自身の34歳の誕生日プレゼントなのか
4代目RAV4ハイブリッド(以下HV)に試乗できる機会を得た為、
需要があるかどうか分からないまま備忘録代わりに感想文を残す。
●4代目RAV4とは
RAV4と言えば1994年にデビューした街乗り型SUVの市場を切り開いた一台。
初代はキュートなチョロQルックで好評を得つつも、
5ドアを追加して販売台数を確保、世界中でヒットを記録。
2000年にはフルモデルチェンジ実施。
欧州市場での浸透を目的に3ナンバー化しつつも、
扱いやすいサイズを意識、ディーゼル車の追加や質感向上が図られた。
2005年には3代目となり、世界需要に対応する必要があり、
従来から人気のあった欧州・日本市場向けに
標準車を設定。日本向けにはL4_2.4LガソリンにCVTの組合せのみだが、
欧州仕向けでは当時最新のディーゼルや6速MTや革シートが選べ、
さらにセダンライクな質感を持っていた。
一方、大型から小型SUVに需要がシフトしつつあった北米市場を意識して
よりW/Bを延長し、3.5L_V6エンジンが選べ、ラゲッジを大型化した北米仕様
を追加した。これにより3列シートも選べるようになった。
北米仕様は後にハリアー後継のヴァンガードとして日本でも販売されていた。
日本では標準W/B仕様のRAV4が2016年まで販売されていたが、このほど販売を打ち切った。
秋にはC-HRがデビューすると言われており、日本での役割を終えたと言うことだろう。
日本ではひっそりとその役割を終えたRAV4だが、
RAV4ブランドには日本には存在しない4代目のモデルがあったのだ。
2013年に発売された4代目RAV4は、土臭いSUVイメージからの脱却を狙い、
スペアタイヤを背負わず、Rrパンに配置。
横開きバックドアを一般的な縦開きに変更。
大型化する欧州市場を考え、ホイールベースを北米仕向けに統一するなど
一層の街乗り化を進めたフルモデルチェンジだった。
MAG-Xによると欧州と日本では標準W/BのP/Fを使った
別ブランド車の開発が行われていたが、事情により中止されてしまい
日産で言うデュアリス級の商品が揃わない結果、3代目のまま販売された。
欧州ではライバルも大型化したのでロングW/Bを市場に投入できたが、
日本ではそれが叶わず、4代目RAV4は日本以外の世界中で売られる事になった。
(日本以外の)世界戦略車となった4代目RAV4は
初代と比べると大きくなり、個性が減ったものの
子離れした夫婦が気楽に生活できる都市型SUVとして好評で
特に北米では好調な売れ行きを見せた。
今回試乗したRAV4は4代目のマイナーチェンジで
追加されたHVモデルの最上級グレードLimitedである。
もともと3代目にはV6エンジンの設定があり、北米でも高い評価を得ていたが
厳しくなる燃費規制の前では2.5Lのガソリンに絞らざるを得なかった。
モアパワー、モアエコノミーの需要に対してはトヨタのお家芸ともいえる
HVを追加して対応したということだ。
4代目RAV4とハリアー、レクサスNXは同じP/Fを持つ兄弟車であることは有名な話だ。
このHVはハリアーでデビューし、NXにも流用されたシステムだが、
それをRAV4に転用したのが今回のHVモデルとなる。
NXのみFFが存在し、RAV4とハリアーはE-FOURのみのラインナップだ。
システムとしては共通だが、車重やボディ形状の違いで燃費が異なる。
仕向け_車名/車重/燃費
米国_RAV4/1792kg/14.02km/L
米国_NX300h/1896kg/13.6km/L
日本_ハリアー/1800kg/21.4km/L
日本_NX300h/1850kg/19.8km/L
このように比較すると、日本と米国では燃費の表現方法が異なり
単純比較は出来ないが、類似した燃費性能を持つことが分かる。
今回は米国向けRAV4 HVを一般道、山道、高速道路など
比較的バラエティに富んだコースを試すことが出来た。
●エクステリア/インテリア
日本ではまずお目にかかれない4代目RAV4のエクステリアは、
近年のトヨタ車のテイストに沿ったデザインでまとめられている。
かつてのRAV4の持っていたキュートさは影を潜め、
黒子に徹したかのようなスタイリングは、ライバルと比べて
決して劣っていないが、大きく勝ることもない控えめなものだ。
しかし、歩行者保護対応でフードが高くても車高の高さを生かして
上手にバランスを取っている点は
むしろセダン系よりもプロポーションが良く見える。
ヘッドライトはLEDタイプでUPRグリルはピアノブラックに塗装されているが、
実は開口は無く、飾りの為のUPRグリルとなっている。
この辺りは空力性能と冷却性能を両立させつつデザインをする難しさだろう。
自ずとLWRグリルが大きくなる傾向にあり、
受け口のような格好悪さに繋がりそうなところを、メキシカンシルバー塗装で
引き締めているところなど、上手にデザインされている。
サイドに回ると、ホイールアーチモールとドア下のサッコプレートによって
SUVらしい力強さを付与されているものの、
それ以外は乗用車然としたセンスでまとめられている。
また、車幅に余裕がある為にエッジの効いたキャラクターラインが引かれて
伸びやかに見せている。
リアビューはLEDによる線発行のRrコンビランプが印象的。
マイナーチェンジではバックドア下部にモールをつけてナンバーより
低い部分が間延びする印象を緩和した。
インテリアは本革シート採用の最上級グレードだけあって華やかな印象だが、
ハリアーと比較すると掛けられたコストの差は決して小さくないようだ。
エアコンの噴出口は格下の車との共用部品だし、ダイヤル式エアコンや
ハザードスイッチのタッチはこれがトヨタか!と思うほどチープな印象。
かつてのトヨタは室内装備品のタッチだけはこだわって作られている印象だったが、
リーマンショック後の金銭的に苦しい時期に開発された車の辛いところなのだろう。
それでもインパネの手が触れる部位はソフトパッドが奢られ、
ドアトリム上部も触ると柔らかいパッドが追加されている。
決してお金をたくさんかけてもらえていないが、
必要十分レベルの質感は与えられてるように思う。
ハリアーやNXのようにキャラクターの立った車は内外装の方向付けは簡単だが、
RAV4のような世界戦略車になると、世界中のあらゆるニーズに対応する必要があり
過度な個性は命取りにもなる。
身長コックピットに納まってみると、室内は十分な広さがあり
165cmの自分が窮屈に感じることはなかった。
運転席からはワイパーが限りなく下方へ追いやられ、
フードがきちんと見える点もSUVらしさと言えるだろう。
Rr席にも座ってみたが、ヒールヒップ段差が余り取られていないので
膝裏が少し浮いてサポート不足になりがち。私より体格がいい人の場合顕著だろう。
シート自体はリクライングが充実していて便利。ニースペースも十分以上だ。
ハリアーのときに気になったRrのシートベルトアンカーが肩から
浮くようなことも無く安全面ではRAV4の方が優れていた。
●市街地走行
左ハンドル車なので左ドアを開けて車内に乗り込む。
随分と久しぶりの左ハンドルになる。
ミラーをあわせてプッシュスタートを押して起動させる。
ドラポジをあわせるが、ハリアーとNXは電動チルテレがついているが、
残念ながらRAV4にはそれが無い。
手動とは言えチルテレがついているのはさすが世界戦略車だ。
ミラーを合わせるのだが、ここで気づいたのは米国仕様は
ドアミラーの仕様が日本と異なる。
運転席側のミラーは曲率の関係で像が大きく見えて少し驚いてしまった。
反対に助手席側のミラーは少し小さめに写る
日本車の一般的なドアミラーを同じ見え方をする。
リモコンで調整するのだがRAV4の場合、電動格納は装備されない。
米国だと駐車場が広くてミラーをいちいち畳む必要が無いのだろう。
格納したければ私のカローラのように手でバコンとやるだけだ。
また、運転席側I/Pアッパーのシルバー塗装された加飾の
反射光のせいで運転席側ミラー右上部の像が見えない点は気になった。
ギアをDレンジに入れてPKBを解除するが、NXの電動式、
ハリアーの足踏み式とは異なるレバー式が採用されている。
路上でまず感じるのが左ハンドル特有の違和感だ。
右ハンドルのように車線の真ん中を走る気持ちで運転すると、
車体右端がセンターラインを超えてしまいそうになる。
従って、意識的に左のラインをなめるように運転することがコツとなる。
右カーブも注意が必要で、ついイン側を攻めたくなるのだが、
大回りでゆっくり目に走らせることが肝要である。
右折時もあまり前車にくっつくと対向車が見えないので
車間を保つなど、馴れるまでにコツが必要になる。
一方で狭い道路では右ハンドル車よりも左端に車を寄せられるので
すれ違いはやりやすい印象を受けた。
一般道のRAV4の大まかな印象は兄弟車と類似している。
市街地走行に強いトヨタのHVらしくシームレスで燃費に優れた走行ができる。
かつてカックンブレーキと評されたブレーキの挙動もほぼ完全に克服でき、
一般の人にも薦められる領域に達した。
RAV4のメーターは恐らくハリアーと同じ基盤を用いながら、
表面のデザインは一層RAV4らしいカジュアルなものになっている。
ブルーの指針はエコイメージを引き立てる。
ディスプレイは日本よりも簡略化されていてエコウォレットや
時間別燃費のバーグラフなどは表示されない。
瞬間燃費、スタート後燃費、給油後燃費、リセット後燃費の他、
方位磁針や各種設定、エネルギーモニターしか表示されない。
RAV4 HVに搭載されるエンジンは日本では兄弟車や
カムリにも搭載される2AR-FXEになるが、
各シーンに応じた挙動はさすがに良く似ている。
駆動用バッテリーに十分電気があるときは
発進から中速域までモーターのみで走行できる。
このとき、燃費はうなぎのぼりに上昇する。
信号待ちでも燃費は悪化せずHV=エコのイメージに酔いしれることが可能だ。
しかし、バッテリーの残量が規定値以下になるとエンジンが始動。
発電しながら走行するモードに入ってしまう。こうなるとある程度電気が
貯まるまでエンジンは始動しっぱなしで、信号待ちをしていようとも
ブーンと盛大にアイドリングをしてしまう。
電気走行時の静粛な信号待ちと比べてしまうと、一般的ガソリンエンジン車以上の
回転数でエンジンが回るため酷くうるさく感じてしまうのは面白い。
平坦な道を電気で淡々と走っていると軽く20km/Lを超えるが、
そうなる頃には発電が始まってしまい、
他のトヨタのHV車同様に燃費はのこぎり波形を描く。
田舎道を淡々と走るよりも、ストップアンドゴーのある
市街地を走行するシーン、朝の渋滞した高速道路でこそRAV4 HVが輝きそうだ。
●山道走行
ちょっとしたワインディングを走らせた。
ハリアー、NX200tの経験から車幅が気持ちよいドライブを
スポイルすることは容易に想像できた。
RAV4 HVにもECO/EV/SPORTからなるドライブモードがあるが、
あえて標準状態を選んで走行した。
アクセルを深く踏み込むと比較的食いつきよく加速する。
CVTライクにエンジン回転数だけが上がったあとで
加速するのではなく、アクセル操作にトルクがついてくるように
味付けしてある点は好感が持てた。
NX200tと比べると俊敏さは落ちるが、
ガソリンエンジンのハリアーと比べると余裕を感じる動力性能がある。
コーナリングはスポーティな見た目とは裏腹に
意外とダルな印象で、ステアリングのギアレシオがスローな印象。
左右にコーナーが続くシーンでは
ステアリングを忙しくぐるぐる回さなければならないのはせわしなく感じた。
アクセルを深く踏み込み元気に走らせようと試みても、
途端にタイヤがスキール音を上げる挙動を見せる。
海外でアジリティがあると評価されている割に
日本の道路ではアジリティを感じなかった。
左ハンドルかつ米国をターゲットに仕上げられた
RAV4 HVゆえにその点は仕方が無いと考える。
●高速走行
米国市場はフリーウェイの合流でしっかり加速できる動力性能が求められ、
そのために4代目RAV4の標準仕様も他仕向けより排気量が大きい
2.5Lの2ARエンジンを標準搭載している。
他に例えばマツダロードスターも米国向けのみ2.0Lエンジンを搭載している。
わくわくしながらRAV4 HVで高速道路へ合流する。
合流車線で全開加速で本線に合流したが、
全開加速させると、エンジン回転数だけが先に上がった後で
加速Gが出るようなCVTライクな挙動を見せる。
ドライバビリティを考えれば極力変速を抑えたいが、
全開加速時はどうしてもこのようになってしまう様だ。
制限速度域内で静々と走らせる分には基本的にはエンジンが常時回転し、
モーターでもどきどき補助的に駆動するようになる。
過去に試乗したNX300hではパワーメーターの針が定常走行時に
ピクピクと動く気持ち悪さを指摘したが、
後発のRAV4 HVではその様な悪癖は改善されていた。
高速道路を淡々と走るシーンではRAV4 HVは左ハンドル車であること以外は
何も意識する事無くリラックスして走ることが出来る。
横風が強い区間を走っても進路が乱されることは無く、
レーダー式クルーズコントロールをセットして
レーンディパーチャーアシストに頼って走っていれば
長距離でも疲労は少なそうだ。
シートも肩甲骨付近をサポートしてくれる為に
上体が安定している事も効果があるのではないか。
ただ、NV性能のレベルは高いとは言えず、ロードノイズが気になった。
このあたりは改善の余地があると感じるが、
次期モデルまではこのままだろう。
高速走行での燃費は13km/L前後であった。
THSの高速燃費が期待外れなのは世界共通である。
●まとめ
元々、米国の子育てを終えた中高年をメインターゲットにしている。
ミニバンを卒業した彼らが満足するユーティリティと
セダン志向の乗り味を併せ持つSUVとしては必要十分の性能を持っている。
北米でのライバルはCR-Vやクーガ、ツーソンとなるだろうが、
販売状況は好調らしく、とても現地では受け入れられているらしい。
私も含めたカーマニアの多くは
「外国で売るなら日本にもそのまま売ればいい」と思った事があるだろう。
しかしながら、今回RAV4 HVを日本で運転してみると、
メーカーもバカじゃない、ちゃんと仕向け先に最適になるように
企画・設計し、それをセッティングしているのだと気づかされる。
欧州車のように「それが個性です」と言える「ある種の厚かましさ」が
無いのが日本メーカーの悪いところであり良いところである。
徹底的に米国に照準を合わせた4代目RAV4をこのまま日本に持ち込まず、
日本向けに適合させたハリアーを準備することは理に適っている。
それでも日本市場に投入して選択肢を広げることは選択肢という面で好ましいが、
フォレスター、CX-5、エクストレイルというライバルたちの中で埋没し、
更にハリアーとの共食い現象が起きる事は容易に想像できる。
さて、今回の試乗でRAV4 HVが最も輝いたシーンは市街地であった。
何しろトヨタのHVは発進停止を繰り返すシーンで燃費が優れている。
郊外で渋滞の無い地域のユーザーは2.5Lガソリンの標準仕様で事足りるだろう。
一方で毎日渋滞のフリーウェイを走って通勤する人には魅力的に映ると思われる。
また、RAV4はハリアーとNXと兄弟車という事を考えると、
同じP/Fを使いながらここまで差別化が出来るのか!という面で感心した。
バッヂと細部が異なるだけの兄弟車ではなく、
見えない部分は共通化してはっきりキャラクターを分ける兄弟車が多くなるのだろう。
日本で買えない日本車に乗るという貴重な体験が出来た。