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2024年07月16日 イイね!

2020年式MIRAI感想文

2020年式MIRAI感想文●水素はすごくこれから人間を救っていく(笑)

我が国はエネルギー資源に乏しく、石油などを輸入に頼ってきた。今後環境負荷の小さいエネルギーを使わねばならない時代になっている。

そこに目をつけたのが水素である。自然界に水素は単体で存在しないが、プラントで作り出すことができて燃料のように扱うことができる。

トヨタは水素を使って電気を起こし、その電気を使って電気自動車を走らせるFCV(現在はFCEVと呼称)の開発を進めてきた。

2014年、研究開発が実を結びMIRAIを市販した。MC P/Fを改造した専用シャシーを開発し独特のプロポーションを纏って現われたMIRAIは、その存在だけでも独自性があった。

可燃性で分子量が小さくて、金属を脆くする性質を持った水素をボンベに詰めて、水素と大気中の酸素を反応させて電気を取り出して走り、排出するのは水だけという究極のエコカーとされている。

水素インフラが整っていない、という否定的な意見もあるが、航続距離が長く充填(じゅうてん)時間も3分程度とICEと遜色のない使用性は我々にとってはBEVよりも馴染みやすい素性を持っているのは確かだった。

ところが初代MIRAIが世界で大ヒットを記録したかと問われるとそうでは無い。前人未踏の水素を燃料にして電気で走るエコカーよりも、欧州や中国で政策的に推進されるBEVの方が普及した。

それもそのはずでBEVのエネルギー源の電気は既に産業的に発電する仕組みがあり、エネルギー補給に対してのハードルが低い。水素の場合、水素の供給網から準備せねばならず投資に二の足を踏むのだろう。また、先行するトヨタにわざわざニッチな市場で挑戦状を突きつけるような会社も限られており仲間作りに失敗した感がある。

初代MIRAIはモデルライフで1.1万台の販売に留まっているが、その理由は未知技術への忌避感、生産体制の問題など原因は一つだけではないだろう。2020年に2代目がデビューした際には彼らなりに初代の反省をしっかり活かしたものなった。



ちょっと変わったプロポーションなのは、FCスタックの上に座っているから、とか巨大な水素貯蔵タンクを持っているから、という理由があるのだが顧客側からすればそんなことは買う理由にならない。「たまたま欲しい車がMIRAIだった」と言って貰えるように商品力を磨く、という正論に至った。

個人的にはFCEVは長距離が得意な特性を活かして大型車や高級車に似合う技術だと思う。その意味でMIRAIの車格をHS級からLS・クラウン級にしたことは正しい。それにしても10年前のICE車がFMCなしで現役で売られている昨今、たった6年でALL NEWになるMIRAIはさすがに進化が速い。



期待を込めて走らせた結果は、おっとりしたBEVだ。BEVに慣れてきた私にとっては特筆すべき感動が有るわけでも無い。決して悪いわけではないが、良くも悪くも大きなトヨタ車だ。イマドキは「クラウンですね!」「レクサスだ!」とわざわざ注目する人も居ないが、MIRAIなら「水素自動車ですか!(間違い)」みたいなアイキャッチな感じはあるだろう。

しかし、実用車としてMIRAIを見てしまうと、デカいとか荷物が積めないとか、後席が狭苦しいとかそういうことが気になってくる。

2代目MIRAIが出たときにどうしてレクサスLSの兄弟車にしなかったのか。トヨタブランドよりレクサスブランドの方が売りやすいし、高い値付けも許容されただろうに・・・。中途半端な乗用車を普及させる前に実用性を突き詰めたり、高いブランドイメージを確立した方が良い。

MIRAIはいささか中途半端で価格やサイズは高級車でありながら、冷静に見つめていくとクラウン級と言うよりカムリ級の質感表現に留まる。

競合他社が見れば「0が一つ少ない」という価格でも、「エキセントリックで高額なのに普通の車」という評価に甘んじてしまうのは勿体ない。

例えばBEVの二大巨頭の一つTESLAの場合、「伝統」や「しがらみ」がない分商品は自由差を感じる。バカみたいな機能と競合が冷や汗をかくような高性能が同居する存在だ。手押し剛性とか建付けとかそういう部分は無茶苦茶、人間工学とか信頼性など過去の知見がない分、奇抜な機能を恐れもせず採用するので無鉄砲な商品に思えつつ、自動運転へのアプローチや航続距離の長さ、革新的な販売手法とギガキャストに代表される生産技術など意外と真面目なアプローチも行っているところが凄い。

そして世界中のエンジニアを雇用することで彼らの出身メーカーのノウハウがテスラに複合的に取り込まれていることも恐ろしい。こういう車は消費者から見て分かり易く、所有しているだけで一目置かれる感はある。富裕層はTESLAの先進性や分かりやすさを評価してブランドが伸びたのだと思う。一方、トヨタがMIRAIでTESLAをそのまま真似できるかと言えば到底できるものではない。

BEVですら今は富裕層向けのイメージ先行型商品なのに更に小型化も難しく価格も高くなるFCEVを普通の人に向けて出すというのは最初から困難な道を選びすぎなんじゃないか。

一応、一般ユーザーでは無く公用車や社用車として選んでもらおうと言うことで「エグゼクティブPKG」なる仕様があるが、そういうフォーマルな場に相応しくないエグ目の意匠だし、水素社会を実現したい日本の中で先に普及させて練習した方が良かったのでは無いか。税金を無駄遣いしてる感じがしないステルス性のあるトラディショナルなデザインの方が適していたと思う。

BEVが徐々に我が国でもよく見かけるようになりつつあるのにMIRAIの販売は右肩下がり。グローバルでの総販売台数は横ばいだが、確かにMIRAIは日本では選ばれにくい。MIRAIが買える収入のある日本の普通の人たちはそのお金があれば輸入車を買うだろう。


画像はここから拝借した。

トヨタはMIRAIをどうしたいのか、その意志を明確に感じさせないままではMIRAIの未来は明るくない。

2023年秋には往年の高級車のブランドを引用したクラウンFCEVがデビューし、大型化し、価格アップしながらも分かり易さのあるセグメンテーションはFCEV普及に多少は寄与するだろう。(ただ、相変わらず意匠はアレだし、内装質感もアレで後席居住性もアレだが)

中国がBEVを国の強い支援で普及させたことに倣い、我が国でも例えば公用車・社用車・タクシーなど国や行政で水素活用を支援するフォーマルな車で普及させても良いだろう。

そうであるのならミライだけでなく、FCEVのライトバンやパトカー、消防車など作って、一定数をそれに巻き替えることで地元の水素供給網を育てる事ができる。人々の暮らしの裏方で‘水素はすごくこれから人間を救っていく'だろう。或いはトヨタ関連企業だって工場の発電を水素で行うとかFCEVフォークリフト使うとかトヨタ輸送の車載トレーラをFCEVにするとかしなければならないが、いかんせんコストが過大である。

2023年秋にクラウンFCEVが出て、MIRAIの立ち位置は更にビミョーなものになった。ワンパターンなスポーツコンセプトなど出してる場合ではない。プリウスもHEVの普及を見届けて急にスペシャルティシフトしたがトヨタの商品企画上の癖なのだろうか。すぐエモーショナル(笑)なデザインとニュルに学んだテストコースで鍛えた操縦性で「豊田氏の愛車」になろうとする。

次期MIRAIがあるとするならばトヨペットマスターの様にクラウンの裏方に回って汎用性の高い実用的な車になるべきだ。まず、個人ユース以外でフリートユーザーに使ってもらい、台数を増やして徐々にインフラを整えないと本来のFCEVの個人ユーザーは増えないと私は思う。大柄で荷物も載らないMIRAIを営業車に使うなんて不便で仕方ない。

2代目MIRAIは、個性的だった先代と比べてもっと自動車らしくなったのは結構だ。しかし、自動車らしくなったがゆえ後席の狭苦しさはもはや許されない。上級グレードで800万円台後半の全長4.9mクラスの乗用車で不満な点が残るのは商品として厳しい。



家族には薦めないし、会社の同僚がエコイメージだけで検討するなら止めるだろう。日々エネファームで発電した電気を使い、水素水を飲み、水素入浴剤を風呂に入れるような水素MANIAにこそお薦めすべきだが、彼らからすれば水素で車を走らせるくらいなら体内に取り入れたいだろう。
Posted at 2024/07/16 00:48:52 | コメント(2) | クルマレビュー

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