である事には間違いないだろう。きっと成績は努力点のみで評価されているに違いない。
手を胸に当て呼吸を整えると新一の横に並び、気を遣って自分の為に遅くしてくれていただろう新一の歩調を少し速めるように少し前に出た。一見のんびりとしたように見えるが、彼女もその辺は自覚しているらしく、いつもそうやって気を遣っていた。
「いえ、気にしないでください。急ぎませんから。」
新一はそう素っ気無く応えた。それは自分に向けられた会話ではなかったから。
美智は昨年の夏に新一の家の近所に引っ越してきた。何でも昔、両親同士が決めた許婚とかで、引っ越して来るなりいきなり家族ぐるみの交際がスタートした。食事をするのは当たり前で、旅行に行くにしろどこかに出掛ける時はいつも一緒と言った有り様だった。引っ越して来るなり美智の方は真一のどこが気に入ったらしく、真一の好意になさに気付かないでベタベタ引っ付きまわり、いかにも乗り気で結婚できるなら今日明日にもという一方的なアツアツぶりだった。
真一は美形とまではいかないにしても、それなりに女の子に人気がある容姿をしていたので、そこに惚れたのだろう。しかも、真一は何かと放って置けない性分らしく、少し鈍臭い美智の面倒をよく見ていたので、そこも要因の一つになったのだろう。「こけるだろうな」という段差の前では必ず注意を促し、「忘れるだろうな」という物は予め用意したりしていた。決して真一は好意を持ってそう接したわけだはない。そういう性格なのだ。
しかし、真一の方はあまり乗り気にはなれなかった。
それは、
親同士が勝手に決めた事に納得がいかない事、
あまりに突然だった事、
その当時あまり異性に興味がなかった事、
そして・・・。
しかし、何度か会食など会う機会を重ねるごとに諦めが増していった。
町角で1人歩いていたら必ず声がかけられるだろう抜群の見た目容姿、
おしとやかで温厚な性格、
そして、叶わない現実を知った瞬間から。
「それにしても今日は一段と暑かったですね。補習の方は順調ですか?」
呼吸が正常に戻るとスカートのポケットからハンカチを取り出して、額についたうっすらとした汗を拭い、美智が新一の方を向いて笑って見せる。普通の男ならこんなスマイルをされた日には、嬉しくて仕方ないのだろうが新一は何の興味も示さなかった。それは補講で疲れていたからではない。
「えぇ、この猛暑にはうんざりしますね。」
新一はこんな感じで、1ヶ月前から嘘をついている。
真一を装う為に。
彼女と着かず着かれずの状態を保つ為に。
これ以上彼女を傷つけない為に。
夕陽の沈む方向へと足を進めている2人の背後には、先ほど同様影が出来ていた。
夕陽と地面との角度がより鋭角になってきているせいもあるが、2人の影の差はゆうに80cmを越えている。実際には20cm程度だろう。
小柄でスタイルの良い細身、いかにもお嬢様を思わせる透き通るような白い肌、清楚な顔立ちをより知的に見せる小さな銀縁の眼鏡、高級そうな小振りの鞄。
「誰かさんとは大違いだ…」
つい新一がボソっと言ってしまった。
「え?何がですか?」
独り言で言ったつもりだったが、美智の耳に入ったらしい。誰でも自分に向けられた発言にしろ、そうでないにしろいきなり解釈不明な事を言われると少し気になるものだ。
「いえ、何でもありません。」
別に何もやましい事はないのだが、比較の対象にしてしまった微かな罪悪感から慌てて否定する新一。
あまり触れてほしくなさそうな話題を察してか美智は話題を変えた。
「私、進路決めました。私、前に言ってた女子大に行こうと思うんです。」
「そうですか。」
予想通りと言えば予想通りの事だった。
「えぇ、珠美が一緒に行かないかって言ってくれてますし、それに先輩も大勢いるので安心かと思いまして。」
真一の事故死が起こるまでは、真一と美智は同じ国立を目指していた。
しかし、生き返った新一に彼女は違和感を憶え始めていた。今までと何ら見た目は変わらないのに、妙な違いが彼にはあった。
前よりも一段と接する態度が優しくなった。真一は元々そういう性格だったが、わざとらしく見えるほどの時もあった。
まるでそうするようにプログラミングされたロボットの様に。
それがDNA操作のせいだとも知らずに。
だが彼女は奈津とは違い、どうしても新一を真一としてしか見れなかった。
当然事実を知らないわけだから、当たり前と言ってしまえばそれまでなのだが、どうも生き返った「新一」を好きにはなれないらしい。
しかし、違和感を憶えたのは彼女だけでなく、彼本人もそうだった。
真一の時、即ちクローンになる以前はこんな事はなかったのだが、生き返ってから無意識のうちに体と脳がそう働いてしまう。いつもそれに気付いた時には遅い。だが最近はそうでもなくなってきた。
彼はそれを目覚めるはずのなかった「新一」としての自我で制御していたのだ。
研究者達の誰もが予想しなかった「新一」としての自我が覚醒してしまったのだ。
だから新一はなるべく美智を避けていた。
会えば自我と反する自分ではない自分が動き出すし、それを制する為に新しい自我が激しく葛藤を始める。まるで自分が多重人格者の様に思えて気味が悪くなってきたからだ。
それにこれ以上彼女にも自分にも嘘を付きたくなかったから。
そんな新一から段々と美智は疎遠になっていった。
もちろん親同士が決めた許婚だから、お互いの親の顔を立てるために極端に疎遠になる事にはならなかったが、少なくとも今の段階では両者に相手に対する好意は限りなく0に近いだろう。もともと真一には好意というものはあまり存在しなかったのだが。
だから今は家族や周囲に悟られないよう、お互い義理という形で日々を過ごしていた。
「真一さん、私は帰りに寄るところがありますのでこれで。」
営業スマイルのような満面の笑みで彼女は、新一に別れを告げた。まさに営業スマイル。彼女が今何を考えているかは、最近では全くわからなくなってきた。と言っても天然でほのぼのした性格の為以前からわかりにくかったのは事実だ。だから今更別にわからなくても構わないが。
美智と別れて、彼は少し急ぎ足で一路我が家を目指した。
Posted at 2009/08/18 19:56:59 | |
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