※疾走する右京選手(Team UKYO Official blog)より抜粋
7月7日。あ!七夕祭りの日だったのだ、と地下鉄の乗降口から外へ吐き出された瞬間、気づいたのです。目の前で笹の葉と短冊が揺れている。築地・魚市場のすぐ脇に出たから味わえた季節感とその界隈に棲む人たちの心遣い。
大通りの向かい側に築地がんセンターの白い高層棟がそそりたっています。3年半前に、ぼくはそこで手術をうけ、無事、生還しました。つまり、再生の出発点だったのです。
約束の時間には、まだ20分ほどある。この日の陽射しはさほど厳しくはない。逢いたい人に、逢いに行くのだから、当然、足取りも軽くなります。
改装工事中の歌舞伎座を横目でみながら東銀座をめざす。電通別館を過ぎると「銀だこ」。ここのたこ焼きと鯛焼は、通りがかるときにはかならず買ってゆくのだが、この日は残念ながら、パス。そのかわり、その地点から携帯電話で、訪問先に確認の連絡を入れる。
1Fにうなぎ屋さんのあるビジネスビルの6F。エレベーターが停まると、もうそこは訪問する事務所の入り口だった。声をかけ、ドアを開けると、こちらを振り向く男性。片山右京君の陽焼けしてひきしまった顔がそこにあり、それがぱっと笑顔に変わる。
右京君はいま、「ツール・ド・フランス」をめざしている。だから上半身はフォーミュラーカーのように肉付きに無駄がなく、下半身はGT-Rも顔負けのマッスル・サスペンション。
「そうでないと、自転車レースに仕掛けられる、キツーい峠は越えられないんです」
おお。F1、ヒマラヤ登頂に続いて、「ツール・ド・フランス」にも本気で挑戦するんだ。
「いやいや、まだまだです。いま、国内の競技をティーム右京でやってますから、練習だけは欠かさずに……。それよりも、ランチタイムになると、このあたりは混みますから、今のうちに、お鮨でもいかがですか?」
右京君に最後に逢ってから、6年が経つ。『釣りキチ三平』の矢口高雄さんの対談シリーズをプロデュースしていたとき、無理をきいてもらって以来です。でも、それが昨日のことだったような屈託のなさ。案内されたお鮨屋の奥まった席に着くや、自分は1貫、同行したマネジャーとぼくには1貫半の「握り鮨定食」を注文してくれる。いつも、この人は総てのことを軽いフットワークでこなしてしまう。
右京君とは裸の付き合いからはじまっています、といったら、隣りに座ったマネジャー(女性)が、エッという表情で反応する。いやいや、とぼくの方が慌てて、以下のような内容で解説しなければならなくなった。
――7月の終わりの週末、ぼくらは決まってスポーツランド菅生に集まった時期がありましてね、右京君は当時のF3000、ぼくはそのサポートレースであるミラージュCUPに参戦していて、宿泊するホテルが同じだったことが多かったのです。菅生から山形方面に向かう秋保街道。その途中にある白いリゾートホテル「クレセント」を好んで利用したものですが、岩城滉一君も常連の一人。とくにそのホテルの温泉大浴場がお気に入りでした。
ある時、右京君がご両親を招いてここに泊まってるよ、岩城君が教えてくれ、ああ、そうなんだ、と右京君のことが少しわかった気で、お湯に漬かっていると、「いま、その辺を、ひとっ走りしてきました。失礼します」といいながら、隣にザブリと入ってきたのがご当人。それ以来の裸のお付き合いでして……。
それからの右京君が、心の赴くまま、さまざまな課題に挑戦して行くのを、ぼくは例えようもない親近感をもって見続けてきた。92年からは念願のF1へ。97年、燃え尽きて、F1から撤退。日本人最多の95戦参戦という勲章を得て……。で、次のターゲットが世界の秘峰への挑戦を開始。マッターホルン、キリマンジャロを踏破、その一方でルマン24時間レース・第2位、ヒマラヤ・シシャパンマ登頂、そしてダカールラリー出場と、とどまることを知らない挑戦精神。が、それも2009年暮れ、富士登山の訓練中に遭難し、同行した友人二人を失い、以後、活動を休止するという状況に追い込まれていた。
時が流れ、右京君が蘇った。未来を担う子供たちから「ほんものの元気を引き出す」チャレンジスクール、自転車レース参戦、モータースポーツでの新しいスタイルによる活動(スーパーGT)など、いま右京くんをつき動かしているエネルギーはどこから来ているのか。その辺を右京君の言葉で、じっくり訊かせて貰えないだろうか。
それが、昼食も終わり、事務所に戻ったところでの、ぼくからの申し入れでした。
「いいですよ、近いうち、時間をとりましょう。それより今度の菅生に来てくださいよ」
快諾する右京君。「不死鳥伝説の美学」そんなタイトルがすぐに浮かんできたが、どうも「大文字」っぽい。その辺のことは、これから聞き取り取材を積み重ねるうちに、こちらの腰もぴたりと決まってくれるといいのですが。
そうだ、ご無沙汰したままの菅生へいこう! 右京君がスポーティングデレクタ―をつとめる「グッドスマイルレーシング」は、さきごろのマレーシア・セパンサーキットでのGT300クラスで優勝したばかり、つまり凱旋レースをどう闘うのか、ぜひ、見てみたいし、何よりもエースドライバーの谷口信輝君は、ガンさんの「ドラテク特訓道場・中山サーキット編」で、一躍注目を集めたべスモ卒業生。加えて、「初音ミク」をあしらった痛車デザインのマシン、個人スポンサー制度など、この目で「新しい風」を確かめたい。
7月7日。また新しい「一粒の麦」が芽吹きはじめたようです。
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この人に逢いたい | 日記
Posted at
2011/07/10 03:11:16