10代の終わり頃から10年程、登山に打ち込んだ。20歳になった春は剱岳を登りに行った。時期は5月で北アルプスはまだ白銀の世界ですわ。初日は劒沢のテントサイト到着で行動終了。雪上にテントを張り、早々に寝ることにした。同行の二人はすぐ寝てしまったが自分はアタックの段取りを考えたりして、寝付くことができなかった。と、周りに他のテントはなく誰もいないはずなのに、ザクッザクッと誰かがテントの周囲を歩く音がする。当夜は風もなかったし小屋のヒトが来るはずもない。テントから顔を出し「誰ですか?」と呼びかけてみた。しかし、人の気配はなく返事も帰ってこない。変だなと思いつつ、そのうちに寝てしまった。翌朝、同行の二人にその話をしたが気のせいだろうと取り合ってくれない。誰かが来たようだったけど。ところが、出発時にテントから僅か10mの位置に慰霊碑(遭難者の名前入りの角材)が建っているのを発見した。なんとか登頂して生きて帰ってくることができたが、ひとつ違えば僕も同じ運命だったもしれない(--)