●ホンダの数少ない日本市場特化型モデル
かつて3列シートにスライドドアを備えたミニバンの中心は排気量2Lの小型車枠だった。彼らの便利さが浸透し、小さなBセグで3列シートを実現したのは2001年のホンダモビリオだった。路面電車をモチーフにしたベルトラインの低いモダンなミニバンは新たな市場を切り拓いた。
競合するトヨタシエンタとの熾烈な競争を経て2008年に初代フリードに移行。「⊿□ちょうどいい」をキーワードに扱いやすいサイズの中に当時のステップワゴンとほぼ同じサイズの3列シートを積み込んで本格的なミニバンの様式を持ち込んだだけでなく、いち早くHEV仕様(IMA)を追加した先進性も特徴だった。
CMに出演していたのはTHE BEATLESのメンバーの息子であるショーン・レノン。そう言えばシティのCMにはご兄弟のジュリアン・レノンが出演していた。
競合のシエンタは後継車種の深刻な不振の為、初代を復活させるなど苦しい戦いが続いたが2015年にお家芸のTHS-IIを搭載した2代目を発売した。
迎え撃つように2016年にも2代目フリードに切り替わった。リコール連発だったHEV方式(i-DCD)は明らかな弱点だったが、先代を継承したミニバンらしい広さや先進安全機能に助けられて健闘した。
あれから8年、満を持して3代目が発表された。家族の毎日に笑顔をもたらすクルマをめざし、「“Smile” Just Right Mover」という開発コンセプトを掲げ、下記の3つのコア価値を訴求できるよう開発された。
①自由に扱えるサイズと安心感を与えるデザイン
②思いやりがあり便利で色んなことに対応できるパッケージ
③安心感と快適でみんなに優しいダイナミクス(動的性能)
ボディサイズは殆ど変わっていないが、嵩張るHEVユニットを積む為にエンジンコンパートメントが大きくなっているのはステップWGNも同じだ。内外装は近年のホンダテイスト満載のスッキリとしたノイズレスデザインで好感が持てる。マツダの情感たっぷりも悪くないが、カッチリして質実剛健なテイストはちょっとVWっぽい。ステップWGNも脱エモーショナルデザインで好感を持っているのでフリードがそのテイストを継承し、競合のシエンタとも違う方向でデザイン開発が進んでいたことは選択肢の幅を広める上で良かったのだと思う。
また、クロスターはアウトドアブームを意識した外装と3列以外に2列シート仕様車が選べ、後者は広大なラゲージを遊びに使うことができる。更に福祉車両のベースにもなっているのはN-BOXスロープと共通するコンセプトだ。車椅子が載せられるスロープ仕様のベースにもなっており、従来の「いかにも福祉車両」的なテイストを緩和しているのも先進的じゃないか。
失ってはならないフリードの良さは丁度良いボディサイズだ。現代のFFミニバンの礎を築いた初代ステップWGNは全長4605mmで室内長2730mm。現行フリードは4310mmで2645mmと扱いやすいボディサイズ(▲295mm)でありながら、室内長はわずかな減少(▲85mm)に留めている。反面、荷室スペースは小さいのだが本格ミニバン的な使い方ができ、運転に不慣れなドライバーでも安心して扱えそうだと思えるコンパクトなボディサイズをも両立しているのがBセグミニバンのフリードだ。
フリードは競合と較べて運転姿勢が取りやすく、2列目以降も意外とまともだ。競合は運転席以外は良いのだが、運転席だけはフリードが明らかに優れている。総じて肩を並べずちょっと落ちるレベルだ。特に2列目キャプテンシートでは太腿の支持が甘い点が気になる。でも、自動車は気持ちよく運転できてナンボなので運転席が真っ当なフリードには大いに価値がある。
新型はHEVシステムが一新されて他のホンダ車同様にe:HEV(旧i-MMD)になったことが大きなニュースだ。発電用モータと駆動用モータを別で持ち、E/Gは発電用モータを回して発電し、その電気で走行するシリーズハイブリッド的な作動をする。ここまでは日産のe-POWERと同じだがホンダは高速走行時にE/G直結モードを持っているのでその時だけは純ガソリンE/Gとして走る。ちなみにトヨタのTHSは走行のための駆動力はE/Gとモータの力が混ざり合って出力される点が上記方式と異なっている。いずれにせよ、ストロングハイブリッド車は日本のメーカーが得意としている珍しい分野だ。
フリードは先代までのDCTを用いたハイブリッドシステムより動作パターンが単純で乗り味もモーター駆動のためシームレスかつ高レスポンスな走りが楽しめる。今回は発電専用E/Gが熱効率40%以上を達成したといい、燃費性能も向上している。
実際に走らせてみると、日産ほどではないがBEV感を大切にした乗り味だ。出足のスムーズさとEVレンジの長さ、そしてE/G始動時のスムーズさは好ましい。また、燃費も良く淡々と走っている限りは燃費計の数字が右肩上がりだった。
一方、1.5L直4の純ガソリンE/Gは直噴からポート噴射に戻されコストダウンが進んだ。ま、スペックはダウンするが普通の車には普通のE/Gがよく似合う。
熾烈な装備合戦ではこのクラスとしてRrクーラーを初めて採用された点に注目したい。競合はサーキュレーターの採用に留めており、猛暑・残暑が続く日本では商品力として一歩リードできた。実は東南アジア向けの先代シエンタではRrクーラーが装備されており、フリードはこれを見て「来るぞ」と思ったのかも知れない。
・・・だったら6速MTも「来るぞ」と思って欲しかった、というのは私の独り言だ。
このクラスは室内が広い割にA/CがFrのみのため、広大な後席が暑くなるとされてきた。フリードはそれをAIRを除く3列シート仕様で熱さを克服できたというのだから評価できる。
車両本体価格は250.8万円スタートだ。競合は203.5万円スタートなので明らかに高く感じるが、フリードのエントリーグレードAIRは競合より装備が充実しており、両側パワースライドドアやオートA/Cやロールサンシェードや4SP、シートの防汚生地が標準装備されていて「高く見えるけど魅力ある装備が最初から着いてます」商法である。
ソースはネット情報だが下記のように競合するシエンタとフリードの販売台数のこたつグラフ(こたつ記事的なグラフ)を作ってみた。
過去5年の販売台数の比較では意外な?ことにフリードはシエンタに対して健闘している。ホンダの販売拠点はトヨタの約半分。販売台数の絶対値は負けていてもホンダ的にはヒットしている方だと言って差し支えない。
私個人としては最大の競合車シエンタと違うテイストで世に出たことがまず良かったと思う。そして質感表現は充分でN-BOXの様な寂しさがないところも良かった。パッケージングは2列目がキャプテンシートなのでウォークスルーが可能で3列もフルに使って移動できるのは美点だ。1列目にオーナー夫妻、2列目にはチャイルドシートで子供二人を喧嘩しないように離して座らせて、3列目は畳んで荷物か、帰省時の両親を乗せて初詣にでも・・・。こういう使い方ならフリードは最大限に輝くだろう。
もしシエンタとフリードで悩んでいる人が居るとしたら、「自分で運転するならフリード。絶対に自分が運転しないならシエンタ。3列目を常用するならフリード、3列目を畳んでおきたい人はシエンタ」と答える。
私が買うならe:HEV AIR EXのセットオプション付き(327.4万円)。もう少し足せばステップWGN(355.3万円)が買える価格だが、敢えて小ささを積極的に取りに行くクルマなので悩む人は居ないはずだ。私の場合、ミニバンを買うなら荷室が欲しいのでステップWGNが欲しくなるが、AIRで安全装備が省かれている事が悩ましい。でも上級のSPADAプレミアムライン(417.6万円)は高くて無理だ。
フリードは競合との過酷な戦いの中で3列をしっかり使う人のためのBセグミニバンとしての地位を継承できたと思う。更に改良すべき点があるとすればオトナの利用に耐えうる2列目が欲しいのでもう少し座面形状を見直すなど改良を待ちたい。90年代と違い、フルフラット要件はない。もっと座り心地(膝裏が浮く)を改善できるはずだ。動的性能としてはこもり音対策も希望したいし運転席のメーター視認性のせいでドラポジがうまく決まらないのは要改良点だ。
「しょせんBセグなのだから」と作り手は反論するかも知れないが、本体価格300万円を超える高額商品ゆえに求められるレベルも引き上げたい。