○シルフィ
「国際化して憑き物がとれた」

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もともとブルーバードといえば日産の根幹ともいえる車種でした。
サニーもさることながら、日産の本格乗用車といえば
ブルーバードだったと個人的に思っています。
(スカイラインはプリンス自動車のブルーバードクラスの乗用車でしたね)
いつしか欧州はオースターに、北米はアルティマにのれんわけ。
ブルーバードはドメスティックな5ナンバーセダンになりました。
このとき、すでに国内市場のセダンは過去の存在になりつつあり、
SSSのMTモデルなんかもあったのに、若い人が飛びつくことはなく、
おじさんたちも何となくステーションワゴンに流れたりして、
いつしかセダン=高齢者イメージが拭い去れない事態に。
結局、アルメーラベースでブルーバード・シルフィにモデルチェンジ。(併売されてたけど)
あくまでアッパーミドルクラスのセダンという価格帯を守りつつ、
ベースとなる車台をサニー系と同じにすることで国内の絶対的な条件である
5ナンバー枠を守り、ブルーバードというブランドを守ってきました。
「細部にわたって上質」を謳い、
ハイマウントストップランプのベゼルが植毛だったのが懐かしいです。
二世代目のブルーバード・シルフィでも5ナンバーを守るべく、マーチの車台を活用。
中高年の女性をターゲットに優雅なスタイルになった。
排気量も1500ccと2000ccに絞り、ライバルの1800cc同等の価格で
2000ccがラインナップされてましたね。
前置きが長くなりましたが、日本国内のセダンのお客さんは、
もうかなり少数派になっているように思えます。
トヨタでもプレミオ・アリオンが2007年のモデルチェンジから、
まだまだコンスタントに売れ続けている。
カローラも苦戦しているもののヴィッツの車台を活用してフルモデルチェンジを実施しています。
トヨタはこの手のセダンは5ナンバー枠をきっちり守ることに決めたようです。
日産も追従するのかと思いきや、今度のシルフィでは禁断の?3ナンバー化を果たしました。
かつてアコードが、カペラが3ナンバー化してひどい目に遭ってきた中、
ついにブルーバードの末裔であるシルフィまでもが3ナンバー化することになりました。
中国をはじめとする新興国ではやっぱりセダンが車の代名詞です。
そういう国々ではたくさん売れる車ですので日本ばかりを向いていられないわけなんですね。
日本のためだけにブルーバードを作る時代はもう終わったといえます。
逆に、日本のために作ったブルーバードを世界に売りさばくことももはやできません。
世界に照準を合わせたブルーバードを日本で売る時代がやってきたのです。
すでにアコードもカペラ(アテンザ)もギャランもそれをやっています。
逆に言えば、トヨタは日本人のためだけの5ナンバーセダンを二車種も持っているのは
とても贅沢なことなんだと言える訳ですね。
ディーラーにお邪魔して実車を見せてもらってきました。
まず5ナンバーセダン時代に感じた弱弱しさを全く感じない事が新鮮です。
新しいシルフィは全幅を1760mmに設定。ほとんどティアナ(1795mm)と変わらない幅です。
ただ、世界的に見れば北米カローラ(1762mm)、現代エラントラ(1775mm)並です。
グッと伸びやかになって安定感・高級感が出ました。
決して若々しさやスポーティな印象こそありませんが、
これが本流のセダンだと安心できる意匠だと思いました。
腰高感がグッと減りました。
今までやりたかったけどできなかったことはコレなんだと気づかされます。
いやいや、910の時代は今より車幅が狭くても
堂々としたスタイリングを実現していたじゃないか!と仰るマニアの方
全くその通りです。ただ、今は自動車を取り巻く環境が厳しく、
5ナンバー枠内で世界の人を満足させる室内寸法を確保することが非常に難しくなっております。
いつかぶつからない車ができれば、もっと安全マージンを切り詰めた自動車が生まれる思いますが、
その頃はもう自動車の個人所有が終わっているかもしれませんね。
さて、外から見た高級感は中々のものです。
日産のセダンらしく6ライトでスカイラインやフーガ風のグリルデザイン。
しっかりLEDの灯火も備え、現代的な装いを手に入れました。
外装もアウディのようにドア上のルーフサイドレール部にSUSモールが取り付けられています。
トヨタ車はドアフレームにSUSが付いていますが、実はドアの見切りでSUSが切れてしまうので
お客さんからかっこ悪いと言われている部分でもあるのです。
日産のそれは取り付けも両面テープなのか、取り付け構造は不明でした。
運転席に座ると、とてもコンサバで先進感は感じられないものの、
ソフトパッドのインパネ、広々とした室内に驚かされます。
ドアトリムが秀逸で、ゆったりと肘が置け、しかもかなり柔らかい。
腕が沈み込む感覚は高級なホテルのラウンジの絨毯のよう。
しかもダブルステッチが施してあります。
しかも、インサイドハンドルが大型で高級感があります。
広々とした室内、コンサバな内装意匠は新興国のユーザーだけでなく、
国内のセダンユーザーにもきっと受け入れられることでしょう。
リア席も余裕たっぷり。
中国では、若い人が始めて車を購入し両親を後席に乗せます。
このとき、後席がしょぼい車だと面子が丸つぶれです。
面子を最重要視する中国の人の国民性を考えて
シルフィでは十分な居住性と、後席エアコン吹き出し口など、
アメニティが充実しています。
着座姿勢としては少しHPが低いですが、
閉塞感は皆無だし、ヘッドクリアランスも十分取れています。
唯一、ヘッドレストの角が頭にあたり不快。一刻も早く直した方がいいと思います。
それにしても、従来の日本やアメリカではセダンの後席の居住性なんて
真っ先に切り捨てられていたのに、中国のおかげでグッとまともになり素晴らしいことです。
世界120カ国で販売されるシルフィ。国内の目標販売台数は600台。たったの600台。
それでも日本の工場で生産するとの事。
これは、タイや中国から部品を輸入する
KD(ノックダウン)方式を採ったことにより可能となったのです。
私たちが想像するノックダウンとは元々は、技術力の低い国で何らかの理由(政治的理由など)で
組み立てざるを得ない場合に、部品だけど箱詰めして輸出して現地で組み立てるというものでした。
ところが、今回のシルフィはそれを逆に、海外で生産した部品をわざわざ日本で組み立てているのです。
つまり、シルフィは日本製なのです。保守的なセダンを選びたいターゲットも
「日本製」という事実にホッとするはずですし、日産としても国内の生産を確保することができます。
(なのでシルフィにはメーカーオプションがないんですね)
なんだかんだといっても日本人の手先の器用さは今でも海外に対するアドバンテージです。
海外製の部品であっても、組み立てる手が日本人ならば良い方向に向かうでしょう。
日本向け5ナンバーという呪縛から逃れたことでシルフィはグッと商品性が高い車になりました。
車幅の大きさはネックで、駐車場にすら入らないという気の毒なユーザーの受け皿は
ラティオやプレミオ・アリオン、カローラが担うはず。
大きささえ許容できるユーザーなら悪い選択ではないでしょう。
これまで3ナンバー枠のアコードやアテンザは欧州的な筋肉質な躍動感を
訴求していてなんか違うと感じていた人に対してシルフィはアジア的なコンサバ感を
持っているところがライバルとの違いであるといえます。
気になる価格は、割高な設定です。
(一クラス下のラティオもずいぶんと割高ですが)
マニュアルエアコンのSグレードで193.7万と若干高め。
しかもMOPが無い関係でアルミやキセノンが欲しいと言い出すと、
自動的に最上級のGグレード(238.9万)を選ぶ結果になります。
アッパーミドルクラスということを考えて
オートエアコンが最低限欲しいという人はミドルグレードのXが209.4万となります。
個人的にはオートエアコン+本革ステアリングが選べるXで十分な気がします。
結局この車を本気で買うターゲットからすれば
高い安いはもはや関係がないのかもしれません。
(日本でも十分にお金を持っている人が買う車なので)
MTもアテーサもありませんが、そんなに悪い車ではありません。
期待していなかった分、意表を突かれました。