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2025年06月26日 イイね!

2006年式三菱i(アイ)感想文

2006年式三菱i(アイ)感想文






満足している点
1.空前絶後の存在感
2.レトロフューチャーなエクステリア
3.安定したブレーキング時の姿勢
4.「軽」を忘れるターボ×4ATのレスポンス
5.ロングホイールベースを活かした乗り心地

不満な点
1.プレミアムを名乗るには分かりにくい質感表現
2.「軽」のコストに縛られた装備水準
3.高速域で顕著な横風安定性
4.熱環境の厳しさ
5.50km/h以上で気になり始める風切り音

●軽自動車におけるプレミアム性とは何だったのか
1998年10月、軽自動車規格は衝突安全性能拡充のため全長を拡大し「新規格」となった。衝突安全性能確保のために重くなった車重による走行性能悪化をを補うために可変バルタイや4速ATの採用が進んだ。それだけに留まらずMターボ(スズキ)、マイルドチャージ(スバル)など過給技術で実用トルクの増強に対応しようとした動きがあった。

ターボをはじめとする各種技術は旧規格の時代から存在していたが、主に若年男性をターゲットとした軽スポーツモデル用の技術であり、実用性を補填するための低圧ターボはこの頃に現れ始めた。

軽自動車は従来から衝突安全性に対する不安や走りの物足りなさを理由にリッターカー(登録車)との間に川が流れていた。

「この軽カワイイ♪」という娘に対して
「軽は危ないから普通車にしなさい」と反対する親・・・
こんな会話を私も身近で複数回聞いてきた。

「軽は所詮軽、ひっくり返ってもファーストカーにはなり得ない」という意見も根強くあった。しかし、軽自動車とリッターカーの性能的な差が埋まってくると「自分はメンツこだわらない」「維持費も安いのだから」と小さな登録車を買う感覚で軽自動車をファーストカーにする人が増えてきた。

そもそも、車庫が狭いなど特殊なニーズによって軽自動車のハイエンドモデルを購入する層は一定数存在したが、ワゴンRに代表される軽ハイトワゴンの台頭により、徐々に「軽自動車だから」と我慢する領域が減ってきた。新規格軽の安全性と走行性能の向上によって登録車からハイエンド軽に流入する消費者の動きを感じ取ったメーカーがあった。

2006年、三菱自動車はダイムラークライスラーとも袂を分かち経営再建中だった。この年の国内市場では初めて200万台を超えた。新車販売台数の1/3が軽自動車であり、そこできちんと収益を出す軽自動車が必要だった。

既に三菱は生活者に寄り添った必要充分な道具感覚の軽自動車「ekワゴン」をヒットさせていた。ekワゴンは安価で実用的でありながらも惨めに感じさせない「ユニクロ」の様な軽自動車として一目置かれていたが、三菱はもう一本の軽の柱が必要である考えたのだ。そこで「プレミアムな軽」として企画・開発したのが「i(以下、アイと記載する)」である。



軽自動車という枠組みでありながら「持つ喜び、使う喜び」をプレミアムとして定義し全く新しいデザインと全く新しいメカニズムをゼロから開発した。普通車には無い「プレミアム軽」の世界を構築しようとう試みたのである。

ベーシックな魅力を持ったekワゴンではどうしても利益を出しにくい。尖った特徴を打ち出してエクストラコストを払って貰えるような魅力的な軽自動車があればファーストカーとしても、輸入車を保有するような富裕層のセカンドカーとしても
振り向いて貰えると考えた。

アイの大きな特徴は①スペアタイヤを持たないリアE/Gパッケージ②繭型の超個性的なエクステリアデザインが挙げられる。つまり、見た目も中身も「フツー」じゃない攻めに攻めた個性がアイに与えられた。



2002年の段階で既に①の企画はあったそうだが、紆余曲折を経て2004年から正式PJTとして開発された。たった2年で開発できたのは恐らく、2002年の段階からの先行試作車などを使った基礎研究のお陰だろう。なぜアイがリアエンジンなのかを理解するために、少し横道に逸れてリアE/Gについて振り返ってみたい。

●リアE/Gに可能性を見いだした2000年代
リアE/Gリア駆動(=RR、MR)というのは1930年代からオイルショックが訪れる1970年代までの大衆車の基本的なレイアウトの一つだった。複雑なE/GとT/Mを後輪付近に集中的に配置し、プロペラシャフトが不要なため広い室内空間が手に入るからだ。



経済的理由から車体を小さくして節約することが求められた大衆車の多くはリアE/Gを採用した。当時はメリットも多く採用例の多い技術だった。

第二次世界大戦後、世界的な経済発展によってある程度の大型化が許容され、モノコックボディの普及も手伝って1960年代にはオペルカデットやカローラ1100のような小型FR車が主流になった。RR車は限界域でシビアな操縦安定性やシフトフィーリングの悪さ、冷却性能確保やラゲージスペースの狭さなどの弱点が目立つようになり始めた。さらにRRと親和性が高い簡素な空冷エンジンでは排ガス規制もクリアが難しくなり雲行きが怪しくなってきた。



RRの雄であったVWは偉大なるビートルの後継車作りに悩んでいた。1966年、ポルシェに依頼して設計されたEA266というスタディモデルは2BOXスタイルでありながらリアE/Gのレイアウトを踏襲している。1.6L水冷E/Gを横倒しして後輪の直前に搭載しミッドシップ(MR)とした。E/G上部はラゲージとしつつも、フランクも設定してビートルの弱点に対応している。スポーツカー顔負けの操縦性を誇っていたが結局、整備性の悪さなど経営判断によりFFのゴルフが開発されている。

等速ジョイントの進化やシャシチューニングのノウハウの蓄積などの背景はあれども、代表的RR車のVWビートルからVWゴルフへの世襲が成功したことは決定的だった。技術の進歩が遅れた共産圏を除き大衆車のリアE/G車の技術は、軽商用車でリアE/Gを堅持して独自の世界観を持っていたスバルサンバーの存在以外はピタリと進歩が止まってしまった。



その後、約30年を経てこのEA266のレイアウトに可能性を見いだしたのはホンダだった。1998年の新規格シリーズの一つとして「ホンダZ」を発売し、EA266に類似したアンダーフロアミッドシップなるレイアウトを採用した。E/Gを縦置きにし、4WDを基本とするなどの機構的独自性をもったホンダZは、RRエンジンでありながらRrシートと積載性を両立させただけで無く、E/Gが無い車体前部のクラッシャブルゾーンを活用して高い衝突安全性を実現するという現代的なメリットも手に入れた。つまり、フロントE/Gの場合衝突時にE/Gが硬くて潰れないため、実際に使えるクラッシュストロークが短く、E/Gが無いホンダZのクラッシュストロークの方が長いため、衝突安全性を高められるという。そんなホンダZは4年間のモデルライフで4万台生産され、残念ながらヒットしなかった。しかし、ekの次を模索していた三菱にとって大いになるヒントを与えたのでは無いだろうか。

上記に前後して、スイスの時計メーカースウォッチとメルセデスベンツが協業でコンパクトカーを開発することが大きな話題となっていた。ホンダZと同じ1998年、「スマートシティクーペ(のちのフォーツー)」として全長が2500mmという2名乗りのマイクロカーを世に問うた。このスマートが国際的にリアE/Gを採用した久々の乗用車となっている。600ccの3気筒ターボ、もしくは800cc3気筒ディーゼルターボが選べた。都市型コミューターとしての注目度が高く、欧州ではスマート専用の駐車区画が設けられたほどである。この区画に駐車できる4人乗りを開発したトヨタiQについても機会があれば取上げたいが、スマートの存在は自動車業界に大きなインパクトを与えている。後に協業関係にあった三菱コルトをベースに「フォーフォー」が発売され、2007年の2代目では三菱との協業によりE/Gが供給されるなど三菱自動車との関係も深いのがスマートである。昨年までは3代目スマートがルノーとの共同開発で作られ、2014年デビューの3代目トゥインゴと共にRRレイアウトを残していた。



他にも経済発展が著しいインドのタタ自動車が2008年、ワンラックカー(10万ルピーで買える車)を目指してナノという超小型車を開発した。簡素なメカニズムを実現するため、リアに2気筒E/Gを積み、ドアミラーなし、バックドア無しという事例もある。この様にリアE/Gというレイアウトには不思議な魅力があるらしく、FFが極めて高い進化を経た現代でも思い出したかのようにリアE/Gの乗用車が現われる。

●エクステリアデザイン
アイは遠くから見てもアイだと分かる特徴的な形状をしている。軽自動車の限界とも思えるロングホイールベースの中に卵がちょこんとくっ付いているようなプロポーションだが、デザイナーは繭をイメージしているという。諸元を見てみると、衝突時に補機が潰れて縮むE/Gを開発して一般的なFF車よりもホイールベースを伸ばしているが、アイの場合は更に30mm長いことからFF軽自動車の限界を超えたリアE/Gにしかできない諸元を実現している。



アイはスポーティブ・キュート(SC)というコンセプトで、スポーツグッズ的なテイストを意識した。他にもリミックス・ボックス(RB)という案があったがモーターショーのショーカー「SERO」になった。量産プロジェクトに移行できたのはSCだけだ。



初期は2003年にモーターショーに出品された「i」に似たブラックアウトされたフロントマスクと湾曲したバックドアガラスが特徴だった。ところが2004年に開発が一旦凍結され、再開された際にもう少し自動車らしさを付加する方向性になり前後のキャラクターラインやヘッドライト形状を変えてシャープな方向性に改めた。



フロントマスクはワンモーションフォルムの極致だ。リアE/Gらしくグリルレススタイルだが、当時のブーレイ顔に見えるようにバンパー形状を工夫して光が当たる斜面を作っているのが面白い。実際はナンバー下部にインタークーラーなど冷却部品が配置されている。さすがにブラックアウト塗装したかっただろうが、コストがかかる上に冷却効率が落ちるため採用できなかったと思われる。三次元曲面の大型ウインドシールドガラスは楕円形に見えるが下部はフードやカウルの一部で上部は別部品でグラスエリアを表現している。普通なら黒塗装あたりで誤魔化すところを別部品を用意するとはとんでもなくデザインが重要視されている。



アイは特徴的なフロントマスクを実現するため、面積が大きく曲率の強いウインドシールドガラスを採用している。ワイパーは特徴なリンク式の一本ワイパーである。吹き払い面積は大きいがブレードが長くなるため拭払面厚の確保が苦しくならないように押しつけ圧力には配慮され、ガッチリとしたアームが付いている。



更に素晴らしいのはウォッシャー液がワイパーアームに取付けられたウエットアーム方式であることだ。当時、同じくワンモーションフォルムだったエスティマも採用していたが無粋なノズルで意匠性が損なわれることが無い点と作動時にワイパーアームや拭払エリア外がウォッシャー液で汚れにくい点もメリットがある。アイの場合、運転席前と外側3方向の合計4カ所からウォッシャー液が出るという軽にしては豪華な構成だが効果は抜群だ。



サイドビューも一筆でエイヤと引いた力強いラインが感じられる。AピラーからCピラーまで引いた円弧がそのままドア開口線になりFrタイヤまで貫くのはシトロエン2CVチャールストンの様でカワイイ。このラインはドア側と車体側で段差があり、後者の方が張り出している。この構造は防錆の観点でドアエッジが飛び石に対して守られる位置関係なので好ましいだけで無く、空力的にもロッカー部が張り出した方が有利という意味もあるだろうが、ドア断面下部を絞ることで繭デザインをスポイルしていない点はうまく処理している。



フロント周りはぎゅっと凝縮感があり、リア周りは少し大味というかボリューミーなのも特徴的だ。縦型Rrコンビランプと曲率の強いバックドアガラスは室内容積より塊感を大切にしている。曲率が強くてもRrワイパーはきちんと窓を拭いてくれる点は実用性が犠牲になっていない。Rrの比較的高いところに目立つ部位があったとしてもアンバランスに見えにくいのは四隅に配置された15インチ大径タイヤのお陰だろう。

アイのエクステリアデザインはかなりお金のかかる構造や部品を多用しているが、デザイン命のプレミアム軽だからと三菱も相当頑張ったのだろう。個人的に惜しいのは全高が1600mmと機械式駐車場に駐車できないことだ。室内の広々感や繭型フォルムを実現するためにはやむを得ない部分とはいえ、ここまでデザインを重視した意匠はむしろ尊い存在と言えよう。

●インテリアデザイン
内装もエクステエリアと同じ丸い感覚を大切にしている。キーワードは「胎内感覚」。やわらかい空間に包まれる安心感を言葉にしているが、丸い断面に薄いシルバーのセンタークラスターがメカメカしくも有機的な世界観を表現。インパネも豪華な緑味がかったグレーとアイボリーの上下分割によってインパネを浮いた感じに見せているが、助手席側トレイに赤い差し色が入る。シートも赤く、なんと3色+シルバーという豪華な塗り分けのインパネになった。(他にグレー仕様もあり)



この赤内装はダイハツがソニカで挑戦しているが、いずれも過去の全面赤内装と違い、力強いアクセントとして使っている点に新しさがあった。願わくばインパネが無塗装で少々グロスが高い(テカっている)のがウインドシールドガラスへの映り込みという点で惜しい。尤も偏光グラスをかけていれば問題ないのだが。



メーターはデジタルとアナログを融合させた専用品でデジタル表示の速度計の周囲にタコメーターが配置されている。ホンダの集中ターゲットメーター的だが非常に読み取りやすい。燃費性能についてまだうるさくない時代ゆえ、燃費計などの機能は無いがツイントリップが備わる点は好ましい。特にメーターのステアリング被りが無い点は高評価。ホンダとスズキの某車に爪の垢を煎じて飲ませたい。



シルバーのセンタークラスターは当時のトレンドである専用オーディオと軽としては珍しいオートエアコンが配置されている。専用オーディオの他に2DINオーディオがつけられる別デザインもあるが、圧倒的に専用オーディオの方が美しい。メーター色と同じく赤いイルミネーションで光るところが特徴だ。内外気切り替えボタンのテルテール(絵文字)がアイのシルエットになっている点もこだわりを感じた。シフトレバーは浮いたように見せてあり、ベゼルはシルバー塗装されてお金がかかっている。

一方、ドアトリムはその割を食った。インサイドグリップとPWスイッチのベゼルはシルバー塗装されているものの、大きな面積がアイボリー一色でシボを変えて頑張っているが広い面積が退屈に見えてしまうのが気になる。妄想でシートと同じ表皮でアクセントを入れたくなるが、せっかくの差し色を多用することでビジーかも知れない。

アイの内外装デザインは昔の人が21世紀の未来を想像したレトロフューチャー的な味わいがある。とても未来的なのに何処か懐かしい、というレトロを指向したパイクカーとは違う独自の世界観を持つ。外装は個性があり、エグ味がない。斜め後ろからのビューで腰高なイメージがあるものの、それを補って余りある凝縮感。カワイイ車が好きな私にとっては文句なしの★5だ。

内装も外装のイメージ通りの丸くてモダンな意匠に赤色の差し色が良い。ドアトリムで力尽きてしまった感があり★4。

●市街地走行



モルカーのキーホルダーが付いたスマートキーで解錠し、運転席に座る。ドラポジはシートスライド、リクライニングに加えバーチカルアジャスターが付いている。ステアリングは固定式でテレスコどころかチルトすら付いていないという漢仕様。自分の場合、ペダル基準だとステアリングが遠くなりがちなのでシートバックを普段より立てて対応した。

前輪との位置関係上、ギリギリまで前出しされたポジションだが、ペダルレイアウトやステアリング中心軸とのズレは気にならないレベルにまとめられている。E/Gがないのでカウル下端が低くワンボックスカーのように見晴らしが良い。囲まれ感を求めて窓を狭めにデザインする車がある中でアイは開放感が売り物だ。



E/Gをかけると新開発3B20型4気筒ターボが背後で目を覚ます。リアE/Gだから音が後から聞こえてくるのだ。変速機はMTの設定が無く全車4速ATのみである。三菱初のゲート式シフトレバーは短い操作量でDレンジに入った。当時は当たり前だった手引きのPKBレバーを降ろし走り出した印象は「静かだ」ということだ。一般的な軽自動車の場合、アクセルペダルのすぐ裏にE/Gがあるがアイは1m後にある。mm単位のせめぎ合いが続く自動車の中で1000mmも離れていれば、それはもう世界が違う。

発進するとトルコンがルーズなのか加速度の割に思いのほか回転が吹け上がる感覚がある。比較的高い回転数を許しているのはE/Gノイズに対してある程度寛容なレイアウトで扱いがイージーだ。

狭い渋滞地でもアイは軽自動車らしい。2550mmという超ロングホイールベースだが、タイヤ切れ角が取れるので最小回転半径は4.5mと小さくぐるぐるとステアリングをたくさん回すと小回りが利いてありがたい。



ただし、ステアリングギア比は17弱、ロックtoロックが3.5回転という設定で確かに小回りは利くが、市街地の右左折や駐車時に操作が忙しいのが気になる点だ。

朝、子供を乗せて保育園へ向かう。乗降性は軽自動車の中でも悪い部類にあるがこれはRrドア下端の開口ラインが気持ちよく円弧を描いているからだ。一旦乗せてしまえば、アイポイントが高いアイは子供から好かれていた。前方視界が良いので集団登校する小学生がよく見えるし、比較的高回転で走るため外ではよく聞こえるE/G音のお陰で子供達にも気づいて貰いやすい。



保育園に到着し、子供が車から降りた。レッグスペースが広いことを活かして運転席からベルトを外してあげれば、自力でチャイルドシートが降りることができる。私がドアを開けるとドアトリムに捕まりながら何とか車から降りられた。乗降のために脚をかけるところが少ない点がアイの子供による乗降のし難さにつながっている。アスレチックのような普段のRAV4と比べれば全然マシだが、ドア開口はデザインのために譲らなかった大事な部分なので理解はしている。



大人の乗降でも身長が高く脚が長い人は問題ないが、小柄な人は足がドア開口ラインに触れて衣服が汚れてしまうなど好ましくない事象が起こりうる。普通ならドア開口はフラットに作るものだ。しつこいようだがアイはデザインコンシャスなので不便は百も承知で押し通したのだろう。

ちょっと順番が逆だが、Frドアはヒンジ配置を工夫して少し開けただけでベルトラインより上が大きく開くように工夫されている。狭いところでの乗り降りをしやすくなるためのちょっとした配慮なのだが、三菱は決して全てにおいて無策なわけではない。やれることはやったのだ。



子供を送ったあと、朝の混雑した道路をひた走り職場へ向かう。青信号で加速させると14km/h2000rpmで2速へ、30km/h2800rpmで3速へ、46km/h2500rpmで4速へ変速する。3速・4速の場合は1600rpm以上でロックアップが作動する。機械式ながらスリップ制御が入っているのでアクセルオフ時に1100rpmを下回るまではロックアップを作動させることでドライバビリティが良いだけで無くエンジンブレーキ時のフューエルカットが効いて燃費にも効果がある。



市街地走行だと前方の交通状況の変化に応じてアクセルオフするようなシーンは少なくないが、あたかもMT車の様に直前の回転数を維持しながらゆっくり減速していく挙動は想像しやすく心地よい。市街地でよく使う40km/h近傍の定常走行も速度管理がし易い。このあたりもギア比とE/G回転が1:1で決まるATの美点が活きている。フル加速をさせれば7000rpm近くまで使った加速も可能だがアイのセッティングは速さに主眼を置いたものでは無く、リニアなフィーリングを大切にしているらしい。



900kgという決して軽くは無いボディの割には、重さを感じさせずに滑らかに加速できる。具体的には4000rpm±500rpmの領域でシフトアップさせるような走り方をすると鋭くもシフトショックを感じさせない電気自動車のような加速感覚だったのは病みつきになる気持ちよさだ。変速前後で駆動力が段付に変化しないのは電子制御スロットルをうまく開け閉めして調整しているのだろうか。回転数が高く過給も効いているからレスポンスも良く、リニアな特性と相まってICEながらBEV感がある。

周囲の流れに沿った加速なら3000rpm程度を行ったり来たりするような加速で充分だ。キツめの上り坂は後輪に高いトラクションがかかるアイが得意とするシーンで、発進からルーズなトルコンをうまく使って適度な回転数を維持したまま登っていく。

雨天時に走らせてみると、アンダーカバーのお陰で水跳ね音がかなり静かな長所を感じたが、それよりもトラクションの良さが際立っていた。強めの発進加速でも挙動が乱れない。ステアリングが取られたり空転するような様子が無く安心感がある。更に、踏切からの発進は誰でもアイの凄さが分かるシチュエーションだ。発進後、凹凸がありレールを跨ぐため、明らかにバタつく挙動が無い。

70年代から80年代の技術開発で「FFのクセを克服した」というコピーが当時のカタログを彩った時代があるようにFFの乗り味は改善されたが、原理的な強みがあるリアE/Gは今でも明確な強みがあると再確認できた。

市街地におけるアイはキビキビと軽快に走る。気持ちよい発進加速も交差点を曲がる際の鼻先の軽さもアクセルオフからの再加速も軽快で赤信号でブレーキを強めに踏んだ際もノーズダイブが小さく、つんのめる感じがなく停止できる点も美しい。また、E/Gが遠いことから振動や騒音が小さいだけで無く、こもり音にも有利である。



また、A/Cがよく効くことにも触れておきたい。アイは全グレードにオートA/Cが標準装備されるが温度設定が1℃刻みで少々大雑把なので暑がりの私は、晴れた日中に24~23℃に設定してA/Cを利用していた。

コルトと共通品らしいとの噂でコンプレッサー能力に余裕があるのかも知れないが、燃費戦争が繰り広げられていた2010年代以降の軽は空調性能を落として燃費悪化を抑えるとか、信号待ちでアイドルストップしてぬるい風で我慢させられるような時代に突入していく事を考えるとアイの時代はまだ快適性のために燃料を噴射できた時代なのだろう。家族4人乗車でA/Cを使っても特に走りが悪くなるような事も無かった。試乗したのが初夏だったのでヒーターを使うことは無かったが、リアE/GのアイはLLCの搭載量が多く暖房が効き始めるまでに多少ラグが懸念されるが、寒冷地仕様にはシートヒーターとPTCヒーター(初期型のみ)が設定されており快適性に配慮されている。



ヒートマネジメントの観点ではリアE/Gの泣き所は冷却問題だ。フロントE/Gは走行風がラジエーターグリルという一等地から導入でき、床下の速い流れに引かれて熱気が逃げていくのだが、リアE/Gになると、冷却風の導入に課題がある。歴史的なリアE/G車は後部に大きな排熱フィンを設けたり、そもそもシンプルな空冷式を選択していた。水冷式のように複雑な冷却系を持たず、トラブルの原因になる冷却水路を持たないというのはリアE/Gにとって合理的だったが、排ガス規制への対応や暖房性能を考えると水冷式が主流となった。

現代のリアE/G車であるアイは当然水冷式だ。ナンバープレートの下にコンデンサーとラジエータを配置。そこから車体後部まで長い水路を設けて冷却水を循環させている。コンベンショナルなFF車である現行型ekワゴンのLLCは4Lで済むところ、アイは7Lも要求する。また、フロアアンダーカバーを設定して床下の気流を整え、E/G付近に風が当たる用に形状を工夫している。このカバーがくせ者で床下のメンバーにクリップで付いているのだが、経年劣化でクリップが徐々に抜けて試乗車のカバーが脱落しかかっていた。完全な脱落に至らぬよう、ボルト等の機械締結を一点くらいは残すのが基本だが、残念だがアイのフロアカバーは基本ができていない。落下物を生まぬよう、オーナーは慎重に点検すべきだ。



借用期間中、A/Cガンかけで真夏のストップアンドゴーの渋滞区間を1時間以上走行したがオーバーヒートするようなトラブルは無かった。ただ、熱的に過酷な状況下で駐車するとOFFでも自動的にE/G付近の電動ファンが作動して強制的に換気するロジックがある。右RRタイヤ付近からモワッと熱気が伝わってきているのでその過酷さが垣間見られる。

三菱らしいハイテク装備もちゃんと準備されている。例えばパワーウィンドウは前席AUTOで挟み込み防止機能まで着いている。あるいはワイパー使用時に、信号待ちから発進するときにワイパーが作動する、或いはRに入れると自動で作動するなどの親切装備が着いている。車速感応ドアロックやPレンジに入れると自動解除なども三菱ディーラーに行けば設定してくれるらしい。

面白いのは電動格納ミラーを畳んだまま発進しても、30km/h以上で自動で起き上がる設定だ。そもそもミラーを畳んだまま発進できる神経の人が自動で起き上がってくださったミラーを確認する感性を持っているのだろか。当時の三菱はそんな優しさも見せてくれた。



お洒落なデザインは都市の中でもひときわ目を引くだけで無く、余裕のある動力性能や路地にどんどん入っていける機動性もある。前席優先のお洒落な生活のお供とするならアイはとても魅力的だ。

軽快な実用車として見れば下手なリッターカーより数段上の運転体験ができる。★4。

●ワインディング路走行
ミッドシップレイアウトは重たいE/Gを車軸間のできるだけ前に置き、ドライバーも前に追いやられるものの圧倒的な旋回性能とトラクションはレーシングカーの技術であり、腕に自信のある玄人系スポーツカーのための技術だった。

アイは速さのためのミッドシップでは無いが、それでもミッドシップレイアウトと聞くと心が躍ってしまうのは、幼い頃に父から与えられたサーキットの狼の古本で薫陶を受けたからなのかも知れない。市街地でもアイの良さは楽しめるが、敢えてアイを近所のテストコースへ連れ出した。



3レンジに入れて発進。変に全開加速させず、4500rpmあたりでシフトアップさせるような加速の方がアイは気持ちいい。上り坂でもするすると加速する。アクセルを少し緩めながら緩い右コーナー。スッとノーズが向きを変えてくれる。もうこれだけでハッキリとFFの軽とは違う坂を登り切って2速へ落とし左コーナーへ。深いコーナーを安定して曲がってゆくが全高1600mmゆえにロールは大きい。直線に戻り3速にシフトアップし下り坂でアイはぐんぐん加速していく。



乗っているとさほど不安に感じないのはシャシーセッティングの良さかも知れないが、外から見ていると結構傾いているはずだ。コーナーをハイペースで抜けると、そこだけ洗濯板のような荒れた路面になっていた。コーナーを終えて直進していたが左右逆位相の凹凸でRrサスが動いて瞬間的に進路が横飛びし、再び直進状態に戻った。Rrの3リンク式サスペンションのアクスルステアが顕著に表れた瞬間だ。私はもちろん分かった上でそこに飛び込んだのだが、サスストロークの小さいスポーツカーではここで強烈な突き上げを食らいうんざりしてしまうところ、アイはアクスルステアがあるものの、突き上げが小さい点が好ましかった。



しばらく先までDレンジにシフトアップし、頭を冷やしつつ緩いコーナーをクリアするが、本当に涼しい顔で上り坂を登っていくのは気持ちが良い。再び深いコーナー区間が近づいてきた。3速にシフトダウンしブレーキを添えながら更に2速に落とした。エンブレを使いながらジワッとステアリングを切って再び左コーナーへ。コーナー出口でステアリングを戻しながら深くアクセルを踏み込んだ。高回転までE/Gを回して右コーナーへ。強めのブレーキをかけても姿勢が安定している。深い右コーナーは上り坂になっていて2速のままアクセルを深く踏み増しながら次のコーナーへ向かう。ちょっとアクセルを抜いて左コーナーへ進入。舵が決まるとアクセルを踏み増してインからアウトへ抜ける。下り坂を一気に駆け抜けて右コーナーを抜けて一連のコースを走りきった。



前輪:145/65R15、後輪:175/55R15という太いタイヤサイズゆえに、絶対的にRrが安定する様に設計されている。後輪駆動ゆえ、後輪が先に滑り出すと私達のようなアマチュアドライバーの手には危険である。そのため、強制的にアンダー傾向になるようにしてあるのだ。ただ、よっぽど酷い運転をしない限り前輪がズルズルと外に逃げ出すような感覚を与えず、じわじわとアンダーが出るようにセッティングされている。もう少し、レベルアップしたいのはシートのホールド性で肩の支持がほとんど無いためコーナリングで上体が動かされやすい場面があった。

私は過去に幾つかのミッドシップスポーツカーに乗ったことがあるが、彼らと較べるとアイの操縦性は死の薫りがせずマイルドだ。だが幅広い層が運転するフレンドリーな軽自動車としてはそんな薫りは好まれないだろう。あまり目を三角にして走るのでは無く、日常域+αで程よく楽しく走るくらいがアイには似合っている。その領域なら快適性やスペース重視のFFのターボモデルと比べものにならない上質な操縦体験が楽しめることは間違いない。



余談だが別日に強い雨の中でも同じコースをそれなりに走らせてみたが、むしろトラクションの良さが輝いて気持ちよく走ることができたのは大きな収穫だった。

ワインディングの印象は★3である。コペンのようにスポーツカーでも無いのに運転が楽しめるのは貴重な存在。ゲート式の4-3間をストレートにしてくれていたら、或いはシートのホールド性が良くなれば★4をつけても良いとさえ思えた。

●高速道路走行
ただでさえ排気量が小さい軽自動車で、全高1600mmと背が高く、直進安定性に劣ると言われている後輪駆動を採用しているアイの高速道路での振る舞いは誰もが気になるところであろう。

合流加速は市街地で確認したとおり4000rpm付近を使えば充分に車速が上がっていく。全開加速を計測すると0-100km/h 12.6秒程度だろうか。(NA車は26.9秒という雑誌データあり)



100km/h時のE/G回転数は3700rpm。私のカローラGTが3500rpmだと考えればハイギアードに感じるかも知れないが、父が乗っているN-WGNのターボ車が2500rpmであることを考えればE/Gが回りすぎる印象を持つのだが、リアE/Gゆえに音源が遠く目立たない点でアイは得をしている。むしろ高回転だからこそちょっとしたアクセル操作に対するレスポンスが良好で速度管理がし易かった。風切り音は目立ち始めるが「ザー」と連続で気で「バサバサバサ」という変動が無い点は官能に有利だ。だから、意外なほど助手席の人との会話は容易い。

横風が強い伊勢湾岸道ではこれまで色んな軽自動車で走らせてきたのだがアイは確かにFF車と比べて横風で進路を乱されがちだ。アイもそれを知ってか知らずか80km/h付近を閾値にしてパワステの制御が変わって操舵力が重くなるロジックが入れてあるが、それがあるから安心とも感じられず対応が不足気味だ。これだったら、普段から手応えをしっかりさせて必要に応じてEPSが軽くなるFIAT500のTOWNボタンの方が親切だと思う。

横風が強くなくても、例えば速度差のあるトラックを追い越すだけでその気流の乱れを拾ってしまうこともある。同じ後輪駆動のセミキャブーオーバー車で感じた恐怖を思えば、ちょっとステアリングを強めに握っておけば100km/h巡航を続けられる分だけ優位ではある。また、EPSのチューニングの問題なのか中立付近の摩擦感が大きいことも少々気になった。高速域のふらつきなどは後年EPS+として改良型が開発され、ECU交換で改善するそうなのでその真価も確かめてみたいところだ。



動力性能的には充分追い越し車線にも出られる。カッ飛んでくる普通車には敵わないが常識的な速度で走る分には普通車と変わらないペースで走れる。ホイールベースが長いことでピッチングは小さく、ブレーキング時の姿勢も安定している。だから高速域のコーナーも怖くないし、ジャンクションでも活き活きと走ることができる。

せっかくなので新東名高速道路で120km/h区間を試した。静岡県に入り合法的に全開加速させながら120km/hに到達させた。4400rpmはかなり余裕を食い潰している感じがした。追い越しをかける場面では相当流れが速くなる場面もあったが加速が鈍くて後続車が怖い、というシーンは全くなかったので燃費の悪化さえ許せば、新東名で快適なハイスピードドライブが楽しめる。

御殿場で東名と合流し、長い上り坂を一気に駆け上ると足柄SAに辿り着く。私はここの湧き水が子供の頃から大好きだ。久々に顔を洗ったり飲んで楽しんだ。アイはというとE/Gを切ってもE/Gルーム内の冷却ファンが3分程度作動していた。デッキ下の蝶ねじを外してE/Gを点検しようと試みたがねじが熱すぎて触ることができなかった。



帰路は旧道でもある東名高速道路を選択した。より厳しいシチュエーションとして下り線の大井松田から御殿場までの難所も走らせたがRの小さいカーブや延々と続く上り坂をアイは健気に登っていった。車線変更禁止区間をトラックの後について登坂してもロックアップを外さずに静々とE/Gがトルクを出してくれる。もっとイジワルに登坂車線で速度を落としてから、じわじわぐーっとアクセルを踏み増した際もアイはシフトダウンで逃げずに制限速度を超えるかのようなところまで加速する。勿論、アクセル開度を一気に大きくするとシフトダウンするのは当然だし、燃費を考えるならハイギアで粘るよりシフトダウンした方が速く車速が上がるだけでなく、燃費にも有利でもある。だからと言って悪しきCVTマッピングの様に定常で低回転固定、加速のためのスロットル操作でロー側へ変速するとアクセル操作の次に起こることがE/G回転の急上昇なので加速にタイムラグが発生し、その後トルクが出てようやく加速度が上がる。アイのように出せるのならスッとトルクを出してくれた方が絶対的な加速度が小さくても気持ちいい。こうした振る舞いは、いにしえの大排気量車(例えばプログレやマークII)でよく味わえる。無論、キックダウン操作のように深く踏み込めばアイもロックアップを外し、シフトダウンしE/G回転を上昇させて高い加速性能を発揮する。



BEVはこういう瞬発力が必要なシーンでスッとトルクが立ち上がるので気持ちが良い。HEVもE/Gを加速させる傍ら瞬間的にモーターを動かすので音はともかくレスポンス自体は悪くない。かくしてアイは頼もしく標高にして300mの高低差を一気に登り切った。そのまま、私は御殿場JCTを直進して裾野IC方面へ向かった。というのも、アイが発売されていた時期は高速道路の制限速度100km/hだったので100km/h基準の道路で帰ってみたくなったのだが、これは正解だった。



横風があまり吹いていなかったという気象条件もあるが、100km/h近傍で淡々と走らせるとCVTの様にE/G回転が勝手に変動することも無く、一定で回り続ける。あまり騒がしく感じないままラジオを楽しみながら運転を楽しめるのだ。一般に新東名と較べてしまえば昭和40年代に開通した区間ゆえ、カーブもアップダウンも多い。しかしアイが持つ軽快な操縦性やアップダウンに強い動力ドライバビリティ性能が遺憾なく発揮できる舞台としては東名高速道路の方が向いていた。飛ばしすぎないで済むので燃費的にも有利だった。

高速での評価は★3 動力性能の良さは素晴らしいが、ふらつきが出るので1減じる。飛ばさなければ4つけられる。

●居住性
アイの魅力はスタイリングでありパッケージングだ。E/Gをリア床下に置いたことで前輪を前出しし、運転席も前出しできる。その結果、Rr席が広くなるという仕組みである。



前席を前に出して虐めるほど後席が(≒室内が)広くなる理屈だがあんまりやり過ぎると、パーソナルカーとして不適当なものになる。アイの場合、ペダルを基準にシートポジションを決めるとステアリングが遠い。チルト・テレスコが未装着なので背もたれはいつもより起こし気味にするとドラポジが無事採れた。本当はステアリングをもっと手前に引きたかったが、室内長のためにそれはできなかったのだろう。



改めて、確認するとステアリングとペダルレイアウトのズレは許容レベルで見晴らしがいい割にヘッドクリアランスがこぶし2個分もあり開放感としては申し分ない。助手席との感覚は軽自動車なら大きく変わらない相場観だが、キャビン断面が丸いので足元も狭い。このデメリットは積載性の項で触れる。後席はヒップポイント高いもののがヘッドクリアランスはこぶし1個分。膝前こぶし3個は軽としては広い方だと思うが、較べれば(現行型のN BOXは8個分)キリが無い。アップライトに座れてRrリクライニング機構が着いているのは素晴らしい。特にRrリクライニング機構は軽自動車だとすぐ後がバックドアガラスである事も多く、リクライニングの意味が無いものも多いがアイはE/Gがあるため逆説的にシートバックから後の空間が残っている。



後席が広いことはとても魅力的だが一方で、その広い空間でどうやって過ごすかという配慮に乏しいのが後席の欠点だ。具体的には姿勢を保持するアシストグリップが未装備(後の改良で追加)で、シートバックポケットなどモノを置く場所が無い。カップホルダーをセンターコンソール後端に一個分くらいは設定してあげて欲しかったし、携帯はドアのえさ箱に入れておくしかない。後席が広くできるパッケージです!と言いながら意外なほど後席が冷遇されており、せっかくの室内空間をもう少し活用できるようなおもてなしの心が欲しかった。我が家の場合は後席は子供のチャイルドシートが取り付くので、前後の寸法が採れていればアメニティ機能は不要だが大人を乗せた時のことも考えるべきだったのでは無いか。そうでなければもう少し前席のドラポジ改善のために前席を後に置かせてあげても良かった。結果的に後席の余裕を生かし切れていないのが少々残念だ。居住性の評価は★3。

●積載性
軽自動車は定められた3.4mという全長の中で室内空間を優先して場所取りをするので、荷室はベビーカー1台が積めるかどうか程度の容量しかない事が多い。アイは荷室の床面積が奥行き540mm×幅930mmと広いことが特徴だ。



勿論荷室デッキ下にE/Gが積まれているからであり、ローディングハイトの高さも誰もが指摘するところで760mmだという。これでもE/Gを45°傾斜して搭載してデッキ高さを下げる努力をしているが、絶対値として高いことは確かだ。この高さになるとスーツケースのように重いものを持ち上げるのに筋力が必要になる。一方、肩にかけるようなボストンバッグやエコバッグであればそのままヒョイとデッキ床面に置けるのでローディングハイトの高さは一長一短という感じである。さらに後席は5:5分割可倒なので後席に人を乗せながら1250mmまでの長尺物を積むこともできる。後席を前に倒すとシンプルなアクションでデッキ面と面一になるのも便利だ。



我が家は後席に子供を載せて週末の買い出しにアイを使用したが、一週間分の食料品やミネラルウォーターを積んで、さらに子供の習い事の手荷物を載せても問題なかった。このデッキの広さはBセグハッチバックに迫る。ちなみに、デッキ下のE/Gは走行によって高温になり、黒色カチオン塗装のサービスホールカバーは手で触れないほど熱くなる一方、その上に敷かれたウレタン製のインシュレーターは厚く、空気層を含んでいるのでカーペットが熱くなって冷凍食品が溶ける、と言うような事は起こらなかったのでご安心を。



一方で、ポケッテリアという意味では引き出し式のカップホルダーや、インパネトレイ、箱ティッシュが格納できるシークレットボックス、大容量グローブボックスやドアポケットが装備されている。他にシフトレバー前にトレイがあるが、実際にアイを使ってみるともう少し収納が欲しいと感じた。せめて運転席シートバックポケットくらいあっても良いし、キャビン断面が丸いことからドアトリム付近のドア断面が薄く、開口部はあれども収納力不足を呈している。更に良くない事に引き出し式のカップホルダーからは絶えず異音が聞こえてくる。樹脂同士の相性が悪いのか分からないが格納時も異音があまりにうるさいので少しだけ引き出しておくとピタリと異音が止んだ。



後の改良でシートアンダートレーが追加されたようだが、せめてそれくらいは着いていないとグローブボックスに車検証で占拠されるとサングラスや清掃用品、CDケースが入らなかった。ラゲージ下収納が望めないのは承知しているが、人よりどっかでカッコつける軽プレミアムなので、収納性能(=実用性)はやるだけやるけど良いでしょ?的な感覚で仕様選択が行われたのであろう。せめて助手席シートバックにコンビニフックとポケットくらいは欲しいなと思うのは私だけでは無いだろう。ekワゴンのプチゴミ箱があるんだから、アイ専用にメタリック塗装した「スタイリッシュゴミ箱」を用品設定するくらいの勢いが欲しい。

評価は★2。私はラゲージスペースに不満は無かったが、ポケッテリアは改善の余地あり。後年、改良されているあたり市場からの指摘が相当多かったのだろう。それに真摯に答えている点は好感が持てる。

●燃費
カタログ値は後に不正とされる値だが18.4km/L。N兄さんから一ヶ月半お借りして走らせた距離は合計4045kmで14.5km/L。そのその中でATF交換やE/Gオイル交換を行ってみたり、高速道路を様々なペースで走らせるなどした。

最低燃費は新東名経由で東京へ出張した際の12.5km/L、最高燃費は100km/h巡航を忠実に守った際の17.5km/Lであった。市街地走行を普通に行っていると13km/L程度、高速道路を交えて遠出すると15kmL程度という感覚だ。アイは燃費よりも走りの質感を重視した感覚があり、この値は良いとは思わないが納得できるレベルだと思う。



燃費不正で11%程度の乖離があるとされるので、アイの実際のカタログ値は16.4km/L。市場トータルで見てもカタログ燃費達成率88%となるがハイブリッドカーやアイドルストップ機構付のエコカーと呼ばれるモデルは達成率が6割程度の車もあるが、アイは燃費のために無理をしていないと考えられる。

アイのデジタルメーターは残量警告が出ると残り7Lとされる。実際に点灯して給油すると30L弱入る。燃料タンク容量は35Lであるから警告灯は比較的正確で、30L使ったときの航続距離は435kmとなる。セグメント表示が完全消灯するまで走らせて給油すると32.6L入ったのでまだ、多少は余裕を持っているようだ。このとき、トリップは480.8kmも走れたが本当のガス欠までに500kmは走れたようだ。



ちなみにiMiEVは新車当時航続距離は160kmと言われてきた。実際の航続距離は言わずもがなだが、私のように東京まで一気に車で出かける機会がある人にとっては435km一気に走れるガソリン車と較べれば、理想的な条件であっても30分の急速充電を4回実施して肩を並べるという事になる。まぁ、iMiEVは純シティコミュータなので比較すること自体がナンセンスではあるが私は燃料のエネルギー密度が高いガソリンE/G車の意義というのはまだあるという考えに確信を持った。

話を戻すと、アイの燃費は現代の水準で決して良くない。しかし贅沢のためにそれを使っていることが実感できるし以降の燃費に縛られて走る歓びもが減らされた現代の軽ターボよりもその値に納得感がある。

燃費を評価すると★3。燃費の絶対値は決して良くないが、動力性能のバランスを考えれば充分リーズナブルで燃費が悪いという評価は厳しすぎる。

●価格
軽プレミアムを指向したアイは軽のハイエンドモデルであろうとした。専用P/Fによる唯一無二の存在感や全車ターボ付というキャラクターは親しみやすいポジショニングのekワゴンとは全く違う層を狙っている。下記に価格を示す。



エントリーグレードのS(128.1万円)のスタート価格は軽ターボとしてみれば安いが、後述するとおり敷居の低さをアピールするアリバイのようなグレードである。

メイングレードとなるM(138.6万円)はアイの世界を楽しむにはこれで充分という三菱の思いが伝わってくる。印象を引き締めるドアサッシュブラックアウト塗装や運転席ハイトアジャスター、キーレスオペレーション、UVカットガラス(Rrはプライバシー)、AM/FMチューナー+CDプレーヤー(4SP)が追加され、必要充分な装備内容である。

SにMOPをつけて装備をMに近づけると11万円にもなるので、だったらM買うわ!と言いたくなる価格差になっている。

フラッグシップのG(149.1万円)はMに本革巻きステアリング、本革巻きシフトノブ、アルミホイールやディスチャージヘッドライトなど上級車向けの装備が与えられる。Mにホイールとヘッドライトをグレードアップした差額が9.98万円なのでそこまでつけるなら、+0.6万円で本革ステアリングとシフトノブに加え、マップランプが追加されるので決して割高に感じさせない点が良い。

メーカー発表のデータでは1月末から7月末までの半年間で2.7万台販売され、グレード比率は、G:40% M:50% S:10%という想像通りの結果だ。カラーは1位:シルバー 2位:黒 3位:レッド ということで試乗車のシルバーのGは多数派の仕様と言うことになる。ユーザー層は50代男性が多いことからもセカンドカー需要、独特のメカニズムに惹かれる玄人層に人気が出たことが窺える。



三菱としては更なる拡販を目指して、若年層の女性に向けたプロモーションも実施したが、既に若年層の車離れが叫ばれ始めた時期とも重なっており廉価なNAの発売もあったが、アイ欲しい人に行き渡ったあと目標販売台数のクリアは困難だった模様だ。

当時は軽自動車はこだわらなければ総額100万円前後で買える時代で、ゲタ代わりで良いというならダイハツミラが55.5万円で買えた時代だ。そんな時代にアイは開始価格が128.1万円もしている。後に軽の中心車種になったダイハツタントは相場を意識して99.8万円だった。

後に追加されたNA仕様はオートA/C付で105万円スタートだったが、同時期に発売されたダイハツムーヴは97万円、タントは108.2万円だったことを考えるとプレミアムな軽なら妥当な価格帯に設定してあったものの、当初の高いという印象が拭えなかったのと、メーカーが考えるほどプレミアムな価値を消費者に認めさせられなかったと推測される。

上級仕様で149.1万円というのも、各社が何となく設定している150万円というガラスの天井がそこにあった。ソニカカスタムRSは141.8万円、セルボSRも141.8万円、スバルR2タイプSSは142.3万円、趣味性の高いダイハツコペンも149.8万円、スバルR1_Sは153.7万円であることを考えると、実用性としてはスバルR2やセルボに近いアイが149.1万円というのは少々高いと思われるのが自然だ。



個人的にはアイの最上級仕様は165万円程度に設定して軽を超えるような装備水準にすべきだったと思う。軽だからという言い訳を排してアジャスタブルアンカー、防眩インナーミラーは当然標準装備すべきで、チルト・テレスコピックステアリングも質の高い運転には必要だ。その上で、オーディオの音質向上や専用シートを備えた「EXCEED」があっても良かった。変にガラスの天井近傍で燻っていたのでは他社製品と比較されやすいが、むしろ軽を超えた存在として君臨しておいた方が比較的裕福な輸入車オーナー達へのセカンドカーとしてアピールにもなって収益性も上がったかも知れない。(この場合でも数を売るのはMグレードだろう)

後年になるとスライドドアというキラーコンテンツがあるとは言え、2011年のN BOXカスタムターボは166万円でもちゃんと一定数売れていた。

●プレミアム市場はあったが、コレじゃなかった
アイはリアE/Gを採用することで衝突安全性能を有利にしながらロングホイールベースによってゆとりある室内空間を得た。またスペアタイヤを法規緩和を活かして小さなパンク修理キットに置き換えてスペースを確保し、優れた重量配分(45:55)によって高い操縦性も得ていた。そして、実用性や手軽さを考えて5ドアと2輪駆動を用意した点はホンダZや当時のスマートに対する大きなアドバンテージだった。

当時の流行でもある美しいワンモーションフォルムを描きながらも、四隅に置かれたタイヤの上に繭がちょこんと乗ったようなスタイルは、軽自動車以外を見渡しても誰にも似ておらず、魅力的だった。インテリアも赤いシートがアクセントになって、懐かしくも新しいレトロフューチャー感覚のデザインが楽しめた。



確かに走らせてみると、軽であることを言い訳にしない非凡なる走りが楽しめる。
リアE/Gゆえの静粛性や加速感、普段使いで分かるブレーキング時の姿勢の良さや、操舵時に鼻先がスッと内側を向く操縦性はアイならではの味と言えた。開発車がテーマとして掲げたプレミアム性は確かに実車にも反映されており、アイに乗った多くの人にもアイが力作であったと実感できただろう。

それでは実際にアイはヒットしたのか?というと商業的には失敗ということになっている。奇抜なデザインとマニアックなメカニズムは軽の代表的なユーザーの指向から外れているだけでなく、最初のターボのみという高価格設定や4速ATのみの設定、Rrアシストグリップがない、助手席バニティミラーがない、アジャスタブルベルトアンカーが無い、など装備面の貧弱さも目立っていた。軽を超えるプレミアム軽であろうとしながら、ちゃっかり軽の常識に染まっているのは少々残念である。当時の目線で150万円を超える軽規格というものは本当に割高に見えた。



これはアイを中心とした販売台数のグラフである。デビュー直後はよく売れていたがすぐに失速し低空飛行になってしまった。アイが三菱最量販だったekワゴンを超えることはなく、グラフでは省略したがワゴンRは常に1.4万台以上販売しており、それらメインストリームと較べればアイは失敗に見えるかも知れない。

しかし、アイと同時期に各社から産まれたプレミアム指向の軽乗用車は軒並み「どんぐりの背比べ」である。ソニカも軽自動車でありながらターボ×CVTのみの設定で、空力性能を意識した低い車体とレーダークルコンに代表する上級装備が楽しめたが、販売状況はアイを下回る燦々たる状況であった。競合車と目される車で最もよく売れたのはセルボだ。男性をターゲットにして上質な内外装を与えられている。さすがスズキの販売力と企画力ゆえ、デビュー直後以降は三菱の主力のであるekワゴンに迫る勢いで売れていたが、それすら軽市場の中ではヒットと呼べるものでは無かったのだ。



軽自動車の内外装をレベルアップし、登録車に代わる存在としてエクストラコストを支払って貰える存在だったかというとそうでは無かった。グラフを見る限りアイは期待より売れていなかったものの、自然吸気仕様や廉価な特別仕様車を追加して善戦していたと気づいた。販売目標を満足にクリアできなかったとしても、あれだけ個性的な車が発売後2年で5万台売れていたのだ。メーカー不祥事によるイメージダウンを考えてもアイが純然たる失敗作だったと断罪することは厳しすぎるかなと私は感じた。2006年前後の「プレミアム軽」は内外装や走行性能の質感を引き上げるという付加価値にエクストラコストを支払って貰おうとしていたと思われる。例えば都市部在住の高級輸入ブランド保有層が面白がって買って貰うセカンドカー需要にもアイはある程度食い込むことができたが、彼らが皆アイを買うわけでも無く、発売後しばらくの後に欲しい人には行き渡った感があった。

2025年現在、登録車よりも高額でも売れている「プレミアム軽」はしっかり売れており、いわばトップカテゴリーとも言える存在になっている。ただしそのプレミアム軽はミニバン顔負けのスーパーハイト軽だ。電動スライドドアやサーキュレータ、オットマンやロールシェードを持ち、広大な室内空間を誇りつつも軽自動車らしい扱いやすさは残されている。一方で走行性能や個性的なスタイリングに対しては「それなりのレベル」でお茶を濁している。つまり、軽ユーザーが求めるプレミアムは「実用性」であったということだ。総額200万円を超えていても実用性を飛躍的に高めたプレミアム軽自動車が飛ぶように売れている。

アイに限らず、ソニカ、セルボなどの販売が振るわなかったのは、従来の軽ユーザーにとって過剰だっただけでなく、狙っていたダウンサイザー達も軽には「軽らしさ」や「実用性」を求めていたのではないか。アイと共に暮らしてみてその良さが好ましいものだっただけに、「市場性が無かった」「ビジネスだから仕方ない」からと言って「プレミアム軽」を消し去ってしまうのは非常に勿体なかった。セルボが先行二車種より売れていたのは、プレミアム感が希薄な代わりに機構やコンベンショナルで実用性とのバランスが取れていたのだろう。車好きの一人としてアイの面白さやソニカの方向性が支持されず、途絶えてしまったことは寂しさが残る。

5ドアハッチバックが急にヒットしたり、セダンが斜陽化するなどユーザーのニーズはいつまでも一緒では無い。少子高齢化やxEV化の台頭など市場の背景の変化によってアイやソニカのようなプレミアム性が求められる日が来るかも知れないし、海外でも軽自動車のニーズが認められて
国際商品として市場規模が大きくなることもないとは言えない。



それらのプレミアム軽にはどうか登録車では当たり前になりつつあるアジャスタブルアンカーや防眩ミラー、チルテレなどの基本的な安全装備は省かずに、世界に輸出できる軽を目指すべきだと個人的には思う。800ccを積んだ低所得者向けマイクロカーでは無くグローバルに戦える「日本発のハイテクプレミアム盆栽Kカー」が出てきて欲しいと願わずには居られない。せめてiベースのムルティプラのようなキャブオーバーコンセプト「SERO」も見てみたかった、とか車幅を軽規格を飛び越えればとんでもない可能性を秘めたリッターカーになったんじゃ無いか?など
私の想像力を刺激する存在だった。

●アイは既に2000年代のネオ・クラシックカー予備軍
アイは長いモデルライフの中で、一部改良でサスやEPSの再適合を図り、燃費を向上し、細かい装備類の改訂を行っているが、特に忘れてはならないのは2009年に発売された「i-MiEV」のベースとなったことである。床下に電池を吊り、E/Gの代わりにモーターを積み、一般販売を行った歴史的な軽自動車だ。内容的な先進性と乗り味がマッチしており、初めて運転したときの感動は忘れられない。高速道路を爆走していると「快速急行」に乗っているような感覚があったのが面白い。独特のメカニズムを持ったアイだからこそEVコンバージョンも容易になったのだと思うとアイは充分投資の価値があったと思う。

三菱にとってアイは攻めすぎた失敗事例の一つと捉えることは少し厳しすぎる見方なのかも知れない、と私は同情的になるほどアイは乗れば乗るほど魅力が伝わってくるプロダクトだった。気づけば、異音を修理し、ガタついたロッカーモールをインチキ修理し、脱落したクリップ穴に新品クリップをあてがい、勢い余ってATFとE/Gオイルを交換してしまった。



アイと共に暮らすようになった一時期、街でまだ生き残っているアイを見かけた。マニアが保護していると思われる個体、おじちゃんおばちゃんの生活の足、格安MiEVでEVライフを楽しむ個体、など不人気と言われながらも意外と残存している気がする。息子が通学路にアイがあるというので見に行ってみるとピンク色の後期型が止まっていた。

三菱自動車はパジェロ亡き後もSUVイメージで少しずつイメージの回復を図っている。この流れに水を差すつもりは無いが、例えばアイに向けたリフレッシュプログラムやアップデートキットがあると面白い。ディスプレイオーディオやフル液晶メーターなどである。発売から20年近く経過し、ネオクラシックカー的な立ち位置に差し掛かるとき、少しでもアイが残され、愛される存在に留まれることは三菱自動車にとってもメリットがあると思う。SUV群もエボシリーズも三菱らしいが、アイだって充分イノベーティブな三菱固有のヘリテージなのだ。日産サクラの技術的下敷きになっているだけなのは勿体ない。

2000年代のネオクラシック車をアイして止まないマニアの皆様方におかれましては、そろそろ底値の個体を保護する時期がやって来たと思われる。あっという間に部品がなくなる前に程度の良い中古を確保し、育て始めた方が良い。行動せよ!部品が無くなり、25年ルールで輸出解禁されるなどして日本から中古車が消える日は時々刻々と迫っている。(経験者談)



最後に貴重な初期モデルのシルバー赤内装のGを一ヶ月以上貸して下さったオーナーのN兄さんに感謝申し上げる。有り難うございました。
Posted at 2025/06/27 00:13:14 | コメント(4) | トラックバック(0) | 感想文_三菱 | クルマ
2025年06月13日 イイね!

2023年式GR86 Cup Car Basic感想文

2023年式GR86 Cup Car Basic感想文●排気量アップは誰の判断?
2021年、86はフルモデルチェンジを受け、GRガレージ専売車種として「GR86」となった。初代モデルは2012年、AE86を現代に蘇らせることを目的にFRスポーツカーの走りを身近なものにするために発売された。

念のために1983年に発売されたAE86について触れておきたい。もはや語り尽くされた感があるが、もう40年以上前のモデルであり全く知らない、或いは産まれたときからイニDのイメージ強いという人も増えてきているかも知れない。

AE86はカローラレビン/スプリンタートレノのフルモデルチェンジ版であり、一世代前のTE71系のP/Fを流用して後輪駆動を堅持したことが最大の特徴である。さらに80年代的なハンサムさを持ったスタイルと、新開発だった16バルブDOHCを採用した4A-GEUやラックアンドピニオン式ステアリングを採用していた。一足早くFFを採用したものの、進みすぎたと評されて不振に苦しんだカローラセダンを販売面で助け、当時は根強かったFRファンの期待にも応えた。

1987年にAE92系にフルモデルチェンジし、レビン/トレノもFF化された。ミニソアラ的な雰囲気をデザインで漂わせ、スーパーチャージャーによるハイパワー化やテールハッピーなシャシーなど市場が求めるものを上手に形にすることで販売台数自体はAE86を上回った。

旧型となったAE86の中古車はタマ数が多く、相場も安くなり手に入りやすい。保有母体が多いモデルならではのチューニング・ドレスアップパーツが豊富さは「好みに合わせて作り上げる楽しみ」が深まっていった。決して速さで最新モデルを凌ぐわけではないが、持ち前の敷居の低さ、パーツの豊富さ、さらに単純なメカニズムを持った後輪駆動車として独特の地位を築き上げた。

2012年の初代86は、AE86のスタイルや諸元など形あるものをリメイクしたのでは無く、AE86が持つ手に入れやすく、初心者にも扱い易い「親しみやすさ」と「カスタマイズ性」という形のない、そしてAE86が奇跡的に醸成した周辺環境の再現を重視して作られている。

新規開発の後輪駆動P/Fを持ち、スバルとの共同開発によって水平対向E/Gによって低重心化を果たし、物理的な諸元には拘りつつも、フルノーマル状態の86は過度に速さを追い求めていない。速さのためにハイテクな四駆も過給も求めず、ハイグリップタイヤすら開発せず、プリウス用のタイヤを流用してまでスポーツカーの裾野を広げる身近な入門車として開発されていた。

さらにトヨタ販売店の中でカスタマイズ拠点としてAREA86を開設し、ビギナーの背中を押す体制も整えた。

「スポーツカーは、カルチャーです。」

というコピーは86のコンセプトをシンプルに表現していた。デビュー直後は積極的な宣伝も相まって1年間で2.6万台を販売し、4.7万台を輸出した。

実際に前期は私もよく運転した。ちょっとしたクローズドコースで限界付近で走らせて(しくじって)スピンさせたり、定常円旋回し過ぎて燃料が偏ってエンストしてカブって再始動できなくなり散々な目に遭ったこともあった。徐々に慣れて来ると、高級感は皆無だけど動力性能が丁度良く、正円ステアリングは正しく回しやすく、6速MTは適切に決まり、ブレーキもコントロールしやすく作られていることが分かった。路面が濡れていれば、コーナー出口でわざとアクセルを開けてリアを滑らせながらカウンターを当てる気持ちよさも楽しんだ。

欲しい人に行き渡ったのか販売的には徐々に落ち着いていったが、トヨタが偉大だったのは86を最初の話題性だけで売って放置せず、最後まで育て続けたことだ。

前期に乗ったあと、後期に乗ればその違いがちゃんと分かるくらいレベルアップして商品性の維持に努めていたし、廉価な中古車のタマが増えるに連れて若年層オーナーが保有する86も多く見かけるようになった。初代86がやりたいことはほぼ実現したと言えるのでは無いか。私の趣味の違いから86の全てを肯定しないが、それでも偉大な存在である事に異存は無い。

2021年、86がモデルチェンジしGR86となった。GRは言わずと知れたガズーレーシングの頭文字でガズーというのが今の会長である豊田章男氏がトヨタ自動車で立ち上げたEコマースサイトの名前である。



G'zなどと呼ばれていたスポーツコンバージョンモデルはGRスポーツと名称変更されるなど商品の整理を行った上でAREA86を発展的解消し、GRガレージという専門の販売店も準備した。(ただし、従来の店舗でも購入可能)

新型はGR86を名乗るため、本格スポーツモデルとして明確に定義されたが、ボディサイズは殆ど変わっていない。



年々肥大化する自動車業界において「大きくしなかった」というのは相当な努力を要するが、デザイン部署や衝突安全評価部署などに対して「ダメだこの諸元で成立するように」と企画側でギリギリの説得(圧力?)を重ねた結果だろう。

エクステリアは正常進化かつスーパーカー的にスッキリまとめたが、その分没個性になっているのが少々惜しい。だからといって加飾ギラギラのエモーショナルに振らなかったことは大変ありがたいし、カスタムする人からすればスッキリしている方が腕の振るい甲斐があるだろう。

走行に関する部分で最も大きく変わったのは搭載E/Gが2Lから2.4Lにスープアップされたことだ。スバル・アセントと同じE/Gだが、NA化され圧縮比が12.5に高められている。低速トルクが増強され、高回転での伸びもたくましく、みんなを幸せにするエントリースポーツカーというより本格スポーツカーと呼ぶに相応しいパフォーマンスを得た。

運転してみると、パワフルなのは事実だが特にアクセル操作に対するレスポンスが私の感覚と合わず、ギクシャクしてしまう点が気になるレベルだった。全開加速だけなら別に大したことは無いが繊細な運転操作が必要な市街地走行では、かなり神経質な印象だった。



残念だがフレンドリーな初代、特に後期型の方が数段マシという結論である。ただし、GR86は年次改良が繰り返し行われてスロットル特性は既に改善されたという情報もある。スポーツカー文化醸成のために必要なことは一過性の話題になることではなく、絶え間ない改善と法規対応による継続が必要だ。

旧い話だが1989年にSW20系MR2がデビューしたときも、個性派セクレタリーカーだった初代から一転して本格スーパーカールックの2Lターボとなった際、パワーがシャシーに勝ちすぎていて危険な車という評価が下された事があった。箱根で行われたシャーナリスト試乗会でクラッシュがあったとか無かったとか。当時のトヨタが立派だったのは以後、1998年までの9年間で4回の改良を継続的に行った点である。初動の躓きから見放さずにコツコツと対策して熟成させることでMR2を常にブラッシュアップし、商品性を維持し続け、1999年にMR-Sにその座を譲るまで日本の貴重なミッドシップスポーツの地位を守り続けた。



こうしてみると、トヨタは意外とスポーツカーをじっくり育てる良い伝統があると言えるかも知れない。GR86も同じように2021年のデビューから、いずれ来るモデル末期に至るまで改善を積み重ねて欲しい。そうであるならば、GR86によって日本のスポーツカーカルチャーは今後も維持されるだろう。

こうした初代から続くGR86の功績を大いに認めている私であるが、それでも排気量の拡大は不要だったと私は思う。もはや我が国の交通環境で使い切れる範囲を超えている。海外向けは2.4Lで国内向けは2.0L継続でも良かったんじゃ無いかと思える程だ。また、そのパワフルなE/Gを手なずけるのに電子制御スロットルは不幸なほど役立っていない。せっかくのドラポジ、せっかくのシャシ性能を生かし切る事ができず、変速で車を揺らさないことで精一杯になる感覚だ。

Posted at 2025/06/13 00:40:52 | コメント(1) | クルマレビュー
2025年05月24日 イイね!

2017年式BMW M240iクーペ ミニ感想文

2017年式BMW M240iクーペ ミニ感想文●隠しメニュー的な逸品
みん友のKoheiさんのニューカーに乗せていただいた。私にとってちょっとだけ運転したX1 18d以来の久々のBMWだが、今回はマニアックな2017年式のM240iである。

私がぼーっとしている間にBMWの命名則が変わり、基本シリーズが奇数で応用車型が+1の数字になった。すなわち2シリーズは1シリーズの応用車型であり、2ドアクーペやカブリオレ、ミニバンや4ドアクーペが存在する。

今回の試乗車はBMWの中ではコンパクトなボディに対して貴重な6気筒3.0LターボE/Gを後輪駆動で楽しむという古典的な楽しみを現代に残すべく作られたM240iだ。



2シリーズクーペの基となる1シリーズクーペは2007年に登場し、1シリーズと同じ顔にAピラー以降は専用のボディが載せられた。エンジンバリエーションは直列4気筒2.0Lと直列6気筒3.0LターボでMTが設定されていた。後継モデルの初代2シリーズクーペは2013年にデビューした。2011年にデビューした2代目の1シリーズがベースとなったが、意匠はよりBMWらしい精悍なものに改められ、5ドアハッチのM140iでは選べないMTが選べることも特徴だった。エンジンラインナップは幅広く、直列3気筒1.5Lターボの218iから直列4気筒2Lターボの230iまでが選択可能だが、試乗車はMパフォーマンスモデルであるM240iである。

BMWは通常モデル(甘口)をベースにスポーティな内外装を取り入れたMスポーツ(中辛)、E/G性能を向上させるなどM社による味付けが施されたMパフォーマンスモデル(辛口)、M社製のE/Gを積んだMハイパフォーマンスモデル(激辛)という4種類のレベルが存在するという。



通常モデルでも充分スポーティなBMWなので内外装をスポーティにしたMスポでも充分楽しめる。しかし、試乗車のM240iはMパフォーマンスモデルであり日常使いと高い趣味性の両立を目指したモデルであり、M2に代表されるMハイパフォーマンスモデルはサーキット走行を念頭に置いてM社が開発した車両という棲み分けがある。

若干、レクサスの「F」の考え方に似ているがBMWが凄いのはMパフォーマンスモデルのために専用の直6ターボE/Gを用意し、それを多くのモデルに設定しているところだ。

ダウンサイジングやらレスシリンダーで低炭素社会への適合を図るという欧州自動車ブランド達の戦略の中でかつてのように大排気量マルチシリンダーE/Gを残せなくなりつつあるところ、M社はスペシャルなMパフォーマンス用に伝統の3.0L直6を残しているのは素晴らしい。今はMパフォーマンスモデルでも直4があるようで、今後レスシリンダー化が避けられないのか気になるところだ。

実際に試乗してみると、私のような低いスキルでは馬脚を現すことのない上品なスポーツクーペだった。BMWの後輪駆動3Lの2ドアクーペとくれば、スポーツ一直線のハードな味付けを志向してしまいそうになるが、M240iは肩透かしを食らうほど普段使い可能なサイズ感で実用性とスポーティネスを高い次元で両立していた。



車を普段使いにも使うが、趣味性も我慢したくないという方にフォーカスした味付けは、サーキットスペックに特化したM2や、更なるムード派のためのMスポがあるからこそ存在可能なキャラ設定である。しかも、BMWらしい駆け抜ける歓びという意味で上位のM2へ意識が行きがちだし、収入が充分ある方は「一番ええヤツもってこい」とM2を選んでも不思議は無い。そこを敢えてM240iを選ぶという人が世界にどれ位居るのか分からないが、そこに向けた商品を抜け目なく準備しているBMWは懐が深いなと感じる。

ビジネス的にはこの様な狭いニーズを満たさず、快適なMスポと本格派のM2があれば、エントリーとフラッグシップの点と点は結べる。しかし、ここにM240iがある事が重要なのだ。

これも、平素から1-3-5-7という絶対的な基幹シリーズでブランドイメージを堅持し、X系で粗利を稼ぎ、共通使用できる直6E/Gを準備しているからこそ、手持ちコンポーネントの組み合わせでユーザーのワガママに応えることができる。

高級車とは実用性や性能を超えてオーナーのワガママに応える存在であると私は考えている。M240iは、まさにボディサイズを含んだ実用性・ラグジュアリー性と過剰とも言えるスペックのE/Gを搭載した本格スポーツカーの世界を両立するという容易に叶えられないワガママを叶えた貴重な高級車の一つであると結論づけたい。



これは★4だ。最新モデル群のエグ味が無く相当良かった。いつかMTにも乗ってみたい。この素晴らしい性能を隠しながらジェントルに走れる「能ある鷹」タイプの方ならっ★5が付いてもおかしくないが、能なしノイマイヤーはこの高性能を発揮したくてウズウズして青い免許すら維持するのが困難になりそうな恐れゆえ★4である。使い切れる高性能という範囲を超えた超高性能車である。

大切な車を運転させてくださったオーナー様に感謝。
Posted at 2025/05/24 00:38:27 | コメント(2) | クルマレビュー
2025年04月25日 イイね!

2008年式ヴィッツ1.0Fリミテッド感想文

2008年式ヴィッツ1.0Fリミテッド感想文●終わりの始まり

代車で距離浅の2008年式ヴィッツを借りたので記録に残したい。

「21世紀My car」のヴィッツは1999年にNBC-I(ニューベーシックカー)として世に出た新世代Bセグメントハッチバックである。



それまで陳腐化してしまっていたスターレット・ターセル・コルサ・カローラIIを一気に統合して二回り新しい思想を取り入れた渾身の傑作だとティーンエイジャーだった私は心酔した。

ディーラーで展示車を見たり乗ったりしているうちに気に入ってしまい、「いつか2ndカーとしてUユーロスポーツエディション・ペールローズバージョン(長い)に乗りたい!」とまで思うようになっていた。

実際に2010年~2011年まで色違いながらUユーロスポーツエディションを所有した。既に旧型のヴィッツだったが、私は大いに気に入って過走行ペースで共に暮らした。

当時は1992年デビューで既に旧くなりつつあったものの完成度の高いマーチと、質実剛健過ぎて華がないとされたロゴが競合であり、デミオは少しステーションワゴン寄りのキャラクターで廉売を続けていた。

欧州人スタイリストの手による凝縮感のあるフォルムやアップライトな新世代パッケージとVVT-iやイータビームサスに見られる新技術の大衆化によって当時は頭一つ抜けた新しい車に感じられた。

1Lでスタートしたヴィッツは1.3Lを追加し、バリエーションを拡大した。ファンカーゴやプラッツのようなボディバリエーション違いも追加して
世界的にもトヨタのプレゼンス向上に寄与した。

一方で国内では2000年に「思い立ったが吉日生活」のホンダフィットが登場。低価格なBセグハッチバックでありながらツインスパークによって燃焼を改善し、CVTのワイドレンジで23km/Lという低燃費と助手席に燃料タンクを配置することでRrにフラットな低床フロアを実現したことで空前のヒットを記録した。

当初トヨタは「フィットの競合はファンカーゴであり、荷室容積で勝る」などと意味の分からないことを言っていた。ヴィッツは正統な欧風リッターカーだったが、フィットの持つ高性能とユーティリティという飛び道具の面白さに負けてしまった。

結局、高級車からのダウンサイザー向けのイストの最廉価仕様の価格をフィットと揃えるという奇策にでたりして複数の派生車で包囲したが、ヴィッツも2002年のマイナーチェンジで新開発E/Gに変更し、更にCVTを採用するなどして10・15モードで23.5km/Lを達成、のちに追加されたアイドルストップ仕様は25.5km/Lとして対抗した。

今回試乗したヴィッツは2005年にデビューした2世代目のマイナーチェンジ版である。「水と、空気と、ヴィッツ。」の広告コピーからはヴィッツが人々の生活に無くてはならないものだ!という自負が感じられる。



ボディサイズはBセグサイズながら全面的に拡大され車幅は小型車枠いっぱいになった。革新的だった初代のP/Fを流用するかと思いきや、新開発のP/Fを採用してきたことには驚いた。それだけ当時のBセグメントは各社がしのぎを削っていたことが想像される。

ホイールベースが90mm延長されつつ前席ヒップポイントを590mm(先代比+15mm)としてアップライトに座らせて後席との感覚を880mm(先代比+45mm)とカローラ並を確保。

少し齧歯類を思わせる丸っこいスタイリングは恐らく歩行者保護性能やチッピング性能、或いは欧州で厳格化されたダメージャー(修理費用低減)など初代ヴィッツでは未対応だった性能への配慮から産まれたものだった。



メカニズム面の大きなニュースはベーシックな1.0L仕様が新開発の3気筒になったことである。シリンダー数を削減するメリットは大きい。例えば摩擦損失が小さく、冷却損失が減って熱効率も有利だ。さらに部品点数を減らしてコスト的に有利なだけでなく、E/G幅が狭くなることでタイヤ切れ角を確保できて小回り性能が上がり市街地での取り回しにも有利となる。開発陣も「燃費とトルクで3気筒に決めた」と発言していた。

他にも先代で追加された直4 1.3Lと直4 1.5Lも含め、3つのE/Gと2つの駆動方式、3種類の変速機というワイドバリエーションとなった。(更に海外向けにはディーゼル車もあった)

商品としての立ち位置は基本的に初代を引き継いだ。先代では6~7割が女性ユーザーだったため、ターゲットした女性ウケは良かったものの男性ユーザー、特にダウンサイザーにとっては少々丸過ぎると受け止められたようで、トヨタが期待したほど人気が得られなかったとみてマイナーチェンジでは少々シャープさを取り戻し、改良の度に燃費性能を磨いていった。

運転してみると、1.0Lとは思えない力強い出足や常用域のトルクフルな走りに満足出来た一方で、直3E/G由来の強烈な振動は、明らかに精彩を欠いていた。フロアもステアリングも揺れて揺れて今心が何も信じられないまま・・・という状況だった。

基本的には先代よりクオリティアップし、先代のネガに対する声に応えた点も多数見受けられ、どちらかというと攻めのFMCだったようにも思う。特に途中でカーテンエアバッグ標準化という英断を下した事は特にコンパクトカーにとっては正しい選択だったと信じている。きっとこの判断で何人かの命が救われただろう。

一方、モデルライフ後半になると分かり易いカタログ燃費争いが始まり、地味なコストダウンが始まった。LEDストップランプをバルブに戻し、カーテンシールドエアバッグを再びOPT化して見せた。

2010年には最後のヴィッツとなる3代目がデビューし、2代目はモデルライフを終えた。



こうしてヴィッツの3世代を見ていると、ベースの無い初代が一番跳んでいて、2代目以降は段々と大きくなり、競合に対するアドバンテージが無くなり、凡庸な車になっていく歴史だった。この感覚は、「面白4WD」だったスプリンターカリブが3世代で牙が抜かれていった歴史を追体験したかのようだ。現行型のネガをどんどん洗練させていき、共通化を進めて、お客さんが買換えを渋らない程度に原価を下げて本来の濃い魅力を水で薄め続けた・・・。

ヴィッツは初代の志を持ち続けて、帰国子女であり続けるべきだったのではないか!なんて正論は簡単に言えるが、激戦Bセグメントの主役とも言える存在であり、時代に翻弄された向きもあろう。実際に国内のネッツ店の最量販車種であり、パッソとの厳しい社内競合もあった。



初代に感銘を受けて所有していた私が2代目ヴィッツと共に暮らすと、その確実な進化と、致命的とも言える欠点、そしてその後の歴史を暗示するような「終わりの始まり」を感じざるを得なかった。

1.0L車は新車時から振動が酷く★2つとせざるを得ない。直4なら★3つ。
Posted at 2025/04/25 23:38:34 | コメント(3) | クルマレビュー
2025年04月13日 イイね!

2023年式 LBX ミニ感想文

2023年式 LBX ミニ感想文●「スニーカーのようなクルマをつくってほしい」

2023年11月にデビューしたLBXはレクサス初のBセグメントクロスオーバーSUVである。レクサス初の3文字の車名で「Lexus Breakthrough X(cross)-over」を意味するとプレスリリースにあるが、本来なら「BX180h」と名付けられていてもおかしくない。

TNGA-Bプラットフォームをベースにした1.5L THSのクロスオーバーSUVなのだから、「レクサス版ヤリスクロス」というゲスの勘ぐりをしない方が不自然だろう。

ボディサイズは下記の通り、ヤリスクロスとホイールベースまできっちり変えてきたあたり、意地でもヤリクロと言わせねぇ!という強い意志を感じた。こういう熱量は「強いトーションビーム」と揶揄されたあの高級ミニバンのRrサスを独立式に変えたときを思い出した。



レクサスのエントリーモデルは長年に亘りCT200hが担ってきた。HS250hの兄弟車でありながら、Aクラスや1シリーズを意識したコンパクトハッチバックで2010年代の国民車とも言える3代目プリウスをベースにキビキビした走りとレクサスの世界を結びつけて若年ユーザー・女性ユーザーから好評を博してブランドの裾野を拡げてきた。

2018年にはCT後継を狙ってUX200/UX250hが発売されたが、CTを継承せずに中途半端なナンチャッテSUVというキャラクターがどっちつかずに見えたのか、ラゲージ容量が小さすぎて忌避感が出てしまった。結果、CTをやめるにやめられず2022年11月末まで併売を続けざるを得なくなってしまった。

どんなブランドも高齢化が進むとブランドそのものの活力が無くなるので、廉価で元気なエントリーモデルが本当は必要だったのにレクサスはCTを育てずに放置し、安易にSUVブームにあやかったのがどうにも軽薄な印象を与えてしまったことも私は残念に感じている。(仮想的のAクラスも1シリーズもちゃんと進化を続けている)

そんな中、現われたLBXはそんなレクサスのエントリーモデルとは何かを考え尽くした戦略モデr・・・・・、いや・・・・実は豊田章男社長(当時)から「上質で毎日履き倒せるスニーカーみたいなクルマができないか」と言われて開発が始まったコンパクトカーだった。

Premium CasualをコンセプトにしたLBXは極めて私的なニーズによって産まれたというのが何とも「今の」トヨタらしいエピソードである。

スニーカーは気軽に履きやすく、歩きやすく、時には走れる。ファッション性もあり機能も重視される。だから毎日履いている人も居る。そう言われれば確かにLBXはそんな風にも感じられてくる。全長が短いから都市部でも扱いやすく、それでいて上質感のある内外装はレクサスが視野に入る層にとっては手頃なクルマと受け止められるだろうし、ラージセダンやミニバンを卒業した高齢者層にも魅力的な選択肢になる。

実際に運転して、なるほど基礎体力がしっかりしており例えば静粛性が高く、信号待ちで周辺の音を入れないという点で私のプログレを超えている。(25年も新しいんだから当たり前であって欲しいが)

一方で、高速域の余力の無さと市街地で残る突き上げ感はオールマイティさに欠けると感じた。思えばCTもちょっと脚が堅かったので、これがレクサスがやりたいことだったのかも知れないが、真の都市型を銘打って高速性能を重視しないというなら、もう少し乗り心地の角を丸くした方が我が国のオーナー達には嬉しさがあったんじゃないかと感じられた。或いはモアパワーのために例えばMORIZO RRのNA版の1.6Lを搭載して余力を産んでくれても良いのになと思った。ターボは強力すぎて一般の人には過剰だ。

LBXはそんなレクサスにとってとても重要なエントリーモデルとなった。クロスオーバーと言いつつ、世が世なら初代ISTの様にプレミアム2BOXと呼ばれてもおかしくないスタイルで、実質的にはプレミアムハッチバック車である。最近になって街でも見かけるようになってきた。

価格の面では、最廉価のカジュアル(420万円)が最近のトヨタ・レクサス車の水準よりも比較的お買い得な仕様設定なのが目新しい。CTを放置してエントリーモデルを蔑ろにした作り手の中にも後ろめたいものがあったのだろうか。

確かにヤリスクロスと較べるとグッと良くなっている、或いはノンプレミアムだがノート・オーラ辺りと比べても完成度が高い事は認める。しかし、価格に見合っているかと言われると「本当はまだやれるだろう?」と言いたくなってしまう。25年前の小さな高級車を所有しているからこそ、これが最新の小さな高級車だと認めたくない気持ちが私の中にある。高級車は大衆車では受け入れねばならない限界をカネを使って拡張して「我儘を聞いてくれる」からこそ高級車なのでは無いだろうか。その意味でLBXは装備水準もさることながら、都市型の域を出ないあたりもう少し自動車としての底力を発揮してくれないだろうか。



個人的にはモアパワーだ。M15A-FXE型は回すとE/G音が目立つので、もっと低回転で出力が出せるようなE/Gを組み合わせて高速巡航中の静粛性を維持したい。例えばG16E-GSE的な自然吸気E/Gを準備してでも余力が欲しい。

一方であくまでも都市型高級コンパクトとして動力性能を割切るのなら、せめて市街地での硬めの乗り心地をソフトに改めて欲しい。そして、他の方も指摘されているがせめて助手席パワーシートと電動チルテレは必要だろう。LBXで初めてレクサスの世界に足を踏み込む人も居るだろうが、そんな大切なゲストをガッカリさせてはいけない。

「シルバニアファミリー」でも「プラレール」でも新規参入者に対して一通りのパーツが揃う入門セットがおもちゃ業界にはある。子供達が楽しめる内容を厳選し、親が買いやすい価格で引き込んで沼に誘うわけだ。

LBXが特定の人(モリゾウさん)を喜ばせるためだけに産まれたとしても、量産されて販売されているのだから多くの人たちの笑顔につながる仕様設定も蔑ろにしてはいけないと私は思う。
Posted at 2025/04/13 23:00:57 | コメント(2) | クルマレビュー

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「@キャニオンゴールド さん ほんとだ。珍しく1000越えてました💦なんでだろ」
何シテル?   06/27 12:58
ノイマイヤーと申します。 車に乗せると機嫌が良いと言われる赤ちゃんでした。 親と買い物に行く度にゲーセンでSEGAのアウトランをやらせろと駄々をこねる幼...
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