2009年08月28日
「一体いつまで無駄に歩き回る気だ?」
かれこれ9時間以上も歩き続けている。もう日が暮れようとしている。今は閑静な住宅街を歩いているが、さっきまでは同じ所を何度も通り、ダラダラとしか歩いていない。勿論、新一がこのセリフを吐いたのは今が初めてではない。しかし、こうして歩いている間も薬の服用を忘れてはいなかった。
「もうそろそろ頃合いですかね・・・。」
そう少年が言うと、突然走り出した。何事かと思った新一だったが、置いていかれぬように同じように駆け出した。だが、少年の走るスピードは尋常ではない。新一は遅れを取らぬよう両足にブーストをかけ、臭覚レベルも上げた。もし仮に見失ったとしても、彼の匂いを追えばいいからだ。
しかし、それはあくまでも最終手段にしたかった。なぜなら、9時間もこの辺一体を歩き回っていたので、至る所に彼の匂いが残ってしまっている。匂いの強弱で時間差を判断できるが、面倒な事だ。
そんな事を考えていると、急に少年が立ち止まった。慌てて新一も間隔を空けて立ち止まる。追いかける事のみに集中していた新一は、一瞬ここがどこなのかわからなかった。見知らぬ人物に着いていくのに、通過経路の確認を怠ったのは少しいただけない。自分に批判をすると、すぐさま辺りを見渡した。
日が暮れ薄暗くなっているが、新一の視力には関係なかった。見渡すと、初めて自分が陸上競技場のど真ん中にいる事に気付いた。住んでいたところの近所にあって、観客席しか入った事がなかったので、まともに足を踏み入れたのは初めてだ。
まんまとハメられた。ハメられてやった。今の新一の頭の中はそれだけだった。元々、まともな状況などは望めなかったし、相手の提案に乗らざるを得なかったので諦らめはついている。取りあえず一旦ブ
ーストを解除して、両足の破壊度を確認する。全くと言っていい程、影響はないようだ。
「おいっ、俺が気付かないとでも思ったか?」
新一が吐き捨てると、少年がこちらに振り向きニヤッと笑った。
「いえ、とんでもない。僕はあなたに敬意を持っていますからね。少々卑怯かと思いましたが、勝てば官軍の世の中ですからね。」
舌打ちをした新一は、強気に吐き捨てたが、内心は自分の身に絶体絶命の危機を感じていた。普通の人なら絶対にわからないだろうが、この競技場には数十人を超える狙撃手がこちらに銃口を向け身を潜めている。
ここにやって来た時点で、すぐに射撃が行われなかったのは恐らく少年への誤射を避ける為なのだろう。無論相手方に段取りがあるならば事情は別だろうが。
新一はもしもの時に備えて、微弱ながら両足に再びブーストをかけ始めた。だが、万が一の事になれば本当に分が悪い。最悪の事を想定して今から行動しなければならないだろう。しかし今はそんな事を考えている場合ではない。自分がここまでやってきた大元の原因をはっきりさせなければならない。
「奈津はどこだっ?」
新一が少年に怒鳴りつけた。しかし、少年は微動だにせず、相変わらず奇妙な笑みを浮かべている。
「あぁ、ナツさんですね・・・。」
そう言って、右手を軽く天にかざした。すると競技場の照明が、ある一点を照らし出した。新一がすぐさまそちらに目を向けるとそこは選手が外と競技場内を出入りする為の通路だった。
そこから、軽装備に武装した2人の男が、間に女性を挟んで歩いて来て姿を現した。
やっぱり・・・。
新一は安心したと共にひどく落胆した。
そう、目の前に見える女性は奈津ではなかった。
そこにいるのは、彼らの芝居の一出演者なのか、抵抗を諦めたのか、人形なのか、ただ武装員に連れてこられたといった感じで、放心状態の二十代位のセミロングヘアの女性だった。
「約束通り、ナツさんですよ?って、今更白々しいですか?」
少年が更に卑らしく顔を歪める。
「最悪だ・・・。」
そう言った新一はどうしようか迷っていた。彼女がどういう人間かはわからないが、これ以上自分は今こうして無駄に時間を過ごすわけにいかない。彼女に義理も何もないし彼女がもし、本当に人質だとしても、道徳に反するかも行為かもしれないが見捨てて行くしかあるまい。勿論今この状況で、見捨てていく事は、見殺しにするのと等しい。だから、本当に申し訳ないのだが、今回ばかりは許してもらおう。自分を許そう。
そう葛藤を押し切って、足にブーストをかけた瞬間だった。
「たっ、助けてぇぇぇぇぇ!」
と、放心状態の女性が叫んだ。慌てて武装員が彼女の口を塞ぐ。悲痛の叫び声が闇夜の競技場に響き渡った。
その瞬間だった。新一はブレイクを発動。女性の元へと向かっていた。
一度は見捨てようとも考えたが、やはり新一にはどうしてもそれが出来なかった。しかも追い討ちをかけるように彼女の叫びを聴いてしまった。その甘さがこの後に大きく響く事になる。
一瞬で女性の元に到達した新一は、まず左のガタイの良い男の顎に右手の掌底をブチかます。ガタイの良い男が軽々しく後方に吹っ飛ぶ。瞬時に右の男に狙いを変える。脇腹に左足の延髄蹴りをくらわす。あまりの衝撃に男は地面に顔を伏した。
この間3秒。
おそらく2人の男は新一の姿を確認したのが、最後の記憶で自分に何が起こったかわからなかっただろう。よろめく女性を抱き支え、地面に座らせた。
「大丈夫ですか?」
一応声をかけてみたが、応答はなく、ただ体を震わせていた。仕方ないだろうと思考を切り替え、少年を睨み付ける。
「流石は新一さんですね。やはり僕達にはあなたが必要です。警戒しないでいいですから聞いてください。」
少年がそう叫んだ。
しかし、新一はそれどころではなかった。自分の置かれている立場が更に悪化してしまった事を考えていた。助けたのはいいものの、いざ何かをするとしても彼女は足手まといでしかない。第一自分の事で精一杯だ。女性を守っている余裕などない。それを見越した少年は、あえてみすみす助ける事を見逃したのだろう。今になって自分の甘さに反省をする。
「聞いてもらえるんですかぁ?というより、あなたは聞かざるを得ない。そうでしょう?だってあなたの今の立場は・・・」
「ごたくはいいっ!さっさと言え!」
間髪入れず新一の不機嫌の極みの声が響く。
やれやれ、といった仕草で少年が近づいて来る。
もう今更じたばたしても仕方ないと半ば諦めた新一は、ブレイクを一旦解除し、徐々に近づいて来る少年を待った。
「申し遅れました、僕は『真』と言います。コードネーム002と言った方がわかるでしょうけど・・・。」
「そのお前が俺に何の用だ?」
その応答を聞いた真が満面の笑みを向ける。
「やっと会話が成立しましたね。やはり、人と話す時はまず名を名乗らないといけませんね。」
「常識だ。カプセルの中じゃ常識は教えてくれなかったのか?」
ハハハと真は笑うが、別に笑いを取る為に言ったわけではない。新一の不機嫌指数が更に上昇する。
「さて、本題に入りますか。新一さん、僕達と手を組んでもらえませんか?」
予想外の発言に戸惑い、言葉の根底にある意味を考えたがサッパリわからない。その様子を見た真は続けた。
「何から話せばいいやら悩んでいるんですが・・・。僕達は新井の抹殺を計画しています。そのためにあなたの力を借りたいんです。」
「抹殺・・・だと?」
何故?彼は新井の忠実なしもべなのではなかったのか?
「フフフ、相当混乱しているようですね・・・。これからあなたの脳にインプットされていない、人間とアヤカシとの真実を教えて差し上げますよ。あなたはアヤカシが、僕とあなたしかいないと思っているでしょう?」
「当たり前だっ!こんな馬鹿げた能力を持った奴なんか他にいるかっ!」
「あなたは神話や伝説を信じないでしょうが、それらは全部といかないまでも、ほとんどが実話なんですよ。例えば吸血鬼や沖縄の守護神のシーサー。彼らは今でも存在するのですよ。」
「何を言い出すかと思えば下らん。だからどうしたと言うんだ?」
そう言った新一の脳裏に先日の鈴木との会話がよぎった。「完全なSF」まさにその通りなのか?
「今はオリジナルの吸血鬼達もだいぶ減って来ました。勿論、少ないながらもオリジナルは活動していますが、今はコピーという存在が増えました。コピーとは、あなたのように普通の人間だった人にオリジナルの性質を植え付けて誕生した者の事を言います。」
脳裏に嫌な予感が走る。
「まさか、それをしていたのがあの研究所か?」
もはや、新一の不機嫌は消え去っていた。今は真の話に興味すら抱いている。
「えぇ、ご察しの通り。新井は自分の為だけにデータを取る為、むやみやたらとコピーを増産したんです。正確には『ダブルブリット』を、です。」
「ダブルブリット?」
「えぇ、あなたはもはや人間ではない。かと言って、純粋なアヤカシでもない。地上の生き物を人間や動物、植物等と分類した呼び方でする場合、あなたはダブルブリットという全く新しい生き物なんです。ダブル・ハイブリットからの造語です。つまり、二重の雑種という意味です。簡単に言えば、半アヤカシと言ったところです。」
「まて、その言い方だと地上の生き物の分類に、お前の言うアヤカシが入っていないんじゃないか?」
「アヤカシというのは、昔から存在したのですが、人間社会には認知されていないんですよ。例えばさっき言ったみたいに神話や伝説扱いにされてしまってね。ちなみにあなたの半アヤカシの部分は何だと思いますか?」
「知るかっ。」
「まぁ、それはいずれわかるでしょうから、いいとして。新井がむやみやたらとしてしまったので、アヤカシ達が怒り出しているんです。勿論当事者であるダブルブリット達も。元々アヤカシは人間を捕食とする為、人間に対するイメージは悪かったのですけどね。それに新井が拍車をかけてしまったというわけです。アヤカシは仲間意識が強い生き物なんです。例えば吸血鬼の話ですが、吸血鬼退治をした神父が、その後に皆奇怪な死に方や突然の失踪を遂げています。人間の解釈では呪いだとか言っていますが、あれは全てアヤカシによる復讐なんです。アヤカシは殺られたら殺り返すという習性というか本能を持ち合わせていますからね。それがアヤカシの間での道徳なんです。だから、半分血の混ざったダブルブリットにも強い仲間意識を持っています。そのアヤカシとダブルブリットが今『クロスブリード』という組織を立ち上げ、反乱を起こそうとしています。僕はその組織の年少組のリーダーです。」
新一の頭の中は混乱に満ちていた。自分は真という新井の手下に、殺されるとばかり思っていた。しかし、その彼が新井を殺そうとする組織の一角だという。もう何がなんだかわけがわからない。
「まて、そんなにアヤカシやダブルブリットは多いのか?」
「えぇ。でも決して多いわけではありません。それに皆が皆クロスブリードの考えに賛成しているわけではありませんからね。ダブルブリットは見た目等は普通の人間と何ら変わりがないですから、わかりにくいでしょうし、アヤカシにも人の形に化けて普通に生活しているのが大半ですから区別がつきません。たまに耐え切れなくなったアヤカシが人間をさらって食べてしまう事があるらしいですが。ほら、よく行方不明者とかのニュースが不意にある事があるでしょう?その事件が迷宮入りしたとか。あれをアヤカシに言わせてみると、どっかのアヤカシが動物では我慢できなくなって、人間を食ったのだろうと言うんです。元々人間だったあなたにはこの話は抵抗があるかもしれませんが、アヤカシにすればそれが常識なんです。人間が動物や植物を食べるように、アヤカシは人間を食べる。さっき言った吸血鬼は人間の血液を吸うだけですけど。」
淡々と話をする真に不思議な思いを新一は抱き始めていた。
自分にもアヤカシが半分いるからなのだろうか?初めて知った真実なのに、抵抗はあまりなかった。そんな自分が人間離れしているかと思うと少しだけゾッとしてしまう。
「余談が過ぎましたけど、そんなわけであなたの力を借りたいんです。あなたならわかってくれるでしょう?あなたも新井が憎いでしょう?」
「一つ聞きたいが、何故生まれて間もないお前がそこまで新井が憎いんだ?」
「所詮、僕も他のダブルブリットと同じで、使い捨てだからですよ。当初僕はあなたを殺して忠実な新井の飼い犬になる為だけに生を授かったのですよ。でも、新井の企みを知ってから、僕の生きる目的は変わりました。多くの同胞達を苦しめている新井を抹殺しようと。だからダブルブリットである僕は、ある意味アヤカシより仲間意識が強いのかもしれません。つまり、自我の覚醒ですね。僕には生まれるはずのない自我が現れたんです。それは新一さん、あなたも同じ事でしょう?」
指摘された新一はコクッと頷いた。どうして自分よりも年下に見える真がこんなに色んな事を知っていて、そこまで考えているのだろう?普通はそうなのか?自分は未熟なのだろうかと考えさせられてしまう。
「新井の真の企みって何だ?」
「自分1人だけが、新しい生き物になりたいと考えているんですよ。僕達みたいな半端なダブルブリットではなく、完璧なそれを望んでいる。あなたはもうすぐ寿命がくるという欠点を持っていますね?他のダブルブリットもそうです。むやみに遺伝子操作をされた者は、寿命が短い。あなたみたいに色々と操作された者はなおさらです。僕の寿命はまだ凡例がないのでわかりませんが、確実に長生きは望めないでしょう。」
そう聞かされた新一は少し悲しくなった。そして、自分達がひどく哀れに感じられた。
「そうして完璧のなった時、彼の理想の世の中が構築されるというわけです。新井はその計画の事を『Ωサーキット』と名付けています。僕達はその計画を阻止しなければなりません。このままでは、クロスブリードは新井だけでなく全人類を敵として定め、動き出してしまう恐れがあります。いや、へたをするとアヤカシと人間との間で全面戦争が勃発すると言っても過言ではないでしょう。さっき言った通り、元々アヤカシは人間に対して良い印象を持っていませんからね。そうなれば、この先地球がどうなってしまうか位あなたにも容易に想像が出来るでしょう?」
「成る程。でもだったら、お前には新井を殺るチャンスはいくらでもあったんじゃないのか?」
「確かに・・・。でも今や新井の権力は研究所のみに留まらないんです。近いうちに国家である日本がアヤカシの存在を認める法案を固めようとしています。その法案が公になり、可決されてしまったらアヤカシやダブルブリット達は有害指定生物として、無差別に殺されるという最悪のシナリオが待っているんです。つまり、ゴキブリを殺すのと同様に、誰の許可も得ないで自由に生命を奪う事が出来るようになってしまうのです。ですから、叩くのは新井だけじゃ駄目なんです。根底から覆さないといけないんです。すでに日本は警視庁の特殊部隊と、自衛隊の特殊部隊を召集し、生物災害つまり『バイオハザード』専用の部隊を発足させ、準備を整えています。つまり、もう僕らの死へのカウントダウンが始まっているんですよ。」
新一の心は揺れに揺れていた。確かにそこまで説得されて「俺の知ったこっちゃない」とは言えない。それに、新井を憎んでいるのも事実だし、他のダブルブリットやアヤカシと共に戦いたい。
しかしだ。
しかし、自分は決心したのだ。残り1ヶ月は自分の為だけに生きようと。でも初志貫徹する為に、彼の悲痛な誘いを蹴る事が自分に出来るのだろうか?もうすでにこう考えている時点で自分の意志は薄らいでいるのだろう。一体どうすればいいのだろう?
「無責任な質問をするが、俺がいなくてもそれは遂行出来るんじゃないのか?他にもアヤカシやダブルブリットがいるわけだし、俺1人がいなくてもどうってことはないんじゃないのか?」
「クロスブリードの皆が皆、能力に長けている者ばかりではないんです。逆に能力者は少ないと言っていいでしょう。それに、組織には一部の人間も協力してくれています。人間の事は言うまでもないでしょう?ですから、あなたのようなズバ抜けた能力の持ち主が必要なんです。」
新一の決心は固まった。やはり、安易に真の提案には乗るわけにはいかない。残り少ない時間を自分の為だけに過ごそう。ただ、彼には敵対心を抱くのはもうやめよう。少なからず、境遇は似ていて共感できる部分はある。
そう言えば鈴木はどうなったのだろう?彼の今までの話を聞いていると、自分の推測ははずれている。もしかしたら、彼は無事なのではないだろうか?いや、無事なはずだ。決心を固める前に、確かめなければならない。恩師の安否を。
「さっき・・・、さっきと言ってもだいぶ前だが、鈴木さんの携帯を俺に見せたけど、鈴木さんは?」
「鈴木さんから携帯を借りて来たんです。これであなたがうまく乗ってくれればと思いまして。奈津さんはあまりダシに使いたくありませんでしたからね。でも新一さんは強情ですから、なかなかその手に乗ってくれなかったんで、奈津さんの話をして無理矢理乗ってもらったというわけです。そうでもしないとまともに話を聞いてもらえなかったでしょう?鈴木さんなら今こっちに向かっているはずです。新井サイドを欺く為に少々傷を負ってもらいましたが・・・。」
携帯をポケットから取り出し、ブラブラと振って見せる。
何だか急に緊張が解けておかしくなってしまい、プッと吹き出してしまう新一。だがすぐに本題に戻した。
「すまんが、クロスブリードには参加できない。」
「えっ?だって今まで興味を示して聞いてくれていたじゃないですか?どうしてっ?」
真の顔が一変して驚愕に変わる。
「お前のやろうとしている事は俺も共感できる。でも、俺は決めたんだ。残り少ない人生を自分の為だけに生きるって。決してお前達の考えに反対しているわけじゃない。ただ、投げやりな言い方をすると放っておいてほしいんだ。確かに、これからのアヤカシやダブルブリット達の運命を大きく変える出来事かもしれないが、今は俺は俺だけの事を考えたいんだ。」
「でも、新一さんがどうしても必要なんです。お願いです、僕達に協力してください。」
「まぁ待て。話には続きがある。」
「・・・。」
「確かに俺はクロスブリードには参加できないと言ったが、決してその方針を否定したわけじゃない。むしろ賛同している。だから俺はお前に聞かされた事実を考慮に入れて、自分なりに何かしてみるつもりだ。今は自分の意見を、自分の行動を優先させたいんだ。クロスブリードに参加して、お前達と共にするのも良いと思ったが、俺は俺でやりたい事もある。みんなの未来がかかってるのに、無責任な事を言っているようで申し訳ないがそういう事なんだ。」
「・・・わかりました、そこまで新一さんの決意が硬いのなら僕もこれ以上何も言いません。」
「すまない。でも必ず、お前達の役に立ってやれると思う、期待していてくれ。真、俺がもし、心変わりしたらその時はクロスブリードの一員にしてくれ。」
「えぇ、喜んで。出来れば早く心変わりしてくれる事を願ってますよ。」
「すまない。さっきまで・・・、話を聞くまではお前の事を疑ってたんだ。でも、今は違う。違う道を歩もうとしているが、俺達はもう仲間だ。」
「えぇ。結果的に参加してもらえなかったのは非常に残念ですけれど、意思の合致と言うか、基本方針の合意を得られた事は素直に喜ばしい事ですよ。新一さんがバックにいると思うと心強いですし。」
「また必ずどこかで会おう。」
そう言って、お互いにガッチリと握手を交わした時だった。新一の側にしゃがんでいた女性が奇妙に笑い出した。
「ハッハッハッ、話は終わったか愚民どもっ。」
さっきとは打って変わって目付きが鋭い。殺気すら感じられる。まるで別人のように立ち上がり、こちらを睨み付けて来た。
「おいっ、真!一体こりゃどういう事だっ?誰かは知らんが助けてやったのに、愚民扱いされるのはあまりいい気分じゃないな!」
新一が本能的に危機を感じたのか、後退りをしながら真に問うた。
「彼女は芝居の演技をする為に協力してくれた研究所のただのお姉さんですよっ?僕の方がどうなってるか聞きたいくらいですねっ。」
真がそう言うと、新一と共に後退し始めた。
女性の睨み付ける瞳が赤く膨張しだした。ある程度美形顔立ちが、アンバランスな奇怪な形相へと変わっていく。
「真よ、お前がそこまで愚かだったとはな・・・残念だ。この新井をもう少し楽しませてくれると期待をしていたのにな。」
「新井だとっ?」
2人が同時に声を発した。それと同時に「しまった」と2人が思う。見事に新井の掌で踊らされた。新一をハメるために、真はわざわざ回りくどい演技までしたのに、更に自分までもがハメられていたなんて。
「真よ、お前の行動など全て筒抜けだ。気付かれていないとでも思っていたのか?哀れだな。新一、お前もだ。お前がそんなに愚かだとはな。父はとても情けないぞ?」
最悪だ。気付かれているとは思いもしなかった。斎藤意外には誰にも言っていなかったはずなのに・・・。となると、斎藤には裏切られたと判断するのが妥当だろう。今になって自分の甘さを通関させられる。やはり人間など信じるべきではなかった。クロスブリードの折角の計画が台無しだ。それどころか今となってはクロスブリードの存在すら危うい。ならば、単独で新井を早期に殺るしかあるまい。後の事は新一や、四闘怪の連中に任せればいい。自分1人が欠けてもさして支障はない。とにかく、これ以上クロスブリードを丸裸にするわけにはいかない。真が死を決意した瞬間だった。
新井は女性を通し、ここではないどこかから話し掛けているのだろう。となると、今の状況は最悪だ。恐らくここに集まった部隊は、自分達をハナっから殺す気でいたという事になる。二重にハメられた自分がこれほど愚かだと感じた事はない。だが、遅かれ早かれ結果としてこうなっていたと自分に言い聞かせ、新一は現状打破の策を練り始めていた。
女性がニヤッと不気味に笑って、2人を指差した。この瞬間2人が同時にブレイク。地面を思い切り蹴り飛ばし、闇夜に高く舞い上がる。その1秒後、2人のいた場所に雨のように銃弾が降り注いだ。
かなりの高さまで跳躍した2人が上空で簡単な作戦会議を開く。
「逃げますか?」
「いや、今逃げるとまずい事になる。いくら全力のブレイクで逃げたとしても、場外はおろかこの辺一体は厳戒態勢が敷かれているだろう。そうなると逃げ回ると付近住民や関係ない周囲に迷惑がかかる。第一、逃げるのもシャクだろう?部隊の大体の人数はわかるか?」
「それもそうですね。人数は約二十と言ったところでしょうけど、もっと多く見積もっておいたがいいですね。」
「まず先に、身を潜めている部隊の連中を叩く。あのライフルは厄介だからな。取りあえず、新井と決着をつけるのはそれからだ。」
作戦会議が終わると、2人は空中で二手に別れた。
それの様子を地上から不気味に女性が見上げていた。
部隊の狙撃手達は2人がどこにいるのか仲間と誤認しないようにすぐわかるようになっている。夜間用の赤外線ゴーグルに改良が加えられ、アヤカシ特有の熱源を捉えるセンサーが装備されているからだ。しかし、動かないアヤカシを仲間と誤認しないだけで、実際にブレイクをかけ超高速で移動している2人を見つけられるものではない。いくら高性能の装備を施したところで、そのスピードにはついていけないのだ。仮にビデオで録画して、スロー再生したとしても、わからないほどブレイクを発動すると速い。勿論速さだけではないのは言うまでもないが。
だから、ダブルブリットを前にしては、いくら選抜メンバーで並みの人間よりも優れているとは言え、戦闘ともなれば赤ん坊に等しい。
その為に狙撃という一番可能性がある方法を選んだのだ。部隊の持っているライフルは、陸上自衛隊が使用している対人用中距離セミオートライフルである。しかし、その中の実弾が通常の物ではなく、ミスティックメタルで出来た特注の弾丸なのだ。彼らはアヤカシを殺す為だけの集団だった。
新一が1人目の目標を定め、急速接近をした。そしてあっという間に標的の元に到達した。相手が気付いたと同時に、躊躇いなく首に回し蹴りを食らわす。ボキッと鈍い音と共に男の頭が頼りなく明後日の方向に傾く。そして白目を向けて遠慮無くその場に倒れ込む。一瞬で動けなくするには、これが一番効率的な手段だ。次に男の持っていたライフルの銃口をへし曲げる。一応念には念を入れる。この間3秒といたところか?
そうして次の標的へと向かう。新一にとって暗闇は全然苦にならない。いくら暗くても目は利くし、匂いや音で誰がどこにいるのかもほとんどわかる。むしろ人間相手の戦闘ならばメリットの方が多い。暗闇は人間の動きを鈍くさせる。その隙に攻撃が出来るからだ。文字通り暗殺が得意なのかもしれない。
バッタバッタと部隊の人間を暗闇の中倒していく。中には反応速度の速い者もいて、慌てて銃口を向けてきた者もいたが、指が引き金にかかった瞬間にはライフルの銃口は蹴り上げた新一によって天に向き、爆音を立てて無駄に弾を乱射するに至るしかなかった。無駄に放たれた銃弾は、夜間用の為か蛍光色に発光しながら飛んでいった。
また武術で応戦しようとした者もいたが、もはやダブルブリットの前には無力だった。防護服を着用していても、その上から攻撃を受けてしまっては人間の耐えれる衝撃ではない。激しく嘔吐するか、呼吸困難に陥りその間に絶命させられるというパターンを招くしかなかった。
一通り部隊に攻撃し終えた2人は、再び合流し新井が洗脳している女性の元へとやってきた。
「惜しいな。それだけの力があるのに、どうしてもっと有効的に使おうとせんのだ?今からでも遅くない、私と手を組め。そうすれば地球の半分はお前らにくれてやろう。」
やってきた2人をおぞましい笑みで女性が迎える。静寂の暗闇の中での戦闘で、音がなかったわけではないにしろ、自分達の戦闘をはっきりと見ていたのだろう。それだけ女性の今の能力はすごいという事だろう。2人は目の前の女性がもはや普通の人間だとは思わなかった。
「何起きたまま寝言を言ってるんだ?」
新一の顔は真剣そのものだ。部隊を一応は全滅させたとは言え、一番厄介なのは目の前にいる新井であって、新井でない人物だ。外見は細身で清楚な女性だが、顔面は通常のそれとは異なっている。油断は出来ない。
「新一さん・・・」
真がそう呟くと、新一は黙って頷いた。
徐々に女性の体が変化していく。手足の露出している部分を見ると、血管が異様なまでに浮き上がり、やがて顔面の血管までもが浮き上がりだした。浮き出した血管は不気味に脈打ち、まるでそこに何かが這いずり回っている様に思える。
「残念だ・・・。非常に残念だ・・・。これから私はお前達を殺さなければならない。息子殺しの汚点がつくが、仕方あるまい。」
もはや女性は新井そのものになり、彼女本来の意識などそこには全くなかった。新井が拳をギュッと握り締めると、地面を蹴り飛ばし2人目掛けて突進してきた。2人が同時にブレイク。左右二手に別れる。新井が狙いを定めたのは左に跳んだ真だった。
新井がこの場に現れた理由はいくつかあった。一つは真の腹の内をはっきりさせる事。この2人のダブルブリットには非常に興味を持っている事。非力な女性を遠隔操作して、現在の己の力を知る事。そして、新一の中に眠る『鬼』を目覚めさせる事。新井は目覚めた新一の中の『鬼』と単に力比べがしたいと考えていた。例え今自分が劣っているとしても、新一はじきに寿命がくるのだから心配する必要はない。『鬼』のデータさえ採取できればそれでいいのだ。他のダブルブリットやアヤカシも強いかもしれないが、『鬼』の力というのは半端ではない。古来日本が化け物の象徴として『鬼』を数々と取り上げてきたが、それにはちゃんとした理由があったからだろう。それだけ『鬼』は怖れられている。だから、今現存する生物の中で新一が最強なのだ。だが、強さのあまりデメリットもあるだろうと考えた新井は、まず新一にその力を植え付けて臨床実験を行っていたというわけだ。その『鬼』の力が手に入り、新一の寿命がくれば、事実上自分が最強になる。新井はそれを待っているのだ。
その為に真には新一の中にいる『鬼』を目覚めさせる為の起爆剤になってもらわなければならない。生き物というのは感情の変化により劇的に潜在能力を発揮するという臨床実験データや凡例がある。火事場のクソ力というのはそのいい例だろう。
新一は標的が自分でない事がわかると、すぐさま踵を返して向きを変え真に襲い掛かろうとしている新井目指し、片足で地面を蹴り飛ばす。それに気付いた新井がチラリと一瞬こちらに振り向いた。その振り向いた顔は、新一が今までに経験した事のない、とてつもない形相をしてこちらを睨んでいた。その瞬間新一の体が鉛のように重くなり、新井目掛けていた足は徐々に立ち止まり、ついには立っているのがやっとの状態に陥った。同時に全身が動かなくなり、声すらだせない。
「そこで大人しくしていろ。」
とてつもなく小さな声で相変わらず女性の声色だったが、威圧感というか制圧感のようなものが新一には感じられた。
体が動かない。言う事を聞かない。だが意識ははっきりしている。ブレイクを試みるが、頭と体が別々のものに感じられる。所謂金縛りというやつなのだろう。必死に動こうとするものの、無情にも思考と視覚・聴覚・臭覚が働いているだけで、これから目の前に起こる悲惨な光景をただ見ているしかなかった。
真は臨戦態勢に入った。ブレイクを発動。全身のあらゆる細胞を活性化させる。しかし、今回真の発動は余力を残してのブレイクだった。仮に新井に操られているとは言え、相手は生身の人間だ。何の罪もない者を殺すほど自分は落ちていない。気絶なり失神させて、直接新井を殺りに行こう。だが、この選択は間違っていたとすぐに気付かされる事になる。
新井が右の拳で真を殴り付けようとしたが、真はすんなりと横にかわし、新井の後方へと回り込んだ。人間を気絶させる為には後頭部を殴打するのが手っ取り早いと選択した真は、後頭部に加減をして手刀を繰り出す。いくら新井の操作を受けているとはいえ、元は普通の人間なのだから、これだけの力を込めれば気を失うはず。そう勝手に思い込んで油断したのが、大きな間違いだった。繰り出した右手の手刀をヒット寸前で新井はギリギリでかわし、振り向いてその手刀を自らの左手で掴む。ニヤッと笑って新井は左手に力を込めた。力を込められ握られた右手首は、いとも簡単に骨を握り砕かれしまった。
「うがぁぁぁ!」
真が痛みに耐え兼ねて激しいうめき声を発する。しかし、そんな真をよそに新井は手を緩めなかった。すぐさま右の拳で真の顔面目掛けてストレートを繰り出していた。手首を掴まれている真には逃げ場が無く、自分の顔面を目掛けて飛んで来る拳をただ見ているしかなかった。
ドコッ!
暗闇に鈍い音が響く。殴られた瞬間手首を離された真は、数メートル宙を舞い後方へと吹っ飛んだ。幸い、走り幅跳びの計測用の土がクッションとなり、固い地面に叩き付けられるという事態は避けられた。全身打撲は避けられたようだ。ゆっくりと体を起こした。しかし、それ以上に顔面に受けたダメージが大きい。頬と顎の骨が砕け、一部が皮膚を貫通して骨が夜風に晒されている。口の中に鉄の味が広がっていく。口内が切れて出血し、涎と混ざって流れ出てきていた。血と涎の混ざった液体がポタポタと砂山を汚していく。生温くて気持ち悪いが、骨が砕けているので口を閉じる事が出来ない。首も殴られた衝撃で寝違えたように動かすと激痛が走る。また骨を砕かれた右手首は、だらりと頼りなく垂れて力が入らない。握り潰された為か心なし細くなった気もする。あちこちが痛いが今はそれどころではない。すぐさま立ち上がり、前方を睨み付けるが新井の姿が見えない。
「ここだ。」
後方から声が聞こえてきたと同時に、今度は前方に蹴り飛ばされてしまった。地面を激しく擦りながら真の体は止まった。今度は背中の辺りに激しい痛みが走る。
前倒れになり、悪態つく格好になってしまった。急いで体を正面に起こす。今の教訓から一瞬たりとも背を向けるわけにはいかない。しかし、どちらが正面で背後なのかは、もうこの際関係ない。何故なら今戦っている相手はそういう次元を超えた存在だからだ。どこから仕掛けて来るのか、どこに姿を現すかもわからないのだから。
真は悔やんだ。まさかこれほどまでとは・・・。精神は新井でも中身は人間だと思って甘く見たのが悪かった。最初から全力でいけばこんな事態は避けられたはずだ。今からでも遅くない。全力で戦えば何とかなる。こんな所で深手の傷を負って時間を無駄にしている場合ではない。スゥッと大きく深呼吸し、立ち上がって新井を睨み付けた。
「いい目だ。しかし、お前はまだ気付いていないな?」
新井が徐々に差を詰めて近寄って来る。最深の注意と最大の準備をして、黙ったまま真は新井を睨み続けた。
「まったく・・・、人間というのはどうももろくていかんな。まぁ、女の体だからなおさらか。仕方あるまい・・・。」
新井がそう言うと、ボロボロになった操っている女性の手を眺めた。真を殴った勢いで右手が使い物にならないほど、ボロボロになっていた。指はひしゃげ、手首から骨が飛び出し、大量の血が流れ、今にも手首と手の平がもげてしまいそうな状態だ。何とか皮と一部の筋状の物がそれらを繋ぎ止めていた。そんな状態なのにも関わらず、当の本人は痛みを快楽と感じているように笑い続けている。
「さて、真よ。お前は今から全力で戦えば勝てるとでも考えているのだろうが、それは大きな間違いだぞ?」
「ハッタリを言うな!僕は仮にも『羅刹』の力を備えているんだぞっ!」
それを聞いた新井が甲高く笑い飛ばす。
「だから気付いていないといてやっているのだ。お前は所詮半端者なんだよ。無から造られたお前ごときに『羅刹』の力が使えるわけがなかろう?お前はな、自分が思っている以上に弱いんだよ。自覚がないというのは困ったものだな。」
「だまれぇぇぇっ!」
真がブレイクを最大限にまで高め、全力で新井にぶつかっていく。いくら怪我を負っているとはいえ、加減していたさっきよりも遥かに力は強い。
「お前では『鬼』の力は使えないんだよ・・・。」
誰に言うのでもなく、呟いた新井は左手に力を込める。そうして異様なまでに左手は膨れ上がり、、打撲をした時のように腕全体がドス黒い色をしていた。左側の半袖のブラウスがビリビリと破けだした。
真が左手に渾身の力を込める。恐らくこの攻撃で勝負がつかなければ、自分にとって相当不利な状況が待っている。新一は動けない状態だし、自分も怪我を負っている。長引けば長引くほどまずい。あまり負けた時の事は考えたくないが、嫌な予感がする。
真は雑念を振り払って神経を新井にのみ集中する。そして真が新井を殴り付けるまさにその瞬間だった。新井の左手が巨大化し、爪が異様に長く生え伸びた。その爪は刃物のように鋭く、刃物よりも鋭い切れ味だった。新井はその腕を高らかに構える。闇夜を照らす月の光が、鋭利な爪をキラリと鮮やかに反射した。そしてその腕を一気に振り下ろし、その生えたばかりの鋭利な爪で真の左上半身を肩からえぐり裂いた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!」
自分が発した声とは思えないほどの叫び声が競技場に響き渡る。尋常ではない痛みが容赦無く
真を襲う。えぐれた部分から大量の鮮血が吹き出していた。このままでは脳が痛みに発狂させられてしまう。ブレイクは全身の細胞をフルに活性化させるため、ある程度痛みに耐性を持ち合わせていないと、通常の痛み以上に痛みを感じてしまう。すぐさまブレイクを解除。そして、上半身の痛覚を遮断。一体自分に何が起こったのかすぐにはわからなかった。ただ無我夢中に痛さから逃れる為にブレイクを解除して、痛覚を遮断した。自分に何が起こったのか確認する為、恐る恐る上半身を見ると、そこにさっきまであった左の肩・胸・腕がごっそりなくなっている。真は気が狂いそうになった。そしてまた、血が大量に流失している。このままではいくらダブルブリットとはいえ、失血死してしまう。だが、生まれたばかりの真はまだダブルブリットやアヤカシ特有の止血方法を知らなかった。
段々と意識が遠退いていく。自分はこのまま死んでしまうのか?こんな所でくたばっている場合ではないのに・・・。
そう言えば、昨日初めてカレーライス専門店でカレーライスを食べた。脳にインプットされている情報によると、自分位の年頃の人間は皆好きな食べ物らしい。試しに食べてみようと店に入った。そして注文して、早速食べてみるととても美味しいものだった。メニューには他にもトンカツやらエビフライやらをのせたカレーライスがあったが、情報にインプットされている「カレーライス」を純粋に味わってみたかったので、あえて一番シンプルなものを頼んだ。今思えば、トンカツやエビフライの乗ったやつを食べればよかった。別々に食べれば二度も三度楽しめたのに。まぁその前に一度にそんなに大量には食べれなかっただろうが。だから今日はエビフライのやつとトンカツのやつを食べようと思っていた。でもどうやら無理みたいだ。口は頬と顎が使い物にならないし、左手はないし右手は粉砕骨折だ。それより何より立ち上がる事すら出来ない。満身創痍ってやつか?真の頭の中にどうでもいい事ばかりが駆け巡る。
(これが、走馬灯ってやつなのかな・・・?もうちょっとマシな走馬灯ないのかよ・・・?俺ってば食い物の事しか思い浮かばなかったぞ・・・。あっ、それもそうか・・・。俺には思い出がそれしかないんだもんな・・・。)
真は自分でドンドン意識が遠退いていくのがわかった。自分は自分の生命の誕生という喜ばしさもわからないまま、死んでいく。喜ばしさがわからなかったなら、死ぬのもあまり怖くない気がする。命あるものは必ず死ぬ。それが早いか遅いかだ。ならば自分は死を恐怖なく受け入れる事が出来るだろう。それに自分が死んでも悲しむ人もいない。家族も友人も誰もいない。だったら別に悲しむ事もない。あえて悲しむなら、誰も悲しんでくれない事に悲しむ事ぐらいか?真の顔にはもはや生きる力は宿っていなかった。
「お前にしては健闘した方だ。今楽にしてやろう。」
新井が左手の手刀を首に振り下ろそうとした瞬間、何者かに蹴り飛ばされ左前方に吹っ飛ばされた。
Posted at 2009/08/28 20:05:31 | |
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2009年08月28日
といっても、車ネタではございません(ボコ
この度、解明しました…改名です…。
YY よっしゃん
↓
ヨッシャン。
某よしもと芸人みたいですが、気分転換も兼ねまして。
今後ともヨッシャン。を宜しくお願い致します。
みんカラ小説「TIGHTROPE」も宜しくデス!
Posted at 2009/08/28 18:32:03 | |
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2009年08月28日
[再び先日]
新一に残酷な事実を知らされた奈津は、大粒の涙を零しながら階段を駆け降り、級友の言葉にも反応せず学校を飛び出していた。しばらくがむしゃらに走って、息が切れたのをきっかけにあてもなく歩き出した。
涙が止まらない。何も考えられない。どうしていいのかわからない。わけがわからない。頭の中が目茶苦茶なのに真っ白だ。
「新一・・・、新一・・・」
鳴咽混じりに、力無くただ彼の名を繰り返す。
学校は集合住宅地に近い場所にあるので、昼間に人通りがないという事は皆無に等しい。奈津が泣きながら歩いている間にも、ある程度は人とすれ違った。すれ違った者の中には、泣いている彼女を見て単純に哀れむ者もいれば、心配そうに声をかけてくる者もおり、不思議そうに目を凝らす者もいた。無責任に指を向ける者をいた。そんな色々な事を自分がされている事すらわからない奈津は、新一とよく時間を過ごした小さな公園にやって来ていた。
自分が引っ越して来た時から、今までどれだけの時間を彼とここで過ごしたのだろう?楽しく遊び、時に喧嘩もした。色々な話もした。どこかに出掛ける時は必ずこの公園を待ち合わせ場所にした。どんな時も、彼と自分とこの公園があった。しかし、もう彼はいなくなってしまう。
ブランコに腰掛け、両手で顔を覆う。だが、泣き声は限りなく続く。こんなに泣いたのは、2ヶ月振りだろう。
しばらくすると涙も止まり、放心状態で目の前のジャングルジムを眺めた。ただ何も無く、ただただ眺めていた。そのお間にも真夏の陽射しは容赦無く奈津を照らしたが、今の彼女に暑いといった感覚すらなかった。
どれくらい時間が経った頃だろうか?隣のブランコに誰かが腰掛けた。
「奈津ちゃん・・・だね?」
放心状態だった彼女に小さな男の声が聞こえてきた。その声に我に返った奈津は、何となく無意識に目の辺りを手の甲で拭い、男を見た。
「あなたは・・・?」
普通なら、誰なのかわからない不審人物に声を掛けられたなら、相手の事を尋ねるような発言などせずに、その場を立ち去るのだろう。しかし、我に返ったとはいえ、まだ半ば放心状態の今の彼女にそんな気力は無かった。むしろ、何故この男が自分の名を知っているのだろう?という、本能的なものが勝ったのかもしれない。
自分の存在を問われた男は、ゆっくりと奈津の方へ向き、正体を明かした。
「私は鈴木。新一君の担当医であり、彼をあんな体にした張本人さ。」
奈津の顔が一気に強張る。ブランコを大きく揺らしながら立ち上がり、鈴木の目の前に仁王立ちして真っ赤になった目で睨み付けた。
「あんたの所為でっ・・・。新一はっ、新一はっ・・・あんなに苦しまずに済んだのにっ!どうしてくれんのよっ?」
自分は無責任に怒りを初対面の男にぶつけている。それがどれだけ意味のない事か、奈津自身もわかっている。でも、そうでもしないと精神的に狂ってしまいそうだ。
「あんたが新一を生き返させなければっ、あんなへんてこな能力を植え付けなければっ・・・あたしだってこんなに悲しまずに済んだのにっ・・・」
そう怒鳴りつけた所で、奈津は再び泣き出してしまった。心にもない事を言って無責任に他人に怒鳴っている自分が惨めで、情けなくてどうしようもない。本当は生き返ってくれただけで目茶苦茶に嬉しかった。本当は目の前にいる生き返らせてくれた人に、感謝をしたい位なのに。
「新一君から、全てを・・・聞いたんだね。」
そう言うと、鈴木は力なく立ち上がり、泣き伏せてしまった奈津へとハンカチを差し出す。素直に受け取ってくれた奈津をブランコに腰掛けさせた。そうすると、自分もまた隣のブランコに腰掛けた。そして、鈴木はゆっくりと口を開いた。
「本当に申し訳ない事をしたと思っています。あなたの言う通りです。私は最低な人間です。」
そう言われた奈津が、ハンカチで顔を覆いながら頭を大きく左右に振った。
「違います・・・。逆なんですっ、あたし新一が生き返ってくれて本当に嬉しかった・・・。だから、あなたには感謝したいくらいなんです。でも、突然あんな事言われて・・・どうしていいかわからなくって・・・。ごめんなさい・・・。」
「ありがとう。君も新一君も、とてもいい子だ。もし神がいるのであれば、聞いてみたいものだね。『どうして僕たちなんだ?』ってね。」
慰めの言葉になったかは、受けた側の感性によるものだから効果がどれだけのものかはわからないが、自分が今彼女に言ってあげれる事はこれ位しかない。
「そうですね・・・。でも、もし神が存在するのならば、私は神を殺す。懇願なんかしない。」
「君は新一君とよく似ている。彼も見た目穏やかそうだが、かなりの直情型だからね。だから君達は仲が良かったのだろうね。お互いに一番素直になれた。羨ましいよ。」
そう言うと、力の入らない両足に喝を入れてブランコから立ち上がり照り付ける太陽を見上げた。この時彼の両足はバーストを起こしていた。だが、彼女には悟られないように、平静を保っていた。
「そ、そんな事ないですよっ、いつも喧嘩ばかりしてたし・・・。」
少し恥ずかしそうに顔を下に向け、否定の発言をする奈津。
「今更そんな否定しなくてもいいじゃないですか。それにほらっ、昔からよく言うじゃないですか?『喧嘩する程仲が良い』って。」
笑いながら鈴木は奈津の方へと顔を向けた。さっきよりも顔色が良くなっている。どうやら少し落ち着いてくれたらしい。鈴木としてはそろそろ本題に入らなければならない。自分にも新一と同様に時間が限られている。それにこれ以上ダラダラと世間話に時間を費やしていると、見つかってしまいそうだ。折角体に無理をいって、ブーストをかけてここまで来た意味がなくなってしまう。それに追手が来ては彼女の身にも危険が及んでしまう。
両足の痛みに少し耐えられなくなった鈴木は、再びブランコに座り、懐から紙の包みを取り出し、奈津の目の前に差し出した。
「本題に入らせてもらうよ。今日はこれを君に渡しに来たんだ。」
いきなり紙の包みを渡された奈津に疑問の念が浮かぶ。
「これをあたしに?中見ていいですか?」
何を渡されたのか、確認の為に一応了承を得る。コクッと無言で鈴木が頷いたので、包みの口を広げて中身を取り出した。
「薬・・・?」
取り出した中身はタブレット状の白い粒が十錠ずつ別けられた薬らしき物だった。
「えぇ、それは新一君の薬です。彼の生命ともいえるものです。実は先日3週間分を渡してあるのですが、偶然在庫を見つけましてね。直接彼に渡したかったのですが、なにぶん色々事情がありましてね。それにあなたとも少しお話がしたかったので、あなたに渡したというわけです。ちなみに2週間分です。」
取り出した薬を中にしまい、口を閉じてギュッと抱き締めた。中の薬を保護しているアルミ箔がカサッと静かに音を立てた。
「でも、今すぐそれを新一君に渡さないで欲しいんです。」
間髪入れず奈津が反論する。
「どうしてっ?だって、これは新一の命なんでしょ?だったら、どっかにいっちゃう前に渡してあげないとっ!」
そう言って、奈津が立ち上がり学校へ走り出す瞬間だった。
鈴木が怒鳴った。
「待ちなさい!」
いきなり怒鳴られた事と、怒鳴るような人ではなさそうという先入観が、奈津をビックリさせて立ち止まらせた。
「すみません、大声を出してしまって。直接渡さなかったのには、他にも理由があるんです。」
それが何なのか?それを聞く必要がある。聞かなければならない。聞きたい。奈津は再びブランコに座った。それを見た鈴木が静かに続けた。
「私は『希望と奇跡』を信じてみたいんです。」
「希望と奇跡?」
「えぇ、彼は薬が無いと生きていけません。今までは定期的に薬が手に入ったので、体の具合が良かろうと悪かろうと定期的に服用するようにさせていました。つまり、理論的に・・・です。でも、今彼の手元には『最期の3週間分』しかありません。しかも、彼の体は刻一刻と虫食まれ、きっちり3週間持つかは断言出来ません。あくまで理論上の3週間分です。しかし、彼の生きようとする強い意志が、その薬の効果を一日でも多く発揮させるかもしれません。もしかすると、逆に縮めてしまうかもしれません。だから、私はその希望というか、奇跡を信じてみたいんです。そして一日でも長く彼が生きられたらと願っています。」
唇をキュッと噛み締め、何も言わずジッと聞き入れる奈津。
「彼がどこに行くのかはわかりません。だからすごく無責任な事を言います。・・・それでも、どんなに強く生きたいと願っていても必ず限界が訪れます。だから、彼が限界に達した時、それを渡して欲しいんです。」
「限界に達した時なんてわかるはずないじゃないですかっ?第一その時にどこにいるのかもわからないのに・・・。」
彼女の言っている事は正論だ。
「私の言う希望と奇跡はもう一つあるんです。それはあなた達の強い絆です。あなたの言う事はもっともです。でも、彼の為を思うとこれが最良の方法なんです。少しでも長く生きる為には。ですから、これは大きな賭けなんです。ハイリスクですが、ハイリターンなんです。だから、必ず感じ取ってあげてください。彼の・・・新一君の生きたいという魂の叫びを。それが出来るのはもうあなたしかいない。私にはもう、彼にしてあげれる事は何もないんです・・・。」
鈴木はもうそれ以上は語らなかった。
「わかりました・・・。でも、どうす・・・」
奈津が何かを言いかけた時だった。ドンという衝撃と共に何かに引っ張られているような感触に襲われた。一体自分の身に何が起こったか理解できなかった。気が付けば鈴木に抱かれ、高速で移動していた。
「すみませんっ、どうやら追手に見つかってしまったようです・・・。」
すごい勢いで走りながら、鈴木は奈津に少し大きめの声で言った。しかし、こんな状況でそんな事を言われても、奈津の混乱は増すばかりだ。それにさっきまで穏やかだった鈴木の表情が、今はひどく険しい。
「あっ、あのっ、一体どうなってるんですっ?」
奈津もまた、走っている鈴木に聞こえるようにと声量を上げる。だが、彼は何も応えず、更にスピードを上げ、走り続けた。
あっという間に鈴木は奈津達が通う学校の正門をくぐり、裏庭に着いた時足をようやく止めた。そして、奈津を下ろし、
て苦しそうに激しく呼吸を繰り返す。
「怖い・・・、思いを・・・、させてゴメンね・・・。じゃあ・・・、さようなら・・・。」
呼吸が整わぬまま、そう言ってすぐに裏庭の塀を飛び越えてどこかに行ってしまった。
ポカンと呆気に取られていた奈津が、数十秒後にパンッと乾いた破裂音を聴いたが、彼女にはそれが銃声だったとは知る由もなかった。
Posted at 2009/08/28 12:10:35 | |
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2009年08月28日
おはようございます。
現在減量作戦2日目のよっしゃんです…。
いやぁ、実に「過酷」ですねぇ…
いかに今まで不摂生をしていたかがよくわかります(焦)
早食いの禁止に、油分の摂取減、糖類の摂取の制限…おまけにコルトに乗る回数も減…というわけにはいきませんが、ボチボチやっとります。
日本人は古来、飢餓民族としてやっていたわけで、常に胃の中に何かが入っているのは、日本人の体質には合わないのだとか…?
ホンマかいっ!
すでにしんどくて体調悪いんすけど
そんなこんなで、暫くは自分との格闘となりそうです…明日また焼肉オフなのに…
Posted at 2009/08/28 08:34:12 | |
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2009年08月27日

「不景気で、日光猿軍団リストラにあいましてん…」

Posted at 2009/08/27 22:23:55 | |
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