TV朝日の報道ステーションに豊田社長が出演してましたね。
一度に複数の問題が発覚して、技術力やら対応について批判を浴びているトヨタですが、エンジニアの視点からどうにも腑に落ちないんですよねぇ・・・
写真はSAIですが、プリウスで大騒ぎになったブレーキ問題について、ちょっと色々と考えてみました。
まず、プリウスをはじめトヨタのHEVの特徴ですが、
(1) 低速走行時はエンジンを切り、モータでEV走行する
(2) 軽めのブレーキでは、モータで発電する回生ブレーキを使う
(3) ABS作動時は、回生ブレーキを切り油圧ブレーキに切り替わる
で、会見等で説明があったのは、(3)の切り替え時に0.06秒のタイムラグがあり、数十センチ(俺の計算では、20km/hからの減速と仮定して、50~80cmくらい?)ほど制動距離が伸びるというもの・・・しかし、ABSが作動すれば30cmくらい伸びるのは普通なので、それほど問題ではないと思う人もいるみたいです。
もちろん、この差を危険と感じるドライバーもいると考えるべきで、ユーザーと開発者の意識のズレがあったことは問題です。
しかし、腑に落ちないのはこの点ではないのです。
現在市販されているほとんどのクルマには、ブレーキ力をアシストするため「倍力装置」と呼ばれる装置がついています。これにはいくつか種類がありますが、一般的には以下の2種類が使われます。
(A) エンジンの吸気側の気圧が低くなるのを利用する、負圧(真空圧)ブースター
(B) エンジン(又はモータ)によって油圧ポンプを回す、油圧ブースター
当初のトヨタの会見で、社長は(A)の真空圧ブースターを使っていると説明していましたが、上記(1)のようにエンジンが止まってしまうHEVでは(B)+モーターを使うのが普通で、実際プリウスの技術資料には「モーターによる油圧ブースター」と記載されています。
社長は技術者じゃないから仕方ないかも知れませんが、正しい説明資料が作成されていなかったということは問題です・・・
で、プリウスのブレーキ油圧ブースターですが、旧型は常にモーターによってブースト圧を発生させていたのが、新型になって「音がうるさいから」と言う理由で以下のように変更したという資料がありました。
(a) 普段はモーターを止める
(b) モーターが止まったままでも圧を保っており、数回のブレーキは普通に踏める
さて、これらの情報を組み合わせると・・・急に回生ブレーキから油圧ブレーキに切り変わっても、油圧は保たれているような感じに見えますが、その直前にABSが動いているんですよね・・・
ABSは、いわゆるポンピングブレーキを機械が高速に勝手にやってくれるものですから、上記(b)の「数回のブレーキ」分の圧はABSが使い切っているのでは??
この仮説が正しいとすると、ABSで数回ポンピング動作をした後は、ブースターの効かないブレーキになってしまうのです。
さて、エンジンをかけないでブレーキで減速したことある方はいますか?試すとわかりますが、ブレーキを踏むごとに重くなり、3回目くらいで全然効かなくなってきます。
もし、上記の通りだとすると「踏み増せば止まる」のは確かですが、普通のドライバーは経験したことの無いような重さで、効きの悪いブレーキを踏むことになります。
なんとなく、ユーザーの方々の意見を聞いていると、これが今回の問題の本質のような気がします。
今回のリコールでは、(a)の部分を改修し、常時モーターで圧をかけるようにしたそうで、ブースト圧が抜けることはなくなったはずですので問題ないでしょう。
問題は、トヨタからは「重くなります」「効きが悪くなります」という説明は一切無く、「0.06秒遅れる」「制動距離が少し伸びる」と言う点だけを強調していることです。
もちろん俺はトヨタの技術者じゃないので、あくまで公開されている技術情報からの推測です。
しかし、上記仮説が崩れるのはABSが普通の油圧ブレーキとは違う圧力系統を使っている場合で、回生ブレーキも含めてブレーキ系統が3系統になるとコスト増ですから、そんなことはしていないと思います。
リコールの改修内容を見ても、ここを対策したようにしか見えないんですよねぇ・・・
さてはて、真実はどこに?
Posted at 2010/03/02 23:27:03 | |
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