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真・土方歳三(零式)のブログ一覧

2009年08月25日 イイね!

連続みんカラ小説「TIGHTROPE(タイトロープ)」 第2章『真実』4

「・・・じゃあこれからどうするのよ?」
先日のやり取りを一通り聞いた奈津は新一に問い掛けた。
あてもない今後の予定。

「取りあえず、明日にでもここから離れようと思う。ズルズルとここにいたって何も始まらないからな。時間も限られてるし、出来るだけ早い方がいい。」

「なら私も行く。」
信念を貫くような鋭い口調で奈津が宣言した。
だがその宣言は非常に短絡的でとても高校生の考えと言えるものではなかった。

「何故?」
奈津がそう申し出て来る事はわかっていたので、わざと興味をそらさせるために問う。

「決まってるでしょ?私は新一が好きだから。」
やはり短絡的だ。
それだけの理由で何もかもが解決すれば、この世の中多くの問題が解決する事だろう。
今回の場合はかけおちなどと言うロマンティック・ラブストーリーな事態ではないのだ。

「駄目だ。」
きつく意見却下の意向を伝える。

「どうして?」
「何がいけないの?」という顔で奈津が問う。

「危ないからだ。さっきも話しただろう?俺は狙われてるんだ。修学旅行のように楽しくワイワイガヤガヤとはいかないんだ。下手をすればお前まで死ぬ事になる。」

「構わない。」
そう言い切る奈津の目は真剣だった。
だが彼女は本当の意味での『死』をまだ理解しきれていない。ただ漠然としか『死』を考えていない。それが本物ならば新一は何もためらいもなく一緒に連れて行っただろう。

「お前がよくても、俺が許さん。いいか?お前にはこれから未来があるんだ。俺と一緒に行って未来を棒に振るんじゃない。」
父親の説教のように少し親父口調で告げる。
また奈津が目に涙を溜め始めた。
それに気付いた新一は宥めるように奈津の肩を叩く。

「お前がそう言ってくれるのはすごく嬉しい。だから余計にお前を危険な目に合わせたくないんだ。今の状態だってかなり危ないんだぞ?色んな奴から俺は狙われてるんだから。わかってくれるよな?」

「でもっ・・・でもっ・・・」
奈津が何か言いたそうだったが涙が溢れ、再び泣き出したのでうまく言葉が続かなかった。

「それに・・・、・・・無様な最期をお前に見られたくないんだよ。お前の中での俺は、聞き分けの悪い、馬鹿で我侭で喧嘩ばかりしている存在であってほしんだよ。みっともなくて、情けない、弱い俺を見てほしくないんだよ。」
新一までもが泣きそうになるような声のトーンになってきた。

「馬鹿!人間なんだから弱い所があるのは当然でしょ!みっともない所や情けない所、見られたくない所だって必ずどこかにある。それを隠し通して生きてる人なんて、1人もいやしない!いい?人間は、好きな人と生きていくためにはっ、男と女が一緒に生きていくためにはっ、お互いの弱い所、見せたくない所をこすり合って生きていくもんでしょ!それを格好だけつけて『見せたくない』ですって?そんなの男の勝手な思い上がりよ!私がどれだけあんたの事考えてるか知らないでしょ?あたしは何時だってあんたの事考えてるんだから!それくらいわかってよ!」
そう言われた新一は唖然とし、返す言葉がなかった。

いつも喧嘩ばかりしてはいるが、ここまでやり込められた事はない。
というか、ここまで深い話もした事がなかった。
そしてそこまで考えた事もなかったし、考えようとも思わなかった。
自分は自分なりに奈津の事を想っていたが、彼女程までは至っていない事に気付かされる。
決していい加減ではないのだが。

こんな時に不謹慎ではあるが、新一は「女の子ってよく考えてるんだなぁ」と感心してしまった。
『死』に対する考え方はまだまだ幼稚ではあるが、人に対する思いやりという面では自分を遥かに先をいっている。本当はそれが普通なのかもしれない。
普通・平凡、この言葉が今はどれだけ恋しい事だろう?
しかし、それとこれとは話は別。新一の考えは変わる事はなかった。
別れの挨拶の終わりを告げた新一は一つだけ奈津に言っていない事があった。



「そうだった。忘れていた。これは君にとって一番の驚きかもしれないよ?」
忘れまいとしていたが、新一に指摘されて思い出す鈴木。

「今更何言われても驚きませんよ・・・多分。」

「君と奈津ちゃんが知り合ったのはいつだい?」
今更わざわざ聞かれるような事かと思う新一。それもそうだ、彼の行動は全て研究所が把握しているのだから。

「小学校2年の時にあいつが近所に引っ越してきてからですよ。それがどうかしましたか?」
いまいち鈴木の話そうとする真意が見えてこない。

「本当に?」
わざとらしく確認するように鈴木が問う。

「だから何なんですか?」

「何男と言われても、僕は長男だが・・・」
これまた冗談を交えてわざとらしく話を遠回しにしようとする鈴木。

「殺しますよ?」
若干苛立ってきた新一が真顔で告げる。

「それ・・・君が言うと洒落になりませんよ・・・?」
鈴木が少し恐れて言う。

「ちょっとじらしすぎましたね。すみません。実は君と奈津ちゃんはもっと昔から知っている仲なんです。」

「は?」
驚きというか、胡散臭さからくる疑問符だった。

「君と奈津ちゃんは、同じ孤児院で育った仲なのですよ。」
胡散臭さから、一気に驚愕に変わる。新一の目が点になった。

「へっ?」

「偶然というのは恐ろしいものでね。君が新井に引き取られた後すぐに今の家の人に引き取られてね、そして偶然にも小学校2年の時に今の家に引っ越してきたと言うわけさ。。」

「ふぇ?」

「いやぁ、運命の赤い糸というのは君達のためのあるような言葉だよまったく。だから口説き文句で『昔から知っていたような気がする』なんてのがあるけど、まさに君達にはピッタリというわけだ。」

「えぇぇぇぇぇ?」
遅発信管のミサイルのように、かなり遅れて驚きの声を爆発させる。

「記憶になかった?」
驚く新一と対照的に平然としている鈴木。

「全っ然!」
身振り手振りを加えてきっぱりと答える新一。

「無理もないか。まだ4歳の時だからね。でも君が引き取られる時は大変だったらしいよ。その時のデータも一応研究所に君の記録として残っているんだが、それを見て大笑いさせてもらったよ。」

「何かあったんですか?」
新一が恥ずかしそうに聞いた。
鈴木はフフフと笑って話を続ける。

「いや、大した事はなかったんだけどね。ククク・・・。」
思い出し笑いのように押さえ気味に笑う。
誰でも自分の記憶にない自分を語られる時はあまりいい気持ちはしない。ましてや笑われているときたら、かなり恥ずかしい事に違いない。

「君は奈津ちゃんと離れたくないものだから、彼女の服にしがみ付いてワンワン泣いていたんだそうだ。彼女は泣きそうなのを堪えていたらしいけど。」

「全然記憶にありません。」
本当に記憶がないのと、恥ずかしい過去を認めたくない一心で否定する。

「取りあえず、その頃から君達はつながっていたという事さ。」

「そうだったんですか・・・。」
ようやく驚きから落ち着いてきた新一。
自分の親が自分を殺した事よりも、
鈴木が殺されてしまうかもしれない事よりも、
人造人間が密かに造られている事よりも、
美智がクローン人間だった事よりも、

「本日一番の驚きだっただろう?」
その通り、本日一番の驚きだった。

「えぇ、本当にびっくりしましたよ。」

「この事は彼女には言わない方がいいかもしれないね。」

「そうかもしれません。まぁ言った所で何も変わらないんでしょうけど、言ったら言ったでややこしくなりそうだし。」
遠い目をして新一はそう小さく呟いた。

「君は今も昔もかなり奈津ちゃんに依存しているんだね。本当は今回もワンワン泣きたいんじゃないの?」
話がまとまったと思ったら、また鈴木が茶化し始めた。

「本当に死にたいですか?」
そう言う新一の顔は、発言とは裏腹に正直に真っ赤だった。

「余談だが、一応君が育った孤児院とはいつでも連絡出来るよ。君は憶えていないだろうけど、君はそこの院長先生の事を本当の母親のように懐いていたんだ。奈津ちゃんと同じ位にね。君が望めば連絡を取っといてあげるけどどうする?」

「会ってみたい気はしますけど、迷惑がかかりそうなのでやめておきます。それに、憶えていないわけではないですよ?」
そう告げられた鈴木は顔を少し疑問形にする。

「何となくうっすら憶えている気がするんです。ただの気のせいかもしれませんがね。」
鈴木は「そうですか。」と軽く微笑んだ。
新一は少し考え込んで

「その院長さんのいる住所とかわかります?」
と、質問した。

「えぇ、わかりますよ。この携帯にメモリしてあります。」
と、胸ポケットから最新機種の携帯電話を取り出した。大量のストラップがつけられ、「世界最小・最軽量」が売りのそれは、鈴木の個人的な趣味によって無情にもその役目を果たしていなかった。鈴木という男は新しいもの好きで、新しい機種が発売される度買い替えていた。

「教えてもらえますか?」

「えぇ、いいですよ。」


「とにかく、俺は明日にでもここを発つ。お前に変な連中が付きまとうかもしれないが、俺の事は一切黙ってろ。それがお前にとって一番安全な策だ。」
もう一度念を押すように奈津に言い聞かせる。
しかし、あの事は決して口には出さなかった。

「わかった・・・。」
ぽつりと奈津が返事をする。

「幸せになれよ・・・。」

「そっちもね・・・。」
そう言って、奈津は駆け足で階段を降りていった。大粒の涙を床に落としながら。



Posted at 2009/08/25 12:16:38 | コメント(0) | トラックバック(0) | ニュース
2009年08月25日 イイね!

びっくりしたがな…

びっくりしたがな…今朝携帯からログインしよう思ったら、Errorの連発…(^^;)

ぼちぼち目を付けられたかと思いきや…

システム障害だったんですね…(^^;)

今日もぼちぼち頑張りますか

ヽ(´▽`)/アハハハ~
Posted at 2009/08/25 07:47:26 | コメント(3) | トラックバック(0) | 日記
2009年08月24日 イイね!

連続みんカラ小説「TIGHTROPE(タイトロープ)」 第2章『真実』3

「・・・」
真実を聞かされた奈津は黙り込むしかなかった。

まさかそんな事を言われるとは思ってもいなかったし、むしろその事で呼び出されたのに腹を立てていた自分が恥ずかしい。
真実を聞かされた新一の時同様、奈津の頭の中は混乱で満ちていた。

「そんなに黙り込むなよ。退屈はしてないんだろ?」
新一が階段の手すりに体をもたれかけて、平然とそう言う。

鈴木が話していたよう他人事のように。
何故鈴木があんなに平然と他人事のように振る舞えたのかわかるような気がした。
楽しい事は平然を保ってはいられないし、かと言って死ぬとわかって悲しく振る舞っても仕方ない。
平然を保つことで、一番精神的バランスが取れる。

「・・・あんたっ、自分の事なんでしょっ?何でそんな平気でいられるのよ!」
まるで自分の事のように怒りのボルテージを上げていく。
勿論新一とて怒っていないわけではない。
しかし今更・・・という念の方が大きいのでいちいち怒る気力にもならない。
それどころか、自分の事なのに呆れた感情さえ抱いている。そんな自分が哀れで仕方ない。

「仕方ないだろ?そうなっちまったんだから。なるようにしかならないだろ?」
他人の事のように冷静に興奮しきった怒りを宥める。

「でもっ、私は納得いかない!だっておかしいじゃない!そんなの絶対おかしい!ねぇ!どうにかし・・・」

「黙れ!」
奈津が発言しかけたのだが、間髪入れずに新一が怒鳴った。
鈴木にどうにかしようと言った自分に奈津が重なる。
でもそう言ってくれる事はすごく嬉しいものだ。
しかしそれと同時にすごく虚しく、悲しくなる。
同情されるのを期待して真実を話しているのではないので、同情めいた事を言われるとあまりいい気分はしない。

「悪ィ・・・。お前がそう思ってくれるのは嬉しいんだ。でもどうにもならない事だってある。俺だってこんな形で一生を終えるのは不本意だけどよ・・・」
怒鳴ってしまった事を詫びて話を進めようとしたが、奈津の顔を見ると目に一杯の涙をためているのに気付き一度間を置いた。
約30秒の間があった後、奈津が震えた唇で口を開いた。

「もう嫌なの・・・。これ以上新一の事で悲しみたくないの・・・。もう二度とあんたの死に顔なんてみたくないんだから!」
そう言った瞬間、奈津の目から大粒の涙が零れ落ちた。
際限なく涙が零れ落ちる。頬を伝って顎で両方の涙が合流し、手の甲をポタポタと濡らす。
顔をクシャクシャにしながら奈津は泣き砕けてしまった。

「わかってる。もう二度とお前に無様な姿は晒さねぇよ。」
ポケットからハンカチを取り出し、奈津の涙を拭った。

「ありがと・・・。」
ハンカチを受け取った奈津が泣きながらも礼を言う。

「もうやめとくか?別にお前に話した所で何も変わらないし。」
ここまで感情的になられるとは予想していなかった新一はもう止めようと本気で思った。
しかし、この発言はより奈津を感情的にしてしまい、結果涙の量は倍増した。

「なら何でそんな事いちいち告白してくんのよっ?知らなければ、悲しまずに済んだかもしれないのに!」
立ち上がって噛み付くように奈津が新一に迫った。
胸座を掴んで、崩れるように膝を折る。
胸座を掴まれたままの新一は、奈津が座り込むにしたがって必然的に屈んでしまう。
奈津が完全に地面に座り込んだ状態になると、新一はまっすぐに彼女を見つめた。

「お前には・・・、お前だけには隠し事したくなかったからだよ・・・。」
その時奈津は新一の自分に対する気持ちを悟った。
そして自分の気持ちにも正直になれると確信した。
涙を拭って、頑張って泣くのをやめた。
泣きじゃっくりを必死に堪えて、

「続けて・・・。」
と促した。
新一はコクっと頷いて、先日の話の続きをし始めた。



[再び先日]

「クライマックスを話してしまった後ではあまり盛り上がりに欠ける話かもしれませんが、よく聞いてください。」
再び木材に腰掛けて、鈴木が真剣モードに入る。

「はい。・・・ってか、もともと盛り上がるような話では絶対にないと思うんですけど・・・。僕が間違っているのでしょうか?」
天然なのかそれとも故意なのかよくわからないが、ツッコミを入れとかないと自分自身ペースが乱れてしまう。鈴木のペースだと深刻なのか冗談なのかわからなくなるからだ。
とりあえず新一は木製の箱に腰掛けて聞き入る体制を整えた。

「まずはそうだな、美智ちゃんの事を話そう。実は彼女は『クローン人間』なんだ。」
先程同様サラっと言ってのける鈴木。
この人が担当医とか身近な存在でなかったら、絶対に相談とかしたくないタイプだ。
何にも考えてくれていなさそうという雰囲気がある。マニュアル通りに動いて、マニュアル通りに事を終える。感情のこもっていない機械的な動作。例え実際本人はそうでなくても必ず誤解を招く事だろう。

「はい?」
今までの真実もかなり驚きだったのだが、意外な真実に新鮮な驚きを憶えた。
頭の上に?マークが無造作に広がる。

「とは言っても、君とは全く違うものでね。彼女の場合は、いわゆる今までのクローン技術で誕生したタイプなんだ。」
人差し指を立てて説明をする。
しかし決して力説ではなく、あくまでも平然と。

「つまり、俺みたいに『完全再生クローン技術』ではないという事ですか?」
鈴木が一度頷いて話を続けた。

「彼女は小さい頃に重病で死んでしまったんだ。しかし、父親が今の研究所で働いていたのもあって、クローンとして生き返らす事に成功したんだ。」

「いや、別に彼女の生い立ちなんかどうでもいいんですよ。その美智と僕を接触させたのにも何か裏があるんでしょ?」
全ての話に裏があると悟った新一は、諦めた様子で暇つぶしをするかのように自分の髪の毛をいじりだした。

「いやいや、御名答。流石は新一君ですねぇ。」
パチパチと手を叩いて、無邪気な笑顔で新一を称える。

「それって皮肉ですか?」
馬鹿にされているような気がした新一は、一応一言釘を刺す。
しかしその釘は糠に刺すようなものなので効果は全然期待出来ない。

「冗談はこのくらいにして。研究所は従来のクローン人間と完全再生クローン人間との間に出来る子供に注目していたんです。子供がちゃんと出来るのか?それとも生殖機能は駄目なのか?できたとしたら、その子供はどのようになるのか?それを見極めたかったらしいんです。全ては研究の為。」

「気長な話ですねぇ。自慢じゃないですけれど、俺ら付き合ってから1回もしてないですよ。これから先も有り得ないと思いますけど。」
そう素っ気無く答える新一。
素っ気無い中にも確信はちゃんとある。

「だからそれは成り行きで任せていたんだ。」
相変わらず人差し指を立てたまま鈴木が応じる。

「だったら多分その研究は諦めた方がいいです、ボツですね。」
髪の毛をいじる行為に飽きた新一は、髪型をサッと整えて両手でほっぺを覆った。
愛情もない女性とはできるわけがない。と言うか、したくない。それが新一のモットーだ。お年頃の男にしては珍しいのかもしれない。世の中には快楽を満たすだけのためにその行為を求める人もいるが。

「そう考えた上層部は新しい試みを始めた。」

「新しい試み?」
内容自体の感心は皆無に等しいのだが、話としては気になる事は気になる。
まさかその気にさせる薬でも作ったんじゃないかと疑いの念を浮かべる。一昔前にバイ○グラなんて薬がブームになったのを参考にしたんじゃなかろうか?

「そう。完全な『無』から人を作り出す事を。」
完全に予想が外れた新一は、下品な方向に物事を考えた自分を少し恥じ、蔑んだ。
そしてすぐに新一の顔が歪み、意味不明なものを見るような表情をする。
遠いものを見るような感じだ。

「話がどんどんSFっぽくなってきてるんですけど・・・。」
別に困ってはいないのだが、困ったような渋い顔を浮かべる。
その顔を見て、鈴木は「何かおかしな事でもある?」というような表情をする。

「今更何言ってるんですか?完全なSFですよ。あなたが想像しているより遥かに我々の研究は進んでいるんですから。」
ハァ~っと溜め息を吐いて聞き入る体制を整えた。
そしてそれから「続きの話をどうぞ」と手で合図した。

「普通クローンと言うと、核なるものが必要となります。言わば本人の『素』ですね。従来のクローン技術でもそう、完全再生クローン技術でもそう、『素』の存在が絶対不可欠なんです。しかし、『無』から作り出すのには何もいらないんです。ただ体を構成するタンパク質さえあればそれでいいんです。そのタンパク質でさえ、水道水の水分中に含まれるわずかなものでいいんです。体の約70%は水ですからね。後はそのタンパク質に色々なDNA情報を電気的に植え付けていけばいいというわけです。厳密に言うと何もいらないという事にはなりませんけど。」
段々専門的な話になってきたので面倒臭くなってきた新一。
タンパク質がどうたらこうたら、DNAがどうたらこうたら、まるで話は医学の学会のようである。
しかし、話がわからないわけではなかった。なぜなら、それがわかるだけの頭脳を持っているからだ。

「まさか、その『無』から出来る人間が作り出されているんじゃないでしょうね?」
渋い顔をして鈴木に確認するように問い掛ける。
問い掛けるというより、確認作業としての発言と言った方が正確かもしれない。
もはや、自分自身で考える事の出来る範囲は既に全て起こっていると考えた方が妥当だろう。

「流石今日は冴えているね。まぁ、正確にはもう誕生間近と言うべきだけれどね。コードネーム002という存在です。」
諦めというか落胆というかそんな感じの溜め息しか新一には出てこなかった。

「で、どうなるっていうんです?その002ってのは。」
大体は予想が付くのだが、正確にはわからない。
正確な情報を得た所で何もならないのだが、ここまで事を聞いてしまっては聞かずにはいられない。

「我々関係者は君の事を『怪(アヤカシ)』と呼んでいます。それは、君が特殊な存在だからです。正確には人類の形をした異生物ですからね。君は完全体試作型のプロトタイプなのですが、一応第1号として認識されているのでコードネーム001ということになっているんです。そして、今回のがいわゆる量産型で初なのですが、君がいるのでコードネーム002なんです。今回は君のように過去を持たない全くサラな状態で誕生するんです。だから、やりたいようにやっても自我の覚醒が起きないんですよ。君みたいにね。」

「なるほどね。そいつは僕よりも聞き分けが良くて、扱いやすくて、なおかつ新井好みだから奴の真の手下に適しているという事ですね?」

「大正解。恐らく、僕は002に殺されるのだろう。初仕事としてね。もちろん君もね。順番はどうなるかはわからないけど。君を殺せるのは002しかいない。普通の人間では君を殺せない。軍事兵器でも使用しない限りは無理だろう。」
そう言うと持ってきていたバッグから布に包まれた20cm程の棒状のものを取り出した。
無造作に巻かれた布を取るとそこには皮製で出来た鞘に収められたナイフが現れた。

「しかし、これがあれば普通の人間でも君を殺す事が出来る。」
そう言ってナイフを鞘から出し、矛先を新一に向けた。
微かな光でキラリと丸い刃先が光る。

「ただのナイフじゃないんですね?」

「その通り。これは対アヤカシ用殺傷道具として開発された『神銀鉄鋼ナイフ』通称ミスティックメタルナイフです。」

「ミスティックメタルナイフ?」

「君の体は通常のタンパク質では構成されていないんです。まぁ化学的タンパク質はタンパク質なんだけれど、通常のそれとは少し性質が異なるんだ。そのため、通常の刃物で腕を切断しても縫合さえすれば時間はかかるが再生して元のように使えるようになるんです。その気になれば腕自体を再生する事だって出来る。それは単に細胞が切断されただけであって、死んだわけではないからなんです。まぁこれは通常の人間にも言える事なのですが。しかし、このミスティックメタルナイフは君の体を構成している特殊なタンパク質の細胞を、完全に断ち切る事が出来るようになっているんです。どう言えばいいかな?焼き切ると言う感じかな?細胞の再生能力を奪ってしまうんです。」
ジェスチャーを織り交ぜながら、今までとは違った雰囲気で話を進める。
恐らく自分の専門分野だからそうなったのだろうが。
熱のこもった小演説が繰り広げられた。

「そんなもん勝手に持ち出してもいいもんですか?」
今更ながらの事を言ってみたものの答えはわかりきっていた。

「もちろん違反です。だって、もう今更って感じでしょう?こうなっては違反も味噌もクソもありません。」
笑いながら鈴木がそう言った。諦めとか、恐怖とかではなくただ純粋に。この場合無責任に、と言った方が正確だろう。

「銃刀法違反にも引っかかりますよ?」
新一もまた無邪気に笑い返した。

「大丈夫。このミスティックメタルナイフでは通常の人は切れないんです。それにほら、先が尖っていないでしょう?これはいわゆる一般で言う刃物ではないんです。それに、こんなにしなるんですよ。」
そう言って、ナイフの先と握りを持ってしならせた。
ペナペナとまるで下敷きのようにしなる。

「つまり完全に対アヤカシ用ってなわけですか。うちの親父・・・いや新井の野郎も用心深いんですね。」

「もしもの時のために作ってあったんですよ。」
フゥ~っと息を吐いて、新一が鈴木に歩み寄った。
そして、鈴木が手にしているナイフに手をかける。

「で、どうせ鈴木さんはこのナイフを俺に持っておけって言うんでしょ?」

「御名答。何かあまりにも物分かりが早いからいちいち話す必要が無いですね。」
ナイフを鞘に納め、布に包んで新一に手渡した。
受け取った新一は右手に持って肩にトントンと肩叩きのように使用してみた。が、特に効果はなかった。

「相手も持っているかも知れません、十分に気を付けて挑んでくださいね。と言うか、絶対持ってるでしょうねぇ・・・。」

「そんなの気を付けれるわけないでしょう?いつどこで姿を現すかわからないのに。」
それもそうですねと微笑んだ鈴木の顔が一瞬曇った。
何かを思い出したかのように口を開いた。

「君にはもう一つ言っておかなければならないことがあります。」

「その前に、俺から言いたい事があります。」
新一もまた鈴木に言っておきたい事があった。
間髪入れずに踵を返す。

「何です?」
思い出して言おうとしたのに新一に会話進行権を剥奪された鈴木は、言おうとした事を忘れないように新一に耳を傾けた。

「僕、逃げたいんです。」

「逃げる?」

「逃げるというか、僕が誰も知らない所へ、そして僕を誰も知らない所へ行きたいんです。新一を新一として見てくれる、全く新しい土地を訪ねたいんです。そこで残り少ない人生を精一杯生きてみたい。」
声のトーンはそうでもないが、力説と呼べる程内容は濃かった。

「ふむ、それは前々から言っていた事だね。それを決心したのは僕からの真実を聞いたからかい?」

「いえ、何となく悟っていたんです。遅かれ早かれまた死ぬんだろうなぁって。薬が切れると本当に苦しいし、まるで麻薬中毒ですよ。だったら先の見えない限られた時間を自分自身で生きたいと思ったんです。それに、奈津を巻き添えにしたくない。俺といる限り必ず被害を被る。だから、奈津と距離を置きたい。あいつには、あいつにだけは幸せになって欲しいから・・・。」
学校の担任に悩み事をぶつけているような、そんな感じだった。
全てを曝け出し、心から。
さっきは絶対に相談したくないタイプだと思っていたのに。
やはり心のどこかで信頼しているのだろう。

「そうですか。それならこれは役に立ちそうですね。」
ナイフを取り出したバックから白い紙の包みを取り出した。
それは新一が見慣れているものだった。

「2週間分です。これがあなたの担当医としての最後の仕事です。」
そう言って薬の入った紙の包みを新一に手渡した。

「ありがとうございます。」
受け取った新一は心の底からの感謝の気持ちを伝えた。
まさかここまで気を利かせてくれているとは思ってもみなかったからだ。

「君がこの真実を聞いて生きる希望を亡くしていたら、・・・渡すつもりはなかった。でも、君は僕が思った通りの事を言ってくれた。安心したよ。」

「何もかもお見通しですか・・・。僕もまだまだガキですね。」

「しっかし、なかなかいいカップルだと思っていたのにな、君と奈津ちゃんは。」
声のトーンをやや上げて鈴木がからかうように新一に言う。

「付き合ってません。」
冗談交じりに否定する新一。

「でも、お互い分かり合えていたのでしょう?だったらそれで充分じゃないですか?きちんと別れを告げなければならないよ?それが今君がしてあげれる最大の愛情だ。おっと、これはお節介だったかな?私の家系は代々野次馬精神が旺盛でね。」
頭をかいて少し申し分けなさそうに新一に詫びを入れる。
こんな事を他人に言うなんて、年を取ったもんだとウンウンと1人納得する鈴木。

「えぇ、そのつもりです。」
新一の眉がキリッと引き締まる。

「しかし、注意してくださいね。薬は2週間分ですが、きっちり2週間大丈夫だという保証はもうありませんから。」

「えぇ、そのつもりです。今日昼間に貰った1週間分と合わせて3週間分。どうにかなるでしょう。」
準備は整ったという感じだろうか?新一の胸の中は既に未来に向いていた。
残り少ない未来に。
「ところで少し気になる事が・・・。」

「何かな?」

「もし僕が失踪したら、奈津が問い詰められるなんて事にはならないですか?今学校の連中で一番からんでるのあいつだから、当然マークされてるんでしょ?」

ふむ、その問題はあるね。でも拷問とかそんな古臭いやり方はしないと思うから大丈夫だと思うよ。口止めさえしておけば向こうだって派手には出来ないだろうし。」

「そうですか・・・。それなら安心して逝く事が出来ますよ。」
安堵の表情を浮かべ、空缶を完全に握り潰した。

「そう言えば、もう一つ何か僕に言う事あったんじゃないですか?僕が無理矢理中断させてしまいましたけど。」
Posted at 2009/08/24 20:04:01 | コメント(0) | トラックバック(0) | クルマ
2009年08月24日 イイね!

連続みんカラ小説「TIGHTROPE(タイトロープ)」 第2章『真実』2

[先日]
倉庫の中に入った2人は適当な場所に身を置いた。
夕方なったとは言え、昼間の熱気を十分に蓄えた倉庫というのはちょっとした天然のサウナ状態だ。
今は使われていないため照明などはないが、外からの夕暮のわずかな光でかろうじてお互いが見える。
新一の視力をもってすればあまり気にならない暗さのだろうが。

「何から話そうか?」
鈴木はそう言って、ポケットから缶コーヒーを2つ取り出した。

「これで良かったかな?」
鈴木が缶コーヒーを新一に渡し、知っているのにわざと好みの確認をする。

ひんやりとした缶を手に取ると、ひんやりとはしているが缶がまだ汗をかいていないので購入してからさほど時間が経っていない事を推測させる。

「僕はブラックの方が好きなんですがね。」
そう皮肉をたれて、缶コーヒーのプルトップを起こして口を開けた。

「何か不満かい?疲れている時は、甘い方がいいんだよ?僕は最近砂糖多めに凝っていてね。市販の缶コーヒーは丁度塩梅がいいんだ。君は怒りっぽいから、ミルクが入っていてちょうどいいじゃないか?」

「別に鈴木さんの好みは聞いてません。まぁ、市販の缶コーヒーの方が研究所で出されるものより、よほど安全なのは確かですけど。」
コーヒーを一口飲んで、やや甘ったるい顔をして置いてある木製の箱に新一は腰をかけた。

「さて、本題に入ろうか?時間も限られているしね。」
新一の腰掛けた位置より2・3歩離れた所にある木材に鈴木は腰掛けた。
ギリギリお互いが確認できる距離だ。

「そうですね。そろそろいい加減バレてるんでしょ?毎週開いているこの密会の事。明らかに不自然すぎますもんね。」
うんうんと軽く笑みを浮かべて頷く鈴木。
少し笑いながら新一が天井に顔を向けた。
天井は暗く、何も見えないがただ一点に目を集中させていた。

「メモにも書いたように真実の全てを教えるが、受け入れる心の準備は出来ているかい?」
天井を見つめている新一の方を見ようとはせず、彼は対照的に己の足元を見つめていた。

「そんなの出来てないですよ。でもショック死なんてダサい事はしないですから安心してください。」
半笑いで聞き入れる体制になる。
これから一体どんな事を知らされるのか?
最も知りたかった核心に迫れる興奮と同時に軽い寒気も襲って来る。
しかし、今は好奇心で一杯な状態だ。

「何から話していいやら・・・。何しろ一杯あってね。まぁ、何から話しても何も変わらないんだけれどね。」
やや言葉を濁して缶コーヒーを足元に置き、両手をギュっと握り締めた。

「君は何となく感付いていたかもしれないが、君をあの日トラックではねたのは斎藤だ。」
新一の顔が一気に怒りの顔に変わった。

「やっぱり。」
あまり触れたくない項目ではあったが、避けて通る事の出来ない道だったのでそのまま受け入れた。
だが次の瞬間受け入れがたい言葉が新一に襲い掛かる。

「そして、それを指示したのが・・・僕らの上司新井所長、つまりあなたの父上です。」
怒りの顔から一転して驚きの顔に変わる。それと同時に鈴木の方へ顔をやった。
自分の親が自分を殺すように指示したなんて信じられない。
世の中には自分の親や子供を殺すというニュースが絶えないが、まさか自分がそうなるなんて思ってもみなかった。

もちろん直接ではなく間接的だったので本当にそうなのか?と言う疑惑の念が一応は浮かぶ。

「そんな・・・。」
あまりの驚きに言葉がうまく出てこない。と言うより、受け入れたくない。受け入れられない。受け入れない。

紛らすように半笑いになる新一。

「事実・・・です。あなたの行動は常に我々研究所の人間が監視していて、あなたの癖・行動パターン等を把握しての犯行でした。それにゴーサインを出したのがあなたの父上である新井所長なのです。」
しかし、新一の微かな願いも虚しく、鈴木はとどめの一言をグサリと突き刺した。

新一の驚愕な心境とは反対に淡々と話を鈴木は進める。
カタカタと足が小さく震える。
恐怖というより、絶望とか失望といったものから来るものだった。
しかし、黙っていても相手に何も伝わらないので自ら発言をしてみる。

「じゃあ僕は今の僕になる前からストーカーに追われてたって事?何のために?」

「あなたの父上はある計画を実現させるために、あなたを実験材料に使ったのです。」
缶コーヒーを一飲みして鈴木が穏やかに言う。

「実験材料って・・・?どういうことです?」
段々と自分の頭の中が混乱に満ちて来るのがはっきりわかった。

「あなたの父上は『完全なる人類』になる事を企んでいます。」

「完全なる人類?」
復唱された単語にコクっと鈴木が頷いた。

「簡単に言ってしまえば、不老不死な身体になる事と、あなたの持っているような特殊能力を手に入れる事です。そこから先の企みははっきりわかりませんが、よからぬ事というのは確かでしょう。」
頭の中で暗黒の渦がグルグルと蠢いているようだ。

そしてそこに引きずり込まれていくような感覚に襲われる。底無し沼のように身動きの取れぬまま、ただ呆然と。
しかし、ここで怖がっていても仕方ない新一は、自分の恐怖を封じ込めるためにしゃべり続けた。

「それじゃあ公私混同もいいところじゃないですか?それで道理が通ってるんですか?」

「一応この研究は『日本が世界の人類の明るい未来のために』という名目で進めてはいますが、ほとんどあなたの父上の独壇場ですね。しかも日本政府と我々の研究所とではかなりの情報格差があります。言わば日本政府も知らない所で・・・ってやつですね。もしかしたら知っているかもしれませんが、黙認しているのでしょう。もし彼らが白羽の矢を向けられた時、知りませんでしたと言えば危険は回避できますからね。まぁそこまで国際世論は甘くはないですけど、一応言い訳っていう事で。」

「ちょ、ちょっと待ってください。今頭の中を整理しますから・・・。」
口に出して言ってみたものの自慰行為にしかならなかった。整理など出来るはずもなく、続けてくださいと鈴木に告げた。

「あなたに備わっている特殊能力はまだ不完全なんです。DNAをむやみやたらといじくりましたからね。あなたは生き返った時点から、DNA細胞の破壊が始まっていたのです。いろんなDNAが限りなくあなたの体の中には含まれていますからね。そのDNA同士が喧嘩する事は当然の事です。ですから少しでもDNA細胞の破壊の進行を遅らせるために、薬を飲んでもらっているというわけです。」

「じゃあ、はなっから僕は長生きをさせてはもらえなかったって事ですか?親の愛情で、いわゆる人道的に長生きをさせてもらってたんじゃなくて、親父の私欲を満たすために薬を与えてモルモットになっていたという事ですか?」

問い詰めるような口調で新一は鈴木に噛み付いた。
新一の目は真剣だ。
しかし、それを軽くあしらうように鈴木が踵を返す。

「ある意味で長生きをさせたかったのですよ。データを採取するために。その気になればもう一度『君』を作り出して、データを採取する事も可能なんですが色々問題点がありましてね。急いでいたんです。」
期待した応えが返ってきた新一は黙り込んでしまった。
手元に置いていた缶コーヒーを飲むためでなく無意味に持って、気を紛らわす。

その動揺を見て一度間を置く鈴木。
しかし、すぐさま話を続けた。

「それに、君の父上は本当の親じゃない。」

「えっ?」
暗黒の渦が、ハリケーンのように激しくなっていく。

耳の神経をカットして何も聞こえない状態にし、現実逃避をしようかとも思ってしまう。

「ショッキングな話に油を注いでいるようだけれど、全てを告げると言ったからには言わなくてはならない項目でね。それにちゃんと最初に了承も得たからね。」
驚きの連続で言葉がうまく出てこない。それどころか、これは幻聴ではないかとさえ思い、疑心暗鬼に陥る。それでも真実を現実として受け止めなければならない新一は震えながら声を発した。

「続けてください・・・。」
軽く頷いて鈴木は話を進めた。

「君はある孤児院で育った子なんだよ。記憶にはないだろうけど。両親を早くに亡くしてね、4歳の時に新井の養子として今の家に迎え入れられたんだよ。」
新たな事実に戸惑う新一。
今までそんな事、一言も言われた事がなかった。
自分が養子の子供だなんて。

「じゃあ本当の家族は?両親がいないにしても親戚とか親類に当たる人はいるんでしょう?」

「そこなんだ。この研究はその当時から始まっていてね、君の親類に当たる人は全て抹消されたんだ。」

「抹消?」
新一が顔を歪め、頭を傾げた。

「もちろん極秘にね。失踪とか拉致とか適当に都合のいいように理由をつけて、抹消された。幸い・・・幸いと言うか、君の親類に当たる人は少なかったから比較的容易だったんだけど。まぁこれも日本政府がリサーチしてそういう人に的を絞っていたんだけれどね。」

「何のためにそんな事したんです?」

「後でいざこざが起こらないようにするためさ。君に血縁関係の者がいなければ、君がどうなろうとあまり大した問題にならないし、新井は自分にあまり関係ない他人だからやりやすかったのでしょう。」
段々驚きから怒りに変わってきた新一に、鈴木が宥めるように言った。

「変な気を起こさないでくださいね。」
一応歯止めをかけたつもりなのだが、どこまでかかっているか効果は期待出来ない。
新一は一見冷静を保っているようなタイプだが、本当は直情型タイプでキレたら何をしだすかわからない。この性格は真一の時から変わっていない。

「ねぇ鈴木さん、それを知ってて研究を進めていたの?俺がそうなるのを知ってて・・・。」
疑惑と困惑の中、新一は怒りを秘めた静かな口調で問う。

「今更言い訳しても仕方ないけど、知らなかった。本当に。僕は純粋に研究がしたいと思って研究所に入ったしね。知ろうとしなければこんな事わからなかった。知ったのは君と関わりだしてからだよ。何か自分自身疑心暗鬼になってきてね。君がクローンになる少し前から個人的に調べだしたのさ。そして本格的に知ったのは極最近さ。色々調べてね。」

「そうですか。」
少し安心したように気の抜けたような声で方をなで下ろした。全幅の信頼を寄せている鈴木までに裏切られては本当の終わりなだけに、その安心度はかなり高い。

「だから恨むなら僕も恨んでもいいんだよ?僕は真実を知った時から覚悟をしていたからね。僕の所為で君をこんな目に合わせてしまったのだから・・・。」
そう言う鈴木に恐怖の色は見えなかった。
どうやら本気で覚悟を決めているらしい。

「別に鈴木さんを恨む気はありませんよ。」
そう言うと甘いコーヒーを一気に飲み干した。
空になった缶をグシャっと握り潰した。

「じゃあ話題を変えようか。君はもうすぐ死ぬ。」
更にショッキングな告白ではあったが、新一はいちいち驚かなかった。いちいち驚いていては心臓がいくつあっても足りないし、何となくドロドロした現実を受け入れ始めていたからだ。しかし、他人の死をさらっと言ってのける鈴木に感心はした。

「あとどれくらいですか?」
自分の寿命を聞くにしては淡白に、実にあっさりと質問した。慌てても仕方ない事だし、かえってこのドロドロした現実から解放されるなら・・・という諦めからなのだろう。
それに先ほどより幾分顔色も良くなってきている。

「もって1ヶ月かな。ジワジワと老衰みたいな症状ではなく、いきなり来ると思うよ。」
普通医者が患者に死の宣告をする時は心苦しいものなのだろうが、鈴木はあくまでもサラっと他人事のように言ってのける。他人事と言えば他人事なのだが。

「それで親父・・・いや、新井は焦っているというわけですか?」
余裕からなのだろうか?ニヤっとさえ笑えるようにまでなってきた。

「まぁそれもそうだけれど、君はいずれまた生き返るよ。実験の第二段階として。」

「第二段階?自動車の教習じゃないんですから。」
ここまで来たら冗談まで言えるようになっていた。慣れというか、諦めというものは恐ろしいものである。

「そう。『クローン』の『クローン』を作り出す事さ。そうするとより正確なデータが採取出来ると研究所は考えているからね。」

「全ては新井のために・・・ですか?」
静かに頷いて話を続ける鈴木。

「だからあまり特殊能力は使わない方がいい。寿命を一気に縮めてしまうからね。」

「関係ないですよ。どうせ早かれ遅かれ死んでまた生き返るんですから。」
まるで彼女との週末のデートの予定のようにサラリと言ってのける新一。

「君はいいな。また生き返れるんだから。例え暗くても未来はある。」
言葉の真意をいまいち理解できない新一が顔をしかめる。

「僕はもうじき死ぬ。正確に言うと殺されてしまうんだけどね。」
いつもの調子と違う発言に新一も焦りの顔を隠せなかった。慌てて鈴木に視線を移した。

「どういう事です?」
真剣に鈴木の顔を見詰める。

「僕はあの研究所の一研究員だ。その研究員が情報を外部に漏らしてしまったのだから、上層部もほっとくわけにはいかないでしょ?法律で言うと窃盗罪になってしまうんですかねぇ?国家の最高機密を漏らしてしまったのですから・・・。君に・・・ね。勘違いしないでくださいね、決して君の所為ではありませんから。君に情報を提供したのは自分の意志ですし、研究所のやり方にうんざりしていたのですから。」
驚きと言えば驚きだし、当然の事と言えば当然の事の流れだ。

「・・・」
新一はどう声をかけていいものか、喉の奥が狭くなる感触を憶えた。
いくら自分の所為ではないと言われても、直接の原因になっている事は間違いない。それがどうして気にせずにいられようか?

「それに、僕は君と同じ能力を手に入れてしまったからね・・・。」

「えっ?」
自分と同じ能力といえば、人並外れたアレなのだが。

「君が『ブースト(筋肉増幅)』と呼んでいる能力だよ。個人的に興味があってね、データを元に自分の体をいじってみたのさ。」
ビンゴ。新一の予想は当たっていた。

「個人的な興味って、そんな事していいもんですか?」
声のトーンを疑問形の最上級パターンにまで上昇させる。

「もちろんこれも違反さ。でもね、変な能力を身につけている君の気持ちになってみたかったんだ。研究第一人者としてね。ある意味・・・、というか君がそんな能力になったのは僕に責任があるのだから。」
自嘲気味に依然として自分の足元を見ていた。

「こんな話の最中で何ですけど、鈴木さんって馬鹿ですか?お人好しもいいところですよ?何でそこまで自分を犠牲に出来るんです?僕にはわかりません・・・。」
少し鈴木を蔑むような言い方で新一は吐き捨てた。

「僕が死ぬ話は余談でしたね。話を戻しましょうか・・・。」

「余談って、そんな言い方ないでしょう!鈴木さん、あなたの問題ですよ!あなたはそれでいいですかっ?」
密会という事を忘れて、立ち上がり新一が怒鳴り上げた。
勢いよく立ち上がった所為で木製の箱がガタっと音を立てる。

「いいわけないでしょう!僕だってこんな形で死にたくなかったですよ!でも、もうどうしようもないんです!後は・・・、未来をあなたに託すしかないんです・・・。」
鈴木が両手で頭をかきむしった。クシャクシャになった髪の毛が、今の彼の心理状態と酷似していた。
取り乱した事を詫びて、髪型を整える。

「すみません・・・。」
としか新一は言葉を返せなかった。
どうしようもないとわかっていたのに、どうにかしようとしていた自分に腹が立つ。
どうしようもないとわかっていても、どうにかする。それがいわゆる一般的なポジティブな考え方だろう。しかし、本当にどうにもならない事はどうにもならない。

「君が変な特別の能力を身につけて、生きている毎日の日々はどんなものなのだろうか?どれだけ辛い思いや楽しい思いをしているのか?それを身をもって知りたかった。それで少しでも君の気持ちがわかったら・・・と考えたのだが、ただの自己満足と自虐的行為にしかならなかった・・・。」
自嘲して鈴木は立ち上がった。

「そんな事ないですよ。そういう風に思ってくれる人がいてくれただけで、今の僕はうかばれます。」
慰めるというのはこの場合あまり効果も期待出来ないし、自分の立場から言ってするべきではないのだろうが、せずにはいられなかった。

「本当に申し訳ないと思っている。」
頭を90度下に向け、ガクっと肩を落とした。

「今更慰めても仕方ないんですけど、今ここにいるのは鈴木さんのお陰です。そりゃ別に生き返りたいと思っていなかったし、裏でそんな事が起こっているなんて知らなかったけど、生き返ってみて色んな事に気付きましたから。それだけでも僕が僕で生きた価値はあります。存在できた価値はあります。だからそんなに自分を責めないでください。僕は鈴木さんを責めたりしませんから。むしろ感謝したいくらいです。」
口調はとても穏やかで、優しいものだった。まるでいい人を演じているように。

「『感謝しています』は言い過ぎだろ?お世辞もいい所だ。」

「バレました?」
うつむいていた鈴木が新一のお腹を軽くジャブをした。
その顔はさっきと違っていつもの彼の顔に戻っていた。
新一はそれを確認すると、少しホッとしてお返しに同じくお腹にジャブをお見舞いした。

「死ぬ前に心残りがなくなってスッキリしたよ。」

「話はもうおしまいですか?」
スッキリした鈴木の顔を見て話は終わったと思った新一は密会終了か尋ねた。

「いや、まだ話さなければならない事はありますよ。」
きっぱりとそう宣言した鈴木に唖然とする新一。深刻な話の後なので余計だ。

「何ですか?心残りはなくなったんでしょう?」

「それはそれ。いや、クライマックスな話は最後にしようと思っていたんだが、流れでクライマックスを先に話してしまってね。一応段取りを決めていたのだけれど、何となくそうなってしまって。やっぱり予定は未定で終わるものなんですねぇ。」

「何ですかそれ・・・。」
呆れて言葉も出てこない新一。一瞬本当に俺達は深刻な話をしているのだろうかと、自分と鈴木を疑った。
Posted at 2009/08/24 12:39:08 | コメント(0) | トラックバック(0) | クルマ
2009年08月24日 イイね!

連続みんカラ小説「TIGHTROPE(タイトロープ)」 第2章『真実』1

今年の8月は異様に暑い。毎年のようにそう思っているだけなのかもしれないが、とにかく暑い日が続いている。いわゆる気温35度以上の「酷暑」はもう9日間続いている。

そんな中でも体育会系の部活は容赦ない炎天下の中、日々練習に精を出している。野球部は汗と泥塗れになりながら、テニス部は汗と砂埃にまかれながら、剣道部は蒸し風呂状態の中それぞれ二度と来ない『青春』を満喫していた。

屋内では文化系部活による活動も盛んで、長期の休みとは思えないほど新一の通う高校は活気に満ちていた。
また、それらと平行して文化の秋に向けての高校祭の準備も行われていて、ほぼ全校生徒が登校している状態だった。

そんな満ち溢れる活気の中、新一は奈津を待つ間のんびりと仰向けになって寝転ぶように屋上で流れる雲を眺めていた。一つ、二つと限りない雲をのんびりと数えては、微笑む。はたから見ればかなり不気味だ。

もろに直射日光が当たるこの場所で常人ではのんびり出来るような場所ではないのだが、新一には全然お構いなしだった。かえって、高校祭の用意でごみごみした教室にいるより気持ちの良いものだ。

「こんなに空が近く見えたのは初めてだな…。」
ボソッと独り言を言って深呼吸する。新鮮な空気が肺の中一杯に満たされる。酸素が血管を通り、頭の中に酸素が行き渡りスカッとした気分がおとずれる。プハ~と肺の中で酸素交換された息を吐き出して、通常の呼吸に戻す。

空が近くなった。
それは今の彼の心理状態そのものだった。
もうすぐ『新井』という鳥篭から抜け出して、大空へと自由に飛び回れるようになる。と言うより、もう既に籠のゲートが開き今まさに飛び立とうとしている直前である。足で蹴って、翼に力を入れれば、後は自由だ。

期待と不安。

それはまるで小学校の遠足前夜の気分であり、受験の合格発表の前夜でもある。
しかし、飛び立つ前にやっておかなければならない事がある新一は、奈津をこの場所に呼び出していた。
「あいつ怒ってるだろうな・・・。」



奈津は新一に呼び出されて、校舎の屋上へと向かっていた。突然携帯電話が鳴り、高校祭の準備の中抜け出して、ゆっくりと屋上に足を進めていた。
なぜ8月のクソ暑い炎天下の中、直射日光を避けられない屋上に呼び出されなければならないのか、新一の心配通り腹を立てながら。

いつものように陽射しは強く、容赦なく日射病患者を増産している事だろう。体力には自信がある方だが、今ばかりは日射病患者になりかねない。
そんな中呼び出されたのだから奈津とて腹を立てるのも無理はない。しかも新一も同じクラスなのに高校祭の準備を手伝おうとしない。その怒りも加味されている。
呼び出した張本人は暑さなどお構い無しの身体だから、何とも思ってはないのだろうが。少しは自分の身にもなってほしいものだ。デリカシーというか、女性に対する配慮が足りないというか、女として見られていないというか…。あれこれ勝手に悪意を膨らませると余計に腹が立ってきた。一発ひっぱたいてやろうか?一発じゃ治まりそうにないけど…。

「おい、新一!あんた何考えてんの?私をミイラにして殺す気?!」
屋上へと続く階段を登り切り、屋上出口のドアに辿り着いた奈津の第一声はこうだった。

しかし肝心の怒りの矛先はどこにも見当たらず、奈津は誰もいないのに叫んでしまった事を少し1人恥じた。
「こっちこっち。お前よく誰もいない方向に文句ぶつけれるよなぁ。図太く生きていけるタイプだな、間違いなく。」
と、聞き慣れた声が頭の天辺から聞こえた。

屋上の更に屋上にいた新一を見つけ、あからさまにムッとした表情になる奈津。
「新一!あんたはいいかもしんないけど、あたしは普通の、まともな、ちゃんとした純粋な人間なんですからね!そうそう炎天下の中呼び出されちゃぁ、たまらないわよ!早く降りてきなさいよ!」
一通り文句を述べて、自分が上に登れないものだから降りて来るように命令した。

「わかった、わかった。階段で話そう。それならいいだろ?」
降りてきた新一が心なしか申し分けなさそうに宥めた。

奈津が無言で顔をしかめて、階段の方へ歩いていく。
それにトボトボ着いていくように続く新一。まるでそれは尻にひかれた夫が妻の後を着いていくような光景に映る。

「ところで何?わざわざ呼び出すからにはつまらない事じゃないんでしょうね?」
先に階段に腰掛けた奈津が熱気を払うため手の平で顔を扇いでいる。

多少風は来るものの、気休め程度にしかならない。
ジワジワと額に汗がにじみ出て来る。

「退屈はしないと思うぜ?」
そう言うと、手すりに腰をかけた。

新一の方は、涼しげな澄ました顔をしている。その気になれば、この場でダウンジャケットを着て、こたつに入って鍋焼きうどんを食べる事もたやすい。そんな身体能力の持ち主なのだ。

「何?もったいぶらないで早く言いなさいよ。こっちは高校祭の準備で忙しいのに!大体あんたも少しは手伝いなさいよ!」
ここにわざわざ呼び出された怒り、プラス全く高校祭の準備を手伝わない新一に対する怒りが彼女のボルテージを最高潮にしていく。

「わかった、わかった。そう焦るな、怒るな、喚くな。お前って、昔っからせっかちな性格だよなぁ。」

「前置きはいいから!」
本当はあまりしたくない話を、まだ何も知らない奈津に催促された新一は、少し複雑な気持ちになった。
そして、先日の密会で知った真実の全てを一部を除いて話し始めた。

「実は…」
Posted at 2009/08/24 07:50:03 | コメント(0) | トラックバック(0) | クルマ

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