【※注:長文注意ですm(_ _)m】
11月某日。
私は友人他数名とオフ会を楽しんでいた。そこで出会った「男」と友人とご飯を食べに移動することにした。自分は横乗りを考えていた所であった。しかし、予想できない展開が私に待ち構えていた訳で…。
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「どうぞ。」
ドアを開けて、男は私にそう言った。不謹慎ながら、私は「えっ…!?」と困惑していた。
ディーラーが用意している試乗車なら話は分かる。しかし、今回はオーナーの車。しかも、オーナーの寵愛を一心に受けてきた、特別な車であるから、話は違う。
しかも、私とオーナーである男とは今回が初対面。見ず知らずの人に、そんな大切な車を託してもいいのだろうか…??私の心の中は、「戸惑い」しかなかった。
「500の魅力を知って欲しい」
移動する前に、男は私にそう言った。
―見てもいいけど、実際に乗ってみて魅力を知ってほしい―
…その男の熱い思いに私も負け、意を決して「彼女」とお手合わせ願うこととした。
運転席に座り込む。着座位置自体は低いが、乗り込み自体は言う程苦ではなかった。正直言うと、現行のロードスターよりも乗り込みやすく、気を遣わなくてすむので、助かった程だ。
男の好みで、シートはレカロ(SR-3)に交換されていたが、今回の「彼女」のイメージを考えると、個人的にしっくりとしていた。
シートポジションを合わせる。いつものようにクラッチを踏みきった位置を基準に調整をしたが、最終的にそれは失敗だった。というのも、クラッチペダルのストロークが長過ぎて、通常時は膝が窮屈だったからである。早速、「彼女」からの手痛い洗礼を受けた気がする。
目線自体は低く、スポーツカーっぽい印象であった。以前乗ったことがあるアルテッツァよりも低いと感じる。寧ろ、ロードスターに近い気がした。最近の車にこの眺めが臨めるといえば、86やロードスターといったスポーツカー位しか思い当たらない…。
座り込んだからには、覚悟は決まった。「彼女」とお手合わせ願うのなら、短い間でも、臨むところまで付き合おう。
男に「マックス何回転まで?」と訊いてみる。男は「5000rpmまでOK。」と答えた。…なら、そこまで回してみよう。その時、どんな歌声を奏でてくれるのだろうか?興味は尽きなかった。
友人の500の先導の下、私と「彼女」との時間が始まった。
「彼女」が動き出す。クラッチペダルを離した時、膝が窮屈になるが、今は気にならない。ただ、五感を研ぎ澄ませて、「彼女」を感じることだけに集中する。
動き出しはスムーズにできた。気難しいのかと思ったら、素直な性格で内心安堵した。動き出した時の「ロロロロ…」という音色が、上品な感じで、心地がいい。
シフトを変えてみる。シフトのストローク自体は長く、カチッとした感じではなく、グニュッと入っていく。この感覚、どこかで味わったことがあるような…。…あ、大学の時に同級が乗っていたファミリアと似た感覚だ。彼のは、S-ワゴンのスポルト20だった。スポルト20はエンジンと駆動系がカペラのものが使われていたはずだったから…、このミッションの感じは、当時のマツダ車(のDセグメント系統)に共通しているものなのかもしれない。クラッチペダルのストロークは相変わらず長く、それ故にクラッチを切る時以外は膝が窮屈で、終始足の置き場に困る結果となった。
道路が2車線になり、道が開けてきた。友人がすかさずペースを上げる。自分もペースを上げようと「彼女」に鞭を入れる。「彼女」は素直にペースを上げていった。
試しに5000rpmまで回してみる。すると、「ロロロロ…」と上品な歌声を奏でていた「彼女」は段々と芯が揃い始めかのような歌声に変わった。…しかし、すぐに指定の5000rpmに届いてしまい、シフトチェンジ。シフトの入る感じが難しいが、息を合わせるように慎重に変える。
…正直、レッドゾーンである7000rpmまで回したら、どんな歌声を奏でてくるのだろうか??個人的に興味が沸いてきたが、今回は「5000rpmまで」という男との約束があるため、お預けである。それでも、綺麗に回っていく感じを受けたので、7000rpmまで回した時も、変わらずにスムーズに回っていくのだろうな、と思いを巡らしていた。恐らく、官能的な音は無いけど、上品なままなのかもしれない。
少し大きめな段差を乗り越えた時にボディ剛性のゆるさが見られそうな気配を感じるものの、乗り心地は総じて「しなやか」の一言である。その乗り味は、現行アテンザに似ているかと思った。しかし、「彼女」には「軽快感」を感じ、アテンザには「重厚感」を感じた。そのため、同じ「しなやか」・「しっとり」という例えを使っても、「彼女」とアテンザは似て非なるものであるとすぐに感じた。
…因みに、ボディ剛性は、ゆるさが見られそうな気配を感じただけで、絶対的な剛性は弱くない。寧ろ、今の目線で考えても十分通用すると思うことを付け加えておく(もっとも、今の車の剛性レベルが相当高いレベルにあるのだが。)。
坂道での信号待ちに差し掛かる。「サイドブレーキが弱点」と男から聞いたので、サイドブレーキを弱めにかける。…とはいえども、少し不安である。
試しにアクセルを軽く煽ってみる。彼女はアクセルペダルの動きに合わせて即座に反応した。その時もエンジンの回り方が綺麗だった。あくまで上品に、なおかつ素直なのだ、と思うと、妙にこちらが歩み寄りたくなる。そんな気がした。
信号が変わり、動き出す。交差点で曲がっただけだが、ステアリングも乗り味と同じくしっとりとしたものであった。ハンドリングの印象は乗り味同様「軽快」の一言。この感じも今まで感じていた通り、上品で素直な印象であった。
しばらく走って、目的地に到着した。と同時に「彼女」とのお手合わせも終わった。多少の緊張もあってか、終わった瞬間は「どこも壊さずに済んだ」という安堵感が勝っていた。
「彼女」とのお手合わせ。終始探りながらのものであった。しかし、「彼女」について少し知った事を考えると、初めての割に上出来だったような気がする。
お手合わせの時は、緊張していたのか、時間が長かった気がした。…しかし、後になって思い出している時、「あ、短かったな…」と思ったのも事実。正直、「彼女」をもっと知りたい、という思いが込み上げてきた。今回は幹線道路中心だったが、次は適度なワインディングでお手合わせ願いたいな、と思ったりもした。
1代限りで終わった車。マツダ迷走時代の1台。日本では評価されなかった1台。etc...
「ユーノス500とは、どんな車であるのか?」という問いに対しての答えは様々である。人によっては、「クロノスの悲劇故に」という理由や販売店を理由に正当な評価を放棄しているような節があるという。
そんな問に対して、自分は「スポーツサルーン」と答える。「スポーツセダン」と答えない理由、それは「上品な中に秘めた繊細さ」にあると感じた。
エンジンもおしとやか。見た感じも上品。優美なデザインに、ひらりひらりと軽快なフットワーク、柔らかくもしなやかな乗り味。
綺麗な車であると思うし、落ち着いた車でもあると思う。しかし、どこか繊細さを感じずにいられない。どこか女性的な印象を抱く「サルーン」。
以上が、自分が感じたユーノス500像である。
自分が思う「スポーツセダン」はどこか骨太・硬派という「筋肉質」で「男性的」な印象を連想させるものである。しかし、「彼女」はそれらのイメージとは違い、どこか上品で、繊細で、女性的なイメージ。それが自分が「彼女」を「スポーツサルーン」と呼ぶ理由である。
…そういった性格を考えると、当時のCMって似合わないなのでは?と感じている。
【当時のCM】
寧ろ、MX-6みたいな印象のCMがぴったりだったのではないのか??と感じた(ラテン味を出さなくてもいいけれど…)。
(実際、ユーノス500のカタログのイメージと実際のCMのイメージが違っているように感じられた。カタログのイメージでは、MX-6のCMみたいなロケーションが合っていた気がする。)
そう考えてみると、メーカーはCM等の「周知手段」を失敗しているような感じがあったように感じているし、「ユーノス500という車をどう扱えばいいのか」を迷っていたのではないかと思ってしまった。
また、「1代限りで終わってしまった」という事実があるが、個人的に「デザインが完成されすぎた」が故に「次が無かった」のではないか、と考える。20年経った今でも色褪せることのないことと、かつてジウジアーロが絶賛しているという事実がその証左なのかもしれない。また、仮に「ユーノス500(Xedos6)に2代目があった」としたら、そのデザインが想像つくだろうか?そう思ってしまう。
―上記の点を考えると、「彼女」に対して贈る言葉として、「美人薄命」が浮かぶ。美しく、繊細であるが、短命で終わってしまった。そんな「彼女」に似合う言葉なのかもしれない、とふと思ってしまった(失礼かもしれないが)。
―実際、「本当の『彼女』」をどのくらいの方が知っているのだろうか?
今回お手合わせしてみて、ふとそう感じた。デザイン上の魅力もさることながら、乗ってみての印象、等を考えると、「全てをひっくるめての本当の『彼女』」を知る方は「パートナー」を除くとあまりいないと思うし、そもそも現代に本当の『彼女』を知る機会なんて巡り合えないと思う。そう思うと、今回のお手合わせは幸運であったし、その機会を用意してくれた「男」に感謝するべきだと思う。
「本当の『彼女』」を知っている人、もしくは付き合ってから「本当の『彼女』」を知った人は、「彼女」に惚れ、一途になる。そんな気がしてならないのだ。果たして、それが自分が感じた「繊細さ」なのか?それとも違う「何か」なのか?それに関してはその人それぞれ、ということになるのだが。
…もっと知りたい。そう思うと、いっそのこと「パートナー」として迎えたいな、という思いもあった。しかし、現存台数は日に日に減少傾向があるという。試しに中古車情報サイトで検索をかけても、検索にかかった台数が1台だけ…。そう考えると、軽い気持ちで手を出してはいけない、と痛感する。
しかし、換言すると、いま現存している「彼女」は少ないながらも相当大事に愛されているのかもしれない。しかも、今立ちはだかっている現実(主に部品供給状況)に目を背けずに立ち向かいながら…。
―以上のことを思うと、「彼女」って幸せ者なのかもしれない…。
そう感じた今回の「お手合わせ」であった。改めて、「彼女」を知る機会を与えてくれた、「男」に感謝である。
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【あとがき】
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m
あとがきです。
先月ですが、
スパンク!さんのユーノス500を試乗する機会を頂きました。
しかも…、
こちらの動画に登場している車そのものという…。
ユーノス500のMT車というだけでも貴重ですが、雑誌や動画にも登場している個人所有車ということで、結構緊張していましたし、スパンク!さんに試乗を促された時は不安と戸惑いで一杯でした;^^)
(※実はウチとスパンク!さんは、その日が初対面でした。)
スパンク!さんの500の第一印象は、「チューナーズコンプリート系」。BMWで言うハルトゲやシュニッツァー、(関係性は異なりますが)アルファ等で言うツェンダーみたいな印象でした。どこか日本的でない、ヨーロピアンな感じでした。
…乗った感想は、先述の通りですので、割愛、ということで。
ユーノス500に関しましては、「出るのが早すぎたような…」と思いました。今でも通用するスタイリング、走りの良さ、…。当時のマツダの志の高さを考えると、何とも残念な気がしてなりません。
また、「年齢を経て、行きつく車」ような気がしました。何台か経て、ある程度の価値観・審美眼を持って、初めて良さに気が付く車、という印象でした。そういう意味では、正に「今の日本の車に必要な物」を備えているような気がしましたし、外国車に負けない魅力を備えているのでは?と感じました。
勿体ないのが、その時とマツダの低迷期が重なってしまったことと、ユーノス500の魅力が「ある程度の年月を重ねないと分からないかもしれない」ということ。そういった意味では悲劇の車だと言えたのかもしれません。
戸惑いながらも、「実際のユーノス500像」を(自分なりにですが)知ることができて、正直嬉しかったです。実際乗ってみるのと乗らないとでは全然自分の言葉に対する自信が違いますので、今回の試乗は貴重でしたし、自分の成長の機会になったのかな、と思いました。
最後に、初対面だったにも関わらず、ユーノス500を試乗する機会を与えて頂きましたスパンク!さんに感謝いたしますm(_ _)m
あと、長文でしたが、最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
スパンク!さんへの感謝の気持ちを込めて、今回の試乗記を終わりにしたいと思います。
(…正直、どう書こうか苦慮していたのは、ここだけの話です。(コソッ)
※試乗した時間帯が「平日の夜」でしたので、写真はありませんm(_ _)m