●長生きできそうなクルマ
私のみん友かつリア友である「たっくるVS」さんの
初新車であるV40に6時間以上、300km以上という
超ロング試乗をさせていただいた。
以前、ディーラーで試乗したときの感想文は
こちら。
でもやっぱりじっくり乗って見ないと見えてこないものがあった。
●市街地では―でっかい。でも扱いきれないほどではない―
さて、我が家まで迎えに来てくれたたっくる氏。
DS3と並べて見てすぐ感じるのは「格の違い」だ。
自分が普段乗っているBセグのDS3と比べて
CセグのV40はパッと見て
車体が長く低重心だ。
Cセグ-プレミアムのライバルであるゴルフ(いつの間にかプレミアムに)や
Aクラス、1シリーズやCTはどれもハッチバックでありながら
そこそこフードの長さを主張するデザインが多い。
こういう立派な印象というのはBセグでは味わえない豊かさだと言える。
これからはAピラーを前出ししてワンモーションフォルムにするデザインから
Aピラーを後ろに引いて視界と力強さを主張することがCセグのトレンドになると予想される。
乗り込んでエンジンをかける。
パワーシートを調整しフレームレスのインナーミラーを調整する。
インナーミラーがフレームレスでガラス面が見切りになっているところが面白い。
これはガラスの角Rを丸くして二次衝突
(車が衝突して、減速したキャビンに乗員が慣性で衝突する現象)に
関する法規を満足するようにすることで
今までにはない視界の広さと先進感を持たせたものだ。
トヨタ86も採用しているが、こういう40年くらい変わっていない部分が変わると新鮮だ。
習熟のためゆっくりと住宅街を走らせて
車幅ギリギリの路地を90度ターンなどさせてみる
全幅1785mm、最小回転半径5.7m
全幅1800mm、最小回転半径5.2mというスペックから想像するよりも
扱い易いが確かに幅を感じる。
ドアミラーから見える光景の少なくない範囲を占める
ふくよかなRrホイールアーチ。
その光景は一度だけ運転したフェアレディZを想起させた。
例えば側面がフラットなノアのようなクルマと比べると
扱いにくいという結論になるが、所詮このようなものは
慣れで済まされる範疇である。
カウルが低いので運転席から左フェンダー付近を見ることは
逆にカウルが高くなりがちなBセグよりも有利と言えそう。
こういう道路はV40が本領を発揮するステージではないが、私が乗った感想としては
「買って後悔するほど使い勝手は悪くない」と言える。
●往路の高速道路―T4で十分。特出した出力がスポーティ―
自宅から5分で高速道なので早速V40を高速道路へ連れ出す。
重量がそこそこ(1420kg)あるものの、十分にパンチのある加速が出来るので
合流ではついついアクセルを踏みすぎてしまうくらいだ。
100km/h時のエンジン回転数は2500rpm付近と、業界の標準値。
高速域では透水性舗装の路面を走る限りかなり静粛性が高い。
橋脚の目地も綺麗にクリアしていく姿は優雅だ。
特に自分DS3と比べるとホイールベースが長いことによって安定感が格段に違う。
曲がりたがるDS3とは違い、ステアリングも比較的どっしりとしていて
手を添えているだけで真っ直ぐ車が直進するのは気持ちがいい。
この
「真っ直ぐ走りたがる特性」は運転者対して大いにやさしい特性だ。
私は恥ずかしながらこのV40以外のボルボ車を運転したことが無い。
ボルボ試乗もっともスポーティと書かれていながら、私自身は
スポーティネスを感じる以上にラグジュアリー近いという印象を持った。
確かに速い、そしてスタイリングも誰にも似ていない挑発的なものだが、
CT、1、A、ゴルフに乗ったときの印象から比べればV40は、
キビキビ感よりもゆったり感を感じるというのが私の感想だ。
高速クルーザー、これがV40に対する私の感想だ。
●山道試乗―得意ではないがボデーのしっかり感を感じる―
高速を降り、山奥の300番台国道へV40を走らせる。
ワインディング路を走らせると
高速クルージング型の
V40のキャラクターが一層良く感じられた。
比較的道幅が狭いため、コーナーのライン取りの自由度はあまり無い。
高速型のステアリングなのでキビキビ感が特にあるわけではないが、
切ったら切った分だけ曲がり、普通の人の普通の走りなら
硬すぎず柔らかすぎず、絶妙な乗り心地を提供してくれる。
こういう時にグイグイ曲がってくれないとスポーティではないという人が要る。
しかしV40は要請があれば曲がるが、基本的には「真っ直ぐ走りたがる」車なので
180psという高出力エンジンを搭載しているにも関わらずグイグイ行きたいと
あまり感じさせなかったのは意外だった。
ちなみにDS3はクイックなステアリングと
ハイグリップタイヤでグイグイ曲がっていくタイプ。
その分轍でステアリングを取られたりもするが、
DS3と比較すれば確実にV40は曲がりよりも真っ直ぐが得意な車といえる。
CTで似たような道路を走らせたが、ステアリング操作時のアジリティはCTの方が顕著だ。
絶対的なグリップの無いエコタイヤが破綻するまでの領域では
切れ味鋭いカミソリのようにコーナーに切り込んでいったのが印象的だ。
(しかし、電気式CVT特有の加速フィールが残念)
V40の場合は余裕のある加速力でグッと加速し、
コントローラブルなブレーキで減速し、
ステアリングをグッと切れば相当ハイレベルなペースで
ワインディングをクリアする実力を備えている。
「真っ直ぐ走りたがる」を強調しているが、曲がらないわけではない。
切ったら切ったなりに曲がろうとしてくれる。
さすがに、最大限ロールさせてコーナリングさせているときに段差を超えると、
ドシンと言う衝撃がキャビン進入することを許してしまうが、
進路が乱れるようなことにはならない。
ただ、曲がりたがる性格ではないため、
グイグイ曲がらせて楽しむ車ではないことは事実だ。
飛ばさない普通の人がちょっと速めのペースで
気持ちよく走らせる程度なら全然問題にならない。
V40はT4エンジン車は6段DCTを採用しているが、
Dレンジのままだと若干ビジーシフト気味になるシーンがあった。
そのような時はSレンジに入れておけば問題が無い。
同じルートをゴルフ6で走行したことがある。
この時はゴルフはこっちの意思を先読みしたかのような変速を見せて驚かせてくれたが、
V40の場合はちょっとそこには及ばない印象だ。マニュアルシフトを試みると、
レバーの位置が
私のドラポジでは手前過ぎてカチッと決まらないなど、
ちょっとスポーツドライビングに不向きな部分も見られたが、このあたりは慣れが解決するはずだ。
このクラスだと、パドルシフトがAやCTでないと装着されず、
ゴルフや1(116には着かない)では選べないため、V40も水準内に位置している。
●夕暮れ時の市街地―ここが主戦場―
いくつものヘアピンカーブを抜けて山を下り、地方の一般道路、
地方都市の市街地走行を行った。
少々狭い道路も意外と幅寄せしやすいのは、
ウォッシャーノズルが3つあり、
このセンターが目印となることで車両感覚の助けになっているからだ。
Aピラーを引いてフードの存在感を出すデザインは
こういうところで運転のしやすさにつながっている。
夕暮れ時、この時間帯は交通事故が多い。それは交通量も多く、
家路に急ぐ車がすこしあせっているからだろう。更に視界も悪く、
一日の活動の結果、疲労も蓄積している。
文字にして書くとこのように恐ろしいシチュエーションを
私たちは何気なく走行しているのだと気づく。
いつもより、
リスクが大きいシチュエーションこそがV40が輝くステージと言える。
セーフティパックがオプションで装備されたV40は赤外線レーザーとカメラで絶えず
前方を見ている。先行者が急制動をかけて車間距離が縮まれば赤いランプが
ウインドウシールドに映りこみ運転者に警告を促す。
更に車間が詰まると赤いランプの幅が広がり、面積でリスクが増大したことを示してくれる。
ちなみに、更に車間をつめると警告音が鳴り、
自動ブレーキがかかるらしい。(さすがにそこまで試せない)
また、レーダーによる追従機能を使えば、先行車と一定の車間距離をとって走ってくれるが、
注意すべきは、カーブ路などで先行者が離脱したと誤判定してしまう状態では
カーブの手前で急加速してしまうという、
この手のシステムに共通する弱点なので注意が必要だ。
極端な山道で無い限りは全速度で追従するので
発進から停止までのアクセル、ブレーキ操作は車にお任せでOK。
こういう装備品は近年、低価格化が進み装着される車が増えてきた。
日本を走るドライバーのほぼ全員が
「自分が交通事故の加害者になるかもしれない」というリスクを抱えて運転している。
このなかで、リスクを低減してくれる装備は個人的に惹かれるものがある。
暴力的な加速とか死の香りに魅せられる動きと
全く逆のベクトルだが、こちらも相当魅力的だ。
周囲で車を買う人でATしか乗るつもりが無い人にはこういうレーダーブレーキを薦めている。
たっくる氏と私は、地方都市ローカルのハンバーグを堪能して帰路につくこととする。
●夜の高速道路ツーリング―秀逸な装備、お茶目な装備―
帰りは100%高速道路で帰宅することにする。
アダプティブクルーズクルーズコントロール(ACC)を100km/hに設定して走らせると、
それはもう安全に周囲との車間を確保しつつ走り続けてくれる。
交通量が多いとき、走行車線は80~90km/hで流れていることが多い。
こんなとき、従来のクルーズコントロールではこまめに減速、復帰の操作が必要だが、
V40のACCは操作は不要。
ハンドル操作に専念するだけで良くなる。
更に、V40にはレーンディパーチャーアシスト(LDA)が装着されている。
これは、車両が道路の白線を認識し、そこからはみ出しそうになると、
警告を出し、さらにステアリングに振動とトルクを与えてドライバーに
注意を促すものだ。
65km/h以上で作動するため高速道路での使用がメインとなるが、
私自身、長距離高速走行ではふとした瞬間に白線を踏んでしまうことがある。
今回のドライブでは二回ほどシステムのお世話になってしまった。
もちろん、散漫運転をしたつもりは無い。しかし
人間は間違いを犯す生き物だ。
だからこそ、テクノロジーによるアシストは本当にありがたいものだ。
EPSだからこそ実現できる装備といえる。
まだ、レーンチェンジ・マージ・エイド(LCMA)という装備も「使える装備」だ。
これは車両側面に設置されたレーダーが並行する車線を走行する車両の有無を判別し、
車両があるときはAピラー根元の三角パッチの警告灯が点灯し、
さらに方向指示器を使用したときには音で警告を与えるものだ。
この装備は特に北米のように車線の幅が広い高速道路で必要なものと伝え聞くが、
日本の高速道路、バイパスでも有効性を実感した。
さらに、アクティブ・ハイビーム(AHB)を活用した。
これは現行型のカローラアクシオにも装備されているが、
対向車や先行車が居ない時は自動的にハイビームで走行し、
対向車や先行車が現れたときのみロービームに切り替えるものだ。
帰りの高速道路は交通量が少なく、AHBを活用する機会に恵まれた。
一般的に私たちは夜間、ロービームに入れっぱなしで走行しているのだが、
道路交通法的には対向車がいなかったり、先行車が居ない時はハイビームが原則。
夜間、交通量が少ない道路を走るときは
ハイビームを基本として走らなければならないが、切り替えは面倒。
なかなか器用にハイ/ローを切り替えるが、その動作は頻繁であった。
また、対象でないものを検知してロービームに切り替えてしまうお茶目な一面があった。
私は
「Vちゃん、頑張れ」と言いながらAHBを応援してしまった。
トヨタのアダプティブ・ハイビーム・システムの様にハイビームながら、
邪魔板を自動で動かして対向車や先行車を
眩惑しない装備の方が進んでいるが、まだ少数派の装備だ。
帰りは少し遠回りをさせてもらい、
アップダウンのきつい高速道路や長い直線のトンネルで
超高速域の試乗もさせてもらった。
ライバルに対して余裕のある高出力エンジンの存在は本当に頼もしく、
下品に車間距離をつめてくる高級ミニバンなどはその気になれば一瞬で
フレームレスのインナーミラーから消し去る実力を秘めている。
●ハイパフォーマンスの割りに低燃費
300km以上走破して給油した。
燃費はオールA/Cオン状態でリッター14.1km/L。
カタログ値は16.2km/Lであるから、達成率87%と優秀な数値だ。
VWグループは数年以内にNAエンジンを全廃し、
過給ダウンサイジングエンジンのみにする戦略を発表した。
パイオニアとはいえ思い切った発表だが、
フルラインターボのMMCを思い出したのは私だけだろうか?
(VWの発表はNA全廃だからフルラインターボ以上に過激)
この過給エンジンは確かに同程度の出力のNAエンジンよりも
燃費は良いが、カタログ値と実測値の乖離が大きいと
ユーザーらから訴訟沙汰になってしまったメーカーもある。
2.5Lクラスのエンジンを積む国産モデルと比較すると、
日産ティアナ(VQ25DE 185ps/232Nm)が11.4km/L、
トヨタマークX(4GR-FSE 203ps/243Nm)が11.8km/L。
4気筒エンジンで比較すると、
トヨタマークX Zio(2AZ-FE 163ps/222Nm)が12.4km/L、
スバルレガシィB4(FB25 173ps/235Nm)が14.4km/L、
マツダアテンザセダン(PY-VPR 188ps/250Nm)が15.6km/Lというレベル。
国産エンジンはレギュラー使用可と言うアドバンテージがあるが、V40の優位性が分かる。
●Cプレミアムセグメントで独自の存在感を放つ存在
6時間以上、300km以上に亘ってたっくる氏のV40 SEを堪能させてもらった。
V40はとにかく
運転支援に注力した真の「ドライバーズカー」である。
ドライバーズカーと言えば運転者の思うままのハンドリングとか
高速性能とかスポーツ性能を謳うことが多かった。
V40は動力性能は水準より高いが、ブレーキがめっぽう良く利くとか、
コーナリングがすごいと言う印象は無く、平均的といえる。
しかしながら
、運転支援技術がライバルを凌駕している。
こういう運転支援技術が世に出るたびに「過剰であり必要ない」
「ドライバーの質が下がる」などという声が聞かれる。
昔読んだ本によると、確かに人間にはリスク補償行動といって、
技術によってリスクが減れば更にリスクを高める方向に行動しがちになる特性がある。
だからといって、明日からエアバッグを廃止し、衝突を感知するとステアリングから
ナイフが飛び出てくる車を作れといっているわけではない。
リスクをとる人も居る一方で、安全をとる人も確実に居る。
技術の発達は
トータルで安全性を引き上げる効果があるという。
この意味ではV40の運転支援技術は肯定されるべきだし、
車が本来持っている自由自在に操れる楽しさが
微塵もスポイルされていないことは私自身が保証できる。
タイトルは長生きしそうな車としたが、運転支援のおかげで
事故に遭うリスクも低減でき、高速安定性も高いので
カリカリすることなくリラックスして人生を過ごせそうな印象を受けたからだ。
スポーティな成分が足りないという人もいるだろう。
しかし、最新のV40は価格の安い標準車に上級グレードのSE、
そしてCUVのクロスカントリー、尖ったスポーツグレードのRデザインがある。
この中でのSEだからこれ以上のスポーツ性が必要ならRデザインを選べばよいのだ。
走りの1シリーズ、ショールームアピールのAクラス、燃費のCT、
質実剛健な走りのゴルフ、と並ぶ中でV40は独自性のあるデザインと
パワフルなエンジン、比類なき安全性能が特徴で
カタログや短時間の試乗では分からない部分を確かめた結果、
V40も魅力がかなり高いことが確認できた。
ボルボも欧州メークとあって彼の地では市場縮小で苦労している。
こうした中で、個性的な車を送り出している姿はうらやましく思う。
買ったばかりの新車をこれほどまでに堪能させてくれたたっくる氏には感謝したい。
今度はDS3で思いっきり走ってみて欲しい。