先に書くが、タイトルはちょっと大げさすぎた気もする。
大学時代からの友人が新車を買う運びとなり相談を受けた。
夫婦は30代前半。結婚後、弟一子が誕生し、
新築の一戸建て住宅が昨年竣工し、
今まさに幸せな家庭を築いている二人。
よく一緒にBBQを行ったり、新居でホームパーティを
開催してくれるような素敵な夫婦だ。
奥さんは楽器を演奏される方なので、演奏会にご招待いただいたことも。
現在の保有車は車に興味がない友人が通勤の為、
購入した
ゴルフⅤのトレンドライン。
1.6NAからTSIシングルチャージに置き換わった最初のモデルだ。
7速DSGが初採用され2.0L並みの動力性能を訴求した。
ボディサイズも十時は大きいと感じたが、
全長:4205mm ×全幅:1760mm×全高1520mmと
もはや大きいサイズの車ではなくなった。
(幅はやっぱりもう少し狭めたいが)
この車を毎日の通勤やレジャーに7年間使用し、
走行距離も10万kmにたどり着きつつあるところで、
度重なるトラブルに嫌気が差して
新車購入の機運が高まったそうだ。
友人が車を探していると聞いたとき、
カーマニアの私は
静観の構えを取っていた。
ここで前のめりになって変なことを吹き込むと
お節介で迷惑な奴になりかねないからだ。
しかし、マニアの出番がやってきたようだ。
昨日朝、友人から着信あり。
内容を要約すると以下の通り。
1.候補はマツダ・アテンザワゴンXDとプジョー・308SWと一騎打ち
2.夫はアテンザ推し。妻は308SW推し。
3.夫はアテンザの走行性能の高さが好み。308SWは内容を考えると割高と思う。
4.妻はアテンザ買ったら横に乗りたくない(!?)と言っている。
とのこと。
私は、ごり押しでアテンザを薦めたくないと思い、
Cセグの308SWとDセグのアテンザの車格の違いを説明。
アテンザ自身もマツダのフラッグシップとして
造りの良い国産車であることも説明。
どっちかが意見を押し切るのではなく、良く話し合ってね!
自分もディーラーで確認してアドバイスするよ!
と伝えて電話を切った。
双方が自分の意見を押し通して300万円以上する車を
購入するというのは絶対に良くないと思う。
幸せなカーライフを送ってもらう為には、
候補二車に対してフェアな判断をして双方納得することが大切。
候補二車に対する夫婦の感想も既に教えてもらっているので、
その感覚の確認をも兼ねて私は試乗に向かった。
●アテンザXDプロアクティブ 6AT
夫が推しているアテンザ。
現行アテンザはマツダのフラッグシップとして2012年に誕生。
マツダが次世代技術のSKYACTIVを惜しみなく投入したアテンザは
デビュー後2年半を経ても新奇性を損なうことなく商品性を維持している。
初代アテンザがデビューしてからZOOM-ZOOMのスローガンで
車好きから再び注目されたマツダは、
SKYACTIVで再び車好きの支持を集めている。
今回、購入の候補となっているのは
アテンザワゴンのXDプロアクティブというグレードだ。
ボディサイズは
全長:4805mm×全幅:1840mm×全高:1480mm。
アテンザにはセダンとワゴンがあるが、ワゴンの方が60mm短い。
前輪と後輪の間を示すホイールベースは80mm短い。
これは、Rrサスをキャビンに近づけて
サスタワーを相対的に前に配置してフラットな荷室を稼ごうとしている。
ゴルフⅤと比較すると、
全長:+600mm ×全幅:+80mm×全高-40mm。
全長と全幅のサイズアップが相当目に付く。
なお、同価格帯のアルファードのサイズは
全長:4915mm×全幅:1850mm×全高:1895mm。
これを普通に運転している人が多いので、
同様に
アテンザの運転も慣れであるといえるだろう。
もちろん、林道や狭隘な住宅街では難儀するであろうが
政令指定都市にある友人の家の近所の路地は運転できそうである。
エクステリアは既に
賛否両論のKODOデザイン。
個人的には肯定的なスタンス。
友人である夫も角が取れた優雅なスタイリングは好みらしい。
内装もフラッグシップ
らしく安っぽさは微塵も感じさせない作りこみ。
ステッチが入ったソフトパッド部品はクラフトマンシップを感じさせる。
ドアトリムの金属フィルムも触ると冷たさを感じ、本物感にはこだわっている。
もともと欧州メークが得意としてきた加飾だが、アテンザには惜しみなく使われている。
インテリアデザインは2015年の乗用車としてはやや古典的な部類だが、
インパネは薄くワイドでこれまでのゴルフと比べると、高級感を感じることだろう。
室内は豊かなボディサイズの割には
少々包まれ感が大きい。
Aピラーの倒しこみが大きく右左折時にはしっかり首を振る必要がある。
豊かなボディサイズ故に優雅なエクステリアデザインと
必要十分なキャビンを両立する事ができている。
Rrシートは十分なサイズがあり、
Rrにもエアコンの吹き出し口がある点は
後席に乗るゲストにも喜ばれることだろう。
試乗させてもらった。
ブレーキペダルを踏みながら
トヨタ車のようにスタートスイッチをONするとエンジンが始動する。
始動時はディーゼルらしいカラカラ音が認められる。
ドラポジをあわせるが、
ドアミラーの操作スイッチが無駄にカッコいい。
遊びが少なく、メッキの色目も良い所が個人的発見。
(トヨタで広く使われているスイッチとよく似ているのだが、
あっちはガタつくし、メッキも安っぽい。)
道路に出て加速するが、そんなにアクセルを踏まなくても
潤沢なトルクで決して軽くは無い1550kgのボディを引っ張る。
スペックは最高出力129kW(175ps)、420Nm(42.8kgfm)であるから、
出力は2.5L並み、トルクは4L並みの実力を持つ。
上り坂があり、わざと坂の途中でアクセルを踏み増したが
普通のガソリン車ならロックアップを解除してトルクを稼ぎに行くところだが、
ググッとトルクが湧き上がる感覚はデミオでも感じられた
ディーゼルの魅力。
これがリッター20km/Lを発揮するエンジンなのか!と言いたくなる。
新開発の6ATも変速が早く、
欧州で主流になりつつあるDCTに対する
マツダの回答としては
十分に競合性がある。
CVT一辺倒の中このATを開発したマツダに敬意を表したい。
静粛性は動いている限りは特に不満を感じない。
停止時はアイドルストップするので始動時のみディーゼルを感じる。
操縦性はサイズに余裕がある分安定感を感じる。
変にキビキビしていないが、操作にはしっかり着いてくる印象。
MRCC(追従式クルコン)を試した45km/hに設定して走行。
先行車が加速して離れたら45km/hで維持。
先行車が信号で停止すると徐行の速度まで減速する動作を確認した。
2008年式のゴルフⅤからの大きな進化点の一つなので
この手の
運転支援装置は個人的にはお勧めしたい。
友人が検討しているのは
XDプロアクティブというグレード。
何やらお肌のトラブルが解決しそうなグレードだが、
残念ながらニキビは治らない。
これは新たに追加されたグレードで
マツダの安全思想「プロアクティブセーフティ」に基づき
自動でLo/Hiを切り替えるだけでなく、対向車の眩惑を防ぎつつ、
Hiビームを維持できるALH、車線変更時の接近車両を検知するBSM、
車線逸脱を防止しステアリングのアシストを行うLAS&LDWSがセットになっている。
つまり、衝突時や衝突のリスクが高まるシーンよりも前の通常走行時に
高頻度で現れるリスクを軽減する装備品が選択的に装備されている。
他はベーシックなXDと差が無いので、
上記セットで9.5万円分(税抜き)のオプションとなる。
私は敢えてセーフティクルーズPKG(税抜き7万円)を追加したい。
また、もし友人がファッション派なら19インチアルミを奢りたいが、
乗り心地の悪化があるかもしれないので、そこは積極的には薦めない。
この内容(用品なし)でネット見積もりを取ると、
本体価格335万3400円、補助金ありで総額347万7950円。
●プジョー308SW シエロ
妻が推すプジョー308SW。
2013年にハッチバックがデビュー、2014年にSWがデビューした。
日本でも昨年10月から販売されまだまだ新鮮なニューモデルだ。
雑誌の評価でもドイツ車的な価値観を身につけた
良心的な作品として評価されており、評判は上々のようだ。
普段の相棒として
DS3を愛用している私からすると
同じPSAのプジョーにも親しみを感じるのは事実。
昨今の欧州の不景気でPSAはかなり痛めつけられている。
本国でもシェアを落とし続け、じっと耐え忍ぶ数年であった。
(おかげでDS3のフェイスリフトがかなり長かったので
自分の車の鮮度が保たれたのはちょっと嬉しかったが)
そんな中でP/F一新とL3 1.2Lにターボを組み合わせた
新エンジンを引っさげて新型308がデビューした。
妻は特にパノラマルーフが非常に気に入ったらしい。
自分自身もディーラーで実車確認したのはパノラマつきの
天空を意味するシエロという素晴らしいグレード(名)だ。
アテンザに試乗した後で308SWを見ると、
サイズの小ささでセグメントの違いを感じる。
ボディサイズは
全長:4585mm×全幅:1805mm×全高:1475mm。
ゴルフⅤとの比較でも
全長:+380mm×全幅:+45mm×全高:-45mmでサイズアップはある。
アテンザと比べると一回り小さい事は明白だ。
若干のエグ味があった先代と比べて、
新型308SWは
抑制の効いたデザインだ。
写真で見るとドイツ的な硬質な没個性を懸念したが、
実車と対面すると質実剛健なドイツのライバルよりも
上品な印象のあるデザインだと感じた。
クラスを考えると珍しいフルLEDのヘッドライトも個性的。
プレス技術的に難しい小Rの入ったレリーフや
ベルトラインと一致した横見切りのフード、
Rrコンビランプに食い込むような凹面など、
存分に個性を発揮している。
特にSWは全長が長い分だけ伸びやかでスポーティに映る。
ホイールベースが長いのに間延びして見せない点は美しい。
きっと友人の妻は308SWが持つピリッとしたエクステリアが
気に入ったのではないだろうか?
それはアテンザが持つ角の取れたスタイリッシュさとは一線を画すものだ。
インテリアも個性的だ。
大型のインパネはソフトな一体成型品。
加飾は金属調ベゼル程度だが、
面のうねりが美しくて息を呑む。
(同じうねらせる意匠ならM●RAIもこれくらい頑張って欲しかった)
小径ステアリング上から計器盤を見る初代ラクティスのコピー。
自発光式メーターはなんとタコメーターが反時計回りに作動する。
視認性を高めているとのメーカーの主張も何だか
独善的でフランス車的。
全体的にスイッチ類が少なくすっきりしている秘密は
インパネの一等地の液晶タッチパネルだ。
オーディオや空調の操作はタッチパネルで行う。
ナビはSDカードを購入しないといけない
マツダコネクトと同じようなスタイル。
いわゆる
豪華絢爛な高級感ではなく
センスのよさで勝負するのが308SWだ。
運転席に座るといわゆるPSAのそれだ。
ドラポジはまぁ昔よりは改善されているのだろうが、
ペダルは中央寄りでABペダル段差がかなり大きい。
Bペダル基準でシートの前後位置を決めるとAペダルはつま先操作になり勝ち。
ここはドラポジ改革を謳ったアテンザに分がある。
シート自体は標準のクロスシートだが白ステッチあり。
気になったのはRrシートの座り心地だ。
リクライニング機構が無いことは、ゴルフⅤ大体を考えると問題ないが、
座面の角度や背もたれの角度があまり快適ではない。
トルソー角は立て気味を好む自分からしても若干立ち過ぎ。
サイサポートも不足しているので足をダラーンと伸ばしたくなるのに
ニールームは意外と余裕が無い。
この理由は「マジックフラット」と呼ばれる格納方式によるものだろう。
レバー操作で座面が沈み込み、背もたれと荷室フロアが一面化する。
一応ラゲッジネットの用品対応があるため、良心的だが
それにしても
プジョーまで「座る為のシート」から
「畳む為のシート」へ移行してしまったのは理解に苦しむところだ。
さて、友人が検討しているSWのシエロに試乗した。
エンジンを始動。即座にパノラマルーフのシェードを全開にした。
街灯の明かりで室内が明るくなるのも新鮮なものだ。
308SWの内装色は黒しか無いが、
パノラマルーフ仕様なら天井から降り注ぐ光のおかげで
決して重苦しい雰囲気にはならないだろう。
むしろ、個性的でありながらシンプルな内装は
とことんシンプルな雰囲気でまとめておいて
明るさは天井から採り入れる思想なのではないか。
走り出して感じるのは
アテンザよりも軽快であることだ。
車幅の狭さから来る運転のしやすさと1320kgという
アテンザよりも200kg軽い重量がそう感じさせるのだろう。
アイシン製6ATが採用される308SWは5EGSと比べると、
トルク切れが無く優位である一方、
従来のAL4と比
べるとシフトショック低減や多段化に成功している。
ただし、日本の一般的な6速AT(例えばNX200t)と比べると
ショックそのものは大きいし、ロックアップを多用するスケジュールだ。
効率重視でMTの国らしいセッティングだが洗練されているかどうかは別だ。
パドルシフトも装備されているが、要改善だ。
そもそものスイッチが円周方向に小さく、使いづらい。
また反応が少々鈍い他、シフトダウンを受け付けないシーンも多い。
エンジンは
1.2Lの3気筒エンジンを過給したもの。
スペックは最高出力96kW(130ps)、最大トルク230Nm(23.4kgfm)という
力強い性能を発揮すると言う。
従来の1.6L自然吸気エンジンより12kg軽く仕上がっているそうで、
欧州のトレンドまっしぐらの内容といえる。
このエンジンの力強さはゴルフⅤトレンドラインを超えるものである。
しかし、
友人曰くかったるいとの事だ。
(恐らく先にアテンザに乗ってしまったことが原因だろう)
私が乗ったところ、
実用車としては不満の無い実力であった。
3気筒的なバイブレーションも感じないように上手に消してある。
同じ1.2L3気筒の208に試乗したときはMTであっても
ベーシックカーの域を出ない走りだったが
308SWはしっかりとパワーを出してくるあたりはさすがターボ。
しかし、先ほどのATと相まって洗練度は後一歩。
市街地走行ではギクシャク感の方が目立ってしまうだろう。
一方、
高速道路や郊外の一般道をクルージングしているようなシーンでは
ロックアップ多用による直結感が
MTライクな心地よさを発揮するはずだ。
試乗の後半、営業マンから
SPORTSモードを薦められた。
これはスイッチ操作によってメーター照明が白から赤に変わり、
EPSが重めの設定になり、シフトスケジュールも引張り気味に変わる。
マルチインフォメーションディスプレイもG表示やパワー計を表示する。
さらにオーディオスピーカーから
擬似エンジンサウンドが追加される。
試して見たが、確かに違うぞ!と思える内容。
違いは面白いがあくまで普段使いでそれを毎回押すかどうかは疑問。
また、擬似エンジンサウンドは面白いが、その音はあくまでも偽者。
友人は「こんなんいらん」と冷たい反応だった。
確かに
PSのグランツーリスモみたいな擬似エンジン音だ。
トヨタの86やNXでも似たようなことをやっているが、
まだまだ
改良の余地があり、今はナンセンスさの方が勝るように思う。
(騒音公害にならない点だけは良いと思うが)
車両価格はSWのパノラマつきのシエロが
320万1852円(税抜き)。
アクティブクルーズコントロールとエマージェンシーブレーキサポートが
着くが、機能面ではアテンザの方が優れる。
実際に友人が見積もりを取ったところ、延長補償を入れて400万弱との事。
●比較まとめ
このブログを読んでくださるマニアの皆さんは、
アテンザと308SWが比較対象になるのか?という疑問が沸くだろう。
アテンザなら508SWが比較対象だし、アテンザがでかいなら
アクセラやレヴォーグ、ゴルフバリアントがあるだろう、という様に
突っ込みを入れたい人も中に入るかもしれないが、
これは
リアルな友人夫婦の選択である。
おそらく予算350万円程度の車選びをして
車両本体価格で抽出したのだろう。
むしろ一般人がCセグとかDセグとかを気にすることは
少ないのだろうなと思った。
似た例で会社の同期夫妻がV36スカイライン(中古)と
当時出たばかりのプリウスαを比較検討したことがある。
夫がスカイラインへの愛を語ったものの、
「エコじゃない」の一言でプリウスαになった思い出がある。
友人曰く、幅広く検討した結果、
アクセラのナンバーの位置が嫌。
レヴォーグはカクカクしたデザインが嫌。
VWゴルフバリアントは真面目すぎ。
508SWは予算オーバーだったと言う。
夫婦で車選びをして内容的にアテンザに軍配を上げる夫。
内外装の圧倒的なセンスとパノラマルーフを持つ308SWに魅力を感じる妻。
この夫婦の言い分はどちらも間違っていない。
どちらを選んでも正解なのだろう。
事実、これら二台から友人夫婦とお子さんが
颯爽と降りてくる姿は簡単にイメージできて似合っている。
あとはロジカルに何を重視するかを夫婦で話し合えば良いと思う。
個人的にはこの二台なら
アテンザを推したい。
アテンザの高級テクノロジーをゆったりと使いこなしてみたい。
ランニングコストを考えてもメンテナンス費用が安い国産の方が有利だ。
(もっと気軽に輸入車に乗れる様に
整備・メンテナンス費用の高さは是正して欲しい)
上記内容を夫婦に対して報告した。
アテンザの先進的なテクノロジーと
セグメントの違いによる格の差と
308SWの持つ圧倒的なセンスを比較して
夫婦はアテンザの注文書に判子を押したそうだ。
結果的には夫の主張が通った形だが、
双方にアテンザの見所、308SWの見所を
理解してもらったうえでアテンザ購入を決定した為、
円満な車選びに協力できたことが嬉しく思う。