アウトランダー ナビプレミアム(310万円)
ミラージュ以来、久々の新型車。
先代アウトランダーは2005年の発売以来7年間にわたって三菱を支えてきた。
かつてパジェロで一世を風靡したものの、RAV4やCR-Vに代表されるライトクロカンの
台頭によって本格オフローダーとしてのパジェロの市場優位性にかげりが見えていた。
アウトランダー前身のエアトレックでは未消化な部分があったものの、
アウトランダーと名乗った先代はランエボ譲りの電子制御AWDと軽量なボデー、
若々しくまとめた内外装デザインと手ごろな価格を魅力としていた。
三菱が重要視するロシア市場においてもアウトランダーはランサーと並ぶ戦略車種となっている。
このアウトランダーのフルモデルチェンジが先日実施された。
新興国での販売を考えたとき、普遍的なセダンと本格オフローダー以外の第三の選択としては
欧州でもてはやされるコンパクトではなくライトクロカンである。
このカテゴリーはティグアン、エクストレイル、CR-V、RAV4、ツーソン、
スポルテージ、フォレスター、CX-5など強力なライバルがしのぎを削っている。
この中で三菱が市場に送り出すアウトランダーの成功が
三菱にとって重要なのかは想像に難くない。
私はお膝元のディーラーに行き、実車をじっくりと見せていただいた。
○エクステリア
先代の「直感的にかっこいい」アウトランダーと比較して、
新型を見るとスピード感が無く、「あれっ」とうろたえてしまう。
デザインスケッチを見ると、フラットなボンネットを強調した
都会的なSUVを目指した形跡が伺えるのだが、実際の製品は
生産要件や性能要件の影響で前後のオーバーハングがとても長く、
重たく感じて軽快感が損なわれているのが残念だ。
フロントマスクもアッパーグリルを塞いで空力性能を稼ぎつつ、
黒い素地のぺラっとしたラジエーターグリルが目立つ。
もっとグリル風にするか、グリルレスでも成立するような意匠、
(たとえばピアノブラック塗装でハイテク感を足してやる)に出来れば
良かったのだが、PHEVとの差別化やコストでああなってしまったのだろう。
サイドビューは流行のショルダーの凹Rがついたキャラクターラインが目を引きます。
ドアの分厚さをうまく消す高さのキャラクターラインだが、
細かいことを言えばドア見切りがものすごく汚い。
ただし、この汚さに気づいて、それを理由に購入を見送る人が何人いるかはわからないが。
サイドビュー自体はキャラクターライン以外は結構すっきりしていて
力強さをアピールする「いかにも」な小細工は無い。
もう少し車高を低くすればレグナムとしても受け入れられそうな印象だ。
リアにまわるとクリア化されたリアコンビランプが目立つ。
バックドアガラス下のガーニッシュにはメッキ処理が施されているが、
クリアカラーのプラスチックと一体化してしまってせっかくコストをかけているのに
アイキャッチに欠ける印象だ。赤いガーニッシュだったらもっと目立ったのだろう。
いっそ無くしてしまって別モールにした方がメッキの有り難味がでそうだ。
色々と失礼を承知で書いてしまったが、
アウトランダーのエクステリアは競合とは傾向が異なっていて独自性がある。
わかりやすい若さは無いが総じてSUVの安心感が感じられるデザインだと感じた。
○インテリア
内装も力が入っている。
ピアノブラックのパネルでコックピット感を出しつつ、
インパネからドアトリムまでの加飾で広々感と高級感が出ていると思う。
加飾自体はちょっとエグイ感じもあるが、これくらいの個性はあってもいいと思う。
個人的にオプション設定された木目パネルがなんだか懐かしい。
90年代のインパネってみんなこれだったなー、と思い出した。
当時はこれが嫌いで実家で乗っていたライトエースノアは
木目が目立たない特別仕様車をチョイスしたくらいだ。
30歳になった今改めてこのような明るい茶木目を見ると温かみを感じる。
私もちょっと大人になったということか。
ミラージュ以来、ピアノブラックの内装を展開しているが、
私が普段乗っている車もピアノブラックの内装だが、
ホコリが溜まりやすく、ちょっと苦労しているのだが
それでもやっぱりかっこいいなと感じる。
ミラージュよりもお金を使えた分、メッキのモールを通すことが出来たり、
インパネの素材も良くなったように感じさすがに力が入っていた。
○試乗
最上級グレードのナビパッケージに試乗した。
ドラポジを合わせて走り始めた。
排気量2400ccということで必要十分な走りをする。
音質は高級感を感じさせるほどのことは無いものの、
ガサツだと騒ぎ立てるほどのことも無い。十分だ。
この車の動的性能の売りといえば
「Eアシスト」と呼ぶミリ波レーダーとカメラを応用したシステムだ。
一足早く他社が実用化しているシステムではあるが、三菱のEアシストは
追突、高速道路における車線逸脱による交通事故のリスクを軽減する。
こういうシステム自体は、10年前から既に実用化されているが、
20万円以上もする高額なシステムであり、ほとんど普及してこなかった。
近年、スバルがステレオカメラを使用したアイサイトを大々的にアピール。
この宣伝が功を奏しスバル車の販売台数が増加。
ダイハツが軽自動車用に簡略化したシステムを5万円でオプション設定するなど
低価格化が進み、他社もこぞって装備をアピールするようになり始めた。
アウトランダーは三菱のEアシストが頭出しされた特筆すべきモデルである。
私もさっそくEアシストを試してみることにした。
私たちのような一般ドライバーが一番恩恵にあずかれるのは、
前方の停止車両(二輪車は感知しない)に気づかずに接近した場合の自動ブレーキだ。
ステアリング横のSETスイッチを入れると前方の車両との車間距離を保って走行してくれる。
アイサイトと比べるとギクシャク感が少なくより人間的だ。
そうしてもレーダーで距離を測定してから制御するため人間らしい操作にはならず、
ギクシャクしてしまう。
人間なら「前が詰まってきたからじわっと制動しよう」となるところが
「前方の距離が閾値を超えたのでブレーキ」という0か1の制御になる。
Eアシストはまぁ良いかなと思える程度のフィーリング。
ちなみにアイサイトに対する優位点はレーダー採用によって
悪天候時にも使用できるチャンスが広がったことなのだとか。
結局、ディーラーの試乗レベルではほかの機能は試せず、
電子制御AWDの実力もわからなかったが、Eアシストのすごさで
「おおおおおっ」となってしまったのが正直なところだ。
○エアバッグやABSの用に普及する日がもうすぐそこ
普段MT車に乗ってて運転が好きなんです、なんて顔している私だが
やはりこういう最先端のテクノロジーは素直にすごいなと思う。
こういうすごいシステムが普及すればどれだけ事故が減らせるのだろうか。
アウトランダーの場合、このシステムがついたグレードは278.7万円。
システムなしの場合、269.2万円なので9.5万円がシステム代ということになる。
かつて運転席SRSエアバッグが10万円くらいだったが、
一度しか使えないエアバッグよりもどれだけ使える機能なのだろう。
ちなみにスバルのフォレスターの価格差は10.5万円なので三菱の方がわずかに戦略的だ。
(さらにレクサスRXは14万円)
こういう装備はありがたい一方で、どうしても悪用する人が出る。
トラックのクルーズコントロールを悪用して運転中
足をインパネに投げ出したアクロバティックな体勢で運転するドライバーを見かける。
このEアシストも意地悪に見れば高速道路で携帯電話で
メールを打ちながら運転するにはうってつけだろう。
前方の車間距離は調整してくれるのし、車線逸脱時には音を鳴らしてくれるので安心だ。
このいたちごっこはどうしても避けられないが、だからといって普及させないのもおかしい。
これで救える命があるはずだからだ。
後席3点式シートベルトが装備され、サイドインパクトビームが装備され、
エアバッグ、ABSが装備され、横滑り防止装置が装備され、いよいよ
自動ブレーキ装置が当たり前の時代が来そうになっている。
エアバッグもABSもサイドインパクトビームすら無い車を愛する私としては、
今後ますます風当たりが厳しくなりそうだ。
車を買い替える予定がある人は、予算に余裕があれば積極的に選んでいいと思うし、
そういう車に乗らない人は、あくまでも前を良く見て運転に集中するようにしたい。